〔認証アーキビストだより〕 行政職員とアーキビスト

高知県立公文書館
三宮 久美

  私が勤務している高知県立公文書館(以下、「館」)は、令和2年4月に開館し今年度5年目を迎えます。館は現在、13人体制で、業務は全て行政職員が行っています。
  私は庁内職員向けのキャリアチャレンジ制度[1]への応募により、開館と同時に館に配属となりました。しかし、私自身は多くのアーキビストの方々のように大学で歴史学やアーカイブズ学を学んだことはなく、また、これまでに公文書管理の所管課で仕事をした経験もありませんでした。
  そのような私が認証アーキビストを目指す職に応募したのは、令和元年に健康政策部 健康対策課 周産期・母子保健推進室で旧優生保護法に関する相談等の業務を担当したことが理由にあげられます。当時、旧優生保護法による優生手術に関する記録の保存状況等について全国的に調査が行われていましたが、本県においても関係文書の一部が保存されており、それらを一点ずつ確認し、記載内容の情報を整理したうえで公表資料を作成しました。
  この時、重要な文書を残すという仕組みが将来にわたって継続されない限り、その所在も廃棄した事実も時間の経過とともに誰にも分からなくなってしまうのだと痛感しました。時機としては大変遅いのですが、この経験が公文書館の業務に関心を寄せるきっかけとなりました。
  また、学生時代、論文執筆等の際、調べていた研究テーマに関連する過去の資料に思いがけず出会うことや、その記述内容から新しいヒントを得ることがありました。アーカイブズ機関には、そこでしか得られない、「調べる」現場ならではの新しい発見や高揚感があり、そういった場所でいつか仕事ができればという思いも持っていました。
  しかし、開館とともに業務がスタートしてみると、日々分からないことや判断に迷う場面に遭遇することが多く、これまでの仕事を振り返ると、全ての業務に「庁内外の関係者・機関と調整を図り、連携する」作業が含まれていたと思います。そして、その点を重視しながら取り組むことで、高知県立公文書館の求められる役割や業務の位置づけを再確認できた部分もあると感じています。
  そこで、今回は「庁内外の関係者・機関との連携」をキーワードに、開館以降の数年間で実施した(1)歴史公文書等の評価選別、(2)展示、(3)市町村支援の3業務を振り返り、行政職員のアーキビストにできることは何かを考えたいと思います。

(1)歴史公文書等の評価選別
  館では、年3回の公文書管理委員会への諮問を行い、実施機関との移管又は廃棄の協議が終了した保存期間満了後の文書の「歴史公文書等」の該当性の判断について意見を求めています。選別対象ファイル数は令和2年度には約47,000冊であったのが、令和5年度には約86,000冊に増加し、評価選別業務を中心に館の年間スケジュールが組まれています。本業務については、職員7名で担当部局等を振り分け、各実施機関から提出された目録(一次選別結果)を確認しながら進めていますが、館内の選別会議で移管・廃棄を判断する作業は時間との闘いにもなります。
  職員は、過去の選別結果、該当年度の予算書や重点施策をチェックしながら、各実施機関の公文書担当者と協議し、時には現物確認を行い、館としての判断(二次選別結果)を送付します。最終的には公文書管理委員会への諮問による答申結果で決定となりますが、館と実施機関の間で、ファイル情報を共有すること、協力体制を構築することは各実施機関の全体像や特性を把握するうえで重要だと考えます。
  該当年度に実施した施策等のうち、どのような内容の文書が歴史公文書に該当するのか、類似タイトルのファイルが複数存在する場合、何の文書が含まれていれば移管とするか等判断材料のベースとなる部分をこの数年間で蓄積してきました。
  また、館では、現用文書の監査業務も行っているため、そこで得た公文書ファイル管理簿の情報等を含め総合的に実施機関の公文書管理の状況やファイル構成の概要を把握するよう努めています。
  さらに、実施機関から受入れた歴史公文書等は1年以内に排架し、ファイル概要を記載した目録を公開しています。この時、文書内容の詳細を確認できるため、ファイル名称から選別基準に該当する歴史公文書等として受入れたものが適切であったかチェックしています。
  このように、評価選別業務を通して、実施機関担当者とのやりとりや他業務との関連性に着目し、歴史公文書等を収集するために必要となる視点を多角的に養成できるよう心がけています。

