開館30周年を迎えた秋田県公文書館

秋田県公文書館
古文書班 専門員 柴田 知彰

出羽一国御絵図

出羽一国御絵図

1.はじめに
  秋田県公文書館は、平成5年(1993)11月2日、歴史的資料として重要な公文書、古文書その他の記録を保存し、県民の利用に供するため、「公文書館法」第4条第1項に規定する公文書館として「秋田県公文書館条例」(平成5年秋田県条例第2号)によって設置され、令和5年(2023)11月2日で満30年を迎えた。
  秋田県では、昭和25年(1950)に県庁書庫で正保元年(1644)の国絵図「出羽一国御絵図」が発見されたことを契機に史料保存の気運が高まった。そして小畑勇二郎知事のもと、昭和36年(1961)に県立史料館の設置が具体化したが、その中心的役割を担っていた歴史資料収集協議会委員山崎真一郎氏[1]の急逝により頓挫した。その後、昭和40年度の『秋田県史』編纂終了後、同45年度に県立秋田図書館内で文書館設立が企画され、同46・47年度に知事部局で検討されたが、こちらも実現には至らなかった。
  しかし、知事部局で昭和53年度から情報公開を視野に入れた公文書館設立が構想された。昭和54年(1979)に小畑知事は退任したが、その後も計画は引き継がれ、同57年度に知事部局及び教育委員会に秋田県立図書館・公文書館基本構想策定委員会を設置し、翌年度に基本報告書をまとめた。平成元年度には「秋田県立図書館・公文書館建設基本構想」が日本図書館協会に報告され、翌2年度に建設計画が策定され、4年度には複合館が完成した。5年度の開館時には、県庁書庫の公文書と古文書、そして旧県立秋田図書館と県立博物館の古文書が県公文書館に移管された。
  当館の概要や主な活動については、本誌36号(平成21年7月)に「開館十五周年を経た秋田県公文書館の近況」として掲載されているので併せて参照されたい。本稿では、その後の活動状況、そして開館30周年記念事業の展開について紹介する。

2.公文書館の主な活動
2.1 公文書の引渡と評価選別

  秋田県庁では、公文書の保存期間を1年・2年・5年・10年・永年の5種類に区分し、5年以上の有期限保存文書と永年保存文書について保存期間経過後に公文書館に引き渡す。なお、永年保存文書の場合は完結後10年である。そして、館内で評価選別を経た歴史的公文書を館長の権限で保存し、簿冊完結後30年経過をもって一般の公開に提供する。国内では作成元の課室で選別した文書を引き渡されるか、公文書館職員が作成元に出張し廃棄した文書から歴史的公文書を選別収集するケースが大半だったが、そのような中、開館当初から当館の方式は、神奈川県立公文書館や沖縄県公文書館と並び館が主体となり体系的に選別できることで高い評価を受け続けている[2]。評価選別の際に県庁各部課の同じ年度に作成された5年・10年・永年保存文書がそろい、組織機構に基づきつつ、作成時の県政重点事項や世相も参考に、全体的な視野から保存すべき記録の価値を検討できる。
  開館当初は年に16,000~18,000冊の簿冊が引き渡されていたが、廃棄評価が確実な文書を引渡不要として事前通知する仕組みにより、現在は4,000~6,000冊の引渡数に落ち着いている。一方、平成15年度に教育庁、16年度に公安委員会を除く全ての行政委員会及び議会から公文書館長に公文書を引き渡すように規程改正が行われたが、各委員会や議会には昭和20年代以来の膨大な公文書が保存されており、引渡は容易ではない。継続して、一層緊密な連携が必要である。
  また現在、県庁でDX計画(デジタル・トランスフォーメーション計画)に基づく電子文書化が進行しており、電子文書による公文書の起案決裁が行われている。今後、公文書館への引渡と評価・選別、公開までを視野に入れたシステム設計が最大の課題になる。

