日本銀行金融研究所アーカイブの紹介

日本銀行金融研究所アーカイブ
館長  石黒 毅一郎
大貫 摩里

○はじめに
  日本銀行におけるアーカイブ活動の歴史は約40年。1982年に日本銀行創立100周年事業の一環として金融研究所を設立し、歴史的資料の保存と研究者向けの公開を始めました。その後、1999年9月に日本銀行金融研究所アーカイブ(以下、日銀アーカイブ)を正式に発足し、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律が施行された2002年10月には歴史・文化・学術的な価値を持つ資料を管理する施設として総務大臣の指定を受けました。そして、公文書管理法が施行された2011年4月、内閣総理大臣により「国立公文書館等」として指定を受け、活動しています。本稿では、日銀アーカイブが所蔵する資料の特徴や活動を紹介し、「日銀にアーカイブ?」という疑問にお答えします。

○所蔵している資料
  日銀アーカイブでは日本銀行が開業時から作成・取得してきた文書、帳簿、図面、写真などの歴史的資料を所蔵、公開しています。その数は2023年3月末現在で約11万冊です。所蔵資料の目録を日銀アーカイブのウェブサイトで公表しているほか、一部の資料はデジタルアーカイブで公表しています。以下では代表的なものをいくつか紹介します。なお、本稿掲載の写真はすべて日銀アーカイブが所蔵している資料です。

【営業免状と初代総裁吉原重俊】
  1882年6月に日本銀行条例が公布され、同年10月10日に日本銀行は開業しました。

営業免状

営業免状

初代総裁吉原重俊

初代総裁吉原重俊


【現存する最古の帳簿】
  1882年12月に開設した大阪支店の帳簿です。本店の帳簿は関東大震災で焼失したため、日銀アーカイブが所蔵する最古の帳簿となります。

現存する最古の帳簿

現存する最古の帳簿


【本店の建物】
  日本銀行は永代橋際にあった旧北海道開拓使物産売捌所の土地・建物を大蔵省から借用して開業し、1896年、現在の場所(東京都中央区日本橋本石町)に移転しました。

永代橋際時代の本店

永代橋際時代の本店

現在の場所へ移転した後の本店

現在の場所へ移転した後の本店


○活動
  日銀アーカイブでは、現在、19名(館長1名、事務職員14名、アーキビスト4名)が歴史的資料の「収集」、「保存」、「公開」といった活動を担っています。

<収集>
  日本銀行には本店(15局室研究所)のほか32支店、21事務所(国内:14、海外:7)があります。これらの各部署で作成された公文は内容に応じ保存期間が設定され、保存されます。そして保存期間を終えると、その一部は公文書管理法に基づき日銀アーカイブに移管されることになります。公文書管理法を踏まえ日本銀行が定めた規程では、日銀アーカイブに移管すべき歴史公文書等に該当するものとして、(1)日本銀行の政策・組織運営の基本方針や実施計画にかかわる記録、(2)金融経済情勢等の調査・研究に関する公文など、日常的な業務遂行の過程で発生する業務そのものにかかわる記録、(3)組織を維持運営していくために必要な人事・財産・会計などの記録――の三つに分類して掲げています。2023年度中、日銀アーカイブには約2,100冊が移管されました。
  加えて、団体や個人から、日本銀行の業務に関連する資料の寄贈を受けることがあります。

<保存> 
  明治・大正期に作成された資料は、和紙に墨書されたものは支障なく読めるものがほとんどですが、こんにゃく版のように劣化が進んでいる資料も存在します。また、昭和期に作成された資料についても、戦中や終戦直後に作成された資料では使用されている用紙の質が劣るほか、その後に作成された資料でも酸性紙が使用されたり、青焼きで作成されたりしており、用紙が変色し、文字が読解しにくくなっているものが少なくありません。そこで、日銀アーカイブでは資料の劣化調査を行い、劣化が著しい資料について計画的に外部業者に修復やデジタル版複製の作成を委託するなど長期保存のための対策を講じています。

