令和6年度アーカイブズ研修Ⅱ 3班グループ報告

沖縄県公文書館 大田文子

はじめに
  本稿は、令和7年2月に開催されたアーカイブズ研修Ⅱにおけるグループ討論において行われた3班の討論の概要を報告するものである。3班は、本研修のテーマである「電子公文書の管理・保存・利用」の中でも特に「移管・保存に係る課題」に関する論点に関心を持つ以下の8名で構成され、移管元である現用文書の管理部門の行政職員(以下、「移管主体」という。)と非現用文書を扱う公文書館の職員(以下、「公文書館」という。)が討論を行った(名簿順。敬称略。)。

新井正紀(独立行政法人国立公文書館)、亀野彩(日本銀行金融研究所アーカイブ)、石川淳(北海道立文書館)、山本ルミ(高知県立公文書館)、手島靖(福岡県市町村公文書館)、大田文子(沖縄県公文書館)、山田真之介(静岡市総務局総務課)、宮平さやか(豊島区総務部総務課)

  まず、討論をはじめる前に、自己紹介を兼ねて各機関の現状や課題を共有した。移管主体からは、次のような課題が挙げられた。たとえば、公文書管理システム(以下、「管理システム」という。)を現用から非現用まで一貫して使用する、つまり、管理システムを一元化する場合のメリットやデメリットはどのようなものがあるか不明確であること、電子公文書等のファイル形式やアクセス権等の長期的に見読性を確保するための仕組みづくりのほか、組織改編があった際のメタデータの整理・管理方法や、ストレージ容量についてなどといった課題が挙げられた。このような課題は、公文書館側からも提起された。たとえば、現用の管理システムから非現用の管理システムへの移管方法に係る仕様や、現用段階での見読性の確保や真正性を担保するための仕組みづくり、移管主体でどのようなメタデータを付与し、公文書館へ引き継ぐか、などといった課題である。ほかに、公文書館からは、一つの資料が紙と電子など異なる媒体にそれぞれ記録され構成されている「ハイブリッド」資料の管理方法や電子文書を記録する保存媒体に関する課題も挙げられた。
  以上のような課題を踏まえ、3班では、電子公文書の適切な移管・保存を実現するために、現用段階で解決すべき課題について検討を行った。具体的には、移管主体および公文書館の双方の視点から、電子公文書の見読性の確保、メタデータの移管・保存、管理上の課題について整理し、討論を進めた。本稿では、これらの課題について議論した内容を整理して報告する。

1.見読性の確保
  電子公文書等の見読性を確保する以前に、まず大前提として、ファイルが開けることが必要であるという点について話し合った。実際に文書を作成する主務課では、個人情報の漏洩を防ぐ対策などといったセキュリティ上の観点から、パスワードを設定した状態で保管することがある。しかし、そのパスワードは設定した本人以外には分からず、場合によっては本人も忘れてしまい、開くことができないことがある。ほかにも、フォルダにアクセス権が設定されていることがあり、電子ファイルにアクセスできない場合がある。これら電子文書ファイルが持つ情報にアクセスできない問題については、管理システムにおいて、移管後は主務課及び移管主体以外の他課は閲覧できない仕組みを採用したうえで、移管主体が職員に対し、事前にパスワードを解除するよう周知徹底すること、移管主体にフォルダの管理者権限を付与するなど、主務課の協力を促しながら運用面での解決策が提案された。
  また、主務課によっては、古いファイル形式の電子文書や独自のアプリケーションを使用したデータがある。これらは同じアプリケーションがなければ開けないため、長期保存が必要な文書は、あらかじめ長期保存に適したファイル形式に変換しておく、組織として導入するアプリケーションを標準的なものにするといった解決策が提案された。さらに、恣意的な運用を防ぐため、一般的な環境で利用できないファイル形式を自動で検知し、長期保存に適した形式にフォーマット変換する機能を管理システムに導入することで解決するという意見もあった。一方で、長期保存に適したファイル形式の一つであるPDF/Aに変換した際、文書のレイアウトが崩れるなどといった見た目が変わってしまう可能性があるという懸念も挙げられた。この点については、何を長期保存していくべきかを組織で十分に検討する必要があるという意見が出された。

