令和6年度アーカイブズ研修II5班グループ報告
—電子公文書管理システムの要件の検討

北谷町公文書館
島袋さくら

はじめに
  本稿は、令和7年2月にオンラインで実施されたアーカイブズ研修IIグループ討論における5班の討論内容の報告である。班のメンバーと討論における役割は以下のとおりである。
  菅真城(国立大学法人大阪大学アーカイブズ、司会)、金子智和(山梨県総務部行政経営管理課)、砂川佳子(和歌山県立文書館)、新林えり(鳥取県立公文書館、書記)、関麻希(徳島県立文書館)、木暮遥奈(仙台市公文書館、報告)、島袋さくら(北谷町公文書館、執筆)
  討論に参加したメンバーの所属先は、首都圏外に存在するという点で共通していたものの、大学アーカイブズから自治体の文書管理課、文書館と組織の性質と規模は多様であった。また、討論テーマとされた「電子公文書等の移管・保存に係る課題」についても、電子公文書の移管実績がある文書館、移管はまだであるが方針が決定している組織、電子公文書の受け入れが未定である館、そもそも原課で電子公文書が導入されていない館と前提条件が異なっていた。
  そのため、討論ではまずそれぞれの所属組織における文書管理システムの運用や電子公文書管理の実情についての事例報告から始めた。その際に大きな関心を集め、論点として見出されたのがシステムの具体的な仕様と要件であった。

1 論点設定の背景
  電子公文書管理システムのモデル要件について、日本国内で策定されたものは現時点で存在しない。デジタルアーカイブに関して、国立公文書館が「公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書[1]」を公開していることから、将来的に国内でも電子公文書管理システムの標準仕様が策定されることを期待することができるのかもしれない。しかしながら、国などの上部機関が定める標準仕様に頼るのではなく現場からの意見や要望を挙げてみようという問題提起から、電子公文書の取り扱いの実績の有無にかかわらず班全体として、理想とするシステムについて検討し、共通認識を形成した。
  グループ討論では、はじめに、現用で使用されている電子決裁等の現用システムと移管後に公文書館側が主となって管理する電子公文書管理システムを一元化する場合と、分離する場合の各仕様の特徴について検討した。実際に電子公文書の移管を行っている館の事例を参考に、文書が管理されている状況やアーカイブズ機関の規模、利用者の属性によって相応しいシステムの形態が異なることを確認した。そののち、理想とする電子公文書管理システムの共通要件についての議論を展開した。

2 現用文書管理システムとの関係
  各所属先で使用している現用及び非現用の文書管理システムについて情報共有したところ、現用から非現用まで一元的に管理している事例と、現用と非現用で別々にシステムを構築している事例が報告された。電子公文書がアーカイブズ機関に移管された際、システムの仕様ごとに移管や管理の方法は異なる。
  現用と非現用で一貫した電子公文書の管理が行われている場合、移管は原課から公文書館に電子公文書へのアクセス権限を変更するのみで済む。アクセス権限を変更するという移管方法は、電子公文書の最も円滑な移管方法だといえる。また、公文書館に移管された後も原課のアクセス権を保持しておくと、職員はわざわざ公文書館に足を運ぶことなく非現用となった文書を閲覧することができる。行政組織の政策決定に際して公文書の参考は必要であり、閲覧あるいは借覧の手続きを踏まずに電子公文書の行政利用が可能であるという点は、行政職員にとっても公文書館側にとっても利点が大きい。ただし、これは公文書館の主な利用者が行政職員である組織にとっては好ましいが、一般の利用が多い組織ではまた違った対応が必要だと考えられる。
  システムを一本化する利点として、円滑な移管の他にも原課との連携が図れるという意見が経験談と共に提示された。現用から非現用まで同一システムで管理されていた方が、システム改修等に際して公文書館側の要望を伝えやすいとのことであった。現用文書に特化したシステムの開発は、総務課などの現用文書の管理を担当する部署と情報システムを所管する部署が主となって進めるため、分離型システムの場合、公文書館と原課の間で隔たりが生じてしまうことが予想される。この点において、システムが一本化されていれば、非現用の電子公文書管理はもちろんのこと、現用時の管理についても公文書館から意見を述べることが容易になるだろう。文書のライフサイクルを考えると、現用の段階から公文書館と原課の間で連携が取れている方が好ましい。さらに、予算規模が限られている公文書館では独自のシステムを構築するよりも、既存の現用文書管理システムに非現用に特化した機能を追加する形でシステムを改修する方がコスト低減になる。
  現用と非現用でシステムを分ける利点は、非現用に特化したシステムの場合、アーカイブズ機関しか使わない機能の搭載がかなうことである。デジタルコレクション等の公開機能の搭載や、古文書や写真などの行政資料以外の資料の管理は現用・非現用一元型システムでは難しい。
  原課である庁舎と公文書館の位置が離れていて、サーバーを別で立ててあることから、同一システムの導入ではなく別でシステムを構築することになったという事例も報告された。反対に、一元型システムを導入しているところでは、建物が庁舎のそばに建てられていた。システム形態の決定に際しては、文書館の利用者の性質や予算規模だけでなく、アーカイブズ機関と移管元機関の物理的距離も考慮される要素となりうる。

