令和6年度アーカイブズ研修Ⅱ 1班グループ報告
~移管元機関における現用文書(電子公文書を含む)の管理に係る課題について~

新潟県立文書館 井上信

はじめに
  本稿は令和7年2月7日に行われたアーカイブズ研修Ⅱにおける1班の討議内容をまとめたものである。1班のメンバーは、大野綾佳(国立公文書館・司会)、寺沢輝子(青森県公文書センター・報告者)、井上信(新潟県立文書館・書記)、西村春花(福岡県市町村公文書館(古賀市))、江塚直弘(磐田市歴史文書館)の5名である。国、県、市町村と様々な所属に及んでいる。どの所属も現用文書管理システムを導入しているが、電子決裁機能付きシステムは、すでに導入済みの所属(自治体)もあれば、令和7年度から導入予定の自治体、導入に向けて検討している自治体もあり、電子化の進捗状況にはやや差がある。討論では電子公文書を含む現用文書の管理について公文書館側から見た共通の課題を探るところから始めた。

1、課題の抽出
  1班では、現用文書の管理に関する各公文書館共通の課題として、以下の点を挙げた。
  令和6年7⽉に行われた地⽅公共団体における公⽂書管理の取組調査では、⽂書管理システムを導⼊している都道府県は46団体、市区町村では54%の944団体に上る。一方、システムを通じて文書の電子的管理が進んでも、管理対象が全て電子公文書とはならず、紙文書と電子文書が混在している場合が多い。紙媒体の文書であれ、電子文書であれ、評価選別の際には書誌情報のみが書かれた保存期間満了文書のリストから移管か廃棄かを判断しているため、実際にどういった文書が入っているか分からないものもあり、選別に苦労している。広島県立文書館の事例報告のように、電子公文書も選別対象とすることで対象機関が拡大した一方、選別後、移管する段階になっても、ファイル内が空であったり、移管に該当しない別文書が入っているなど、リスト上に記載されている文書が存在しない、または一致しないことが、文書の媒体にかかわらず共通の課題として挙げられた。

2、課題の原因
  次に、班内で導入例の多い一元的な文書管理システムのもとで紙文書を含めた管理を行う場合、どうしてこのような課題が生じるのか、その原因について考察した。
  一番の原因は、文書主管課が管理する文書管理システム(台帳)と実際に保存されている文書本体との情報の乖離である。なかでも保存場所の情報管理を例に挙げるメンバーが多かった。一般的に、各課が作成した文書は、一定期間執務室内に保管された後、文書主管課が管理する書庫にて保管される。その際、保存箱に番号を付し、文書管理システムに登録するなどして文書の所在を明らかにする方法が採られる。しかし、いったん書庫に保管された文書が何らかの機会に別の場所に移され、書庫に戻されないまま数年後担当者が代わった際に情報が適切に引き継がれなければ、文書のありかが分からなくなってしまう。
  電子決裁機能付きの現用文書管理システムが導入されている自治体は、電子公文書であればシステム内に保存されているため、所在不明となる可能性は低くなる。しかし、実際には紙媒体での決裁・供覧があったり、紙と電子併用での決裁・供覧もあったりするため、文書管理システム上の登録情報と、紙文書を含む、対応するすべての文書の情報を紐づけておかないと、文書が散逸してしまう可能性がある。