記憶の護り人養成教室

記憶の護り人養成教室

2.2 資料の整理
  現在、評価選別を経た公文書の内、昭和63年度完結の簿冊までを歴史的公文書として整理し、一般の閲覧に提供している。個人プライバシーに関わる記載がある場合は、一定の非公開期間を設けている。また、県の各種報告書ほか行政刊行物は、当館で受け入れ後、整理が済み次第公開しているので近年のものも閲覧できる。また、将来は電子文書も歴史的公文書になるため、その整理及び公開方法も検討課題である。
  民間から寄贈・寄託を受けた近世・近代の文書群は、燻蒸消毒後に目録を作成し、できる限り早めに公開を目指している。しかし、点数が膨大であると、資料整理にかなりの年数を要する。平成8年度に受け入れた横手市の地方史研究者の文書群である「伊澤慶治収集資料」4,058点については、その他多くの資料整理と併行して作業した結果、令和3年度に整理を終え、出張展示や出前講座などで地元に成果を還元した。
  一方、地域に目を転じると、少子高齢化で人口減少が進む中、地元の古文書などを整理する方法が分からず苦慮する声も少なくない。また、郷土史サークルが中心に古文書を整理しても、地域によって目録の作り方や分類基準、精度などが異なっている。そこで、当館では令和4年度から公文書館講座「記憶の護り人養成教室」を開講し、古文書を解読し資料整理ができる人材を育成して地域に還元する試みを始めた。教材には当館の未整理文書群の一部を使用し、職員を講師として、その指導監督のもとスキルを身に付けていく実践型講座である。
  目録等の刊行状況をみると、当館では「地方自治法」制定以前の県庁文書については、平成22年度に『秋田県庁文書群目録』全8集の刊行を完了した。秋田藩の藩政文書については、平成21年度に秋田県への引継文書を多数含む文書群の『秋田県庁旧蔵古文書(秋田藩関係文書Ⅰ)』、22年度に廃藩置県後に佐竹宗家に移管された文書群の『佐竹文庫目録(秋田藩関係文書Ⅱ)』、23年度に佐竹一門で領内要所に配置された所預の文書群の『佐竹北家文書・佐竹西家文書(秋田藩関係文書Ⅲ)』、25年度には同じく『戸村家文書目録(秋田藩関係文書Ⅳ)』を刊行した。

2.3 資料の保存管理
  当館では臭化メチルを含むガスの使用禁止を受けて、平成17年度以後は自前での燻蒸を行わず日常のIPM実施と書庫内温湿度管理で収蔵資料の保存管理を行っている。今年7月15・16日の大雨では公文書書庫の壁際の一部が浸水するなど影響が懸念されたが、幸いなことに壁際から書架まで十分な間隔があるため、浸水による所蔵資料の被害は開館以来まだ生じていない。
  なお、新たに寄贈・寄託を受け入れた資料については、年1回、消毒を行っている。
  この他、平成21年度には、緊急雇用創出事業を利用し、退色の危険性の高い明治期のこんにゃく版印刷の公文書、太平洋戦争中の紙質の悪い公文書をマイクロフィルム化した。

2.4 資料の利用提供
2.4.1 資料の閲覧提供

  平成25年度からインターネット上のデジタルアーカイブ秋田県公文書館で、利用頻度の高い所蔵資料の画像を公開している。「出羽一国御絵図」「秋田藩家蔵文書」「諸士系図」「士族卒明細短冊」「各郡全図」などであり、デジタル化時代の新しい閲覧提供の形と言える。
  また、当館では昭和30年代から映画館で幕間に上映した県政映画フィルムを所蔵しており、記録媒体をDVDに変換し公文書や古文書とともに一般の閲覧に供している。開館当初はVHSビデオ化した県政映画を自由に選択し視聴できる機器を備えた視聴室が2室設けられていたが、閲覧室から離れていることと記録媒体のDVDへの移行を鑑みて、平成14年度から閲覧室内にDVD視聴用のモニターを備えた特別閲覧室を設けた。その後、平成21年度からは映画館で県政映画が上映されていた時代の雰囲気を再現し、県政映画上映会を実施している。初回から老若男女が多数参加し、毎年地元のテレビ局でニュース報道される恒例の人気イベントとして定着した。
  また、平成24年度から閲覧室に「絵図検索データベース」のモニターを設置しており、当館所蔵の近世・近代の絵図資料の大半は大画面のモニターで閲覧できる。原本では大きくて扱いが困難な絵図も簡単に閲覧でき、細かな部分を拡大して見られるため、設置以後、入館者の利用頻度が高い。城下絵図を拡大して先祖の屋敷地を調べるルーツ探しにも利用されている。「絵図検索データベース」には、毎年新たにデジタル化した絵図の画像を追加している。
  この他、平成25年度から東京大学史料編纂所が撮影した「秋田藩家蔵文書」を閲覧室設置の専用PCから、同所のサーバーに直接アクセスして閲覧できるシステムの運用を開始している。