3 電子公文書管理システムの要件に望むもの
  以上の議論を踏まえて、次に、電子公文書を管理するシステムに必要だと思われる要件を検討した。その際、システム全般の前提として、総務省が公開している「中間標準レイアウト仕様[2]」に類似したものが求められるということを確認した。すなわち、XML形式でデータの出入力が可能であり、システム間の移行に対応する仕組みを持つものである。
  電子公文書の移管の特性については、前項で紹介したように現用・非現用一元型システムであれば移管が比較的円滑に実現できる。しかしながら、一元型システムであっても改修や新システムへの移行などを想定した場合、内部間の移行に留まらず、他のシステムと連携できる機能が求められる。また、現用システム内で保存されていた電子公文書と、文書の来歴記録であるメタデータを紐づけた上でデータを出力する機能も外せない。移管やデータの移し替えの際に電子公文書の真正性を損なわないことは、一元型・分離型を問わず基本的要件である。
  電子公文書管理の最終的なゴールは、紙の文書と同じように一般の利用に供すること、つまり公開である。電子公文書の公開にあたっての課題は、非現用に特化した機能をいかにシステムに搭載できるかという点にある。移管後の整理の結果や編成記述がわかるようなデータを電子媒体に反映させることはもちろんのこと、借覧や閲覧時の対応も検討しなければならない。この点について、電子公文書の公開・利用に重きを置く場合は、現用文書と非現用文書でシステムを分けるとリスクが分散されていいのではないかとの意見が提示された。システム自体に公開機能を搭載する場合はセキュリティ上の配慮が必要になるが、その方法はあまり現実的でないように思われる。電子公文書の閲覧対応は、庁舎内あるいは公文書館のネットワークから遮断したコンピューターを用意するか、紙に印刷して閲覧させるかのどちらかになるであろうが、いずれにせよ真正性が保証されていることを利用者に示さなければならない。
  最後に、グループ討論ではシステム開発の具体的な事例も報告されたことを付け加えておきたい。先述のとおり、電子公文書管理システムは標準仕様というものがないため、ほとんどの自治体やアーカイブズ機関が独自でシステムを構築している。地方自治体の場合、地域に根差したITベンダーの方が、組織の要望が通りやすい傾向にあるという意見が経験を交えて紹介されていたことは興味深かった。標準仕様がなくとも、電子公文書の知見を備えたアーカイブズ機関の職員が積極的にベンダーと交渉することで、電子公文書管理の必須要件を満たしたシステムを構築することができる。

おわりに
  5班では、現用・非現用一元型と分離型の二つのシステム形態を軸に、理想とする電子公文書管理システム要件について検討を行った。討論を通じて得た結論は、システム要件は組織の規模や性質によって考慮する要素が異なるということである。出入力が可能であることや、他システムとの連携機能を持つなどの必須要件は存在するものの、組織の特徴に沿ったシステム形態や要件を別途で検討する必要がある。システム自体も恒久不変ではないため、改修や構築のたびにアーカイブズ機関が積極的に関与し、長期保存を見据えた観点から要望を伝えることが重要である。
  グループ討論では、「原課との連携」という言葉がしばしば登場した。その一例として、システムを構築する際に公文書館側から働きかけて、意見を言うことができた経験談が紹介された。システムに関すること以外にも、公文書管理条例(以下、条例という)の存在が公文書館と行政機関との連携を図る根拠となった事例が班内で複数共有された。公文書管理にとって条例の存在は重要であり、条例はシステム内でもシステムの外でも公文書館と原課の連携機能を持つことを可能にするものであると改めて痛感した。さらに、近年では公文書を保存することだけではなく、永久的な記録管理という視点をもって業務記録が作成される前段階から行政機関等にかかわる役割が公文書館に期待されている。管理の理念も形態も時代とともに流動的になることが予想される電子公文書については、アーカイブズ機関側から行政機関等に働きかけ、綿密に連携することがよりいっそう重要となる。現用システムの構築に公文書館が関わるということは、その重要な役割の一つであろう。
  「電子公文書の管理・保存・利用」というテーマにおいて、管理システムの運用や仕様は多くの人が関心を寄せる部分だが、細かな仕様やシステム構築の裏話を聞く機会はほとんどない。その点で各館の経験が共有できたグループ討論は、大変実りのある内容となった。休憩時間を利用して実際にシステム担当者に話を伺ったことを即時共有してくれた組織などもあり、新たな論点として議論に役立った。大勢を前にした報告ではなく、グループ討論という小さな空間だからこそ開示できた情報も多かったように思う。設定された時間の中でシステム要件の全てを検討することはできず、根拠を十分に備えた結論を出すことにも限界があったが、多様な経験を共有しあい、システムという論点からアーカイブズの役割を再確認できたことは当グループ討論の有用な一つの成果である。

  
  

[注]
[1] 独立行政法人国立公文書館『公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様』2018年3月改訂 https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/da_180330.pdf(最終アクセス日:2025年3月31日)。
[2] 総務省が公開している「中間標準レイアウト仕様」については以下を参照 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/lg-cloud/02kiban07_03000024.html(最終アクセス日:2025年3月31日)。