2.メタデータの移管・保存
  次に、電子公文書の移管・保存について、電子公文書とともにメタデータも確実に移管・保存できる仕組みづくりが必要であることを確認した。
  討論の中で挙げられたメタデータの主な内容は、作成年、作成部局、管理者および管理者の遷移情報のほか、電子公文書等の真正性を確保するために必要な完結時に取得するハッシュ値、公文書館移管後の適切な利用のために必要な著作物に係る権利に関する情報である。特に、現用段階ではあまり意識されていない審議会資料などの「未公表の著作物」に関する権利処理に係る情報も公文書館へ引き継ぎ、円滑に利用できるようにしておくことが望ましいという意見が挙げられた。これらの権利処理に係る情報を公文書等の作成時に管理システムに登録し、現用の管理システムから公文書館へ確実に引き継がれるように設計する必要があるという意見もあった。設計には、組織機構の変遷により起こりうる組織情報に係るメタデータの整理に関する課題や、旧システムから新システムへの移行時にも確実にメタデータが引き継がれ、移管できるような仕組みが不可欠であるとの見解で一致した。

3.管理上の課題
  最後に、電子公文書等の管理上の課題について、主に、データ容量に関する課題、ファイル形式変更後におけるデータの真正性の確保、そして常用文書への対応の3点の課題が挙げられた。
  まず、移管の際のデータについて、光ディスクなどの可搬媒体に記録し、移管されている事例が挙げられた。この場合、移管後はハードディスク等のストレージに複製し、光ディスクとストレージの両方を保存しているという現状が報告された。しかし、大量の電子データが移管される場合、光ディスク等の媒体と、ストレージ容量のどちらも増え、維持管理に費用がかかる。紙文書と同様に費用がかかることを認識し、公文書館でも受入れ体制を整え、適切に予算を確保し、管理する必要があるという課題が指摘された。
  ファイル形式の変更により真正性の維持に関する課題については、「1.」で確認した見読性の確保のためにフォーマット変換した際、作成日付が新しくなったことで、それがたとえば裁判資料としての要件を満たすか、元のデータを廃棄しても本当に問題ないのか、という疑問が挙がった。この点については、法的な確認を十分にしたうえで、適切な管理と運用が求められるという整理に留まった。
  そして、長期にわたり主務課で保管され、同時に多くの人がアクセスできる常用文書について、紙文書の劣化、改変及びその履歴の管理に関する問題が挙げられた。これについては、劣化した紙資料を公文書館がデジタル化し、原本の紙資料は公文書館で保存、主務課ではデジタルデータを使用するという、保存期間延長文書に関する事例が挙げられた。この事例は、特定歴史公文書となりうる延長文書であり、また、原本が紙媒体という違いがあるものの、このアプローチは、電子文書や常用文書にも適用可能であり、主務課や移管主体と公文書館が連携し、必要に応じて公文書館が介入し、適切な処置を講じることにより、課題の解決が可能であると考える。

おわりに
  本稿では、3班の討論主題である「電子公文書の適切な移管・保存を実現するために、現用段階で解決すべき課題」について整理し、議論の内容を報告してきた。討論の最後に、現用・非現用双方が考える課題として、はじめに移管主体から挙げられた、管理システムを一元化する場合のメリットやデメリットについても各機関から意見が出されたため、ここに記しておきたい。一元化された管理システムで文書管理を行うにあたり考えられるメリットとして、スムーズな移管が期待できること、同じ開発業者、同じサーバーを使用することにより費用を抑えられる点がある。一方で、管理システムがダウンした際やセキュリティリスクに直面したときには共倒れになるリスクがあること、またサーバーの容量の確保や領域の問題や、利用者の管理システムなど、公文書館でのみ必要なシステム機能をもたなければならなくなるというデメリットもある。
  本討論は、リモート形式で実施され、対面での討論に比べて発言のタイミングが難しい面もあった。しかし、3班では、移管主体と、すでに電子公文書の移管を受けている公文書館、これから受ける公文書館、それぞれの観点を持つメンバーが集まっていたことから、電子公文書の適切な移管・保存を実現するために現用段階で解決すべき課題に加えて、管理システムの一元化についても意見を交わすことができた。
  電子文書の移管やその長期保存においては、今後の状況の変化について十分に予測することは難しい。“いま”考え得るよりよい状態での移管を受け、保存し、将来にわたって利用を適えるためには、移管主体と公文書館は緊密かつ有機的な連携を取り、現用段階から移管後の長期保存を見据えた作成、保管する仕組みを構築し、整備することが求められる。また、行政の電子化は、業務の効率化のみを目的にするのではなく、情報公開請求や特定歴史公文書の利用請求といった手段を通して住民が利用できるものでなければならない。これを適えるためには、方法や手段、そして、それに伴うコストについても十分に検討し、持続可能な体制の構築が重要であることから、今後各機関において更なる検討を重ね、最適な方法を模索する必要がある。そうした意味でも、本討論は非常に有意義であり、参加した各機関にとって有益な意見交換の場となったと思う。