戸田市総務部行政管理課
吉田幸一
はじめに
戸田市は、埼玉県南部、荒川の流域に位置している。現在の戸田市は、面積18.19平方キロメートルの比較的狭い市域の中に約14万人が暮らしている。戸田市役所の職員数は常勤職員が968人(令和5年4月1日現在)である。
市内には南北に東北新幹線がとおり、それに付帯して埼京線が敷設され、市内に3駅が設けられている。この埼京線の開通により戸田市は周辺都市部のベッドタウンとして人口が増え続けている。
文書管理については、現時点で公文書管理条例を制定していないため、戸田市文書管理規程で市の文書管理のルールを定めている。
なお、本事例報告中で電子公文書という用語を使用するが、本市では、「電子公文書」と定義している例規はないため、主に総合文書管理システムで起案・決裁を行った電子決裁文書のことを指すこととする。
また、「歴史公文書」という用語も用いるが、本市ではいわゆるアーカイブズのことを指す用語に「歴史的公文書」、「歴史公文書等」が混在し、明確に定義する例規もまだ整備されていないため便宜的なものとご理解いただきたい。
文書管理の担当課
現用文書は、総務部行政管理課市政情報・文書担当が管理している。
非現用文書(歴史公文書)は、教育委員会事務局生涯学習課郷土博物館担当の郷土博物館(戸田市アーカイブズ・センター)で管理している。
現用文書の管理方法としては、昭和58年に導入されたファイリングシステムに基づき文書を第1ガイド、第2ガイド、フォルダの三階層に分類し、各フォルダの保存年限により保存している。
保存年限は、一番長いもので期限を定めない永年、有期限では10 年、5年、3年、1年、1年未満年 、所属のキャビネット内で年度を越えて管理する移換禁 がある。移換禁文書は、単年度では完結しない文書や年度を越えても頻繁に利用する文書として設定し、文書発生の翌年度以降も引き続きファイリングキャビネットの上段で管理するものです。
また、決裁を含めた文書管理は、平成15年度(平成16年3月)から本稼働させた総合文書管理システムによる電子決裁を実施している。
総合文書管理システムでは、システム内で管理するファイリングシステムに基づき、文書の作成、収受から起案、決裁、施行、保存、廃棄までを一元管理している。
非現用文書は、紙文書の場合、郷土博物館にて選別基準を設け、紙文書の評価・選別を郷土博物館の学芸員と司書が行っている。この選別作業では廃棄予定の紙の現用文書のフォルダを市役所地下の文書庫で全て目視確認し、選別した上で、保存年限満了後郷土博物館に移管されたのち、さらに各フォルダから歴史公文書とする文書を選別して保存している。現在まで整理を進めているが、歴史公文書の一般公開には至っていない。
保存年限別の文書のライフサイクル
本市では、荒川等の水害対策と市庁舎の文書庫の容量不足対策のため、文書庫で保存するほか、文書の外部保存も行っている。
さらに、永年保存文書も外部保存しているが、文書が引き継がれてから30年経過したタイミングで保存年限を見直すこととしており、見直しで有期限になったものは歴史公文書の選別対象としている。
総合文書管理システムの概要について
戸田市では、平成14年度から平成22年度を計画期間とする戸田市情報化推進計画において、総合文書管理・電子決裁システムの構築が計画された。
当時は、総合行政ネットワーク(LGWAN)の構築など電子自治体の推進の機運が高まっており、本市においても平成15年度に入って急ピッチでシステムの仕様作成、業者選定を行い、システムの構築業務を経て平成16年2月に仮運用、3月から本稼働を開始した。
システム導入・開発は当時のIT推進室で行い、システムの稼働後文書所管課である総務部庶務課(現在の行政管理課)に移管された。
総合文書管理システムの開発に当たっては、IT推進課に市史編さん室出身者がおり、当初から電子決裁文書を歴史公文書に移管することを想定し、仕様を検討していた。
開発を進めるなかで、元の文書のデータをそのまま移管し、保存・活用するシステムの開発には、総合文書管理システムと同じ規模のシステムが必要になることが分かり、当時は歴史公文書管理システムの導入を断念したと聞いている。
総合文書管理システムの運用イメージ
総合文書管理システムは、LGWAN系のネットワーク環境のなかに構築され、市役所や市内各出先機関とつながっている。
市の職員は、起案・決裁を自席のパソコンから行っており、出先機関、本庁舎問わず指定の職員を承認者や決裁者にすることができる。
また、保守作業も専用回線を引いた保守業者の拠点から遠隔で行うことができ、庁舎内に保守業者が常駐又は来庁する必要がほぼないため、システム上で何かあった際の迅速な対応を可能にしている。
一方で、インターネット環境では、総合文書管理システムのサブシステムとして行政文書目録検索システムを市民向けに公開しており、前年度分の起案について所属、フォルダ名称、文書件名、文書番号等の目録を利用に供している。
また、総合文書管理システムから保存年限満了した決裁文書のデータを抽出し、郷土博物館に保存している。
ファイリングシステムの管理、文書の作成、収受から起案決裁、施行、保存、廃棄のほか、総合文書管理システムの機能としては、管理者用の各種集計、アカウントの設定等も含め、おおよそ文書管理に必要な機能を備えており、現用文書の管理をシステム上で行うことができる。
また、現行システムには文書(アイテム)単位で歴史公文書の選別フラグを立てることができる機能があるが、評価に関する情報を記録する機能がなく、文書の選別の運用には至っていない。
