〔認証アーキビストだより〕
原子力規制委員会と認証アーキビストの関わり

長官官房総務課広報室
専門職員 土屋 紳一

はじめに
  2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故の反省により、原子力規制委員会は、意思決定のプロセスを含め、規制にかかわる情報の開示を徹底する組織として2012年9月に発足した。資料の公開はホームページ上で行っているが、組織が設立してから10年が過ぎ、情報公開している文書が増加してきたことにより、目的の資料が見つけにくいと指摘されるようになった。そこで、文書のデジタルアーカイブ計画と、アーキビストの募集が行われ、私は2019年より本事業に関わることとなった。2023年に認証アーキビストとして認められたが、以前は博物館で文化資源のデジタルアーカイブ化に従事しており、その経験の方が長い。現職のアーキビストとしての業務の差異などにも一部触れたいと思う。また、次期システムは開発中であり、実際に稼働していない内容を中心に紹介することになる。認証アーキビストがシステムの開発にあたり、どのように関わっているかという事例紹介として受け取っていただければ幸いである。

1、原子力規制庁とデジタルアーカイブ
  前述したとおり、意思決定のプロセスを含め、規制にかかわる情報の開示を徹底するため、原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁は、意思決定に至るまでの様々な業務を行なっている。
  ホームページでは規制に関する文書だけでなく、防護・防災、調査・研究などに関する文書もあり、様々な文書がホームページから取得できるようになっている。原子力発電所の近隣住民の方などが閲覧をすることも想定しており、国民の関心事項を見やすい分類で掲載することも、責務として改善を続けている。
  原子力規制委員会での議論には長期間にわたるものもある。閲覧者からは、議論の経緯を詳しく知るために、さまざまな過去の文書を参照したいという要望が必然的に出てくる。しかし、ホームページは公開後3年で削除しているため、それ以降は国立国会図書館インターネット資料収集保存事業 (WARP)を参照しなければならず、掲載文書が日々増え続けていることもあり、目的の文書へたどり着きにくい状況になっている。そこで、発足以来の文書も閲覧可能とするデジタルアーカイブ構築が必要となったのである。
  U.S.Nuclear Regulatory Commission(米国原子力規制委員会) には、The Agencywide Documents Access and Management System(以降ADAMSと記載)というシステムがある。公文書管理と記録管理を行うシステムの中に、公開可能な文書を選択し、文書管理システムの中から一部を切り出したような方式で、インターネット上で一般利用者も検索・閲覧できるようになっている。原子力規制庁においても初期の計画ではADAMSを目標とし、デジタルアーカイブの導入を検討していたが、日本とアメリカでは文書管理の手法や業務体制、予算など大きく異なるため、立ち上げメンバーは断念したとのことだ。そこで、公開してきたホームページの文書を整理して、デジタルアーカイブ化することから始めることになった。日々更新される原子力規制委員会ホームページから、自動的に毎日収集したものを保存し、メタデータを階層構造などから生成し、検索出来るようにした。そして、原子力規制委員会アーカイブ検索システム (以降N−ADRESと記載)として、2021年から試行運用することとなった。ホームページの掲載内容から生成されたメタデータは、自動化されているため運用は楽であったが、人の判断による調整が出来ず、精緻なメタデータ整備が困難であった。そのため長期管理には不向きな設計であると考え、運用方法を見直す必要があると感じた。

原子力規制委員会ホームページ(https://www.nra.go.jp)

原子力規制委員会ホームページ(https://www.nra.go.jp)

2、文書登録と公開
  私は、現行システムである第一期では設計が終わった段階での関わりだったが、2024年3月に予定している第二期のシステムでは、要件定義から関わることができた。私は第二期のシステム移行にあたり、3つの目標を提案した。

