鳥取県立公文書館
新林 えり
1. はじめに
鳥取県では鳥取県公文書等の管理に関する条例(以下、条例という。)が平成24年4月に施行され[1]、鳥取県立公文書館(以下、当館という。)では現在これに基づいて評価選別を行っています。
本稿では鳥取県における文書管理システムの導入の経過と現状、また今後の課題について報告します。
2.導入の経過
まず、起案・決裁機能のない公文書管理システムがモデル課での試行ののち、平成13年度に本庁全課で導入されました。その後、平成16年度に起案・決裁機能や文書管理機能を有する現在の電子決裁・文書管理システムが導入されました。起案文書をパソコン上で作成し、データをサーバで管理し、決裁後の文書は一定の基準に従った保管を行って情報の共有化を図るとともに、業務全体の改善・効率化と決裁事務にスピード感をもたせることを目的としたものです。
導入後、毎年少しずつ改修を行ってきましたが、平成23年度には条例施行前の事前準備の改修を行いました。条例に対応する主な改修内容として「公文書館へ引き継ぐ歴史資料欄」が新たに設けられました。これは、簿冊を登録するはじめのタイミングでレコードスケジュールを設定する欄で、条例第5条第3項に対応するものです。
また、条例設定により保存期間が「永年」から「30年」に変更、新たに「常用」の区分の追加など、保存期間の見直しと、それに対応した改修が行われました。
同時に、簿冊の情報を公表することが定められたため、新たに「簿冊情報検索システム」という公開用のシステムが構築されました。
3.システム構成
各種システムの構成は図1のとおりです。職員が電子決裁システムを利用して作成した電子文書は処理済にすると文書管理システムに移り、保存されます。
鳥取県には保有する簿冊を検索するためのシステムが2つあります。一つ目は前述した簿冊情報検索システム、二つ目はとっとりデジタルコレクションです。とっとりデジタルコレクションとは、県立図書館、博物館、埋蔵文化財センター、当館の4館が所蔵するさまざまな資料をデジタル化したものを、インターネットで閲覧できるシステムで、令和3年3月から公開しています。どちらのシステムからも利用者はインターネットを通して簿冊名の検索ができます。
2つの検索システムの大きな違いは公開対象にあります。すなわち、簿冊情報検索システムは現用・非現用にかかわらず全ての簿冊が公開対象ですが、とっとりデジタルコレクションは、簿冊に関しては当館に引き継がれたものを公開対象としています。
簿冊情報検索システムは文書管理システムから簿冊情報のみをCSVファイルで一覧化し、必要な加工をして、取り込んでいます。このシステムで公開する情報は簿冊情報のみで、電子文書は閲覧できません。当館所蔵簿冊だけでなく、現用文書も一元的に検索できるのが特徴です。詳細画面からは現在の簿冊を保管する場所、また簿冊作成時に所属が定めたレコードスケジュールが確認できます。
4.鳥取県の電子決裁・文書管理システムの特徴
一つ目の特徴は、電子決裁率が非常に高いという点です。導入されて20年近くが経過しましたので、5年保存、10年保存の簿冊の多くは文書管理システムで内容の確認をすることができます。ただし、高い電子決裁率であっても、ほとんどは電子文書と紙簿冊が併存している状況です。
二つ目の特徴は、文書管理システム上ですべての職員が簿冊を作成できる点です。必要なとき必要なだけ簿冊を登録できるという職員にとってのメリットは大きい反面、重複して簿冊が作成される、また、各自自由な名称で簿冊の作成が可能なので、評価選別する側としては苦慮する面もあります。
三つ目の特徴は、現用文書と非現用文書を分けることなく、1つの電子決裁・文書管理システムで運用している点です。文書の作成元である所管課、文書管理主管課である政策法務課、また当館でも同一のシステムを利用しています。システムの管理はIT部門主管課であるデジタル改革課が行っています。
四つ目の特徴は、アクセス権の付与により閲覧の制限を設けている点です。例えばA課で作成された簿冊はB課からは閲覧・検索することができない仕組みになっています。一方で文書管理主管課と当館職員にはシステム内のすべての電子文書の閲覧権限が与えられており、これにより簿冊の廃棄や移管などの文書管理事務が行えます。
5.簿冊作成・電子決裁の流れ
簿冊作成の流れを図2に示します。
