金沢市公文書館
上島 佑太
1 はじめに
本稿は、令和6年度アーカイブズ研修Ⅱにおける4班のグループ討論をまとめたものである。班の構成は、以下のとおりである。
馬場宏恵(東京都公文書館)、大同裕士(奈良県立図書情報館)、宮本純(高知県立公文書館)、松澤果穂(安曇野市文書館)、鈴木麻里(八王子市)、上島佑太(金沢市公文書館)(敬称略)
班員それぞれの所属について、公の機関であり、非現用文書(業務における使用が終わった文書)の管理の主管課である点は共通しているが、現用文書(業務において使用中の文書)の管理の主管課が別であるところ、現用文書の管理の主管課も兼ねているところなど、様々な立場であった。
また、班員のほとんどの所属機関においては、電子公文書等の移管・保存の実績がなく(実績があるのは、東京都公文書館のみ)、今後国などの動向を踏まえ、対応を検討していく状況であった。
そのため、まず各所属機関の現状について情報共有を行った。次に、実績のある機関の事例などを参考にしつつ、各所属機関において想定される課題の情報を共有した後、課題を設定し、解決策について討論を進めた。
2 課題
電子公文書等のフォーマットに関する事例として、通常の業務においてWordの文書を閲覧する際、閲覧者のアプリケーションのバージョンが異なることで、表示されない情報があるなど情報が欠落してしまうことがあり、正本性が保たれていないケースが挙げられた。このことは、移管の時にも起こり得ることである。また、電子公文書等のフォーマットについて、Word、Excel、PDFなど様々なフォーマットがあるが、これらは不変とは限らず、今後変わりうることもあり得る。例えば、現在、あるフォーマットで保存されている文書が、作成から30年後に、同じように閲覧できるとも限らない。このことから、この討論においては、現段階において長期保存に優れていると考えられるPDFを理想の保存フォーマットとして検討を行った。
現用文書については、PDF以外にもWord、Excelなど様々なフォーマットで文書が作成されている。
電子公文書等の移管・保存の実績のある東京都公文書館では、現用文書のフォーマットは変換せず、そのままのフォーマットで移管を受け入れている。受け入れた文書の内容を全て確認して、フォーマットをPDFに変換することはしていない。
電子公文書等のフォーマットをPDFに変換するため、技術的には一括でPDF化をすることができるが、この変換作業においては、一部エラーが発生することもあり、作業が円滑に進まないおそれがある。
電子公文書等を例えばPDFなどのフォーマットに統一するとした場合、電子公文書等の移管先である公文書館で、フォーマットを一括でPDF化することは技術的には可能である。しかし、電子公文書等の件数が多いことから、全ての電子公文書等をPDF化し、その内容を確認することは、多大な時間がかかり、職員の負担が大きいため、現実的ではない。そのため、可能な限り、現用文書の段階からPDFなど統一したフォーマットで作成してもらうことが望ましいと考えられる。
統一したフォーマットで文書を作成するルールを定めた場合、実際の運用に当たり、文書の作成課にそのルールを浸透させ、徹底することが重要である。
また、現用文書の管理システムと非現用文書の管理システムについて、班員の所属では、それぞれ別のシステムであり、さらには別のシステムベンダーであるところも見られた。現用文書である電子公文書等のデータを移管するに当たり、現用文書の管理システムのデータを別のシステムである非現用文書の管理システムにどうデータを移行するのかが問題となる。データの連携が可能であればよいが、ほとんどの場合、現用文書の管理システムにおいて、電子公文書等の移管・保存まで考慮した仕様となっていないと思われる。
以上のことから、電子公文書等はPDFなど統一したフォーマットで管理することが望ましいとして、どのようにして保存に適切なフォーマットを統一し、これを推進するかを課題として設定した。
3 解決策
上記の課題を解決するため、電子公文書等の移管・保存を見据えて、現用文書の段階から、文書の作成課がPDFなどに統一したフォーマットで電子公文書等を作成し、保存することが望ましいとした。そのために、ルールを定め、ガイドブックを作成することが考えられる。
ルールの例として、例えば、電子決裁の際に添付するファイルをPDFとすることが挙げられる。金沢市の事例では、電子決裁の推進において、決裁しやすい文書の作成の観点から、電子起案文書への添付ファイルをPDFとすることとしている。電子公文書等の主なものとしての起案文書について、文書の作成課において、PDFで作成し、保存することを徹底することは、フォーマットを統一することに大きく寄与すると考えられる。
実際の運用を行うため、文書の作成課にPDFで管理することを意識付けするなどルールを浸透、徹底する方法として、職員に対する研修(全職員を対象としたeラーニングなど)の実施、現用文書の管理に関する監査の実施、文書の作成課における担当職員とのやりとりに力を入れることが挙げられた。
中でも、文書の作成課における担当職員とのやりとりについては、実際に実務を行う職員と話すことで、公文書等に関しての理解を得られ、協力的になってくれる実感を得られた経験が多くの班員にあったことから、とても有効な手段であると考えられる。班員の全員が文書の作成課の職員とのコミュニケーションが大事であると感じていた。
ルールの周知に当たり、文書の作成課では、文書の移管・保存を自分達の業務であるという意識が高くないため、現用文書の段階においてもPDFで管理することが閲覧性の向上、業務の効率化につながるなどのメリットを強調していくことも大切である。
なお、電子公文書等について、PDFなど統一したフォーマットでの保存が望ましいが、PDF化が難しい場合には、紙など別の保存方法をとることも考えられる。
また、現用文書の管理システムと非現用文書の管理システムについて、電子公文書等の移管・保存を見据えた仕様とするため、システムの設計の段階から、現用文書の管理の所管課や情報システムの所管課、システムベンダーと協力して検討する必要がある。
電子公文書等の適切な移管・保存をするために、電子公文書等の移管先である公文書館側が文書の作成課やシステムベンダーとコミュニケーションをとり、文書の作成課やシステムベンダーにも電子公文書等の移管・保存のことまで考えてもらい、一緒に課題を解決していくことが大切である。
4 その他
公文書等の利用については、その保存媒体など保存方法が関わってくるため、利用を見据えた、保存を考えることも大切である。
電子公文書等の利用方法について、現時点では、印刷して紙媒体で利用に供している自治体が多い。紙媒体で利用に供する場合があること、電子媒体のフォーマット変換が上手くいかない場合もあり得ることから、バックアップとして紙媒体で保存することも有効的ではないかという意見もあった。
また、媒体変換に関して、八王子市の事例では、紙媒体の公文書等を撮影し、画像データをマスキング、PDFに変換し、可搬媒体に保存して交付する方法をとっているが、処理作業により、画質が劣化し、閲覧に影響が出る場合もあった。
文書を作成する時点で、利用に供することまで考えて、適切な媒体で保存することも必要である。
5 おわりに
4班では、電子公文書等の移管・保存に関して、各所属機関における現状を共有し、主に非現用文書の管理の主管課としての視点から課題についての討論を行った。同じ業務に携わる班員間での意見交換は、大変参考となるところが多く、大変有意義であった。
電子公文書等の管理方法など公文書等の管理の在り方が変わっていく中で、今後どのように対応すべきかを検討するため、今回の討論のように他機関の職員と交流して積極的に情報収集し、また、望ましい公文書等の管理を実現するため、コミュニケーションを大切にして所属機関内の体制づくりに努めたい。