婦人会での出前講座

婦人会での出前講座

2.4.2 普及活動
  展示活動として、特別展示室で年1回の企画展、閲覧室で年4回の閲覧室展示を開催している。昨年度の企画展では、公文書館への親近感をコンセプトに「ぐっとくる・古文書LIFE」を開催し好評を得た。同展示ではQRコードを利用しスマホで展示解説を見られるなど、DX計画を意識した展示とした。また、閲覧室展示では県指定文化財「日本六十余州国々切絵図」の複製絵図を展示しており、興味を惹きやすいよう、大河ドラマに関連した国を選択するなど工夫している。武蔵国の切絵図を展示した際は、近世の江戸や近代の埼玉県の史料の複製を一緒に展示し所蔵資料展示の広がりを持たせた。なお、30周年記念展示については後述したい。
  公文書館講座については、現在、「古文書解読講座」と「記憶の護り人養成教室」を定期的に開催するほか、県民からの依頼で出向いて行う「あきた県庁出前講座」にも随時に応じている。「古文書解読講座」は、初めてくずし字に接する参加者を対象とした初級編、ある程度以上の解読能力のある参加者を対象とした中・上級編に分けて実施している。初級編も中・上級編も定員40名を超過する人気だったが、新型コロナ感染症の拡大以降は感染予防のため現在は定員を30名に絞って実施している。なお、「記憶の護り人養成教室」は資料整理のできる人材育成を目的としているため、古文書解読講座の中・上級編を受講経験あるいは、ある程度解読の実力を有する方を対象に毎年度新規10人枠で募集している。5月から12月まで毎月1回の連続講座である。
  「あきた県庁出前講座」は教育庁生涯学習課で企画し、県庁等の各分野に関する講座を地域の依頼に応じ開催する。当館では、「公文書館所蔵資料に見る○○」(○○は依頼する方の要望による)をテーマとして地域の公民館や郷土史サークルの要望に応じて実施してきた。近年は文具会社や神社氏子総代会の総会、また地域婦人会の研修会など、新たな分野からも依頼があり開催回数も増えている。また、学校からの依頼にも応じ、高校や小・中学校にも出向いている。
  広報紙である『秋田県公文書館だより』は令和4年度から年1回の発行を年3回に増やし、利用者への情報発信を密にした。さらに平成29年度からツイッター(現:X)を開始し、当館所蔵資料に関する話題、企画展等催事の見どころ、そして講座の参加者の声などを紹介している。本年度の講座応募者には、そうした紹介を見て興味を持ち申し込んだ方もいる。
  翻刻本刊行事業は、当館古文書班の前身である県立秋田図書館古文書係の時代から45年にわたり続けている。本誌36号で紹介した19世紀後半の秋田藩家老の日記『宇都宮孟綱日記』は平成24年度に全8巻の刊行を終えた。その後、18世紀初めの家老の日記『岡本元朝日記』全8巻の刊行を令和3年度に終えている。岡本元朝のくずし字は比較的読みやすいため、古文書解読講座初級編の教材に使用し県民の生涯学習に還元している。令和4年度からは、18世紀末から19世紀前半に藩校や町奉行所ほか多方面で活躍した藩士の日記『野上陳令日記』を刊行している。

