香川県立文書館
主任専門職員 嶋田 典人
1.公文書管理条例とアーカイブズウォーク
香川県立文書館ホームページによると、「アーカイブズウォークとは、香川県立文書館が平成29年度から始めた企画で、当館が収蔵する資料などを手に現地を訪ねることで、より深く地域の歴史を学び、地域の魅力を再認識しようとするものです。」とある。
香川県公文書等の管理に関する条例(以下「公文書管理条例」とする。)は、平成25年3月22日に公布、平成26年4月1日に施行された。
その条例の第2条第2項では、「特定歴史公文書等」と「香川県立文書館(以下「文書館」という。)等において、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの」が区分され規定されている。文書館に寄贈・寄託された古文書は「特定歴史公文書等」ではなく、これら「特別の管理」に含まれる。
「香川県立文書館古文書取扱要領」別記1「古文書収集基準」(収集の対象)第1条には、「古文書は、公文書、行政資料以外の文書のうち、有史から現在までの香川県内の地域に関係し、その時代の様子を表すもの」と規定されている。
次に、公文書管理条例第27条をみる。第27条は「利用の促進」で「知事は、特定歴史公文書等 (第13条の規定により利用させることができるものに限る。) について、展示その他の方法により積極的に一般の利用に供するよう努めなければならない。」と規定されている。
知事とあるのは、香川県特定歴史公文書等の利用等に関する規則第14条によって、特定歴史公文書等に関する知事権限が文書館長に委任される。条例の条文中にある第13条は特定歴史公文書等への利用請求権と時の経過を考慮した利用が規定されている。
利用には文書館閲覧室窓口における閲覧利用のほか、「展示その他の方法」がある。「その他の方法」にはデジタルアーカイブなどが考えられる。また、閲覧利用促進のため展示その他の方法が行われるという解釈がある。この場合、展示は利用のための普及事業である。
香川県立文書館の職員は、16名で、館長、次長、総務・行政資料担当が5名、公文書・古文書担当が9名で2つの担当に大きく分かれ、さらにこの9名中公文書担当が4名、古文書担当が5名である。
公文書管理条例に基づく展示とアーカイブズウォークの両事業は公文書を中心に、公文書担当が企画・立案、事前準備を行い、アーカイブズウォーク当日の運営も公文書担当が中心に行った。
この度の当館が収蔵する資料などを手に現地を訪ねるアーカイブズウォークは、この展示を定めた公文書管理条例第27条とどのような関係にあるのかを論じる。
2.アーカイブズウォークの由来と令和5年度までの実績
山口県文書館が、毎年6月第1週のアーカイブズウィーク期間中の取組を、中国・四国地区文書館等職員連絡会議(毎年、10月~12月に開催)を構成する各県・市に照会して取りまとめている。この中国四国地区アーカイブズウィークは、山口県のホームページに「文書記録(アーカイブズ)の重要性とその保存利用をPRするため、中国四国地区の文書館・公文書館施設が共同して毎年実施している事業」と紹介されている。
アーカイブズウォークの用語を初めて目にしたのは、この取りまとめ編集した綴が送付されてきた際の岡山県立記録資料館の回答資料中であった。面白いネーミングだと思った記憶がある。
その後、岡山県立記録資料館に連絡して本県(館)でも行いたい旨を述べ、記録資料館の取組を参考にしたく実績を伺った。
平成19年(2007)度~23年(2011)度までの5年間、毎年度1回ずつ岡山市街地で実施された。その5回は、第1回は岡山城から記録資料館、第2回は西川及び記録資料館周辺、第3回は岡山市内山下(うちさんげ)の近代遺産、第4回は後楽園周辺、第5回は西川及びその周辺との同館年報に基づく回答があった。
元祖アーカイブズウォークは、岡山県立記録資料館である。
香川県立文書館では、平成29年(2017)度から令和5(2023)年度まで9回実施した(表1)。
回 | タイトル | 開催日 | 参加人数 |
---|---|---|---|
第1回 | 資料を手に屋島・牟礼の源平史跡を巡ろう | 平成29年11月19日 | 21 |
第2回 | 資料を手に近代の丸亀を巡ろう | 平成30年3月25日 | 24 |
第3回 | 記録資料を手に近代の丸亀を巡ろう!! | 平成30年11月18日 | 17 |
第4回 | 丸亀編Ⅱ 資料を手に近代の丸亀を巡ろう! | 平成31年3月24日 | 19 |
第5回 | 文書館周辺、高松空港跡を巡ろう!! | 令和3年3月21日 | 19 |
第6回 | 資料を手に宇多津駅周辺を歩こう | 令和3年10月31日 | 20 |
第7回 | 資料を手に塩屋を歩こう | 令和4年11月20日 | 19 |
第8回 | 文書館周辺・高松空港跡地を巡る | 令和4年12月15日 | 19 |
第9回 | 資料を手に多度津を歩こう | 令和5年11月19日 | 10 |
表のように第1回は「資料を手に屋島・牟礼の源平史跡を巡ろう」である。高松市牟礼町を中心とする屋島の戦いにまつわる史跡を見学した。第2回は「資料を手に近代の丸亀を巡ろう」と題して、丸亀市塩屋町などの塩田跡地やドイツ兵俘虜収容所となった寺院などを見学した。第1回は古文書担当、第2回から第9回までは筆者を含め公文書担当4名で行っている。第3回は第2回目の訪問先の再訪である。第4回は宇多津町から丸亀市へ、第5回は文書館のある高松市林町、第6回は宇多津町、第7回は丸亀市塩屋町、第8回は第5回と同じ文書館のある高松市林町で実施したが、第7回までと第8回とは趣が異なる。第8回は国・県機関(文書館も含む)や企業等で構成される香川インテリジェントパーク交流推進協議会から依頼を受け、林地区コミュニティ協議会からも住民が参加することで行った。第9回となる令和5年度は多度津町での実施である。
このように文書館周辺を含め高松市と中讃地区(丸亀市・宇多津町・多度津町)で実施している。
令和2年度から4回にわたって毎年度、企画展示「アーカイブズにみる香川の交通」(Ⅰ~Ⅳ)が公文書担当により実施しており、Ⅱ以降は副題がついて、Ⅱ「瀬戸大橋と地域の変貌」、Ⅲ「計画・整備・地域の変貌」、令和5年度は、Ⅳ「港・船・地域間移動」である。
この展示Ⅱでは、瀬戸大橋からの鉄道駅のある宇多津町で、Ⅲでは丸亀市塩屋町において塩田跡や塩の積出港と運河跡で、Ⅳでは多度津港周辺で実施した。展示関連のアーカイブズウォークを行ったのは、このように令和3~5年度である。
これらは公文書管理条例第27条による公文書担当による展示であり、その展示関連としてのアーカイブズウォークである。同条例第27条に基づく同担当による事業の一環としてアーカイブズウォークを位置づけている。
3.アーカイブズウォークに関連する令和5年度の展示
令和5年度の展示は、古文書担当が6月17日~9月3日「高松藩を記録する-江戸時代のアーカイブズ」、公文書担当が10月31日~12月17日「アーカイブズにみる香川の交通Ⅳ―港・船・地域間移動」を行った。アーカイブズウォークに関連する展示は後者である。
その章立ては、「第1章 公文書・行政資料にみる高松港、第2章 公文書・古文書にみる多度津港、第3章 古文書・地域資料にみる粟島港、第4章 県外資料―石川県加賀市橋立の北前船文書」である。
展示の第2章がアーカイブズウォークと関連する。公文書の添付地図には、臨港鉄道が多度津駅から海岸近くまで通っており、港には鉄道と船舶航路の結節点である浜多度津駅が記されている。この浜多度津駅跡にアーカイブズウォークで訪れた。北前船の寄港地であった多度津港では、近代に入っても、日本海側の港や北海道との物資の移動・商業活動、北海道移住が活発に行われていた。当館所蔵の商家の古文書を展示し、多度津町立資料館からはパネル展示の古写真画像の提供を受けた。
他館資料は現物を借用せず、写真画像をパネルにして用いるなど、あくまで公文書を中心とした館内所蔵資料による展示とすることを方針としている。
4.令和5年度のアーカイブズウォーク準備と実施
多度津町立資料館とは事前打合わせを行い、コースを下見した。下見では、高齢参加者にも配慮し、ゆっくりと1時間半で歩いた。途中トイレの場所確認などを行った。当日は9時15分に始まり12時に資料館に予定どおり到着したので、歩く時間と説明する時間が半分ずつということになる。
当日は良い天気で、途中、陣屋跡など近世多度津藩の歴史や文化財は簡単に触れ、文書館で展示している近現代の公文書等アーカイブズと関連付け、後日の展示観覧を勧めながら説明した。
解説文は持ち歩きやすく見やすいようA4版1枚表面にまとめた。そのため詳細な内容は解説補足で事後読んでいただくようA3版に記した。順路図もA4版1枚に収めた。
訪れた12カ所は、①四国水力電気本社跡、②琴平参宮電鉄多度津桟橋通駅跡、③励商舎(励商社・景山家)の元営業地、④多度津銀行跡、⑤旧多度津郵便局跡、⑥元大阪商船(株)多度津貨客取扱所の建物、⑦多度津港、⑧浜多度津駅跡、⑨勝間屋(森家)の元営業地、⑩讃岐鉄道本社跡と四国新道起点、⑪多度津測候所、⑫堀江火力発電所跡、である。

