藤沢市文書館 館長 猪俣順一
学芸員 山田之恵
1.はじめに
藤沢市文書館は1974年(昭和49年)7月1日に開館し、今年で開館50周年を迎える。基礎自治体が設けた単独の文書館としては日本初と言われており、開館は、藤沢市史編さん委員の先生方や市史編さん担当職員の尽力だけではなく、藤沢市長や議会、市民、そして歴史学系の学会が動いての成果であった。
その過程と業務の概要については本誌第42号[1]に記しているため本稿では省き、当館の近年の取組を中心に述べることとしたい。
2.歴史資料の取組について
当館は条例設置施設であり、第3条業務において「歴史資料」と「行政資料」の収集・保存・公開等が規定されている。最初に「歴史資料」の取組について述べたい。
2.1 『歴史をひもとく藤沢の資料』シリーズの刊行
1968年(昭和43年)から始まる市史編さん事業においては、市内所在の資料の悉皆調査が重要な事業の一つであった。その成果は、『藤沢市史資料所在目録稿』として1969年(昭和44年)に出版され、当館開館以降も継続して刊行された。刊行物名のとおり市内に所在する資料の目録であり、また速報性を重視して整理作業と目録作成が完了した部分から刊行したため、調査が複数に及ぶ家の目録については巻をまたいで掲載することになっていた。また25集(1999年(平成11年))以降刊行がないことから、資料調査の成果が公表されないという課題を抱えることとなった。
この課題を解決するために、2016年(平成28年)3月に『歴史をひもとく藤沢の資料』シリーズ(以下、『ひもとく』と省略)の刊行を開始した。これはA4版約100ページの一般向けの刊行物で、市内13地区ごとにまとめた歴史概説書であるが、当館で所蔵する資料の目録を13地区ごとに点検して統合し、付属のCD-ROMに収めており、当館所蔵資料の目録集の役割も担っている。『ひもとく』に目録を掲載するに当たっては、資料の寄託者・寄贈者に連絡を取るなどすることで、当館との関係を再確認することも行っている[2]。
『ひもとく』は毎年1冊を発行し、13地区のうち8地区の刊行を終えている。今後は、数年に1冊のペースで13地区全ての刊行を完了する予定である。
『歴史をひもとく藤沢の資料』 |
『歴史をひもとく藤沢の資料3片瀬地区』 |
2.2 独自ウェブサイトの展開
当館では市役所の公式ウェブサイトとは異なる独自サイトを、2010年(平成22年)から有している[3]。
「藤沢市相互提案型協働モデル事業」の第2期として2007年(平成19年)からNPO法人との協働で構築したウェブサイトである。このウェブサイトは資料紹介や当館主催の行事等の告知などを主たる目的とするのではない。開始当初から、資料画像データを目録情報と合わせてウェブ上に公開用のデータベースを構築し[4]、閲覧者がキーワードを検索して結果を表示させることができるというデジタルアーカイブズであった。さらに、データベースの資料データを引用する形でデジタル展示を実現させるなど、データベースをデジタルコンテンツとして活用できる機能も有していた。
現在では当初の機能に追加して、ウェブサイトで公開している資料画像の一部については、ウェブサイト上で利用届を提出すると自動的にダウンロードが開始するシステムを導入している。このシステムで資料画像がダウンロード可能なのは、主に広報課撮影写真や戦前の絵葉書、都市計画基本図が中心である。著作権に抵触しないことを確認し、かつ個人が特定できる写真にはマスキングをするなどの事前審査後にウェブサイトで公開することで、このシステムでのダウンロードを可能としている。令和5年度は年間で159件588点のダウンロードがされており、所蔵資料の利用促進と、事務手続きの省力化が図られている。
ウェブサイトを公開するためのサーバは、以前は独自サーバを用いていたが、現在はクラウドサービスを活用している。日常的なウェブサイトの維持・管理は、協働事業の相手先であったNPO法人に参画して実質的にウェブサイトの公開システムを構築した事業者に委託し、年に4回のウェブサイトの更新の他に、サーバOSのバージョンアップに対応して、ウェブサイトの公開システムの修正も委託している。またウェブサイトはCMSで構築されていることから、当館での更新も可能である。
独自ウェブサイト 検索画面 |
独自ウェブサイト デジタル展示 |
2.3 大学等との連携
当館が収蔵した一部の歴史資料の整理については、2015年(平成17年)から大学等と連携して実施している。最初に実現したのは、ID123山本悦三家の目録入力であった。この資料群は、整理用封筒に目録情報を記載して資料を収めるなど、整理作業そのものは完了していたが、目録が作成されていなかった。そこで目録をMicrosoftExcelで作成することを、東洋大学文学部大豆生田稔教授と同大経営学部坂口誠准教授と協定を結び、委託した。現在ではID65葛巻文庫のうち芥川龍之介の自筆資料修復を横浜市立大学と、ID23家の文書約12,000件について目録との照合・整理用封筒の入替といった再整理を筑波大学図書館情報メディア系白井哲哉教授と、それぞれ協定を結び行っている。