② その後、電子決裁システムで起案し、このとき、起案を綴り込む簿冊を指定しなければ起案できない仕組みになっています。起案された文書は回議→決裁→文書審査→施行の順番で処理され、施行が完了すると「処理済」という操作を行います。
③ 処理済となった電子起案は夜中にバッチ処理され、翌日には文書管理システム上の簿冊番号と紐づけされ、文書管理システムに移行されます。
④ 一連の事業が終了し綴り込む文書がなくなった簿冊に「完結」という操作を行い、「完結」の状態にすると、以降はその簿冊には手を加えることはできません。これにより、データの改ざんを防ぎ、不変性と信頼性を確保しています。
6.公文書の評価選別、引継ぎについて
評価選別の工程は、大きく4つに分けられます。処理件数が多いので、まずはリスト上で明らかに歴史公文書に該当しないものを除外する作業からスタートします。次に簿冊の内容を実際に見て確認し、最後に所属と意見調整し、館内の選別会議を経て、引き継ぐ簿冊を決定します。
まずは、紙文書、電子文書、その両方にかかわらず、リスト上で選別をはじめます。このリストは、文書管理主管課が文書管理システムから簿冊のメタデータを抽出して作成したもので、当館への引継ぎを希望するか否かの所管課の意見も付与されています。
ただし、どのような電子文書がどのくらい綴ってあるかは分かりません。そこでRPAを活用し、どの簿冊にどのような電子文書が何件綴られているかを取得します。
RPAとはロボティック・プロセス・オートメーションの略で定型的な業務を行うソフトウェアです。当館では文書管理システムと連動させて選別の補助を行っています。詳しくは全国歴史資料保存利用機関連絡協議会の会誌『記録と史料』第34号をご参照ください[2]。
前述のとおり、当館職員は文書管理システムで電子文書の中身を閲覧することができます。それでも内容の判断がつかない場合は、簿冊の現物を実見します。知事部局本庁であれば簿冊が保管されている中間書庫に赴き、知事部局地方機関または知事部局以外の実施機関であれば簿冊を取り寄せます。選別は、条例に基づいた選別方針と照らし合わせて、複合的に確認しながら進めています。
次に、簿冊の引継ぎですが、文書管理システムに保存されている電子文書と紙簿冊は一体の簿冊として引き継ぎます。紙簿冊の背表紙には文書管理システムから作成される簿冊名が貼り付けてあります。
電子文書は、データ上の移管はありません。公文書館へ移管された簿冊は、システム画面上で管理課(保存場所)が「公文書館書庫」と表示され、特定歴史公文書として公文書館で管理されているということになります。
評価選別の詳細は『鳥取県立公文書館研究紀要』第10号をご参照ください[3]。
7.おわりに
鳥取県では現用と非現用文書を同一のシステムで管理しています。当館での評価選別の確実な実施はもちろんのこと、所管課の職員の意識向上も欠かせません。今後の課題については、文書の川上である所管課、文書管理主管課、川下の当館が一体となって考える必要があります。詳しくは以下のとおりです。
市町村は同一システムを使っているわけではないので、権限移譲された事業に関する簿冊は、電子文書の閲覧が難しい状況にあります。権限移譲が行われた際も確実に電子文書が閲覧できる仕組みが必要といえます。
② 長期保存の検討
システムの運用から長い年月が経ち、現在のフォーマットもいつまで閲覧できるか懸念があります。近年ではPDF/Aへの変換なども解決方法の一つとして挙げられており、長期保存の仕組みを検討する必要があります。
③ 利用提供の課題
現状では紙に印刷するなどの方法により閲覧に供することになると考えられますが、実際どのように電子文書を利用に供するかは課題です。
条例に基づき、将来世代への継承を基本理念とする一方で、業務に即した使いやすいシステムである必要があります。
〔注〕
[1]鳥取県公文書等の管理に関する条例
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/515399/kobunsho_kanri_jourei.pdf
[2]新林えり「鳥取県におけるRPAを活用した評価選別について」 (全国歴史資料保存利用機関連絡協議会『記録と史料』第34号、2024年3月)
[3]島谷容子「鳥取県立公文書館の評価・選別について」(『鳥取県立公文書館研究紀要』第10号、2020年3月)
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1244685/10-07.pdf