2.5センター機能
2.5.1 市町村との連携

  秋田県市町村公文書・歴史資料保存利用推進会議を、毎年11月に当館多目的ホールを会場に開催しており、各市町村の首長部局の文書管理担当及び教育委員会事務局の文化財担当が参加している。例年、先進的な取り組みを実施する組織等で活躍するアーキビストによる基調講演、当館からの全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(以下、全史料協)全国大会報告や情報提供、市町村からの事例発表で構成している。全史料協が毎年実施している公文書館職員及び関係者を対象とした全国大会の秋田県内ミニチュア版を意識した市町村向けの研修会である。近年は公文書館を設置している大仙市と横手市、公文書館機能を有する秋田市、史料の保存整理が進む由利本荘市や小坂町など、市町村からも事例発表を行ってもらっている。新型コロナウイルス感染症拡大により近年はオンライン開催となったが、遠隔地の市町村が参加しやすいというメリットもあった。来年度以後の開催方法は検討中である。
  また、後述する開館30周年記念事業の市町村連携展「おらだの記憶展」では東成瀬村・大仙市・横手市、企画展「アーカイブズのチカラ」では東成瀬村・秋田市・大仙市・横手市・湯沢市・能代市・由利本荘市・小坂町と連携して展示を行った。
  そのほか、今年7月中旬の秋田県内豪雨では秋田市と五城目町、9月下旬の豪雨では秋田市に床上浸水の被害が多数発生した。災害時における史料保存について被災資料救助のお願いを市と町に通知したが、市と町からは被害なしとの回答を受けた。

2.5.2 公文書館懇話会
  当館事業について公文書館と県民の情報交換及び意見交換を目的に平成17年度から公文書館懇話会を年2回開催していたが、平成17年度以来の館体制整備の一段落を理由に平成23年度に廃止した。

3.今後の課題
  秋田県内の市町村では、大仙市アーカイブズを皮切りに公文書館や公文書館機能を持つ施設を設置する動きが広がっている。その一方、人口減少で自治体財政に余裕がなくなっており、これまでの動きを止めないため、全史料協が提示するミニマムモデル[3]を満たす施設の設置について適切にアドバイスしていくことが重要である。
  また、市町村の公文書及び古文書の保存管理に対する普及活動については、前述のとおり「記憶の護り人養成教室」を立ち上げた。さらに、後述する開館30周年記念事業で市町村との連携展示を通した普及活動を行った。また、秋田県市町村公文書・歴史資料保存利用推進会議の場でも普及活動に努めてきたが、各市町村において取り組みに差があり、当館としては今後も長く取り組んでいかねばならない。
  学校教育との連携について、近年は県庁出前講座の一環で学校ヘも出向くようになった。館内でも、学校現場との連携方法や教材選定を探る中で、学校現場へ提供できる教材集の作成等について検討している。今後も先進事例に学びつつ、より具体的な連携の在り方を探り、実践に結びつけていきたい。
  最後に、近年のアーカイブズ学の発展、デジタル公文書化の急激な進展、さらに頻発する自然災害による史料被災、少子高齢化による人口減少と民間史料の保存など、公文書館をめぐる環境は激変している。これに対処し県民のアーカイブズ機関としての職責を果たすため、館内館外での職員研修の充実も重要な課題になってきている。

おらだの記憶展in東成瀬村

おらだの記憶展in東成瀬村

4.開館30周年記念事業の展開状況
4.1市町村との連携展示

  「開館十五周年を経た秋田県公文書館の近況」掲載から14年を経過し、その間、平成29年(2017)に大仙市アーカイブズ、令和2年(2020)に横手市公文書館が開館した。また、文部科学省の全国学力・学習状況調査で全国1位の成績を収めた「学力日本一の村」で知られる東成瀬村では、近頃、生涯学習で古文書学習が非常な盛り上がりを見せ、当館講座にも多くの方が参加している。そこで、令和5年度の開館30周年の記念事業として、連携展「おらだの記憶展」を東成瀬村ふる里館で4月22日から6月22日、大仙市アーカイブズで6月27日から8月17日、横手市公文書館で8月19日から10月19日まで開催した。その地域に関わる当館の近世・近代史料と各館の逸品史料(東成瀬村では蚕を鼠から守る猫絵、大仙市では鉄道資料、横手市では豪雪の記録写真)で展示を構成した。なお、「おらだの記憶」とは、アーカイブズの世界でよく言われる「社会の記憶装置」「市民共有の記録財産」などのニュアンスを秋田弁で表現してみたものである。身近なお国言葉の力を借りて、公文書館をより身近なものにしようと考えたタイトルは概して好評であった。

