保存期間満了文書の評価選別に向けた全庁ヒアリングの実施について

和泉市教育委員会生涯学習部文化遺産活用課
主事 村上 絢一
同生涯学習部次長兼文化遺産活用課長 
森下 徹

はじめに
  和泉市(以下、本市という。)は大阪府南部に位置する地方自治体である。令和6年5月末現在の総人口は約18万2,000人にのぼる。北部の平野部ではJR阪和線沿線を中軸として、市街地が広がっており、中部の丘陵地帯では泉北高速鉄道和泉中央駅を中心として、宅地開発が進行している。他方では丘陵地帯の所々や南部の山間地帯に、のどかな農村風景が残されている。本市が都会と田舎どちらの魅力も併せ持つ「トカイナカ」を謳うゆえんである。
  本市は令和6年(2024)3月に和泉市公文書の管理等に関する条例(以下、条例という。)を制定した。条例第8条第2項では、教育委員会以外の実施機関は、保存期間が満了した公文書のうち、歴史公文書に該当するものを教育委員会に移管することが規定された。また、第4項では、教育委員会は保存期間が満了した公文書のうち、歴史公文書に該当するものを、引き続き保存することが規定された。教育委員会に移管され、または教育委員会において引き続き保存される歴史公文書は、特定歴史公文書という。
  本市において、現用公文書の管理は市長部局総務部総務管財室が管掌するところであるが、教育委員会では平成8年(1996)より市史編さん事業を継続しており、資料保存や市政の展開と市民生活の変遷に関する調査研究の蓄積を有することから、条例の制定にあたり、歴史公文書の評価選別とその基準の制定並びに特定歴史公文書の管理及び公開は教育委員会が管掌するものと規定された。
  和泉市教育委員会生涯学習部文化遺産活用課(以下、当課という。)は、条例の制定を受けて、令和6年度より歴史公文書の評価選別および特定歴史公文書の管理を担当し、また令和8年度より特定歴史公文書の公開を担当する。
  条例の制定にあわせて、和泉市いずみの国歴史館条例は一部改正され、当課が所管する同館の事業に、特定歴史公文書を永久に保存し、及び一般の利用に供することが加えられた。また、これまで「収集保管及び陳列展示」の対象としてきた郷土の歴史資料及び文化財についても、一般の利用に供することが定められた。これにより、同館では令和8年度に、特定歴史公文書とともに、市史編さん事業において寄贈・寄託を受けた古文書等の地域資料を公開する文書館機能の供用を開始する予定である。
  当課では、新たな事業である歴史公文書の評価選別に備え、原課(特定室における担当等を含む。)における公文書管理の現状と課題を把握するため、令和6年2月に全庁的なヒアリングを実施した。本稿は、その経緯と結果の一端を公開することで、先行する自治体からの批評を仰ぎ、また後続する自治体への参考に供することを目的とする。