3、解決策
  討論ではこれらの問題を防ぐためには、どうしたらよいかという点について話し合った。
  現用文書の管理において重要なのは原課(移管元機関)との連携である。原課の職員は日々の業務に追われ、作成した文書を適切に管理・保存しようとする意識を持ちにくい。職員の意識改革を促すためには、文書管理に関する職員向け研修等を実施することによって原課に根気強く呼びかけていく必要がある。1班内では、文書管理に関する職員向け研修を実施している自治体もあれば、研修は実施せず、通知を発出している自治体もあった。研修を実施している自治体も新規採用職員を対象としたもので、内容は基礎的な事項の説明にとどまり、文書の散逸防止をはかるための個別具体的な説明には重点が置かれていない。研修はもとより、適切な時期における通知の発出等を通じて、粘り強く原課に呼びかけていかなければならない。ではどのようなことを呼びかけていくべきか。
(1)正確な情報の登録
  第一に、文書管理システムに正確な情報を登録することである。たとえば、文書作成の最初の段階や文書を保存箱に入れ執務室から書庫に移動する段階等で、現物を確認しながら、文書管理システムに正確に記載、更新する。そうすることで、文書の所在を明瞭にしておくことが大切である。また、仮に文書を書庫から執務室に戻す場合も、文書管理システムに忘れずに登録することで、担当者が代わっても文書がどこにあるか分からない状況を防ぐことができる。こうした保存場所の情報をはじめ、システムを活用しながら行政文書に適切なメタデータを付与することで、確実性と効率性をそなえた文書管理につなげることができるだろう。
(2)電子決裁の推奨
  電子決裁機能付きの現用文書管理システムが導入されている自治体は、紙文書を含む行政文書全体を一元的に管理するための仕組みと方法を採り入れることが効率的である。たとえば電子決裁だけでなく紙文書での決裁であっても、標題・作成年度等の書誌情報をシステムに登録しなければ、文書主管課は文書の存在を一律に把握できず、見落としのリスクが高くなるため、忘れずに登録してもらう必要がある。
  また、電子文書にも見読性等の電子特有の課題はあるものの、可能な限り電子決裁とすることで文書の散逸を防ぐことができる(電子化のメリットを生かすことができる)。添付文書に製本・冊子を含む場合も、原状回復が不要なものであれば解体して電子化する。一方で、どのような文書は紙媒体での決裁や紙と電子との併用決裁を認めるか、または紙媒体で保存しなければならないかということも予め周知しておく必要がある。たとえば、法令等により押印、署名が行われているもの、契約書、戸籍・住民票等、県収入証紙が添付されているもの、デザイン・色合い・質感などを確認する必要がある印刷物などは紙媒体で保存しなければならない。紙文書で保存する場合はシステムに登録された書誌情報に文書の保管先(箱番号等)を明記しておくことで、文書の散逸を防ぐことができる。
(3)書庫の適切な管理
  行政文書の電子的な管理を進める上でも、対象に紙文書を含む以上、システム上の管理だけでは完結しない。システム外の物理的な部分も包括した管理が求められる。現用文書の管理において、原課に書庫の適切な管理を促すことも大切である。書庫を適切に管理することは、たとえば情報開示請求があった場合に必要資料をすぐに発見できる等、原課にとっても利益が大きいことを粘り強く訴えていく。磐田市では本庁等の書庫を管理する文書主管課が書庫の状況を確認・点検し、好ましい書庫の使い方をしている課の写真を良い事例として示し、他の課への改善を促すという取り組みを行っている。こうした取り組みからさらに一歩踏み込んで、抜き打ちでシステムでの登録情報と書庫での保管場所が合致しているか検査するということも有効であろう。また、古賀市では別々の保存箱に対して、文書管理システム上では書庫の同一の棚番号が二重三重に登録されるというケースがあったため、これを防ぐために二重登録した際にエラーが生じる機能をシステムに新たに導入する予定である。このような取り組みもシステムを利用することでアナログな管理により生じうるエラーの改善につながり、適切な書庫管理につながるものである。
  以上提示したような解決策は、公文書館の自助努力だけで実現することは難しい。現用文書の管理を直接担う文書主管課や、原課とのコミュニケーションを積極的に図り、研修の機会や通知の発出等を通じて文書管理の重要性を伝えていくことが大切であると考える。

おわりに
  むすびに代えて、討論会に参加した感想を述べたい。
  新潟県では公文書の管理は、現用文書管理システムの管理も含めて知事部局の法務文書課(文書主管課)が担っている。教育庁の管轄下にある文書館(公文書館)は、移管されてきた歴史公文書の目録作成、書庫での保管および利用といった業務を担っているが、公文書がどのように作成され、現用文書として本庁の書庫等で保存され、廃棄または移管されてきたのかについては今まであまり意識してこなかった。しかしその道筋を公文書館職員としても理解しておかないと、たとえば移管されるはずの文書のリストと文書本体との不一致といった公文書館側が抱える問題の解決に近づくことはできない。その意味で今回公文書館職員として現用文書の管理に関する討論会に参加できたことは大変有意義であった。
  また、現用文書を適切に管理することは、公文書を作成し、保存する原課にとっても、保存期間満了後に歴史公文書として受け入れる公文書館側にとってもお互いに利益のあることである。その実現のためには原課、公文書館、文書主管課、あるいはシステム管理課も含めて多角的な連携が必要であることを認識することができた点でも大きな収穫であった。