第9回アーカイブズウォーク順路図

②琴平参宮電鉄多度津桟橋通駅跡
琴平参宮電鉄は、琴平~善通寺~多度津、善通寺~丸亀~坂出をつなぎ、金毘羅参詣客を運んだ。大正14年(1925)、港近くに開設された駅でデンビルと呼ばれた。昭和38年(1963)に廃線となった。

⑫堀江火力発電所跡
水力発電の補充として四国水力電気が大正8年(1919)に建設した。昭和39年(1964)に閉鎖された。
5.事後のアンケートより
県の広報誌(THEかがわ)と文書館ホームページに掲載、展示のチラシにアーカイブズウォークの情報を刷り込んで、事前の開催広報を行い、事前申し込みによる先着順で20名を定員とした。
参加者は10名で、アンケートに全員が回答した。年齢は50歳代1、60歳代6、70歳代2、不詳1であった。
参加のきっかけは、県の広報誌(THEかがわ)6、文書館ホームページ3、チラシ2、人からの紹介1、文書館に来て1(複数回答)。
参加の動機は、地域の歴史に興味があるから9、これまで参加したことがあり、よかったから4、仕事・学業・研究の対象としている分野の内容があるから2、アーカイブズ(記録資料)の保存・活用に関心があるから2(複数回答)。
内容については、よい8、まあまあよい2。文書館の利用歴は、展示8、アーカイブズウォーク4、閲覧室3、講演会3、文書館ホームページ3、古文書講座1、利用したことがない2(複数回答)。概ね好評であり、展示観覧に続きアーカイブズウォークに参加した利用者が多かった。
今後とも、公文書管理条例に関係する業務の一層の推進と、その一環として位置づけ、適地を検討し、本館利用促進のため、アーカイブズウォークを継続して実施していきたい。