1.本市における公文書管理をめぐる経緯
(1)歴史公文書の取扱い

  昭和31年(1956)に発足した本市は、同年に和泉市文書取扱規則を制定した。平成11年(1999)4月の全部改正を経て、平成27年(2015)4月の一部改正では、和泉市文書取扱規則第21条第6項において「廃棄の手続を経た文書のうち、歴史又は文化に関する資料として重要と認められるもの」を文化財所管部署に「引き継ぐ」ことを可能にすることが規定された。これにより原課で保管された公文書の一部は、当課へ引き継がれることとなり、とくに令和3年(2021)5月の市役所新庁舎の供用開始前後には、広報担当部署をはじめとする複数の部署から、歴史的な価値を有する公文書の存在が報告され、その一部は当課へ「引き継ぐ」措置がなされた。
  これ以前に平成11年(1999)10月の和泉市情報公開条例及び和泉市個人情報保護条例の施行時には、文化財振興課(令和2年度に現在の文化遺産活用課へ名称変更。)が当時の総務部局と協議のうえで、市制施行前後に作成又は取得された700点以上にのぼる歴史的に重要な公文書を、緊急措置として収集している。この時収集された公文書のうち、市制施行以前にさかのぼるものは、「和泉市旧町村役場公文書」(754点)として平成23年(2011)3月に市指定文化財に指定された [1]。
  このように当課では、条例制定以前から、歴史的な価値を有する公文書を収集し、また引き継いできたが、明確な評価選別基準はなく、市史編さん事業を担う職員による属人的な判断のもとに行われてきたともいえる。
  また、引き継がれた公文書は、市史編さん事業により収集された古文書等の地域資料(民間資料)とともに保管され、歴史研究の史料や和泉市いずみの国歴史館での展示資料として活用されてきた。市史編さん事業の蓄積があったことで、「広い意味での地域資料」「歴史資料」として認識され、歴史公文書の収集・保存が進み、先述のとおり、文書館機能の設置が実現する運びとなった。しかし、歴史公文書と地域資料とは、その法的位置づけや性質が異なるため、歴史公文書には、それに即した制度や例規の制定及び運用が必要である。条例制定以前においては、歴史的な価値を有する公文書もまた、文化財の範疇において保管された。このことは、市史編さん事業の達成であり、また公文書管理制度の限界であったといえる。
  なお、和泉市文書取扱規則は、条例制定にともない全部改正され、現在は和泉市公文書の管理等に関する条例施行規則として運用されている。この際、和泉市文書取扱規則第21条第6項の内容は削除された。

(2)紙媒体から電子媒体へ
  本市では、平成26年(2014)1月に電子決裁・文書管理システムを導入し、現在まで運用している。このシステムにおいて決裁文書を保存するファイルの分類・名称・保存期間(ファイル基準)は、原課が設定する。いわゆる「積み上げ式」である。
  それ以前には、紙媒体による公文書の作成と保存がなされていたが、当時は総務部局が原課からの依頼を受けて、各課の簿冊の分類・保存期間(簿冊目録)を設定した。いわゆる「割り当て式」である。
  ところで、かつての和泉市文書取扱規則において、文書の保存期間は最長で「永年」とされていたが、条例の制定にあたって、公文書の保存期間は最長で30年と規定された。それ以下の保存期間は、10年・5年・3年・1年である。
  条例の制定により、旧永年保存文書は30年保存文書として自動的に読み替えられる。これにより、会計年度の単位では、市政施行から平成5年度末日(1994年3月31日)までに完結した旧永年保存文書が、令市政施行から平成5年度末日(1994年3月31日)までに完結した旧永年保存文書が、令和5年度末日(2024年3月31日)に、自動的に読み替えられた30年の保存期間満了を迎える。令和6年度には、それら大量の旧永年保存文書を評価選別の対象としなければならない。
  さらに、10年保存の公文書では、平成25年度末日(2014年3月31日)までに完結した公文書も、令和5年度末日(2024年3月31日)に保存期間満了を迎え、令和6年度における評価選別の対象となる。このうち、平成26年(2014)1月から3月31日までに作成され完結した公文書は、電子決裁・文書管理システム上の電子媒体の公文書となるため、それ以前に作成された紙媒体の公文書とは、評価選別の方法を区別しなければならない。
 なお、条例第10条で、実施機関は「公文書の電子化の推進」に「努めなければならない」ことが規定され、公文書は電磁的記録を「正本又は原本」として管理することが「基本」と規定された。この条文がどのような形で具現化されるかは、今後の課題に属するが、歴史公文書の管理を担当する当課にも、将来の公文書の形態を見据えた対応が求められている。

2.ヒアリングの概要
  当課では令和6年4月1日からの条例一部施行に向け、令和6年2月に和泉市の実施機関のすべてについて、原課へのヒアリングを実施した。実施日程は表1のとおりである。