「出羽一国御絵図」展示会

「出羽一国御絵図」展示会

4.2「出羽一国御絵図」展示会
  6月9日から11日まで秋田市にある秋田総合生活文化会館アトリオンの地下1階を会場に開催した。「出羽一国御絵図」の原本は5.25×12mの巨大な軸物であり、昭和25年(1950)に県庁書庫で発見された際に、床面に広げた上で、柵で囲い周囲から絵図を眺める形で展示したが、県民に郷土の歴史への関心を呼び覚まし盛況を呈した。当館では開館20周年の際に、絵図の原寸大レプリカを製作した。ラバー素材に絵図の画像を印刷しコーティングしたもので、観覧者が靴を脱いでレプリカの上に乗り、好きな場所で屈み込んで見ることができる。レプリカは約1m四方に分割したパネル60枚から成り、順番に敷き並べて展示する。それに加え、会場は中央が吹き抜けになっており、階上から巨大なレプリカの全体を俯瞰することもできた。そのほか、当館の江戸時代の絵図の複製19本を展示した。3日間で1,700人を越える観覧者が集まり、予想を超えた大盛況となった。本展示会は新聞やテレビで報道され、普段アーカイブズに馴染みが少ない方々にも当館の存在をアピールできた。当館職員としても極彩色の巨大絵図「出羽一国御絵図」の持つ「アーカイブズのチカラ」の大きさを改めて実感させられた。

企画展「アーカイブズのチカラ」展示室

企画展「アーカイブズのチカラ」展示室

4.3 開館30周年記念企画展「アーカイブズのチカラ」
  「公文書館は社会の記憶装置である!」「県と市町村が展示する一推しの資料とは?」を展示のハイライトとして、当館特別展示室を会場に前期展を8月24日から9月24日まで、後期展を9月28日から11月5日まで開催した。特別展示室での市町村とのコラボレーションは開館以来30年間で初の試みだった。展示室を五つに区画した上で、当館と市町村で歴史資料を扱う施設や部署がそれぞれのテーマで展示を構成した。前期展は東成瀬村・秋田市(秋田市総務部文書法制課歴史資料閲覧室)・横手市(横手市公文書館)・大仙市(大仙市アーカイブズ)、後期展は小坂町・由利本荘市・湯沢市・能代市が出展した。展示資料の他、各市町村の歴史的公文書及び古文書の収蔵施設の概要もパネル紹介した。
  この展示の準備作業を通して、地域資料に関する情報交換や展示方法の技術交換などが盛んに行われた。秋田県では、種苗交換会と呼ばれる農作物と農業技術の改良普及を目的とした共進会が毎年開催され、明治以来の長い歴史を持つフェスティバルとして賑わっている。県と市町村の個性ある歴史資料が観覧者の目を楽しませ、かつ職員の情報及び技術交換が行われた今回の企画展は、まさに「アーカイブズの種苗交換会」と呼べるものだった。

企画展「アーカイブズのチカラ」展示室情景

企画展「アーカイブズのチカラ」展示室情景

企画展「アーカイブズのチカラ」の市町村との共同作業

企画展「アーカイブズのチカラ」の市町村との共同作業



「出羽一国御絵図」レプリカの大迫力!

「出羽一国御絵図」レプリカの大迫力!

