富山県置県140年記念 令和5年度 国立公文書館所蔵資料展「日本の近代教育のあゆみと富山」を振り返って

富山県公文書館
浅井 正浩

はじめに ~応募の経緯と開催の決定~
  筆者は、令和3年4月に、県立高等学校の教員からの出向で富山県公文書館(以下、「当館」)資料課主任として赴任している。当館では、毎年度秋に1ヵ月程度、県政や県の歴史に対する県民の理解の促進を目的として、特定のテーマに基づいた当館所蔵資料の展示を中心に構成する企画展を行っており、赴任した令和3年度には主務者として担当している。
  本稿は、令和5年10月5日(木)から11月7日(火)まで、当館において開催した、富山県置県140年記念 令和5年度 国立公文書館所蔵資料展「日本の近代教育のあゆみと富山」を振り返るものである。はじめに応募の経緯と開催の決定に至るまでの過程を紹介し、その後、1準備、2展示内容、3関連イベント等、4広報活動と来場者の動向の順に概要を説明したい。
  令和3年5月、富山県歴史資料保存利用機関連絡協議会(富史料協、令和5年度会員機関数44)の総会を当館で開催し、国立公文書館の幕田兼治首席公文書専門官をお招きし、「アーキビスト認証について」と題して講演いただいた。その際に、当時の当館職員に国立公文書館の館外展示会について紹介いただいたことがすべてのはじまりとなった。その後、館として、過去の館外展示会についての情報収集や開催館の視察を行い、次年度の公募要項の確認を進め、当館での開催と応募の可否を検討した。その際に問題となったのが、開催可能期間が冬であることであった。冬の降雪が予想される富山において、冬の時期の開催は、集客の面でも準備・輸送の面でも多くの困難が予想される。したがって、秋の時期を含めて、開催可能期間を前倒しして伸ばしてほしいと当館から国立公文書館に要望してきた。その甲斐もあってか、令和5年度に向けた公募では、10月からの開催が可能となった。
  ところで、本県は令和5年5月9日に置県140年を迎えることとなっていた。当館の過去の企画展では、10年毎の周年の際には、それを記念した企画展を開催していたことから、「富山県置県140年記念」事業の一環として、例年の企画展と同じ秋の時期に国立公文書館の館外展示会を開催することを目指して応募することとなった。折しも、令和5年5月にG7教育大臣会合の本県での開催が決定しており、本県教育の現在の取り組みを国内外に発信する機会となり得るものであった。このことも念頭に置き、「公文書にみる日本のあゆみ」をベースに「近代の教育」に焦点を絞ることを展示テーマとして希望し、近代の教育に関わる国立公文書館所蔵の法律・勅令などの公文書と郷土ゆかりの資料の紹介、教育の発展に尽力した郷土の先覚の業績の紹介を通して、我が国及び本県が近代化を進めた時代を「教育」の視点から振り返ることができる展示構成案を添えて応募した。
  令和5年1月中旬までに応募を完了し、2月初めに開催決定の通知が届き、正式に「令和5年度 国立公文書館所蔵資料展」の当館での開催が決定し、準備が始まった。

1 開会に至るまでの準備について
  3月10日、国立公文書館から中島康比古統括公文書専門官と本展示会の担当である鈴木隆春公文書専門官が来館され、当館にて最初の打ち合わせが行われた。展示室や資料搬入経路の視察と、展示会の大まかな会期・準備スケジュール、役割分担の確認が主な目的であった。資料の輸送やポスター、リーフレット(チラシ)の制作・配布(一部は当館で対応)、キャプション・展示パネルの製作は、国立公文書館が担当すること、無償配布する展示パンフレットや屋内の展示テーマディスプレイ、屋外の案内看板の制作は当館が担当すること、展示パンフレットの制作に必要なデータは国立公文書館が当館に提供すること、キャプション・展示パネルの原稿のなかで本県に関わる部分については、当館が執筆し、データを国立公文書館に提供することなどを確認した。
  令和5年度に入り、4月以降メール・電話での打ち合わせを本格化させたが、5月には私を含めた当館職員2名が国立公文書館に出向き、鈴木公文書専門官・福田舞子調査員との間で対面での打ち合わせを実施した。その後、6月~9月にかけて数度にわたりZoomでのオンライン・ミーティングも実施した。
  展示会テーマタイトルと展示構成の決定は6月、展示資料の選定は最終的には8月まで時間を要した。できるかぎり当館の要望に沿いながらも国立公文書館からの提案を踏まえて協議を重ね、両館の考える展示会の趣旨が実現するように展示構成を決定していった。展示資料の選定協議のなかでは、当館からは国立公文書館の所蔵資料として、「公文書にみる日本のあゆみ」のなかで提示されている憲法などのほかに、国の教育制度の変遷に関わる法律・勅令などの公文書、郷土の教育の発展に尽力した人物に関わる国の公文書、加えて、教育に直接的な関係がなくても当時の時代状況がわかる資料の展示を要望した。