表1 令和6年(2024)全庁ヒアリングの実施日程

  当課からは主事1名と管理職1名(課長又は課長補佐)又は市史編さん室職員1名(会計年度任用職員)の2名が出席し、各課には基本的に管理職以上の職員の出席を求めた。ひとつの室・課での所要時間はおおよそ30分とした。ヒアリングにあたっては、事前に下記の質問項目を用意した。
  1永年保存文書はどこで、どのくらいの量が保管されていますか。
  2永年保存文書について、簿冊目録と現物は対応していますか。
  3公文書の管理にあたり、とくに注意を要する事項(個人情報等)はありますか。
  4将来における公文書の公開にあたり、とくに注意を要する事項(個人情報等)はありますか。
  ヒアリングでは、電子決裁・文書管理システム導入以前の簿冊目録と同システム導入以後のファイル基準表をもとに、保存期間ごとに公文書の内容を確認した。また、各課が公文書を保管する執務室キャビネットや倉庫の様子を視察するとともに、条例に基づく新制度について、口頭による説明を行った。
  ヒアリングを通しては次章にまとめるように、原課から様々な意見が寄せられた。これを受けて、ヒアリングの中盤からは、質問項目を次のように改め、論点を明確化した。
  Ⅰ.文書保管の現状 ①場所 ②目録等との対応
  Ⅱ.永年保存文書のうち、移管対象となり得るもの
  Ⅲ.永年保存文書のうち、常用となり得るもの
  Ⅳ.法律等により保存期間が定められる文書
  Ⅴ.保存期間満了後も廃棄せずに残している文書
  Ⅵ.会議体に関する文書
  Ⅶ.公開にあたり注意を要するもの
  Ⅷ.行政刊行物
  ヒアリングで得られた課ごとの現用公文書の管理と評価選別に向けての課題は報告書にまとめ、グループウェア(庁内でのコミュニケーションと情報共有を促進するためのソフトウェア)に掲載して職員間での共有を図った。これは、ヒアリングに参加した職員が異動したり、各課の職員体制が変わったりした場合にも、公文書管理の現状に対する認識が、原課において継承されること意図したものである。

3.ヒアリングを通して判明した評価選別に向けての課題
   ヒアリングを通して、原課における現用公文書の管理に関する課題が明確化されるとともに、将来の評価選別に向けた課題も浮かび上がった。なかには、新制度に対する素朴な疑問や不安も見られた。つぎにそれらの一端を紹介する。

(1)組織の改変により引き継がれた公文書の所在
  機構改革にともなう事務移管においては、公文書もまた原課から原課へと適切に継承されなければならない。原課においては、継承された事業に関係する公文書の所在を特定し、評価選別を担当する当課においては、市政発足から現在に至る組織の変遷を跡付けておかなければならない。原課が保存する公文書のなかには、現在の所掌事務に照らしてみて、むしろ他の部署が保存すべきと考えられるものが含まれることも想定されよう。市政の展開を振り返ることが、最も求められる局面といえる。

(2)保存期間満了後も運用上必要とされる公文書の取扱い
  福祉分野においては、関係する市民の状況に即して、公文書の保存が左右される。成年後見審判申立審査会や関連する助成事業に関する公文書は、対象者の生存中は保管しておく必要がある。また、例えば補装具交付・修理申請書綴等は、5年の保存期間が設定されているが、次回の申請作業等に備えるため、保存期間満了後も保管されている。
  消防分野においては、防火水槽に関する公文書がこれに類する。防火水槽が市へ譲渡された後に公費で修理する場合もあれば、不要となり廃止される場合もある。防火水槽が廃止されれば、それに関する公文書も不要となるが、その反対に、防火水槽が現用である限りは、過去の公文書も参照する必要がある。。なお、防火水槽に関する公文書は誓約書等を含むため、条例制定以前においては永年保存とされていた。
  建設事業に関わる分野からは、境界明示、団体との交渉記録、工事の履歴等は、常時参照するため、移管すべきでないとの意見が寄せられた。

(3)法規により保存期間が定められる公文書の存在
  ヒアリングを通して、法規により保存期間が定められる公文書の存在が浮かび上がった。これに該当するものを表2に掲出する。

表2 法規によって保存期間が定められる公文書の例


(4)複数の部署にまたがる事業に関する公文書の取扱い
  本市では、農業経営基盤強化促進基本構想関係や和泉農業振興地域整備計画の策定において、市長部局農業担当部署と農業委員会との連携による運営が行われた。評価選別と将来の公開にあたっては、一連の事業を俯瞰できるように留意する必要がある。