総合文書管理システムの特徴的な運用について
文書の収受・決裁
紙文書については、可能な限りスキャンし、電子化して収受することとしている。
分厚い冊子や大判の図面など止むを得ない場合、別添紙として電子決裁とともに回議することができる。
また、電子メールの収受は、職員ポータルのメールシステムから対象のメールをシステムの収受用アドレスに転送することでメールの本文、添付ファイルを含めシステムに取り込み、起案することができる。
電子決裁を導入していることで、決裁途中で現在案件が到達している職員をひと目で確認できるだけでなく、例えば財政部門と入札部門、IT部門などの複数の所属の合議が必要な場合、部局ごとに決裁ルートを分岐させ、複数所属で並行して審査、決裁を進めることができるため紙決裁に比べ意志決定のスピードを上げることができる。
総合文書管理システムによる電子決裁率について
電子決裁率の推移については、この数年は99%台で推移している。
年々起案数が増えており、現在は市役所全体で年間10万件の起案が行われているが、決裁率は横ばいとなっており、現在の運用の上限に達していると思われる。
ここに至るまで、戸田市では、市全体で電子決裁率向上に取り組んできた。
平成20年度あたりまでの決裁率は低調であったが、平成20年度からの平成25年度までの5年間で急激に決裁率が向上した。
電子決裁率向上の主な取り組みとしては、各所属への電子決裁利用状況の照会、各所属の四半期ごとの電子決裁率の公表、IT部門によるスキャナ機能のある複合プリンタの導入等の環境整備等を進め、職員がストレスなくシステムを利用できるように取り組んできた。この結果、市全体の電子決裁率は、システム導入約10年の平成24年度に90%を越えた。
ちなみに紙決裁とする主な事例としては、年度末などに総合文書管理システムの保守作業に入りシステムを用いることができない期間に起案する必要が生じた場合や、総合文書管理システムのアカウントを有していない職や人の承認・決裁が必要となる場合がある。
おわりに
戸田市の電子公文書の管理・保存・利用について概要を示してきたが、現在総合文書管理システムを運用している上での課題についていくつかふれておきたい。
(1)電子決裁文書の容量に関する課題について
まず、現用段階での総合文書管理システム本体のデータベースサーバのデータ量の増大が挙げられる。
これは、メール等の電子文書の普及、本市のメールシステムの性能向上、カメラ等の性能向上に伴う文書のファイル容量が増大していることなどが挙げられる。
これまで、本市では、暫定的にデータを抽出し、郷土博物館に移管した上で保存してきたが、令和5年度には総合文書管理システム上のサーバ容量が不足し、割り当て領域の拡張を行うなどの対応を行ったこともあり、今後、当初予定していたデータ総量を超え、保存ができなくなる可能性がでてきた。
また、現状では、システムから抽出されたデータは、文書1件を一つの電子フォルダにして保存しているが、1年分にすると数万件分のデータになることから、今後、保存件数が増えていくと、データの保存を目的とした現状のNASやハードディスクでの保存では、処理能力が不足し、データの検索、利用等の操作に膨大な時間が必要になるおそれがある。
(2)属性情報(メタデータ)の管理・保存の課題について
本市の総合文書管理システムは、決裁サーバや文書データを保存するデータベースサーバ等複数のサーバで構成され、それぞれログが残されている。
しかし、現状保存年限満了時に抽出しているデータは、紙で印刷した起案とほぼ同じ様式、情報量で再現できるようにデータを抽出しており、このデータ抽出段階で電子公文書特有の属性情報が部分的に喪失されてしてしまっている。
今後は、ボーンデジタルの文書が、本来どのような属性情報を備えているのか検証した上で、データの真正性の確保、アーカイブズの原秩序尊重原則、原形保存原則を担保するため、この自動的に付与されているログ等の属性情報を把握し、歴史公文書の整理作業等で活かすことができる方法を検討していきたい。仮に公文書館等に移管した後の整理作業のなかで、システム由来のメタデータと同じ情報を新たに人の手で記述しようとすると膨大な作業により人件費が膨れ上がることが予想される。これを回避するため文書作成段階で職員がストレスなく文書に情報を付与できるような環境を整え、同時に属性情報を失うことなく引き継ぐことができるようにすることで、歴史公文書の評価・選別、整理作業時の効率化、利用時の検索性、利便性向上を図ることができるのではないかと考えている。
その上で、現用段階で歴史公文書の目録記載情報を意識した属性情報を必須項目として付与できるようにし、文書の移管を実施できるようにする必要があるのではないかと考えている。
(3)データの見読性の検証方法について
現在の総合文書管理システムには、保存年限を区切らない永年保存文書が保存されており、現状の運用では、紙も電子決裁文書も見直しの機会は30年に一度しかない。
今のところシステム導入から20年程度経過しているが、過去の永年保存文書の見読性に関する不具合について各所属から報告は受けていない。
しかし、ファイルを開くことができないという報告がないからといって、全文書の検証を行っているわけではないため、見読性に関する定期的な検証作業の手順を確立しておく必要があると考えている。
また、今後現用文書の保存年限を国のガイドラインに合わせて最長30年や20年といった有期限化も視野に変更し、永年保存文書の保存年限見直しのタイミングを早める必要もあると考えている。