岩手県公文書センターの設置について

岩手県
主査 星井 一希

岩手県公文書センター外観

岩手県公文書センター外観

1 はじめに
  岩手県では、令和4年10月1日に、盛岡市内丸の盛岡地区合同庁舎内に岩手県公文書センター(以下「公文書センター」といいます。)を開設しました。条例設置の公の施設としてではなく、歴史公文書の利用請求を受け付ける行政窓口として設置しているものであるため、いわゆる公文書館法(昭和62年法律第115号)第5条に該当する公文書館ではありませんが、同法第3条に定める責務を果たす、公文書館機能を有するものとして運営しています。
  公文書センターでは、歴史的・文化的価値を有すると認められる県の公文書のうち、業務で使用しなくなった文書を保存しており、どなたでも閲覧することができます。
  今回は、公文書センター開設までの歩みを中心にご紹介しつつ、今後の課題について述べたいと思います。

2 岩手県の紹介
  岩手県は本州の北東部に位置し、東西約122キロメートル、南北約189キロメートルと南北に長い楕円の形をしています。その広さは北海道に次ぐ面積であり、埼玉、千葉、東京、神奈川の面積を合わせたものより広い面積となります。広い面積であることで、仕事上は人事異動で引越しが必要な場合が多く大変な面もありますが、筆者としては広い面積の中に美味しい食べ物や多くの温泉があることが当県の魅力だと考えています。
  また、県庁所在地の盛岡市は、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙(電子版)が令和5年1月12日に発表した「2023年に行くべき52カ所」に選出され、最近は外国人観光客の方も多く見かけるようになり、賑わいを見せています。

閲覧室の様子

閲覧室の様子

3 公文書センター開設までの経緯と概要
(1) 公文書センター開設前の状況
  岩手県は、以前は、歴史公文書として文書保存するための規定が整備されていない状況でした。例規文書などの重要文書を永年保存とする仕組みはあったものの、有期限文書については保存期間が満了すると各所属の判断で廃棄されていました。
  その中で、平成23年に東日本大震災津波が発生し、震災から時間が経過する中で、その対応した記録は後世にとって重要な文書であることから、保存の在り方についての課題が浮上しました。
(2) 震災関連文書の取扱いの決定
  東日本大震災の関連文書(以下「震災関連文書」といいます。)は、暫定的には、方針が定まるまで全て保存することとし、震災から10年が経過した令和3年度に、外部有識者を招いて方針検討を行いました。
  検討の結果、東日本大震災は県民生活に大きな影響を及ぼした大災害であり、その対応等が記載された震災関連文書には、将来の教訓として生かされるような重要な情報が記録されていることから、県民との共有知的資源として、散逸や誤廃棄を防ぐ必要があるとして、庶務等の定型的な文書を除き、その全てを永年保存することを決定しました。
(3) 電子決裁・文書管理システムの導入
  加えて、同時期は、新型コロナウイルス感染症への前例のない対応に追われており、業務のデジタル化を推進し、在宅勤務を可能とするため、行政文書の電子決裁・文書管理システムの導入について検討を進めており、従来の紙文書の管理を想定した行政文書の決裁及び管理のルールから同システムに適合したルールに見直すことが必要となりました。
(4) 公文書の管理に関する条例の制定
  以上の事情に対応するため、行政文書等及び法人文書の適正な管理並びに歴史公文書の適切な保存、利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、県及び地方独立行政法人等の諸活動を現在及び将来の県民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とし、公文書の管理に関する条例(令和4年岩手県条例第20号。以下「条例」といいます。)を制定し、令和4年10月1日に施行しました。
(5) 条例における歴史公文書に関する規定
  条例では、歴史公文書としての保存は、県の諮問機関である公文書管理委員会への諮問答申を経て、永久保存の要否を決定することとました。
  また、歴史公文書については、条例の規定に基づき、誰でも閲覧、写しの交付等の利用請求をできることにしました。
  なお、条例制定前から永年保存文書を本庁舎の隣にある盛岡地区合同庁舎内の文書庫に保管し、目録を公開して一般の利用を認めている運用を行っており、当該文書は全て歴史公文書とみなすこととしました。
(6) 公文書センターの開設
  前述のとおり、これまで本庁舎の隣に永年保存文書庫という場所があったことから、条例の制定に合わせ、岩手県知事部局行政組織規則(平成13年岩手県規則第46号)において同書庫を公文書センターとして位置付け、歴史公文書を保存、管理するとともに、利用請求に係る事務を開始することになったところです。

公文書センター内部

公文書センター内部

4 今後の課題
(1) 文書の保存場所に関する課題
  岩手県の公文書センターは、他の自治体のように、専用の公文書館として整備した建物ではないため、文書の保存スペースが少ないという課題があります。そのため、岩手県内にある県の各振興局等の出先機関でも歴史公文書をそのまま現地で保存することを想定しています。
  今後、順次、歴史公文書として保存する文書が増えていく中で、県庁所在地である盛岡の公文書センターに収集する文書の基準をどのように設けるかということが、保存場所に関する課題と考えています。
(2) 運営体制に関する課題
  歴史公文書が県内に分散されて保存することを前提とした場合に、文書の閲覧を容易にするため、デジタル化による文書の閲覧(アーカイブ化)といったものを検討する必要があると考えています。
  現在は、学芸員や司書、アーキビストなどの専門職員がいない体制であることから、文書のデジタル化のため、撮影を行おうとしてもそういった作業を行うノウハウが職場として不足している段階です。
  例えば、劣化が進んでいる文書をどのように撮影し、必要に応じて修繕し、保存していくか、現行の職員体制では取り組みが難しい課題であると考えています。

5 おわりに
  筆者は令和5年4月から公文書センターの担当となりました。4月からの短い期間の中でも、歴史公文書の取材や閲覧に来る利用者の声を聴いている中で、将来に向けて適切に文書を保存する重要性を感じているところです。
  岩手県公文書センターについては運営を開始したばかりで、上述のとおりの課題があり、まだこれからの取組みを検討していく段階にあります。今後、他の自治体や国立公文書館のお話を聞きながら、より良い運営を行ってまいりたいと思います。

6 岩手県公文書センターの概要
名称: 岩手県公文書センター
開設年月日: 令和4年10月1日
所蔵資料: 約30,000冊
住所: 〒020-0023 岩手県盛岡市内丸11-1 (盛岡地区合同庁舎1階)
利用時間等: 午前9時から午後4時まで(土曜日、日曜日、祝日、12月29日から1月3日を除く)
ホームページ: https://www.pref.iwate.jp/kensei/1059746/1059883/index.html
アクセス: バス(盛岡駅から県庁:約10分)、徒歩(盛岡駅から県庁:約20分)