上田市公文書館
館長 浅野 寿次
1 はじめに
上田市公文書館は令和元年9月に開館し、今年度で5年が経過しました。草創期といえるこの5年間は、初めての事柄が多い中で試行錯誤を繰り返し、国立公文書館、長野県史料保存活用連絡協議会等の研修参加や県内文書館の視察などに学びながら、一つひとつ事業の形を作ってきた時期であったと思います。
私は令和5年度に館長職に就いたことから、すべてを経験しているわけではありませんが、本稿では当館の5年間の主な事業についてその概要を振り返るとともに、抱える課題や感じたこと、今後の方向性などについても触れていきたいと思います。
2 上田市公文書館の事業
⑴ 歴史文書の移管・収集
当館の歴史文書は大半が明治以降の旧市町村役場の公文書で、令和7年1月末で約2万5千点を収蔵しています。これらの文書が移管された経過ですが、まず約1万3千点は開館前に博物館や図書館など市内の主要施設に保管されていた文書を集め、整理し収蔵したものです。次に開館後の動きとして、令和3年4月の市役所新庁舎の竣工に伴い、旧庁舎の書庫に保管されていた歴史文書の移管を行いました。また、令和3年度から当市ではリテンションと呼んでいますが、新しい文書管理システムのもと、毎年度保存期限が到来した公文書を評価選別し、廃棄・移管・延長する事務を行っています。

上田市公文書館
このリテンションの作業は、担当課による一次選別、当館での二次選別、附属機関の上田市公文書館運営協議会による三次選別を行っており、主に文書リストを用いるほか、必要に応じて文書の現物確認を行うなど、一定の仕組みが構築されてきました。しかしながら、職員の意識・作業の定着や文書選別の標準化などまだまだ課題も多く、特に文書選別については現行の選別基準をより分かりやすくすることや、毎年度の移管文書のデータを蓄積し活用するなど、年度や人が変わっても同じように選別できるよう一層の工夫が必要であると思っています。
収集については、現在でも当市の施設に保管されている旧町村役場等の文書の調査や確認を行うほか、地域に存する公的な文書について住民の方から問い合わせがあった際に対応し、受け入れるかどうかの判断をしています。公文書館は、積極的に資料を収集し、社会に公開していく博物館や図書館とは少し性格が異なるのかもしれませんが、こうした活動も継続していきたいと思います。

公文書館2階収蔵庫
⑵ 整理・保存
整理については、受け入れた文書の防虫やクリーニング、不要物の除去等を行い、文書目録を作成していますが、令和5年度の全国公文書館長会議で国立公文書館の燻蒸室や修復室等を見学し、設備の違いや精緻な作業の様子など、こうあるべきという姿を見せていただきました。こうした体制の整備や技術の習得なども可能な限り進めていかなければならないと感じました。
文書目録の作成については、開館前の文書整理から一定のルールを定め行っており、この目録はインターネット上に公開し検索できるシステムを構築しています。私が以前勤務した社会教育施設では目録作りに苦労をした経験があり、こうした仕組みが当初から作られたことは、利用者や職員が文書を利活用する上で、大きな役割を果たしていると思っています。
保存についても、中性紙の袋・箱の使用や収蔵庫の湿度管理など現状施設で出来ることを行っています。国立公文書館主催令和5年度アーカイブズ研修Ⅰであった広島県立文書館のカビ被害の報告に衝撃を受け、収蔵庫管理の改善も少しずつではありますが行っているところです。
⑶ 利用及び普及・啓発
文書の閲覧利用については、令和5年度の実績で申請件数が49件、閲覧点数170点となっています。また、企画展示の観覧者や講座の参加者等も含めた来館者の総数は597人で、開館当初からは微増傾向にあるものの、まだまだ利用は少ないと感じています。
企画展示は、当館の特色ある文書に説明のキャプションを付けて展示し、おおむね3か月に一度展示替えをしており、令和6年度は開館5周年記念特別企画展も実施しました。また、来館が難しい方でも出来るだけ文書に触れ関心を持っていただけるよう、ホームページに画像や動画を上げ、見ていただけるようにしています。
講座については外部講師や当館の専門事務員による講座を行ってきたほか、令和6年10月31日には国立公文書館の小宮山敏和上席公文書専門官をお招きし、開館5周年記念講演会を開催しました。
この他に「上田市公文書館だより」の発行など情報の発信に努めているところですが、施設の存在や内容など知らないという方もまだ多いと思われ、一層の認知度の向上に努めていく必要があると思っています。
また、閲覧利用に当たっては、利用者の求める文書が無いこともありますが、一方でご希望の文書が見つかり長時間閲覧され、最後に感謝の言葉をいただいたこともありました。職員のレファレンススキルを上げ、これからも利用者に寄り添った丁寧な対応に努めていきたいと思います。
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公文書館1階ホール企画展示 |
開館5周年記念講演会 |

文書の撮影作業
⑷ デジタルアーカイブ
文書目録のデジタル化は先に述べたとおりですが、文書自体のデジタル化は保存と利用の両面から喫緊の課題であり、令和6年度重点的に取り組んでいる事業でもあります。
文書のデジタル化に当たっては、目的、優先順位、利用方法など、まず基本的な方針を整理する必要がありました。こうした中で、令和5年度アーカイブズ研修Ⅰの「デジタルアーカイブ」をテーマにしたグループ討議では、各自治体や団体の状況をお聞きすることができ、業務を進める上で貴重な手がかりを得ることができました。例えばデジタル化の目的は住民への施設の周知、来館が困難な方への対応、職員のレファレンス対応、文書のバックアップなど様々であり、館によって目的が違ってもよいこと。また、着手する優先順位についても、自館の貴重な文書から行う、ニーズの高い文書から行う、権利関係を踏まえ古い文書から行うなど様々な意見があり、施設の種類や状況によっても違うことが分かりました。こうした学びや各自治体の事例なども参考としながら、早期に運用方針を定めていきたいと考えています。
また、技術的な面については、当館にはデジタル化の専門的な知識を持つ職員はいませんが、当市には上田市マルチメディア情報センターという情報化の拠点施設があり、連携を図ることでデジタル化事業を進められていることも大きいと思っています。
文書のデジタル化はまだ緒についたばかりであり、今後も様々なノウハウを蓄積していかなければなりませんが、この事業を軌道に乗せ、利用者へのサービス提供の幅を広げるとともに、文書の多様な保存を図っていきたいと思います。
3 おわりに
全国にあるアーカイブズ施設は、文書館、公文書館など名称も様々で、その成り立ちや保存する資料も違い、各館の特徴があると思います。また、市内では博物館や図書館などの社会教育施設がそれぞれ資料を保存している中で、当館は何に重きを置いていくのかということですが、やはり歴史的な公文書を永年に渡って体系的に移管・保存していくことで、かつての市政の動向や市民の状況が明らかになるなど、後世の人達に利活用してもらえる文書を遺漏なく残してくことが肝要であると考えています。
そのためには、何を選ぶのかということも大切ですし、公文書のライフサイクルの定着を図るなど、この時期だからこそ様々な課題に向き合い、精度を高め充実を図っていくことが必要であると思います。当館は開館して5年、まだ歴史の浅い施設ですが、市の重要な文書を長期的な視点で残し、将来アーカイブズ施設として評価をしていただけるような館となるよう取り組んでまいります。
(上田市公文書館URL)
https://www.city.ueda.nagano.jp/soshiki/kobunshokan/1111.html
(上田市公文書館目録検索システムURL)
https://kobunshokan.city.ueda.nagano.jp/