和歌山県立文書館開館30周年を迎えて

和歌山県立文書館
館長 上田 英之

1.はじめに
  和歌山県立文書館は、「歴史資料として重要な文書その他の資料の収集及び保存を行うとともに、これらの活用を図り、もって県民の学術及び文化の発展に寄与する」(和歌山県立文書館設置及び管理条例第1条)施設として、平成5年(1993)7月31日に開館した。
  令和5年に開館30周年を迎えた当館では、開館30周年記念歴史講座を11月から12月にかけて開催するとともに、記念誌『古文書・公文書等の収集・保存・整理・活用―和歌山県立文書館の業務―』を12月に刊行する予定であるが、本誌を借りて当館の業務について振り返り、近年の動向を紹介するとともに、未来に向けての課題を述べたい。

きのくに志学館(和歌山県立文書館が入居)

きのくに志学館(和歌山県立文書館が入居)

和歌山県立文書館閲覧室

和歌山県立文書館閲覧室


2.文書等の収集・保存・整理・利用
  当館が業務の対象とする文書等は、次の3種に大別される。
  ・古文書:和歌山県内各地域に伝えられた過去の書状や記録等(約10万点。令和5年3月31日現在。以下同。)
  ・公文書:県の機関から引き継がれた文書等(35,041点)
  ・行政刊行物等:県や県内市町村が発行した刊行物、和歌山県又は文書館に関係する書籍等(50,517点)
  古文書は、開館時に県立図書館から移管された紀州藩庁文書等や、散逸防止のために購入したものも一部含むが、多くは県内外の個人・団体から寄贈又は寄託されたものである。
  公文書には、和歌山県公文書管理規程第61条に基づき、完結後20年が経過して引き継がれる知事部局本庁各課の永久保存文書と、同規程第70条等の規定により廃棄手続がなされた県の公文書から「歴史的価値がある」として当館が収集したものがある。
  行政刊行物等については、知事部局が発行するものは「和歌山県行政刊行物等の収集に関する訓令」により当館への納本が義務付けられている。県のその他の機関及び県内市町村が発行する行政刊行物については、毎年、当館への寄贈を依頼して収集に努めている。
  以上の文書等を破損・滅失しないよう適切な環境で長期的に保存しつつ、整理を行って目録等の検索手段を整備したうえで一般の利用に供することが、開館以来の当館の基幹業務である。

民間所在資料保存状況調査のようす

民間所在資料保存状況調査のようす

3.民間所在資料保存状況調査
  平成7年に発生した阪神・淡路大震災の教訓を基に、同9年度以降、県内の各地域に伝えられてきた民間所在資料の所在情報を把握するとともに、所有者らに必要な支援を行うことで、民間所在資料が失われることを少しでも防ごうとする「民間所在資料保存状況調査」も、当館の基幹業務として取り組んできた。
  また、平成23年の東日本大震災及び紀伊半島大水害の経験を経て、同26年度から令和3年度まで和歌山県立博物館が主体となって実施された「地域に眠る『災害の記憶』と文化遺産を発掘・共有・継承する事業」を民間所在資料保存状況調査と位置付けてこれに参加し、所在情報及び災害関係記録を収集してきた。同事業が終了した令和4年度以降は、当館が主体となって同様の取組を続けている。
  民間所在資料等の災害対策としては、平成26年度に結成された文化財防災対策の県内ネットワーク「和歌山県博物館施設等災害対策連絡会議」(和博連)に幹事館として参加し、県内の機関・団体と連携して取り組んでいる。

『和歌山県立文書館だより』

『和歌山県立文書館だより』

4.普及啓発
  上記業務の成果として得た文書等についての知識の普及啓発や当館業務への理解と利用促進を図るため、当館では平成6年度から歴史講座や古文書講座等を例年開催してきた。また、当館は展示室を有しないが、同6年度からパネル展示、同7年度からケース展示も行っている。
  出版では、平成6年度から『和歌山県立文書館紀要』、同9年度から『和歌山県立文書館だより』を刊行して、研究成果を公表している。
  平成30年度には当館ウェブサイト上にデジタルアーカイブ「和歌山県歴史資料アーカイブ」を開設し、当館所蔵資料以外の資料画像等も含め、和歌山県に関する歴史資料を公開し情報発信している。随時公開資料の拡充を図っているほか、多様なコンテンツをまとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォームである「ジャパンサーチ」にも参加している。
  また、学校所蔵資料の和歌山県歴史資料アーカイブでの公開、県立串本古座高校との歴史講座共催(令和3年12月3日開催「百年の青春 はまゆう館」開設・「中根文庫」デジタルアーカイブ公開記念歴史講座)等、教育との連携にも力を入れている。
  令和5年度には、学校での歴史(日本史)や総合的な学習(探究)の時間等の授業、ふるさと学習のほか、一般の方の学習用としても活用できる「授業で使える和歌山の資料」ページを和歌山県歴史資料アーカイブ内に開設した。



「和歌山県歴史資料アーカイブ」トップページ

「和歌山県歴史資料アーカイブ」トップページ

「授業で使える和歌山の資料」トップページ

「授業で使える和歌山の資料」トップページ


5.未来に向けての課題
  令和5年度から、和歌山県庁では電子決裁を含む公文書管理システムの運用が始まり、電子公文書が正本とされるようになった。電子公文書を当館へ引継ぎ・収集して長期的に保存し、将来公開するための準備を整えることが今後の課題となる。
  また、公文書及び行政刊行物等を収める収蔵庫の収容量にゆとりがなくなりつつある。今後長期にわたって必要な公文書を収集・保存するために、歴史的な価値がないと考えられる永久保存公文書や行政刊行物、書籍等の廃棄を検討しているところである。