  【こんにゃく版資料の補正】

補正前

補正前

補正後

補正後


  また、資料は複数の書庫で保存していますが、それぞれの書庫に虫トラップや温湿度計を設置し、文化財害虫の発生状況や温湿度を監視しています。普段から定期的に掃除を行い、文化財害虫に増加傾向がみられた場合には、発生場所近くを入念に掃除するなどして、更なる増加を防いでいます。一方で、書庫が当初から資料を保存する特別な仕様で設計・建設された部屋ではないことから、空調設備などに制約があり、温湿度管理も試行錯誤しながら行っています。夏季を中心とした多湿によるカビの発生とともに、冬季の湿度低下に伴う資料への影響にも留意しながら、適切な環境の維持に努めています。

<公開>
  所蔵する資料は、閲覧を希望すればどなたでも利用できます。利用に際しては、ウェブサイトに掲載している歴史的公文の目録を見て閲覧を希望する資料に見当をつけることになりますが、目録に掲載されている情報の内容には限りがあり、見たい資料を本当に探し出せたかどうか分かりません。そこで、日銀アーカイブでは、利用者の興味、見たいテーマなどの詳細をお伺いし、利用者が抽出した資料で正しいかどうか、より興味関心に沿った資料があるかどうかをお答えするなどのサポート(レファレンス)を行っています。例えば2021年はニクソンショック(1971年8月、米国ニクソン大統領がドルと金の交換停止を発表)から50年目という節目の年であったからか、これに関連する資料の閲覧希望が寄せられました。そこで、日銀アーカイブでは、実際にいくつかの資料の内容を確認して、その中からニーズに沿った資料を特定し、利用者に情報をお伝えしました。

  上記の利用請求に対応することに加えて、2019年4月からは既述の通りデジタルアーカイブというかたちで資料公開に取り組んでおり、毎年少しずつコンテンツを拡充しています。営業免状や定款といった日本銀行の開業に関わる資料や明治時代の統計書、関東大震災直後に撮影された写真などさまざまな歴史的資料を掲載しています。実際に統計書を利用した方からは「歴史的な価値のある統計が自由に利用できることはもちろんのこと、加工していない生の統計を利用できることも非常に有益」との声をいただいています。
  最近では、2023年3月に、過去に複数回利用された資料の掲載を開始しました。このほか、2022年が日本銀行創立140周年、金融研究所設立40周年にあたり、金融研究所ウェブサイトの特集ページで多くの資料を掲載しましたが、それとは別にデジタルアーカイブで関連する文書・写真・音声を掲載しました。今後も、所蔵する歴史的資料を順次掲載していきたいと考えています。

 【デジタルアーカイブ掲載資料】

日本銀行附属建物写真帳より「東京交換所清算中の実況」

日本銀行附属建物写真帳より「東京交換所清算中の実況」

前川総裁から鈴木善幸総理大臣あて日本銀行創立百周年記念式典への招待状(控)

前川総裁から鈴木善幸総理大臣あて日本銀行創立百周年記念式典への招待状(控)


  日銀アーカイブの資料は金融史や経済史の研究者に主に利用されていますが、最近は日本銀行本支店の建物の写真や図面について、建築史の研究者やマスコミなどからの利用も増加しているほか、博物館での展覧会のための貸出相談も受けるようになりました。また、デジタルアーカイブでの取り組みの効果で日銀アーカイブを知った方のほか、実際に利用した方からの口コミ等を通じて日銀アーカイブの利用に至ったという方もおられ、利用請求の件数はここ数年で大きく増加しています。

  ・デジタルアーカイブはこちら
    https://www.imes.boj.or.jp/archives/digital_archive/digital_archive.html
  ・いろいろ 「複数回利用された資料」 はこちら
    https://www.imes.boj.or.jp/archives/digital_archive/zenbu/zenbu.html
  ・トピック/スピンオフ企画 こんな資料もありました!~金融研究所設立40周年特集から~ はこちら
    https://www.imes.boj.or.jp/archives/digital_archive/topics/40th/40th.html

    日本銀行設立140周年、金融研究所設立40周年関係ページはこちら
    https://www.imes.boj.or.jp/40year.html

○おわりに
  日銀アーカイブでは、電子的な資料の収集、所蔵資料のさらなる活用、提供する情報・サービスの改善が喫緊の課題となっており、最新の技術動向についての知見を広げるとともに、他館の皆さまと意見交換をしたいと考えています。日銀アーカイブにご関心をお持ちいただけましたら、遠慮なくお声掛けください。