国立公文書館
公文書専門官 島林孝樹
はじめに
国立公文書館は、「令和5年度アーカイブズ研修Ⅱ」を開催するにあたり、全国の公文書館等に対して、電子的方式で作成された公文書等(以下「電子公文書等」という。)の管理・保存・利用に係るアンケート調査を行いました。取りまとめたアンケートの結果は研修で報告し、受講生との間で電子公文書等に係る現状や課題を共有しました。
今回実施したアンケートの概要は以下のとおりです。
〇回答機関108機関(回答率71%)
〇実施期間:令和5年12月13日(水)~令和6年1月10日(水)
〇質問項目:
A.移管元機関における現用文書(電子公文書を含む)の管理について
B.電子公文書等の移管・保存について
C. 電子公文書等の利用(閲覧)について
D. 規則・統一的なルール等について
E. その他(課題等)
受講者の所属機関の属性は図表1のとおりです。
本稿は、研修で報告したアンケート結果を以下AからEの質問の項目ごとに紹介するものです。
A.移管元機関における現用文書(電子公文書を含む)の管理について
セクションAは、現用文書管理のフェーズに係る質問項目です。公文書館等が設置されていない自治体も含めて全108機関を対象に質問しました。まず、移管元機関における文書管理システム導入の有無を質問したところ、9割近くの機関が導入済み又は導入予定という結果になりました。
文書管理システムを導入済みであると答えた87機関に対しては、システムの導入や運用において、公文書館等が関与(協議・調整・情報共有等)しているか、その有無を質問したところ、5割程度の機関が何らかの形で関与しているという結果になりました。
次に、文書管理システムを導入済みと答えた機関に対して、文書管理システムにおいて、現在備えている機能を複数回答可で質問したところ、(1)~(6)の機能(収受/受付機能、起案機能、決裁・施行機能、供覧機能、電子文書の保存・廃棄機能)については、8割以上の機関が備えているという結果となりました。一方で、(8)の公文書館等への移管機能を有している機関は5割に満たないという結果になりました。
続いて、文書管理システムを導入済み又は導入する予定があると答えた97機関に対して、今後備えたい機能を最大3つまで回答いただきました。特に目を引くのが、(8)の公文書館等への移管機能を備えたいという回答が多かった点です。前の設問で、(8)の公文書館等への移管機能を備えている機関が半数に満たなかったこととも関連していると考えられます。
文書管理システムを導入する予定はないと回答があった10機関に対しては、システムが導入されていない理由を複数回答可でいただきました。(1)予算が確保できない、(2)費用そのものが高い、という予算・費用面が理由としても多い結果となりました。
B 電子公文書等の移管・保存について
次にセクションBは、電子公文書等の移管・保存のフェーズからの質問になります。セクションBは、公文書館及び公文書館機能を有する機関に該当すると答えた機関が対象になります。具体的には、全機関のうち、92機関、約85%がセクションBの対象機関になります。
セクションBでは、まず電子公文書等の受入れ実績について質問しました。結果を見ると、受入れ実績がある、また予定はあると答えた機関を合わせると85%にのぼります。実に8割以上の機関で電子公文書等の受入れを今後進めていかなければならないということを示しています。
電子公文書等の受入れ実績があると答えた36機関に対しては、公文書館等への移管(引き渡し)方法について複数回答可で質問しました。結果は図表8のとおりです。(3)の可搬媒体による送付という方法が一番多く、次に(1)の文書管理システム(サーバ)内に保存されたまま、公文書等へアクセス権のみ付与するという方法も多くの機関でとられているという結果になりました。
また、可搬媒体による送付と答えた17機関に対して、媒体の種類を質問したところ、図表9のとおりの結果となりました。光ディスク(DVD、CD-R、BD)という回答が最も多く、8割以上を占める結果になりました。
続いて、電子公文書等の受入れ実績があると答えた36機関に対して、受入れ前及び受入れ時に行っている作業を、複数回答可で質問しました。電子公文書等のリスト等の突合作業については、回答いただいた機関の9割近くが実施しているという結果になりました。
一方で、受入れ後に行っている作業を質問したところ、電子公文書等の格納(共有サーバ等への保存)を行っている機関が6割、移管元から引き渡されたメタデータの登録を行っている機関が4割という結果になりました。
受入れ後に行っている作業として、電子公文書等のファイル・フォーマットの変換を行っていると回答があった7機関に対しては、具体的な保存時のファイル・フォーマットを複数回答可で質問しました。回答のあった機関が7機関と母数自体が少ないですが、PDF/Aと回答した機関が5機関で7割という結果になりました。
次に、電子公文書等の受入れ実績があると答えた36機関に対して、電子公文書等の保存方法について質問したところ、(1)~(5)で分散した結果となりました。その中で比較的回答が多かった保存方法として、(1)文書管理システムで保存、(4)外部の記憶媒体(光ディスク、HDD、テープ等)に格納し保存、(5)移管・受入れ時の媒体(可搬媒体)のまま保存といった方法が挙げられます。
また、電子公文書等の受入れ実績があると答えた36機関に対しては、電子公文書等の受入れ等に関する説明や研修を移管元機関に対して実施しているか、その有無を質問しました。実施している機関が3割、実施していない機関が7割という結果になりました。具体的な内容として、移管作業時に指示・説明を行ってる、文書管理担当職員に対する研修の中で説明している、動画の視聴を実施しているなどの回答が寄せられました。実に、説明や研修の方法は様々でした。