(2)展示
  館が保存対象とするのは、高知県が作成・取得した公文書のみであり、また、それらは昭和20年の空襲による焼失のため戦後のものが中心となっています。開館以降の数年間で収集した歴史公文書等、行政資料の点数は限られており、かつ専門的知識と技術が未熟な段階で企画展示を実施することは大変ハードルの高いものでした。そのため、展示における他機関との連携等は積極的に取り組むようにしています。
  開館初年度は、国立公文書館の協力のもと、館外資料展「近代日本のはじまりと高知県」を開催し、鈴木隆春公文書専門官から展示手法のノウハウを教えていただきました。その後は、本県における文化施設等の連携組織「こうちミュージアムネットワーク」[2](以下、「こうちMN」)の事業「学制150年」(令和4年度)や「牧野を生んだ土佐の自然」(令和5年度)に参画した企画展示を開催しました。本事業では巡回講座やスタンプラリー等を実施し、こうした活動を通して、展示資料に対する来館者の関心を高め、歴史公文書等の利用促進につなげるようにしました。
  令和4年度に開催した学制150年企画展示において、第1弾「学校資料から見える世界」では、(3)市町村支援とも関連づけ、土佐清水市教育委員会が所蔵する旧土佐清水市立大津小学校に残っていた学校資料を展示し、市町村で地域の資料を保存していくことの重要性を伝える内容としました。また、第2弾「女子医専から高知県立大学へ 開学77年の歴史」では、高知県立大学図書館との連携により、館の展示資料と関連させた蔵書を紹介する展示を大学図書館にて同時開催し、学内の教員や在校生が館に足を運んでもらえるよう相互に協力して取り組みました。
  館が所蔵する歴史公文書等は、文字を中心とした議事録、政策過程の記録、決定通知文書等の占める割合が高く、またどの年代のものも均一に移管されているわけではありません。そのため、展示の構成を考える際は断片的な歴史公文書等をどのように見せるのか、常に様々な課題が出てきます。
  こうした状況からも、日頃から庁内外の関係者・機関と資料の所在に関する情報交換を行い、来館者の関心に近づける内容の展示を企画したいと考えています。

こうちミュージアムネットワークとの連携事業ポスター

こうちミュージアムネットワークとの連携事業ポスター

(3)市町村支援
  館では、高知県公文書等の管理に関する条例施行規則第11条第4項に市町村支援業務を規定し、研修、アンケート調査、訪問、助言・支援等を実施してきました。特に、県西部に位置する宿毛市においては、新庁舎移転前の令和3年度から継続的に訪問し、宿毛市歴史館に対して評価選別の実務支援を行いました。同市は令和5年度の文書規程改正により、「歴史資料の保存」に関する条文を追加したところで、今後は旧庁舎に保存した歴史公文書等の整理、利活用に向けた検討等を館とともに計画的に取り組んでいく予定です。
  この他、高知県の学校資料を考える会[3]に寄せられた市町村からの相談等を同団体と情報共有し、閉校となった校舎に残された学校資料の保存に関する支援に同行しました。その現場で、公文書の保存や市史編さんの検討等の状況を聞き取り、今後も館として関わりを継続していく意向を伝えたところです。
  市町村支援については、全体に向けた発信と市町村の状況を把握した個別の働きかけが重要となるため、庁内では歴史文化財課 県史編さん室、庁外ではこうちMN、その他機関との連携により市町村の公文書所管課、文化財所管課等の情報が館でキャッチできるよう日々のコミュニケーションを大切にしています。
  今後については、今年度公文書管理条例が施行された高知市と連携を図りながら、事例紹介等の機会を設け、県内市町村への公文書管理の意識向上に向けた展開ができればと思っています。

まとめ
  私自身が他のアーキビストの方々と比べて経験が浅く、学問的な知見がないことを自覚したうえで、行政職員である自分に何ができるのかを考えた時、館の目的と役割に応じた業務の運営を体系化し、次のアーキビストにバトンを渡せる状態にすることだと思っています。
  開館以降は手探り状態の中で「連携」を軸に進めてきた部分が大きかったですが、評価選別、展示、市町村支援、その他いずれの業務においても、それぞれの職場の課題と向き合い、その時点のベストな方法を模索しながら、アーカイブズ機関のキーパーソンとなって資料保存の現場を支えていくのがアーキビストととらえています。
  歴史公文書等とともに現場のアーキビストの存在も脈々と次世代に受け継がれていけるよう微力ながら日々励んでいきたいと思います。

〔注〕
[1] 人材の発掘及び育成並びに職員の適性に応じた能力の発揮を目的として、各種の事務事業に従事する職員を庁内で募集する制度
[2] 高知県における博物館施設及びその他資料の研究・保存・展示・公開を行う文化施設並びに文化行政機関・教育機関において情報を共有し、職員の資質向上を図ること等を目的に平成15年に設立した組織
[3] こうちMN加盟団体