  また、本県関連の展示資料として、当館所蔵・寄託資料以外に富山県教育記念館、高岡市立伏木図書館、富山県立図書館の所蔵資料も提案し、協議の上で展示を決定した。その他、文字主体の資料が多くなることから視覚に訴えるような資料をどう組み込んでいくか、どのような展示方法が見やすさや理解の促進の観点で効果的かなど、来場者の視点にも立ち展示資料の選定を進めた。
  10月2日夕刻、鈴木公文書専門官とともに国立公文書館からの展示資料やキャプション・展示パネルがトラックで当館に到着し、3日・4日に鈴木氏と当館資料課職員が中心となり、両館が委託した業者を交えて展示の設営作業を行い、10月5日の開会を迎えた。

展示テーマディスプレイ

展示テーマディスプレイ

2 展示内容について
展示会は、令和5年10月5日(木)から11月7日(火)まで 当館1階展示室にて開催した。
展示会の様子は、当館ウェブサイト「富山県置県140年記念 国立公文書館所蔵資料展 特集」ページで公開している。
  https://www.pref.toyama.jp/1147/kensei/kouhou/1147/r5naj_shozoshiryoten.html
展示パンフレットと展示資料一覧は、当館ウェブサイト「刊行物」掲載ページで内容を確認することができる。
  https://www.pref.toyama.jp/1147/kensei/kouhou/1147/kankoubutu.html
ここでは、展示内容について簡単に説明したい。

第1章 富山県と近代教育のはじまり
  明治4年(1871)の廃藩置県に伴う最初の富山県の設置から明治16年5月に現在と同じ県域を持つ富山県が設置されるまでの経過とともに、「学制」から「小学校令」に至る明治前期の国の教育制度の変遷と富山における小学校開設の動きに関わる資料を紹介した。「教育令布告ノ件」「小学校令ヲ定ム」(国立公文書館所蔵)、「富山県設置の太政官達」(当館所蔵)、『学制』(海内家文書・当館所蔵)、「伏木小学校設立につき願書」(高岡市立伏木図書館所蔵)などを展示し、「大日本帝国憲法(複製)」(国立公文書館所蔵)は全条文を読める形で展示した。

展示パネル「主な県境の変遷」

展示パネル「主な県境の変遷」

大日本帝国憲法(複製)(国立公文書館所蔵)の展示風景

「大日本帝国憲法(複製)」(国立公文書館所蔵)の展示風景


第2章 教育のひろがり
  明治23年(1890)の「教育ニ関スル勅語」(教育勅語)の下賜と、明治中期以降進められた小学校教育の充実、小学校に続く各種学校の整備に関わる資料を紹介した。「教育勅語(複製)」「小学校教則大綱ヲ定ム」「高等女学校令ヲ定ム」(国立公文書館所蔵)、「西呉羽尋常小学校授業料領収簿」(中村家文書・当館所蔵)、「尋常高等小学校学校家庭通信簿」(高浪家文書・当館所蔵)などを展示した。

「教育参考掛図(複製)」(国立公文書館所蔵)の展示風景

「教育参考掛図(複製)」(国立公文書館所蔵)の展示風景

特設コーナー1 明治・大正期の学校教材
  明治・大正期に学校で使用された教材や、当時の小学校の授業の様子や教員の日常をうかがい知ることができる資料を紹介した。国立公文書館所蔵の「獣類一覧」などの動物の図4点と、植物を描いた「博物図」4点の教育参考掛図の複製を会期中に展示替えをしながら展示した。また、「教授日録(第一巻・第五巻)」(富山県教育記念館所蔵)、『越中地誌略』(佐伯家文書・当館所蔵)、『小学読本 巻之二』(羽馬家文書・当館寄託)などを展示した。

