外務省外交史料館
館長 山本英昭
1 はじめに
2024年(令和6 年)4月5日、外務省外交史料館展示室は、東京の新たなランドマークの一つとなった麻布台ヒルズの森JPタワー5階に移転・新装開室し、同8日に一般公開が始まりました。ここでは、外交史料館の概要等に触れた上で、新装なった展示室の開室式の様子、新展示室の特徴、新たな取組等について紹介したいと思います。なお、森JPタワーは外交史料館に隣接しています。
外交史料館は、わが国の外交上歴史的価値のある記録文書を保存管理し、利用に供するとともに、『日本外交文書』の編さんを行う外務省の施設として、1971年(昭和46年)4月に開館しました。1988年(昭和63年)7月には、吉田茂記念事業財団(のちの(財)吉田茂国際基金)から、吉田元総理関係資料とともに別館が寄贈され、以来別館に展示室を開室し、外交史料館が所蔵する主要な条約書等を展示してきました。
しかし、別館2階の展示室は老朽化が進み、また、アクセスの手段が階段しかない等の問題もありました。このような事情もあり、外交史料館の展示室を麻布台ヒルズへと移転することになりました。
2 開室式の様子
一般公開前の2024年(令和6年)4月5日、新展示室の開室式が執り行われました。開室式を主催した上川陽子外務大臣は、「新たな展示室が、皆様にいつでもお立ち寄りいただき、我が国の外交を、より身近に感じていただけるようなスポットになることを期待しています」と挨拶しました。
この開室式の様子はマスコミでも取り上げられ、新装開室後は、ニュースを見たという方が沢山来室されました。4月8日の一般公開開始以来、見学者数は6,547人(7月9日現在)に上り、この3か月間で、既に令和5年度の旧展示室見学者数1,332人(令和4年度は2,109人)を大幅に上回っています。
3 新展示室の特徴
新展示室の主な特徴について、展示面及び施設面からご紹介します。
(1)展示面
新展示室の常設展示では、幕末から現代までの我が国の外交の歩みを通じて外交への理解を深めていただくことを目的として、主要な条約書等を時代順に展示・紹介し、シンボル展示として歴代の外務大臣や外交官の残した言葉をスクリーンで表示しています。旧展示室では1970年代以降の条約書は展示していませんでしたが、新展示室は、現代までの条約書を展示するとともに、最新の外交活動の映像による紹介も行っています。
また、来訪者の関心を高めてもらえるよう、旧展示室にはなかった歴史的背景を解説したパネルや映像展示を設置しました。パネル等には一部英語解説も付していますが、この充実を図り、外国の方にも一層理解していただけるようにしていきます。
一方、企画展示室には、通常は吉田茂元首相や杉原千畝氏の関連史料、条約の締結過程、幕末から現代までの我が国のパスポートを展示していますが、今後は、順次期間を区切った企画展示を開催していく予定です。(7月12日から8月31日まで後述の原本特別展示「日英通商航海条約」を開催。)
(2)施設面
新展示室は、旧展示室と比べ面積が約1.5倍、常設展示と企画展示が別となったことで、より見学しやすい構成となりました。また大型商業施設に開室したことで、車椅子やベビーカーをご利用の方もエレベーターを利用して新展示室を訪れやすくなりました。
また、旧展示室は平日のみの開室でしたが、新展示室は、見学者の利便性を考え、土曜日(祝日である土曜日を除く)も開室しています。これまでのところ、土曜日は平日に比べ約1.5倍の見学者が来室されており、家族連れや若者の来室も多くなっています。
4 新展示室での新たな取組
新展示室では、より多くの方、幅広い年齢層の方に利用して頂くため、試行錯誤を重ねつつ、様々な取組を行っています。
(1)教育支援
平成30年の「高等学校学習指導要領 地理歴史編」は「文化遺産、博物館や公文書館、その他の資料館などを調査・見学したりするなど、具体的に学ぶよう指導を工夫すること」と記述し、初めて「公文書館」という言葉が学習指導要領に明記されました。
新展示室は、歴史の教科書に掲載されている主要な条約書を多く展示していることから、外交史料館は、学習指導要領の主旨に対応すべく、教育支援にさらに力を入れています。新展示室開室後には、令和4年度以降実施している夏休みのこども向け見学ツアーに加え、外務省国内広報室と協力しつつ、新たに「小中高生の外交史料館訪問」を開始しました。修学旅行や社会科見学において新展示室を訪れた子ども達を対象とし、外務省及び外交史料館についてのミニ講座やクイズラリーを盛り込んだ展示室見学プログラムです。
また、8月7日、8日には、昨年に続き、文部科学省が実施している「こども霞が関見学デー」に参加する形で、小中学生向けの見学ツアー「麻布台ヒルズの外交史料館で君も歴史博士を目指そう!」を開催しました。こども達に楽しみながら外務省・外交史料館の役割や我が国の外交の歴史について学んでもらえるよう、展示史料にまつわる裏話紹介、クイズラリーなどの工夫をしての実施でした。
(2)ホームページ、SNS等による情報発信
外交史料館展示室は、従来外務省のホームページに各種イベント情報や展示品の解説などを掲載してきました。新展示室の開室後は、日頃は外交や歴史に関心が薄い方にも興味を持ってもらい、あるいは新展示室を身近に感じてもらうきっかけになればと考え、外務省SNS(外務省やわらかツイート)上での情報発信に努めています。これまで、米国から日本の使節団に送られた金時計、ハリス初代米駐日公使が調印した日米修好通商条約、現存最古の日本のパスポート、ヴェルサイユ講和条約等を外務省やわらかツイートで紹介しました。
(3)企画展示、特別展示
本年は、日英通商航海条約調印130周年の年にあたることから、これを記念して、前述のとおり7月12日から8月31日まで、原本特別展示「日英通商航海条約―陸奥宗光と条約改正―」を開催しました。新展示室における初めての原本特別展示であるため、原本やパネルの展示方法等について、検討を重ねつつ準備を進めました。
新展示室開室以来、見学者から「企画展示はいつ実施するのか」と聞かれることが多かったので、今回、小規模ながらも初めての特別展示を無事開催することができたことは、新展示室にとっての大きな一歩と考えています。これからも、各国との関係の節目(周年)等を見据え、見学者の皆様に関心を持って頂けるような企画展示、特別展示等を開催する予定です。
5 おわりに
新展示室は、麻布台ヒルズという東京の新たなランドマークである商業施設に開室したことによって、若い人や家族連れの方を含む大勢の方々にお越し頂くようになりました。見学者数の増加のみならず、年齢層が多様化したことは、我が国の外交の歩みを国民の皆様に知って頂く上で、非常に喜ばしいことと考えています。
これからも、より多くの方、幅広い年齢層の方に新展示室を利用していただけるよう、アンケート調査を常時実施し、そのフィードバックを踏まえて教育支援、情報発信、時宜を得た企画展示・特別展示の開催等、様々な取組に努めてまいりたいと考えています。
最後になりますが、多くの皆様のご来館を、心よりお待ちしております。
外交史料館展示室
住所:〒106-0041 東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ森JPタワー5階
電話:03-3589-0369(展示室直通)
交通手段:南北線「六本木一丁目」駅より徒歩8分、日比谷線「神谷町」駅より徒歩10分
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/shiryo/gaiyo.html