千葉県文書館収蔵資料検索システムの紹介と展望について

千葉県文書館
副主査 柏原 洋太

はじめに
  本稿は、令和5(2023)年3月1日に稼働した「千葉県文書館収蔵資料検索システム[1]」(以下「本システム」という。)の機能を紹介し、その課題と展望について言及する。

1 収蔵資料について
  千葉県文書館(以下「当館」という。)では、歴史公文書(約6万冊)、旧役場文書(約6万冊)、行政資料(約11万冊)、県報(約8万件)、古文書(約57万点)、県史収集資料(約24万点)、といった資料種別を設け、それぞれ体系的に管理・公開している。
  歴史公文書は、千葉県庁が作成・収受した歴史的に重要な文書であり、簿冊形式で管理・公開している。旧役場文書は、旧源村役場が作成・収受した文書である。行政資料は、千葉県庁を中心として県内の行政機関が刊行した資料である。県報は、条例・規則・その他重要な事項を伝達することを目的とした刊行物である。古文書は、主に県内の個人・団体が所蔵していた地方文書が中心であり、原則として伝来した家・団体を単位に管理・公開している。県史収集資料は、県史編さん事業の調査にて複製された資料である。

2 これまでの状況
  当館では、多様な種類の資料を収蔵している。一方で、検索システムの整備については、これまで十分とはいえず、資料種別それぞれで検索手段が異なった。
  歴史公文書・旧役場文書は、館内限定の検索システムが稼働していたが、インターネットにはつながっていなかった。行政資料については、インターネットから利用できる検索システムを稼働していた。県報は、当館のホームページにオープンデータとして、Excelのデータを公開していた。古文書・県史収集資料については、「検索システム」と呼べるものはなかった。毎年度、一冊ずつ「収蔵文書目録」を刊行しているが、多くの古文書については、Accessのデータを印刷して閲覧室に設置していた。

3 検索機能の紹介
(1)検索機能について
  本システムでは、全ての資料種別をインターネットから横断検索することが可能となった。本システムには、利用者向けの機能として収蔵資料の検索機能と、デジタルアーカイブ機能を実装した。検索方法には、フリーワード検索と資料種別ごとの詳細検索の2種類がある。フリーワード検索は、すべての資料種別を対象に検索することができる。資料種別ごとの詳細検索について概要をまとめると、下記のとおりである。
  歴史公文書・旧役場文書は、簿冊単位での検索と、簿冊の中に収録されている件名を単位とした検索がそれぞれできる。
  古文書・県史収集資料は、表題・年代・作成者・宛先といった基本的な項目に加え、地域や特定資料(資料の形態)ごとに絞り込む機能を有している。
  行政資料は、日本十進分類法をベースとした管理を行っており、書名・著者・出版社・出版年月といった目録の項目を設けている。これらの項目を用いた検索ができる。
  県報は、登載年月日・法規等の区分・法規等の番号といった項目にて検索することができる。県報に登載された情報は、多様な利用者のニーズがある。それゆえに、県報登載事項を検索できるようになったことは、利用者の利便性向上に大きく寄与しているといえる。

(2)横断検索によるメリット
  収蔵資料を横断的に検索できるようになったことが、本システムの大きな成果である。これにより、6つの資料種別が情報を補完しあい、利用者のニーズに対して、より効果的な検索が可能となった。
  例えば、歴史公文書については、明治期から昭和初期の文書があまり残されていない。一方で、近世・近代の名望家の家に伝わる古文書の中には、公的な文書も含まれており、歴史公文書には残っていない情報を得られることがある。同じように、県報には布達・県令・規則といった法規類が登載されているため、歴史公文書には残っていない情報が存在することもある。
  また、千葉県立図書館[2]や国立公文書館[3]のシステムと連携することにより、横断検索が可能となった。