第3章 社会の変化と教育
  大正期の高等教育の充実を図る国の動き、学校における「児童中心主義」教育の実践、昭和に入ってからの戦争による影響など、社会が変化するなかで教育はどのように対応したのかをうかがい知ることができる資料を紹介した。「大学令○高等学校令ヲ定メ○中学校令中改正ノ件ハ枢密院ヨリ撤回ス」「小学校令改正ノ件(国民学校令)」「学童疎開強化要綱」(国立公文書館所蔵)、『児童中心教育の考察』(富山県師範学校附属小学校編・富山県立図書館所蔵)、『新時代に於ける学校組織 秋季学年の提唱』(富山市刊行・富山県立図書館所蔵)、『郷土学習読本』(富山県氷見町上伊勢尋常小学校刊行・富山県教育記念館所蔵)、「学童集団疎開事務委員委嘱状」(中島家文書・当館寄託)などを展示した。

特設コーナー2 富山の教育の発展に寄与した人々
  伏木港の近代化に尽力し、学制に基づく県内最初の小学校である伏木小学校設立に関わった藤井能三、旧制富山高等学校(現・富山大学)の設立のために多額の寄付をした馬場はる、旧制富山高等学校初代校長であった南日恒太郎、富山県師範学校および旧制富山高等学校の校長を歴任した蜷川龍夫の4人を展示パネルで紹介するとともに、国立公文書館に所蔵されている叙勲に関する記録などを展示した。

第4章 現在の教育の礎
  現在につながる戦後の教育制度改革、新制の富山大学の開学に関わる資料や当時の新聞記事(高岡市立中央図書館所蔵)を紹介した。「日本国憲法(複製)」「教育基本法」「富山大学新制国立大学設置について」(国立公文書館所蔵)などを展示した。

3 関連イベント等について
(1) 開会式
  10月5日(木)、資料提供機関の関係者、資料提供者をはじめ多くの来賓(約15名)に出席いただき、開会式を実施した。

講演会講師 布村徹 氏

講演会講師 布村徹 氏

(2)講演会
  10月18日(水)、越中史壇会の布村徹氏をお招きし、「富山における近代教育の幕開け ―県内最初の小学校が開校して150年―」と題して講演いただいた。対面での聴講(聴講者約30名)の他に、YouTubeライブ配信(限定公開・要事前申込)を実施(申込者約20名)し、県外の方を含めて視聴いただいた。

(3) 展示説明会
  会期中に4度実施し、10月5日(木)開会式後の第1回(参加者約15名)と10月28日(土)の第3回(参加者約25名)を鈴木公文書専門官に担当いただいた。参加者からは、展示資料にまつわる興味深いエピソードを交えながらわかりやすく説明していただいたおかげで、公文書へ興味が持つことができ、記録を保存することの大切さや展示内容への理解を深めることができたと大変好評だった。なお、10月18日(水)講演会後の第2回(参加者約30名)と11月4日(土)の第4回(参加者約10名)は、私が担当したが、鈴木氏との間で内容を調整することは特に行っていない。どの資料に関する説明に比重を置くかなどはそれぞれの担当が判断することとしていたが、そのためもあってか2度にわたり説明会へ参加された方もおられた。

展示説明会の様子(担当:鈴木隆春公文書専門官)

展示説明会の様子(担当:鈴木隆春公文書専門官)

展示説明会の様子(担当:鈴木隆春公文書専門官)

展示説明会の様子(担当:鈴木隆春公文書専門官)

(4) 国立公文書館長 来館・県知事表敬訪問
  10月24日(火)、鎌田薫国立公文書館長が来県され、当館に訪問いただいた。当館職員との懇談の後、私が展示説明を、他の職員が施設案内を行った。その後富山県庁にて、新田八朗富山県知事を表敬訪問された。

鎌田館長(写真中央)による展示視察の様子

鎌田館長(写真中央)による展示視察の様子

鎌田館長(写真左奥)による県知事表敬訪問の様子

鎌田館長(写真左奥)による県知事表敬訪問の様子


(5) 富山県知事 来館・展示視察
  11月3日(金・祝)、新田八朗富山県知事が視察のため当館を訪問され、私が展示説明を行った。

新田知事(写真中央)による展示視察の様子

新田知事(写真中央)による展示視察の様子

新田知事(写真左)による展示視察の様子

新田知事(写真左)による展示視察の様子


4 広報活動と来場者の動向について
(1) 広報活動とその効果
  6月までに展示会テーマタイトルと会期を協議の上で正式に決定し、まずは、7月初旬発行・配布の当館の「富山県公文書館だより 第73号」に、展示会テーマタイトルと会期の情報を掲載している。同時に当館ウェブサイトにも同様の情報を掲載している。
  その後、国立公文書館主導でポスター、リーフレット(チラシ)の制作に移り、データが完成した開会の約1ヵ月前には詳細な情報を当館ウェブサイトや当館Xアカウントで発信している。このタイミングは、国立公文書館とも揃えている。印刷物の到着後すぐに、今度はポスター、リーフレット(チラシ)の配布作業を行った。郵送分は、国立公文書館で各所へ一括して発送したため、その分だけ当館側の作業は軽減された。配布と同時に、富山県広報課を通じてニュースリリースを行い、県内の報道機関各社に向けて正式に情報を解禁している。