(5)移管対象となる公文書
  歴史公文書の類別には、市政の展開と市民生活の変遷に関するものが含まれる。水道分野においては、O157関係、渇水対策関係、阪神淡路大震災関係、東北地方大震災関係がこれに該当する。福祉分野においては、プレミアム付商品券関係文書や臨時福祉給付などが、これに該当するとの意見が寄せられた。全庁的には、市長公約として開始された事業についても、将来の検証に備えて適切に移管されるべきことが確認された。

(6)移管・公開にあたり注意すべき公文書
  保安や防犯の観点から公開に慎重であるべき公文書について、原課からの意見が相次いだ。たとえば、ITネットワーク関係の公文書は、情報セキュリティの観点から、公開に適さない情報を含む。消防本部が取扱う生活関連施設に関する公文書は、テロ対策の主旨から、厳密な管理が求められている。都市計画法第53条に規定する許可関係書や都市計画法第65条に規定する許可関係書は、家の間取り図等を含むため、公開にあたっては慎重な判断を要する。
  市と町会や個人との覚書には、交渉記録や両者の信頼関係に関わる内容も含まれることから、原課としてはその将来の公開に二の足を踏むとの意見が寄せられた。同様の懸念は用地買収の交渉記録にも向けられている。
  市が取得した公文書には、その公文書を作成した団体の権利に関わるものも含まれる。プロポーザルにおける提案書等もさることながら、助成金の審査に関する会議体の会議録は、知的財産権に触れる内容を含むことから、公開に適さないとの意見が寄せられた。市に寄せられる投書やホームページからの問い合わせ、意見、通報には、不正確なものも含まれるため、それらを公開することによって、企業等の団体の権利が損なわれることを懸念する声も聞かれた。

(7)行政刊行物の収集について
  条例第29条においては、「官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売し、又は頒布することを目的として発行される公文書には適用しない」と規定される。そのため、行政機関が発行者となる冊子等の行政刊行物は、条例に基づいて「移管」されるものではない。しかしながら、その時々の市政のあり方を端的に示し、市が市民へ発信した情報を含むことから、当課はこれまで機会あるごとに収集してきた。条例の制定により公文書の移管を開始するとともに、行政刊行物の組織的な収集も目標としている。
  ヒアリングにおいては、市が広告料で制作する封筒や冊子等、定例的な行事や啓発に関する軽微なチラシ等、実行委員会や指定管理者が制作したポスター、チラシ、パンフレット等も行政刊行物に含まれるのか、といった質問が寄せられた。行政刊行物の範囲は際限なく拡大しうるため、保管のあり方も含めて、収集の基準を策定する必要がある。
  また、データでは存在するが、紙媒体では制作(印刷)していないといった事例も聞かれた。保管のあり方も含めた検討が求められている。

おわりに
  本稿では、1か月を要した市役所(実施機関)全庁のヒアリングについて、その概要と結果の一端を示した。今回のヒアリングは、当課としては初めての試みであり、条例の制定に基づく歴史公文書の評価選別に向けて、原課と当課との関係を結びなおす機会となった。
  条例の制定により、令和6年5月に和泉市文書管理委員会が発足した。その第1回の会議(令和6年5月20日)において、当課はヒアリングの結果を委員に報告した。第2回の会議(令和6年6月4日)では、ヒアリングにより判明した公文書管理の現状に基づき、評価選別に向けての課題が共有された 。これら会議での議論を経て提出された和泉市文書管理委員会による答申に基づき、和泉市教育委員会は「和泉市歴史公文書の決定に係る基準に関する要綱」を制定した。令和6年度からは、この基準をもとに評価選別を実施する。
  当課では今後、特定歴史公文書の公開基準や手続きについて制度の策定を予定している。特定歴史公文書の公開にあたっては、条例第8条第5項の規定に基づき、移管元である原課の意見も参酌する必要がある。条例に掲げる目標が達成されるよう、原課との緊密な連携と意思疎通を継続していきたい。

〔注〕
[1]和泉市史編さん委員会編『和泉市史紀要第18集 和泉市旧町村役場公文書目録』(2011年)。
[2]会議録は和泉市ホームページにおいて公開している。