(1)ユニークIDを文書に付与する。
(2)文書作成に関わっている職員がメタデータを登録する。
(3)ホームページ利用者にも、違和感なく利用できるようにする。

  この3つの目標は、「長期管理」、「メタデータの精度向上」、「利活用の推進」となるが、具体的な手法をあげつつ、基本に立ち戻るという提案になる。(1)については、メタデータを自動取得しているため、ホームページの階層構造の組み換えにより再取得を行った場合、IDが振り直されてしまう構造にあった。もし振り直す前のIDを記録していて検索した場合、別の資料が表示されてしまう。これは、長期運用を考えたときに、修正する必要性を感じた。そして、資料をパーマネントリンクとして公開することで、様々な文書に記載をしたとしても、IDと文書の不一致やリンク切れが起きないようにすることにした。この機能をシステムに導入するためには、ホームページからの自動取得をやめ、(2)のメタデータ登録を職員が行う際に、ユニークIDを付与することが、合理的な変更であると考えた。ある意味、標準的な運用になったともいえる。(3)は、ホームページの最下層の部分に大量の文書がぶら下がっている構造になっており、その部分を、検索条件を絞り込んだN−ADRESに遷移してもらうことを考えた。利用者は検索条件を入力することなくN−ADRESを活用できるようになる。ホームページに戻りたい時は、N−ADRESにある該当ホームページリンクによって戻ることで、相互に行き来ができるように設計する。それにより、ホームページとN−ADRESの特徴を活かした運用が可能となり、それぞれの棲み分けが出来ていることで、設計に必要なものを的確に判断しながら検討することができた。
  その他にも検討課題はあったが、最初に掲げた3つは丁寧な検討が必要であり、第二期へと移行した際にも特徴的な部分になると考えている。

現行のN-ADRES 2024年3月に第二期へ移行予定

現行のN-ADRES 2024年3月に第二期へ移行予定

3.デジタルアーカイブと文書作成業務
  簡単ではあるが開発を中心とした事例報告は以上となる。しかし、開発を進める中で再認識させられたことを最後に感想として記しておきたい。
  仕様の確認のために、原課の担当者と話をしているときに、「ちょうど公開していた資料を探すために30分もかかっていた。このシステムであれば、1分で見つけられるようになるだろう」というのだ。文書を新規に作成する場合、関連している過去の文書と変更点があると、その資料を見比べた国民は、意図して変更していると受け止める場合がある。変更を意図していない場合は、文書に揺らぎがないように、過去の文書の確認を行って同一の表現にしている。そのための確認作業は、少なくないとのことだ。
  国民に対して、透明性の確保と利便性向上を目指してきたが、上記の声を聞いて、業務効率化にも繋がる可能性があると感じた。前職で文化資源を扱ってきた時は、このような経験をすることはなかった。過去の資料を未来のために残すことと、有効活用は同一だが、現在の議論を考えるために過去と密接に関わり、そして未来に作り出される文書にも、直接繋がっているという感覚を味わうことはなかった。デジタルアーカイブと時間の連続性を考える良い機会となった。
  原子力規制という対象が限定的であり、長期に渡って議論がされるというケースが多いために成立するのかもしれないが、過去、現在、未来のつながりを感じられるデジタルアーカイブを構築することが出来るかもしれないと考えながら、完成に向け取り組んでいる。

おわりに
  特殊な事例であり、紹介も断片的であったため、認証アーキビストが、システム設計にどのように関わっているか、伝わりきれていないかもしれない。さらに最後は事例ではなく、個人的な感想である。しかし、文書作成業務を行っているものと、寄り添いながら業務をしていきたいという日々の考えから生まれた、素直な感想であり、現場にいて感じ取ったものも残しておきたいと思った。
  本庁の公文書もようやく電子による管理に移行した。数年後には、電子による移管が増えると思われる。パソコンで作成していた文書だからこそ、インターネット上に即時公開でき、さらには業務効率化の可能性も得ることができたと感じている。今後は、生成AI技術も飛躍していくと思われるが、全ては電子化された過去の情報を元に生成されており、認証アーキビストは、最新技術にも目を向けながら業務を行うことになるだろう。電子化が進んでいる今だからこそ、認証アーキビストというスペシャリストが、官公庁に貢献できる部分は多分にあるはずであり、必要であると強く感じている。