C 電子公文書等の利用(閲覧)について
セクションCでは、電子公文書等の利用(閲覧)について質問しました 。セクションCも公文書館及び公文書館機能を有する機関に該当すると回答した92機関が対象になります。
電子公文書等を 利用(閲覧)に供している、又は供する準備ができていると答えた機関は約3割という結果でした。
電子公文書等を利用(閲覧)に供している、又は供する準備はできていると答えた機関に対して、電子公文書等の利用にあたり、一般の閲覧・提供用にフォーマット変換を行っているかと質問したところ、約6割の機関が行っていないという結果になりました。
電子公文書等を利用(閲覧)に供する際の提供方法については、紙に出力し、閲覧希望者へ提供するという機関が7割となり、最も多い結果になりました(図表17)。また、利用制限情報のマスキング(複製物の作成、黒塗り)方法を質問したところ、紙に出力し、紙上でマスキングを行うという機関が最も多く6割近くを占める結果となりました(図表18)。
写しの提供方法については、電子のみで提供している機関はなく、多くは紙で提供又は紙・電子で提供しているという結果になりました(図表19)。また、電子で提供する場合、提供の際の主なフォーマットを質問したところ、利用用のフォーマットで提供している機関が7割近くを占める結果となりました(図表20)。さらに、電子で提供する写しの交付の主な提供方法を質問したところ、(2)の可搬媒体、つまり、光ディスク等の媒体に格納して提供していると回答した機関が最も多く、6割以上を占める結果となりました(図表21)。
D 規則・統一的なルール等について
セクションDでは、公文書館等が設置されていない自治体も含めて全108機関を対象に規則・統一的なルール等に関する質問をしました。
電子公文書等の管理や移管・保存・利用等の規則や方針、内規等の有無を質問したところ、定めていない機関が約6割という結果になりました。
次に、ファイル・フォーマットに関する統一的なルールの有無を質問しました[1]。統一的なルールはないと答えた機関が9割を超える結果となりました 。一方で、あると答えたところも6機関ありました。
続いて、電子公文書等の作成・移管・保存・利用における標準化のためのガイド(手引書)の必要性について質問しました[2]。約9割の機関が、こうしたガイドブックが必要であるとの回答でした。
最後に、ガイド(手引書)が必要と答えた機関に対して、標準化のためのガイドの中で取扱ってほしい内容について質問しました。優先して取扱ってほしい内容を最大3つまで答えていただきました。特に希望が多かった内容は、(2)ファイル・フォーマット、それから(6) 保存方法でした。
E その他(課題等)
最後にセクションEでは、全機関を対象に、電子公文書等について課題として考えていることを自由回答で質問しました。いただいた回答を基に、4つの論点から課題を整理しました。(1)から(3)はフェーズごとの課題、(4)はマネジメントの課題として、全フェーズにまたがる課題を整理しました。
(1)移管元機関における現用文書(電子公文書を含む)の管理に係る課題
現用文書の管理に係る課題としては、①適切な管理システムの構築をどう進めていくかという問題と②紙と電子の併用の問題が挙げられます。適切な管理システムの構築としては、全ての電子公文書等に対してシステムで画一的な対応を行うことが難しいといった回答や、文書管理システムに登録されない電子公文書等の管理をどう行うかなどの課題が寄せられました。一方、紙と電子の併用の問題としては、電子決裁も含めた電子公文書と紙文書を併用して管理する方法・システムが構築しにくいことなどの課題が寄せられました。
(2)電子公文書等の移管・保存に係る課題
電子公文書等の移管・保存に係る課題としては、長期保存(媒体変換・フォーマット)の問題、容量の問題、メタデータ付与の問題、真正性・信頼性・完全性・原本性の確保(再現性の問題)などの課題が寄せられました。
(3)電子公文書等の利用(閲覧)に係る課題
電子公文書等の利用(閲覧)に係る課題としては、利用方法の確立、それから利用制限の問題が挙げられます。具体的には、電子公文書等の閲覧提供方法や個人情報のマスキング方法をどのように行っていくかという課題が寄せられました。
(4)マネジメントの課題
最後に、費用・予算の問題、人材体制(研修の必要性)の問題など、全体に関わるマネジメントの課題が挙げられます。予算・費用の問題としては、管理システム導入やメンテナンスにおける経費の問題が寄せられました。一方、人材体制についても、システムや人材・人員を含めて、移管文書の保存・管理の体制を整えることが急務となっているなどの課題が寄せられました。
以上が、当館が実施したアンケートの結果報告の概要になります。令和5年度のアーカイブズ研修Ⅱでは、アンケートを踏まえ、電子公文書をめぐる全国の公文書館等の現状や課題を把握・共有し、解決の方向性を探ることを目的としました。本研修を通して、各機関において、どういった悩みがあるのかという点や課題を共有する一助になれば幸いです。
〔注〕
[1]国においては、「標準的フォーマット」(仮称)で電子公文書等を作成・保存することが検討されています。「標準的フォーマット」の詳細については、内閣府HP・第102回公文書管理委員会 資料3をご覧ください。https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2023/0724/shiryou3.pdf
[2]現在、国立公文書館においても、電子公文書等の適切な保存と利用にあたっての標準化(ファイル・フォーマットの統一など)を支援するため、「標準ガイドブック」(仮称)の作成を検討しています。