4 システムの課題と展望
(1)機能に関する課題
  本システムにおける利用者用向けの機能は、検索とデジタルアーカイブのみであり、ホームページは存在しない。検索システムの機能、使い方、資料種別の概要等を示したページの整備が必要となる。
  歴史公文書は、データ形式の問題や、仕様上の制約から、簿冊と件名を詳細検索から一度に検索することができない(フリーワード検索からは、横断検索が可能)。また、歴史公文書の作成年代に関する項目については、西暦・完結年度・内容開始(終了)年月日の3つの項目が存在する。更に、完結年度あるいは内容開始(終了)年月日の項目で検索する場合、年号をチェックボックスにて選択し、年月日をそれぞれ数字入力する必要がある。項目が複雑であることから、表示方法を変えるか、項目を削除する等の対応が求められる。歴史公文書に限らず、各資料種別の項目には、改善の余地がある。

(2)クラウド型システムの課題
  本システムは、SaaSサービスを利用したクラウド型(パブリック)のシステムである。本システムの場合は、クラウド型を導入することにより、コストを抑えることができた。一方で、SaaSサービスであるため、他のシステムとの連携については、その可否について今後、注意が必要である。とりわけ、電子文書を歴史公文書として移管する場合、電子文書を管理するシステムと本システムが連携できると理想的ではある。本システムの機能要件には、電子文書の移管は含んでいない。これは当館だけの課題ではなく、「アーカイブズとして電子文書を永久保存する方法は、技術的な議論があったとしても、実際に導入されるシステムでは検討途上で想定されていない状況が多い」と全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)による指摘がある[4]。それゆえに、先進事例[5]に学びつつ、千葉県の現状に合わせた方法を検討すべきである。
  また、注意しなければならないのは、デジタルアーカイブの拡充におけるランニングコストの問題であろう。現在、パブリックセクターにおいても、クラウドサービスの利用が浸透しつつある。一方で、それらのサービスは従量課金制を導入していることもあるため、デジタルアーカイブの拡充を目指すと、その分だけランニングコストがかかる可能性がある。この点は、クラウドの形式やオンプレミス型と比較し、機能やコストについて最適なシステムの在り方を検討していくことが重要である。

(3)更なる外部連携と「非来館型」サービスの拡充
  ジャパンサーチ[6](国立国会図書館が運営するシステム)や、千葉県立博物館のシステム[7]との連携については、今回のシステム整備では実現できなかった。ジャパンサーチへの参加は、当館の認知度を上げ、利用者を増やすために必要な措置であるといえる。千葉県・千葉県教育委員会は、文書館と図書館の複合施設化を目指している[8]。基本計画では、MLA連携が謳われている。それゆえに、連携事業の一つとして博物館のシステムとの横断検索についても視野に入れるべきであろう。
  デジタルアーカイブについては、本システムにおいても機能を実装しているものの、現時点では本格的な運用ができる環境ではない。近年、自治体の公文書館等においては、デジタルアーカイブの構築が加速している。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を経験し、社会全体で生活様式が変化しつつある。今後は、「非来館型」サービスの拡充が必要となろう。その柱の一つとして、デジタルアーカイブによる資料の閲覧は重要だといえよう。

おわりに
  システムの導入がゴールではない。本稿で指摘した課題に対応しつつ、文書管理や業務のデジタル化にも目を向けていく必要があろう。令和5年4月以降、自治体における生成AIの活用が盛んに議論されている。公文書館等においても、利用者へのサービスや業務への活用といったことについて検討すべきであろう。

〔注〕
[1] https://wwwa7.musetheque.jp/chiba_prefectural_archives (2023年7月14日閲覧。以下、HPの閲覧日は同じ)。
[2] https://www.library.pref.chiba.lg.jp/licsxp-iopac/WOpacMnuTopInitAction.do
[3] https://www.digital.archives.go.jp/globalfinder/cgi/start
[4] (全史料協)広報・広聴委員会「特集にあたって(特集・電子文書管理の現在―よりよい実務の構築をめざして―)」(『記録と史料』33号、2023年)。
[5] 前掲『記録と史料』。
[6] https://jpsearch.go.jp/ 
[7] http://search.chiba-muse.or.jp/DB/
[8] 「新千葉県立図書館等複合施設基本計画」(令和元年8月千葉県・千葉県教育委員会)。