令和6年度アーカイブズ研修Ⅱ2班グループ報告
~文書管理における課題共有と解決策の提案~

国立公文書館 園田ひとみ

1.はじめに
  本稿では独立行政法人国立公文書館主催の令和6年度アーカイブズ研修Ⅱの2班グループ討議について報告する。
  2班の討論テーマとして、今回の研修テーマである「電子公文書の管理・保存・利用」のうち、「移管元機関における現用文書(電子公文書を含む)の管理に係る課題」について、各々所属する機関の課題や現状を共有し、課題解決に向けた討論を行った。
  参加者とその所属、及び役割分担は次のとおりである。(敬称略、名簿順)
    ・園田ひとみ(独立行政法人国立公文書館、報告者)
    ・後藤利恵(宮城県公文書館、書記)
    ・那須仁(和歌山県立文書館(田辺市総務部総務課)、報告者)
    ・大石康司(福岡県立公文書館、報告者)
    ・蓮沼素子(大仙市アーカイブズ、司会)
    ・原田淳史(上尾市総務部総務課法規・文書担当、書記)
  勤務施設や状況、経験年数、現在取り組んでいる業務内容や考え方等が各々異なるメンバーが集まり、現状課題となっている部分の共有を行った。

2.課題の抽出
  2班では、電子公文書のシステムや法整備等が進んでいる機関から、現在は紙文書のみを作成しており、これから電子公文書の制度を構築する予定の機関まで、様々な班員が参加した。各班員が異なる現状を抱えているため、テーマを一つに絞るのではなく、まずは多様な課題を網羅的にリストアップし、共通項を分析することとした。その上で、最も多くの意見が寄せられた課題について論じることで、改善すべきテーマの焦点を明確にした。
  挙げられた課題を文書管理の流れに沿って分類し、以下に示す。
  
・管理に関する課題
  主に文書管理に携わる者が集まるため、この課題に関する意見が主となった。
  原課の文書管理に対する課題や、システムに関する課題、電子文書へ移行する際の正確性、信頼性および真正性に関する懸念などが挙げられた。
  これらは、特に紙文書から電子文書への過渡期である現在だからこその課題であると考えられる。
  また、電子公文書そのものの法令整備の弱点の指摘や情報公開条例との兼ね合い、自治体ごとの法令整備の方法に関する課題も挙がった。

・保存に関する課題
  保存に関しては保存形式についての意見が多くあった。建築関係のCADの保存に関する問題や、長期保存フォーマット(PDF/A等)変換に関する問題が挙げられた。

・活用に関する課題
  利用制限がかかる文書の黒塗りの処置等、具体的な課題が多く挙げられた。
  特に、システムに登録する際の添付文書の容量制限やデータサーバーの容量確保について大きな問題として挙がった。そこで、容量確保のためにクラウドサービスを用いてはどうか、という意見があがった。しかし、本研修(2/6(木)講義①)で塩崎先生が述べられていたように、クラウドデータには企業への依存性や真正性の担保等、十分な検討を行わずに利用するには、様々な問題点がある。
  そのため、クラウドを容量確保の手段として利用する場合には、ハッシュ値の設定や、それを利用したデータの整合性チェック、さらに近年新たに提供開始されたバックアップ機能が強化されたサービスの活用などを通じて、データの完全性を確保する必要があるという提案が出された。
  膨大なデータ管理が可能であるというクラウドサービスのメリットを最大限に生かしつつ、データチェックやバックアップ機能を併用してその課題を補うことが重要である。
  これらの課題は個別に見えるものの、相互に関連している。このため、解決策を検討する際には、それぞれの課題を包括的に捉える視点が重要である。しかしその中で、管理の課題は、適切な文書の運用に大きく影響を与えること、管理の精度が向上すれば、保存形式や活用方法の選択肢も広がる可能性があることから、2班のグループ課題のテーマでもある管理の課題に重点を置いた。

