【令和5年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
「電子公文書の管理・保存・利用」をテーマにした研修を実施して

国立公文書館
統括公文書専門官室 研修連携担当

はじめに
  国立公文書館(以下「当館」という。)は、令和6年2月1日(木)、2日(金)に、「令和5年度アーカイブズ研修Ⅱ」を開催しました。アーカイブズ研修Ⅱは、「「アーキビストの職務基準書」が示す個別の知識・技能の向上」を目的とし、「特定のテーマに関する講義や共同研究、実習による発展的研修」と位置付けられます。令和5年度は、「電子公文書の管理・保存・利用」をテーマに完全オンラインで開催し、国の機関をはじめ、都道府県、政令指定都市、市区町の公文書館等68機関から145名の参加がありました。本稿は、研修の概要を報告するものです。

1.テーマ選定の経緯
  電子公文書をテーマとしたアーカイブズ研修Ⅱの開催は、令和4年度に引き続き、今回で2年目になります[1]。令和5年度は、研修のテーマに電子公文書の「管理」とあるように、現用の段階を含む電子公文書の管理に係る講義を取り入れました。また、事前に公文書館等に対してアンケートを実施し、電子公文書をめぐる全国の公文書館等の現状や課題を把握・共有し、解決の方向性を探る場となるよう企画しました。

2.研修の概要
  以上の経緯を踏まえ、今回は、電子文書の管理・保存をめぐる基本的考え方や電子公文書管理に係る最新の動向に関する講義のほか、全国の公文書館等の協力を得て国立公文書館が実施したアンケートの結果報告、地方公文書館等の取組に関する事例報告及び質疑応答・討論を中心に研修を企画しました。各講義及び事例報告の具体的な内容については、本号掲載の原稿をぜひご覧ください。

 2月1日
 講義①電子文書の管理・保存をめぐる基本的考え方  創価大学
 坂口貴弘
 講義②電子公文書に係る最新の動向  西南学院大学
 新原俊樹
 国立公文書館からのアンケート結果報告  国立公文書館
 島林孝樹
 2月2日
 事例報告①(鳥取県における文書管理システムについて)  鳥取県立公文書館
 新林えり
 事例報告②(埼玉県戸田市における電子公文書の管理・保存・利用)  戸田市
 吉田幸一
 質疑応答・討論

3.質疑応答・討論
  2日目の最後には、質疑応答・討論を実施しました。前半は当館が実施した事前アンケート報告、事例報告①、②に関する質疑応答を行いました。受講者からは、文書管理システムの検索や評価選別などの機能に関することや、どのようなファイル・フォーマットで提供しているか、マスキング等にどのように対応しているかといった電子公文書の利用に関することなど、電子公文書の管理・保存・利用の各フェーズに関する様々な質問が寄せられました。
  後半は当館の中島康比古統括公文書専門官の司会により、坂口講師、新林氏、吉田氏に参加いただき討論を実施しました。具体的には、事前アンケートから抽出した2つの論点、(1)適切な文書管理システムの構築や運用に向けた公文書館等の関与、(2)電子公文書の移管機能に基づき、討論を行いました。以下、討論の概要を紹介します。

(1) 適切な文書管理システムの構築や運用に向けた公文書館等の関与
  新林先生から鳥取県立公文書館の現状をまず説明いただきました。同県では、文書管理課が文書管理システムを運用しているが、公文書館からも毎年、システムの運用に関する要望を出しており、公文書館が関与する形になっています。その上で、新林氏から以下の提言がなされました。
 ・文書管理課・公文書館で認識の齟齬がないよう綿密な打合せが必要である。
 ・文書の上流である所管課の意識向上も欠かせない。
 次に坂口講師から以下のコメントをいただきました。
 ・公文書館等が文書管理に関与していくということは、電子文書に限らず、紙文書、つまりシステムができる前からの課題である。
 ・公文書館として決まった関与の仕方があるわけでなく、状況に応じて様々な関与の仕方がある。

(2)電子公文書の移管機能
  吉田氏から戸田市の現状をまず説明いただきました。その上で、現用と非現用を一元管理するため、文書管理システムにおける評価選別機能の必要性を提起いただきました。その上で、現用段階における文書管理を適切に行い、移管していくことで、歴史公文書として利用しやすい形になっていくのではないかとのコメントをいただきました。
  次に坂口講師から、電子文書の移管におけるメタデータの重要性を指摘いただきました。具体的には、移管時にメタデータを適切に登録し、メタデータと文書の関係性を突合できるようにすることで、将来的に信頼性などを担保でき、より長期的な保存を考える上で重要になるとのコメントをいただきました。
  最後に、司会者から、1997年にICAから出された報告書[2]に言及した上で、電子文書を考える上で、システムのライフサイクルを踏まえることの重要性が提起されたほか、個々の文書の作成以前から長期の保存・利用について考慮すべきことを公文書館側が整理して、システムの要件として俎上にあげていくことが重要になるとの総括がありました。

おわりに
  今回の研修は、令和4年度に引き続き電子公文書をテーマにしましたが、昨年度よりも多くの方に受講いただき、関心の高さをうかがえました。とりわけ令和5年度は、事前にアンケートを実施し、各機関が抱えている課題や現状をより網羅的に把握し、論点を整理した上で、その成果を受講者との間で共有できました。今後とも、公文書館の運営上の課題やアーキビストの関心事項等を的確に把握し、より良い研修の企画・運営に努めていく所存です。引き続き、当館の研修連携業務へのより一層のご協力・ご指導の程何卒よろしくお願いいたします。

〔注〕
[1]令和4年度アーカイブズ研修Ⅱの概要は以下を参照。国立公文書館研修連携担当「【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】電子公文書の保存・利用」に関する研修を企画して」『アーカイブズ』第88号、2023年、https://www.archives.go.jp/publication/archives/category/no088
[2]アーカイブズの観点から見る電子記録管理ガイド(国際公文書館会議電子記録委員会 1997年ICA報告書8)日本語版、https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ICASTUDY8_ELECTRONIC_RECORDS_JPN.pdf