4.4 Akita Archives Fes 2023 ~あすへ語りつなごう!秋田の未来~
  11月3日の文化の日、JR秋田駅に隣接した秋田拠点センターALVE(アルヴェ)の1階きらめき広場を会場として開催された。第1部「出張公文書館へようこそ!」では、県政映画上映会の駅前出張版として昭和45年(1970)製作「ふるさとは羽ばたく~県政10年のあゆみ~」を大型モニターで上映した。ブラジルほか海外に移住した県民に故郷の発展を見せるため世界各地を巡回した映画である。高度成長に向かう時代の映像が記録されている。次に、当館職員による絵図展示のギャラリートークを行った。多くの方々の要望に応えて再び正保年間(17世紀)の「出羽一国御絵図」のレプリカを展示したほか、天保年間(19世紀)の「出羽国七郡絵図」原本を並べた。このほか、当館の江戸及び明治時代の絵図の複製43本を展示し、6月の「出羽一国御絵図」展示会からさらにスケールアップした内容とした。お楽しみ企画として、終戦直後の双六の複製など所蔵資料から製作した景品を用意し「お楽しみくじ引きアワー」を開催した。第2部「公文書館ってナニ?トークライブ」では、「あの時何が起きていたのか!?~秋田県公文書館誕生秘話」「謎に包まれた公文書館」ほか当館と市町村公文書館の歴史資料を扱うスペシャリスト5名によるリレートーク、第3部「しゃべり場」では「夢見るアーカイブズ」をテーマに出演者が公文書館の魅力を語り合った。なお、スペシャル・コンテンツとして、講演の内容を進行に合わせライブで絵や図形で表現するグラフィックレコーディングを導入し注目を集めた。

グラフィック・レコーディングでリレートークの内容を記録

グラフィック・レコーディングでリレートークの内容を記録

話の内容をイラストと飾り文字でみるみる視覚化

話の内容をイラストと飾り文字でみるみる視覚化


5.おわりに
  秋田県公文書館は開館から30年を経たが、本稿で書いたとおり課題も多く残されており、今世紀に入ってからは少子高齢化による加速度的な人口減少や異常気象による自然災害など地域資料保存の上で厳しさを増している。そのような中、大仙市を皮切りに市町村に公文書館または公文書館機能を持つ施設の開設を目指す気運が生まれてきたことも確かである。今後、当館は多くの課題に取り組みつつ、県公文書館としてのセンター機能を発揮して市町村と連携し県内の歴史的公文書や古文書を保存し未来の県民に「記憶」として永く伝えていく責務があると思われる。今回の30周年記念事業では、史料保存のための市町村との連携に大きな可能性を開いてくれた。この開館30周年が秋田県公文書館の新たなる旅立ちの契機となる願いを込めて、「秋田のアーカイブズよ、永遠(とわ)に」と拙文を結びたい。

〔注〕
[1] 拙稿「昭和戦後期秋田県の文書管理と史料保存運動-昭和20年代・30年代-」(『アーカイブズ学研究』№28、日本アーカイブズ学学会、2018年6月)、山崎真一郎は法政大学法文学部法律学科で法制史家滝川政次郎に学ぶ。県庁職員であると共に地方史研究者であり、戦前から県庁書庫の近代公文書に歴史的価値を見出していた。昭和25年(1950)に「出羽一国御絵図」修復後の展示会を企画立案し、昭和30年代には文部省史料館の山口啓二氏との文通で山口県文書館に次ぐ二番目の県立公文書館の設立を強く勧められ、方法論など多数教示を受けている。
[2] 安藤福平「公文書の管理・移管・評価選別について」(『記録と史料』№10、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、2000年2月)
[3] 『公文書館機能ガイドブック』(全史料協調査・研究委員会、2015年)、全史料協調査・研究委員会が平成23年(2011)に公文書館使節が自己点検・評価を行うための指標を提示した。各公文書館の機能の充実度に応じた自己点検及び自己評価が行えるよう、ミニマムルとゴールドの2モデルが作成された。ミニマムモデルは、公文書館機能として最低限満たしておきたい事項、「公文書館法」第4条第1項が定める保存・閲覧・調査研究を元にしている。ゴールドモデルは、公文書館機能をより強化・拡充するために目指すべき方向性を示した事項で、公文書管理法が国立公文書館等に求めている機能を参考にしている。