展示会のリーフレット(チラシ)(表面)

展示会のリーフレット(チラシ)(表面)

展示会のリーフレット(チラシ)(裏面)

展示会のリーフレット(チラシ)(裏面)


  ところで、開会前・会期中には、機会を捉えて、当館Xアカウントでの投稿(ポスト)を頻繁に行っていたが、より多くの人の目に触れてもらいたい内容のものについては、富山県広報課Xアカウントでリポストしてもらうことで情報の拡散に努めていた。もちろん、国立公文書館ホームページやSNSでも情報発信を継続していただいた。
  メディアへの掲載は、地元新聞社(北日本新聞・富山新聞)とNHK富山放送局の県内ニュース、合わせて3件に留まり、これは当館の想定を下回るものであった。新型コロナ感染拡大以前は、報道機関各社に出向いて、当館側から取材依頼をしていたが、近年はその取り組みを控えていた。当館から報道機関各社への取材依頼のあり方は今後も継続して検討すべき課題である。

(2) 来場者の動向と声
  本展示会の来場者数は、当館の集計で最終的に809人。昨年度は600人台で、この数字は令和3年度と同規模である。新型コロナ感染拡大以前には1000人以上の年度もあり、今回は、国立公文書館の所蔵資料を展示することでの集客を想定していたなかで、想定を下回る人数となった。
  今回のテーマは、現役の教員への訴求力があると考えており、県内の各種学校への広報を例年よりも手厚く実施した。しかし実際には、現役の教員の来場は想定を大きく下回った。教員の多忙は周知のことではあるが、まだまだ広報が不十分で多くの現役教員へ情報が行き届いていなかったことが想定される。県教育委員会の協賛を得たり、教員研修に組み込んでもらったりするなど、明確に教育委員会と連携して広報活動を展開すべきだったと強く反省している。(当館は知事部局の管轄である。)
  一方で、キャンパスが比較的近い富山大学の学生は、授業の一環や課題レポート提出のためなどの理由で例年以上に多く来場し、熱心に見ている様子が印象的であった。大学との連携は今後も積極的に進めていくべきであろう。
  アンケートに見られる来場者の声としては、「テーマは少々堅苦しく感じたが、実際の展示を見たら分かり易く、よく理解できた」「国立公文書館の貴重な資料を見られたのはよかったが、富山の資料も普段なかなか見ることがなかったので興味深く見られた」など好意的なものが多かった。一方で、広報活動や展示方法の改善を促す内容もあり、今後に向けた課題である。

おわりに
  まず、鎌田国立公文書館長には、当館での館外展示会の開催を決定していただいたこと、展示視察のためにわざわざ来館いただいたことに感謝申し上げたい。
  準備段階では、中島統括公文書専門官のもと、鈴木公文書専門官・福田調査員には、展示構成の決定・展示資料の選定から、キャプション・展示パネルなどの文章の執筆までの多くの重要な工程を主導していただいた。当館の考え方にも十分に配慮いただいたことで、国・富山双方の視点から近代の教育のあゆみを振り返ることができる深みのある展示会になったと考えている。当館との連絡調整を担い、打ち合わせ、準備、展示説明会、片付けと4度、合計8日にわたり来館いただいた鈴木氏には、当館からの多くの無理な要望にも快く応じていただいたことに感謝申し上げたい。また、事前の打ち合わせや実際の準備・片付け作業の場面でいただいた豊富な経験に裏打ちされた多くの助言も大変参考となった。さらに各種の展示造作物の製作においては、国立公文書館の展示担当の多くの職員の方々に関わっていただいたと聞き及んでおり、感謝申し上げたい。
  本展示会は、公文書館の活動を広く県民に認知していただく一助となるとともに、館としてもそれぞれの職員の学びが多い、大変貴重な経験となった。この経験を糧として、今後の諸活動に邁進していきたい。私個人としては、学校現場に戻った際の教員としての教育実践にも活かしていきたいと考えている。

  最後に改めて、このような貴重な経験の機会を与えてくださった国立公文書館の皆様、本展示会の趣旨を理解し、資料提供などを通じてご協力いただいた県内の関係機関や個人の皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。