資料整理は当館の限られた人員や予算では時間のかかることもあるが、大学等と連携することで大学や科学研究費などの研究予算や、ゼミの学生などの人員の支援を得て行うことができ、同時に資料についての研究が進み、利活用の促進が期待できる。大学は研究機関であることと同時に教育機関でもあり、資料原本と接する機会を提供することで、次世代のアーキビスト・研究者の育成に貢献することができると考えている。
3.行政資料の取組について
次に、「行政資料」の取組について述べたい。なお「藤沢市文書館条例」(以下「文書館条例」と省略)第3条で言う「行政資料」とは、行政文書と行政刊行物の総称であるが、本稿では行政文書について中心に述べたい。
3.1 「藤沢市公文書等の管理に関する条例」の施行
当市では「藤沢市公文書等の管理に関する条例」(以下「公文書等管理条例」と省略)が2017年(平成29年)4月1日に施行された。
当市の文書管理及び条例制定の経緯については、本誌55号[5]に報告があるので、詳細については参照願いたい。この報告で重要な点は、公文書等管理に関する有識者会議の議論を取りまとめた「公文書等の管理のあり方に関する提言」(2014年8月)に基づき、行政文書(現用文書)と歴史的公文書(非現用文書)の概念を融合させた文書管理を実現しようとしたということである。これは、当市の文書管理の特徴[6]を受けて、永年保存文書と歴史的公文書の区分を無くし、市民共有の知的財産である重要行政文書として保存することを試みたものであった。
残念ながら有識者会議の提言のとおりの条例は実現しなかった。しかしながら、「公文書等管理条例」が施行されたことで得たことは大きい。主な点は次の3点になる。
まず1点目は、歴史的公文書を保存することの根拠についてである。条例制定以前は「文書館条例」の第3条第1項第2号の行政資料の収集に基づいて行っていたが、「藤沢市行政文書取扱規程」(以下「文取規程」と省略)に規定がないことで、藤沢市の文書管理の一般的な流れとして位置づいていないという課題を抱えていた。「公文書等管理条例」施行後は、第5条第1項を根拠に重要行政文書として保存することができることになった。
2点目は、公文書等管理委員会の設置である。「公文書等管理条例」制定後は、第5条第2項により、重要行政文書の選定に際しては、「公文書等の管理に関して優れた識見を有する者の意見を聞かなければならない」ことから、公文書等管理委員会を設置して専門家の客観的な視点で選別案を審査していただくことになった。
3点目は、「文書館条例」でいう「歴史資料」に相当する資料の取り扱いである。「公文書等管理条例」では「民間資料(地域資料)」とし、第9条「市長は、この条例の趣旨にのっとり、民間資料(地域資料)を受け入れ、適正に管理し、及び市民の利用に供するものとする。」と規定することで、受け入れ・適正な管理・市民への閲覧提供が市の義務となった。
3.2 行政文書の電子化
当市では、「文取規程」第3条第3項に基づき、行政文書の作成は、文書管理システムを用いて行うことになっている。このことは行政文書の電子決裁を義務付けたものではなく、起案の表紙(鑑)を文書管理システムで作成し、目録情報を登録することを義務付けたものである。この目録情報が文書管理の基礎情報となり、情報公開目録となり、評価選別の基になる廃棄文書目録となっていく。
文書管理システムの導入は、2001年(平成13年)4月であり、この間システムのリプレイスが4度実施されている。導入当初から電子決裁のシステムが搭載されているにも関わらず、電子的に作成された起案の鑑は紙に出力され、他の紙資料を添付して押印決裁されることが主であった[7]。
当市では文書管理システムを導入し、行政文書の電子化を進めているにもかかわらず、電子的な行政文書の目録データ及び近年増えつつある電子決裁文書を廃棄する規定が「文取規程」には定められていなかった[8]。結果として、保存期間の満了した目録データ・電子決裁文書は、廃棄年度に削除されず、リプレイスの際にまとめて破棄されていた[9]。
こうした状況を解消するために、「文取規程」は2024年(令和6年)4月1日施行で改正され、紙文書、電子文書を問わずに当市の特徴のとおり[10]の文書管理が行われることになった。
なおこの改正された「文取規程」に基づいた引継ぎ・廃棄はまだ実施していないが、引継ぎは文書管理システムでの管理権限を得ることで実現し、廃棄は当館で管理システムから削除をすることで実現することが予定されている。
4.開館50周年をむかえて
