地方分権

国立公文書館
理事 山谷 英之

  日本の統治構造は概ね、国-都道府県-市町村の三階層になっている(政令指定都市などの例外はあるが。)。国の法律には、行政機関が様々な事務を行うことが規定されているが、国の法律であるからといって、全ての事務を国の機関が行うということではない。法律の中で、国・都道府県・市町村のどの行政機関が業務を行うのか、業務の実施主体が規定されていることが多い。

  (例1)旅券法
第三条
 
  一般旅券の発給を受けようとする者・・・は、外務省令で定めるところにより、国内においては都道府県知事を経由して外務大臣に対し、・・・一般旅券の発給を申請しなければならない。
  (例2)廃棄物処理法
第六条の二
 
  市町村は、一般廃棄物処理計画に従つて、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分・・・しなければならない。

  国と地方公共団体(都道府県、市町村)との関係は、私が学生だった1980年代、中学・高校の社会科で習ったのを始めとして、大学では主として行政学の中で勉強した。その際、国の法律によって地方公共団体が行うことと規定されている事務として、機関委任事務と団体委任事務というものがあるとされた(これに加えて、法律には規定されていないが、地方公共団体が独自で行う事務があった。)。
  このうち、機関委任事務とされるものについては、国の行政機関が、その出先機関(例:近畿地方整備局(国土交通省)や東北財務局(財務省)など)のごとく、地方公共団体の長に対して指揮命令ができるとされており、民主的な選挙で選ばれた都道府県知事や市町村長を国の行政機関がその下部機関のごとく指揮命令できることは地方自治の本旨の観点からいかがなものかという議論があった。ちなみに、機関委任事務や団体委任事務とは、講学上の概念であり、地方自治法など法律上の概念でなかったが、当時の地方自治には、機関委任事務を想定した条文が存在していた。

  (旧地方自治法150条)
      普通地方公共団体の長が国の機関として処理する行政事務については、普通地方公共団体の長は、都道府県にあつては主務大臣、市町村にあつては都道府県知事及び主務大臣の指揮監督を受ける。

  1990年代に入ると、地方自治の尊重の機運の高まりを受けて、1999年に成立した地方分権一括法の中で、地方自治法が改正され、地方公共団体の事務を法定受託事務と自治事務に分類することとし、機関委任事務における国の包括的な指揮監督権は廃止された。また、国の行政機関が地方公共団体に行える関与の態様が法定されるとともに、より国の関与が強い法定受託事務についてはその事務が厳選された。

  この地方分権改革にあたっては、いわゆる「必置規制」についての見直しも行われている。「必置規制」とは、国が、地方公共団体に対し、地方公共団体の行政機関若しくは施設、特別の資格若しくは職名を有する職員又は附属機関(審議会など)を設置しなければならないものとすることをいう。地方公共団体の自主性を尊重するため、この「必置規制」についてもその必要性が抑制的に見直された。
  公文書館法第4条2項には、「公文書館には、館長、歴史資料として重要な公文書等についての調査研究を行う専門職員その他必要な職員を置くものとする。」と規定されている一方で、同法の附則2項には、「当分の間、地方公共団体が設置する公文書館には、第四条第二項の専門職員を置かないことができる。」と規定されており、現行、地方の公文書館には、法律上は、設置の義務が適用されていない。
  そのため、本附則2項については、その見直しについて議論・要望があるところである。ただし、昭和62年に制定された公文書館法の附則2項の見直しにあたっては、その後行われた地方分権改革の趣旨を踏まえる必要があるものと思われる。
  いずれにしても、地方自治の尊重が重要視されている現状にあって、アーキビストとして必要な知識・技能等をもつ者の公文書館への採用は、地方公共団体の意思が最重要である。当館としても、地方の公文書館が参加する会議の場などを通じて、公文書館等における専門職員採用の重要性を訴えていきたいと考えている。