3.課題解決に向けた提案
  上記の議論を踏まえてグループ内で検討し、以下のように課題解決策を提示した。
  
・システムについて
  あくまで実現可能性が低い理想論となるが、次のようなシステムが理想的であると考えた。
  第一に、正確な情報を登録できる文書管理システムである。
  文書管理の問題で最も多く挙がったのが、文書管理システムに登録されたデータと、実際に保存されている紙文書(もしくはデータ)に関する課題であった。データの正確性を確保できるよう、システム上に登録するデータと保存しているデータの名称を完全に連携させる、原課・アーカイブズ側双方が理解しやすいシステムを設計する等、より体系的に文書管理を行えるシステム構築を行い、運用していくことが重要である。
  第二に、文書管理主管課やアーカイブズ側が文書についてチェックすることができるシステムである。
  保存期間満了となった文書ファイルが、移管に指定された際に、実は中身の無い空の文書ファイルだったという事例が紙文書・電子文書とも多くの機関から報告された。そのような事例が発生しないよう、チェックの際はなるべく原本を確認できることが望ましい。
  しかし、実際には原課との接点が少なく、その機会に恵まれない機関が多かった。そのため、ネットワーク上で電子公文書のフォルダやファイル自体へアクセスできる権限を設定し、逐次内容や所在を確認できることが望ましい、という意見が出た。しかし、個人情報が含まれる文書をはじめとした、アクセス権を付与できないものが出てきた場合の対処等の課題が散見された。
  そして第三に、現用文書を非現用文書へ移行し、保存・利用していく際の課題である。
  現在のシステムでは現用文書の管理に大きなウエイトが割かれる、非現用文書への対応に重きが置かれていない実情がある。別システムで管理することにより、現用/非現用文書の管理の際に、人的ミスによるデータの削除が生じかねず、完全性が担保されない等の課題も生じる。このことから、現用から非現用へシームレスに移管できる運用基盤の構築が必要である。
  これらのシステム上の問題は、現在アーカイブズ制度の導入やシステム構築を検討している自治体、既に文書管理システムを導入している自治体のどちらからも、希望通りのシステムを導入することが難しい、という意見が挙げられた。公文書管理条例や行政文書の移管・廃棄に関するルールを持つ自治体の絶対数が少ないため、ベンダー側に非現用の文書管理システムおよび移管システムを開発するメリットが少なく理解を得られない、予算の制約が厳しい等の課題が存在するからである。しかし電子公文書の完全性・信頼性・真正性・検索可能性を保証するシステム構築のための将来的な指針として、日本全体で共有される必要があると考えた。

・法令整備について
  法令については、そもそも基準となる法令が存在しない、という点に多くの意見が寄せられた。
  まず、条例等を整備していく際の指針作成や原課への通知の際、根拠にすべきものが少ない点に対する不安が寄せられた。国における「公文書管理課長通知」や「行政文書の管理に関するガイドライン」等、参考にできる文書はあるが、紙文書の電子化に関する法令は未だ明確な規定が存在せず、国や地域全体で電子公文書管理システムの要件も示されていない、という文書管理に関する法整備への課題も挙げられた。
  運用体制への信頼性確保のためにも、法的枠組みの整備を進め、電子公文書管理の運用指針を明確にすることで、文書作成過程をより正確に管理する必要がある。このためにも、より分かりやすい評価選別基準や電子公文書管理に関する基準を示すべきではないかという意見が出た。
  一方で、文書管理主管課が担当者に指針を示す場合、原課で行われている多様な実務の運用を把握できていない状態で、一律にルールの整備を行うことにはためらいを感じているという意見も出た。同様のことが内閣府での法令整備にもいえるため、電子公文書の基準の策定には、時間を要することが考えられる。
  これら2点は、各自治体で基準を整備してシステムを導入する、というように個別に対策することは難しい。しかし、出た課題を分析し、文書管理の理想像を明確にした後、現時点で解決可能な課題について検討することが大切ではないかと考えた。この考えに基づき、より課題について論じた結果、特に大きな課題として挙げられたのは、原課とアーカイブズ側との関係の構築の重要性である。