現在の施設は、1985年(昭和60年)に改築して約40年を経過して、施設の更新を検討する時期を迎えている。市内施設は同時期に更新の必要があることから、2014年(平成26年)に「藤沢市公共施設再整備プラン」[11]を策定し、「公共施設の機能集約・複合化による施設数の縮減」という方針が打ち出された。この中で当館は、鵠沼東にある文化ゾーンの再整備である市民会館・図書館等と複合化されることが検討されることになった。この施設の計画は「OUR Project(生活・文化拠点再整備事業)」(以下、OUR Projectと省略)として現在進行中である。
OUR Projectは、2023年(令和5年)8月に「OUR Projectマスタープラン素案」[12]が公表され、パブリックコメントが開始された。この素案では、当館は市民会館・図書館だけでなく市民ギャラリー・アートスペース・常設展示室・青少年会館・市民活動推進センター・生涯学習室の計9施設と複合化され、OUR Projectの全体の運営は官民協働がうたわれていた。これに対するパブリックコメントは、77人からの意見等の提出があったが[13]、そのうち約半数が当館について触れるものであった。パブリックコメントを踏まえて策定された「OUR Projectマスタープラン」[14]では、当館の機能として「行政文書や古文書等の歴史資料について、収集、整理した上で保存、管理し、市民等に広く利用してもらうための施設」と定義され、補足として「行政文書の保存、管理、利用等の業務については、後述のコンテンツリストに記載はありませんが、文書館の基幹業務として継続します。」と補足されることになった。
このことにより、将来当館が複合施設に移転することになっても、行政文書の保存、管理、利用等の業務が当館の業務として継続されることが明確になった。これは、市民の他にアーカイブの関係者が寄せてくださったパブリックコメントの力によると思われる。この場を借りてお礼をお申し上げたい。
当館の次の50年が、当館の先達の成果に更なる成果を積み上げることができるよう、今後も試行錯誤を続け、よりよいアーカイブズを次世代に残していきたい。
開館50周年記念イベント
・50周年カウントダウン動画公開
50周年を迎える7月1日まで、当館のYouTubeチャンネルにてカウントダウン動画を公開した。現在も公開中。
文書館YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@user-pu6jf5ej1h
・パネル展示
藤沢市役所本庁1階ラウンジで、パネル展示を開催し、市役所来庁者や職員を対象に、文書館の仕事や調べもののヒントなどを紹介した。展示期間は6月26日から7月11日まで。
・ふじキュン♡ ぬいぐるみを文書館仕様に着せ替え
本庁舎入り口で来庁者を出迎えている藤沢市公式マスコットキャラクターふじキュン♡のぬいぐるみを文書館仕様に着せ替えた。
・藤沢市史子ども講座「モンジョカンダンジョン―不思議(ふしぎ)な館(やかた)を攻略(こうりゃく)しよう」
小学生4~6年生を対象とした、当館の利用体験講座。
子ども講座 チラシ |
子ども講座 展示体験 |
・歴史講座「先人の歴史に学び現在を知ろう」
教員や市民(市外の方も含む)を対象とした歴史講座。今年度は、文書館(資料保存利用機関)の仕事に対して認識を深めてもらうために企画した。
タイトル:「文書館のしごと-日本初の市町村文書館藤沢市文書館に寄せて-」
講 師:新井 浩文 氏(埼玉県立文書館学芸主幹)
日 時:2024年8月7日 午後2時~午後4時
・藤沢市文書館開館50周年記念展 All about Fujisawa City Archives-今こそ知ってほしい 藤沢市文書館
日 時:2024年11月1日から12月25日まで(土・日・祝日休館) 午前9時~午後4時30分
場 所:藤沢市文書館3階展示室
・藤沢市史講座 開館50周年記念講座
当館の50年の歩みや所蔵資料をテーマに、全4回の連続講座を11月頃に開催予定。
パネル展示
ふじキュン♡ ぬいぐるみ 文書館仕様
データシート
・機関名:藤沢市文書館
・所在地:〒251‒0054 藤沢市朝日町12‒6
・電話/FAX:0466‒24‒0171/0466‒24‒0172
・Eメール:monjyo@city.fujisawa.lg.jp
・ウェブサイト:https://digital.city.fujisawa.kanagawa.jp
・交通:JR東海道線・小田急江ノ島線 「藤沢」 下車 徒歩約8分
・開館年月日:1974年7月1日
・設置根拠:藤沢市文書館条例
・組織・人員:市民自治部市民相談情報課文書館
館長/庶務兼市民資料室担当 (職員2名・会計年度任用職員司書1名・会計年度任用職員事務職1名)/歴史資料担当 (会計年度任用職員学芸員5名)/行政文書担当 (会計年度任用職員事務職2名・会計年度任用職員事務補助1名)
・建物:
敷地面積:460.55㎡/構造:鉄筋コンクリート3階 地下1階 (ポンプ室・機械室)
延床面積:690.25㎡ (別棟書庫264.91㎡含む)
主要施設:1階閲覧室 (市民資料室)/2階事務室/3階展示室・会議室
この他に、分庁舎地下2階に、行政文書(現用)の書庫がある(面積590.5㎡)
・収蔵資料の概要:(2024年4月1日現在)
歴史資料:古文書等地域資料 187,000件
行政資料:行政文書(簿冊文書 (明治~昭和56年度) 6,852冊+41箱/ファイリング文書 (昭和57~令和4年度) 20,519箱<224,804フォルダー>)/重要行政文書・歴史的公文書 78,406件
市民資料室資料:市政資料 11,532件/郷土資料 2,450件/国・県等公共団体資料 (一般参考図書含む) 33,063件
・利用者:令和5年度 1,875人
・休館日:土曜・日曜・国民の祝日及び休日 (振替休日を含む) 年末年始 (12月29日~1月3日)
・主要業務:歴史資料の収集、 整理、 保存、 調査研究、 出版、 情報提供 (ウェブサイトなど)/行政文書の引継ぎ、 保管、 廃棄、評価選別/収蔵資料展示、古文書講座の開催/市民資料室運営 (市政資料等の収集・ 整理、 レファレンス、 市刊行物販売) /続藤沢市史の編さん、歴史講座・市史研究会の開催、藤沢市史研究・藤沢市史ブックレットの編集・発行
〔注〕
[1] https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_42_p52.pdf (2024年7月25日閲覧)
[2] 『ひもとく』の刊行に至る経緯や、編集作業の詳細については、山田之恵「『歴史をひもとく藤沢の資料』シリーズの刊行と地域史料整理の試み」(『記録と史料』34号 2024年)を参照。
[3]藤沢市文書館ウェブサイトhttps://digital.city.fujisawa.kanagawa.jp/
[4] このシステムはあくまでもウェブ公開用のデータベースであって、資料管理はMicrosoftExcelで行っている。またデジタルデータの保存も、専用PCのハードディスクに原資料の資料種ごとにフォルダーを作成して保存をしている。
[5] https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_55_p44.pdf (2024年7月25日閲覧)
[6]当市の文書管理の特徴とは、当館を文書保存主管課とし、文書保存主管課が3年保存文書から永年保存文書まで全てを集中管理し、保存年限を満了した文書については継続して保存するか否かを文書の主管課長に照会し、廃棄が決定した文書に対して評価選別をして重要行政文書(歴史的公文書)として保存し、それ以外は廃棄をするという行政文書のライフサイクルを一元的に管理していることである。
[7]平成18年度のシステムのリプレイスに合わせて会計システムが導入された。この時に各課にスキャナーが導入され、伝票類は電子化して保存することになった。伝票類の電子化率は現在100%である。
[8]改正前の「文取規程」に定める行政文書の管理に関する規定については、「行政文書(文書管理システムを用いて電磁的記録として、作成し、又は取得したもの以外の行政文書に限る)」とし、紙の行政文書の管理から電子決裁文書は除外されていた。
[9]平成29年度のシステムのリプレイスの際には、電子決裁文書の評価選別を実施し、起案の鑑をPDFで、添付文書については保存形式のままで保存し、文書単位でフォルダーにまとめて業務用のネットワークドライブに保存している。
[10][6]参照
[11]https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikaku/koukyousisetusaiseibipurann.html (2024年7月25日閲覧)
[12]https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikaku/shiminkaikan/documents/ourpoject_masterplan_publiccomment.pdf (2024年7月25日閲覧)
[13]実施結果は次のとおり。https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikaku/shiminkaikan/documents/publiccomment_20231218.pdf (2024年7月25日閲覧)
[14]https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikaku/shiminkaikan/documents/ourproject_masterplan_202312.pdf (2024年7月25日閲覧)