4.解決策の具体例
  原課とアーカイブズ側との関係構築を促進するには、どのような手段が必要かというグループ内での検討内容について論じる。
  はじめに、トップダウン型の取組については、以下の2点が挙げられる。
  第一に、マニュアルの作成である。特に保存期間やファイル名の付与等、原課の認識が曖昧な部分について基準を提示し、文書管理についての理解を深めてもらうことが肝要である。また、付随的に文書管理についての理解を高める目的も含まれるだろう。
  さらに、このマニュアルには原課の義務だけでなく、文書管理の際にアーカイブズ側が原課に示してほしい要望を記載することが重要である。
  例えば、アーカイブズ側で紙文書と電子文書を識別する方法が、システム内に常備されていない事例について検討した。この場合、通常原課に求められるのは「具体的な内容を記載したファイル名の付与」である。しかしそれに加えて、「(紙)」「(電子)」等、システム内では識別できない文書形態に関する情報を、文書名の末尾に付け加えてもらうよう、具体的に識別策を伝えるのが有効という意見があった。このように、システムで補えない部分について、マニュアルで記入例を示し、原課の協力を仰ぎながら、より正確性や信頼性の高い文書管理を進めて行くことが重要であると考えた。
  第二に、マニュアルだけでなく原課への研修の必要性も提起された。内閣府の公文書管理の指針である「行政文書の管理に関するガイドライン」では、国の省庁への公文書管理に関する研修は、「各職員が少なくとも毎年度一回、研修を受けられる環境を提供しなければならない」と規定されている。これを自治体にも当てはめると、年に1回程度の研修が必要であると考えられる。しかし実態は、原課に対して年に1回研修を行っている自治体もあれば、原課との時間を取ることが難しい場合や、そもそも原課が希望しない場合には、年に1度の通知等のみで対応している自治体も存在した。
  研修の内容としては、研修で文書管理への苦手意識を払しょくし、原課と関係性をより強化できるものであることが望ましいとされた。具体的には以下の事例が挙げられた。
  ・各課室のチェックリストを用い意識チェックを行う
  ・形式不備がわかるマクロ等があれば同様に研修を行い実際に触れてもらう
  ・文書管理担当者が受講しやすい日程に研修を設定する
  ・ファイル名や保存年限について原課からの疑義があれば、そこから現用文書の管理についてコミットしていく
  次に、ボトムアップ型の取組についても対策を挙げる。
ボトムアップ型の場合、原課から文書管理で困っている内容や実際の現場の状況を共有してもらうことが大切である。具体的な成功事例として、文書の確認のため原課へ赴いた際に、困ったことがないか話を聞くことを継続し、関係性を築いていった事例が挙げられた。対面する機会が少ない(もしくはほとんど対面する機会が無い)自治体等では、電話やメール等での密に連絡を取り合うなど、いつでも状況や疑問を提示しやすい環境づくりを進めることが有効だという対応事案が挙がった。
  また、Q&Aやよくある質問事項をまとめたページを作成し、似たような疑問については互いの時間を取らずとも解決できるように計らうことも大切である。Q&Aを作成したところ、問い合わせの件数が減ったという自治体の事例もあった。文書管理担当者との連絡用掲示板を設置し、疑問点を解消できる仕組みを整えることは、双方の業務時間の短縮につながる。業務の効率化に寄与していくことや、関係をより深めることが重要である、とグループ内での認識を深めた。
  これらの取組を通じて、原課とアーカイブズ側の連携を強化し、信頼性の高い文書管理体制を確立することが期待される。

5.終わりに
  2班では、「移管元機関における現用文書(電子公文書を含む)の管理に係る課題」というテーマのもと、それぞれが抱える課題を共有し、その解決策について話し合った。ここまでに述べた課題の中には、個人の力では解決が難しい課題もある。しかし、それらの課題について共有ができたこと、他の機関において共通の課題を抱えていることを再認識することができた。
  このことにより、今後は自治体等、近隣アーカイブズ機関間での協力体制を強化し、効率的かつ効果的な問題解決に向けた動きについて積極的な意向を見せる自治体もあった。また、課題点について共通化し、各自治体の事例やベストプラクティスを共有することで、個々の課題解決に近づく事例も見られたことは大きな収穫となった。
  今回の研修を通して学んだ参加者共通の課題について、立場や環境を超えて連携して取り組むことの大切さを学ぶことができた。また、先ほど述べたように、原課と現用文書管理の主管課、そしてアーカイブズ側の関係性の構築は、文書管理に従事する者同士として重要な役割を果たすことが明らかになった。
  異なる機関の現状を、担当者の口から直接聞くことは、自身の業務以外にも視野を広げる効果があり、極めて有益であると考えられる。各々が自身の働く環境だけでなく、様々な立場からの課題や苦労を共有することで、これからの業務姿勢について考える良い契機となったのではないだろうか。
  今後も積極的に情報交換や連携を進めることで、文書管理をより良い形へ発展させることに寄与できると確信している。