天草市立天草アーカイブズの移転開館について

天草市立天草アーカイブズ
松野 恭子

1、はじめに
  天草市立天草アーカイブズ(以下「当館」という。)は平成14年4月に旧本渡市で開館し、令和4年で開館20周年を迎えました。平成18年の天草市(以下「当市」という。)誕生の翌年からは当市役所五和支所2階(天草市五和町)を館としていましたが、令和5年1月23日に天草市志柿町の旧瀬戸小学校へ移転開館しました。
  今回の移転にあたり、旧学校校舎等を書庫として利用していた館外書庫4か所の保管資料も新館へ集め、資料の一括した管理を行うことができるようになりました。ここでは、新館の概要や取組み等について紹介します。

瀬戸本館 俯瞰写真

瀬戸本館 俯瞰写真

天草アーカイブズ玄関

天草アーカイブズ玄関


2、移転の経緯
  当館は、平成18年の2市8町合併の際に各市町から行政資料1万4,000箱超の移管受入れがあったことで資料数が急増したため、多いときには6か所の館外書庫を使用していました。行政資料の評価選別作業の進捗に合わせて館外書庫を統廃合してきましたが、それら施設の老朽化や適切な保管環境を維持できないこと、また館から最長45km離れているため資料の取寄せや職員の移動に時間を要すること等を問題視し、利便性及び保管・保存環境の向上を目指して平成30年度末から移転及び統合の検討を開始しました。令和2年4月に移転先を決定し、令和3年度に改修工事、令和4年3月から12月にかけて本館及び館外書庫の資料約1万3,000箱や備品等の移転作業を行いました。

3、旧瀬戸小学校の改修について
  当館が移転したのは平成29年度末に閉校した市立瀬戸小学校の校舎です。
〇鉄筋コンクリート造り2階建て 3棟(昭和49年・昭和56年・昭和60年造)
〇延べ床面積2,604.63㎡   敷地面積4,077.88㎡
〇令和2・3年度改修事業費(実施設計、残存廃棄物処理、工事監理、建設工事、電気設備工事、機械設備工事等) 約1億4,160万円
財源として総務省の過疎対策事業債1億1,850万円、ならびに過疎地域持続的発展支援交付金事業(過疎地域遊休施設再整備事業)2,000万円を活用。
  令和2年度に実施設計を行い、令和3年度9月~3月に改修工事を行いました。校舎は閉校してそれほど年数が経っていませんでしたが、一番古い棟は建築から50年近く経過し、雨漏りで吊り天井も崩れている状態だったため、屋根・外壁の改修に最も費用がかかっています。
  書庫は旧校舎の教室や廊下・トイレを転用していますが、可能な限り教室と廊下の間の壁を撤去し、書庫面積が広くなるようにしています。既存照明をLEDに改修したほか、外に面する壁には、基本的に壁から450㎜~1,000㎜内側に断熱材を入れた隔壁を設置し、一部は窓を発砲ウレタン断熱材で塞ぎ壁一面に遮光壁をはめ込む形式をとっています。
  また、バリアフリー対応として、車いす用のスロープ、多機能トイレを設置しています。

4、新館の概要
  館内は板張り床も多いことから、施設・管理等を考慮し、入館の際には土足を禁止しています。
(1)閲覧室(1号棟1階)
  閲覧室には開架書架を併設し、行政刊行物や天草に関する図書、郷土新聞複製本等が自由に閲覧できます。閉架書庫の資料や写真資料の閲覧等もここで行います。
(2)研修室・多目的フロア(1号棟1階)
  企画展等の普及活動は他の公共施設を短期借用して行っていましたが、研修室・多目的フロアを新設したことで展示や講演会、ワークショップ等を館内で開催できるようになりました。また、例年夏期開催で、県外からも参加のある古文書調査等も館内で行う予定です。

多目的フロア

多目的フロア

書庫(2号棟書庫1)

書庫(2号棟書庫1)

(3)閉架書庫
    〇1号棟 …1階2室・2階3室【行政刊行物・図書・地域史料・映像資料】
    〇2号棟 …1階1室・2階1室【地域史料・学校資料・行政資料】
    〇3号棟 …1階1室・2階2室【行政資料】    計10室(約1,485㎡)
  書庫の保管資料箱数を可能な限り多くするよう努めています。書架の配置案作成と購入契約事務は筆者が担当しましたが、消防設備等の配置や照明・換気スイッチの位置等は設計段階では決まっておらず改修が完了してから判明することもあったため、書架配置案の検討は繰り返し行いました。棟や部屋によって耐荷重量や天井高が異なるため奥行サイズや段数の異なる書架を併用し、棟ごとに書架の間隔を変えて配置しています。令和5年4月現在、書架延長は約3.2kmで、3号棟はまだ書架を配置していませんが、順次配置する予定です。
  空調設備を設けた書庫は1室のみで主に映像資料を置き、他の書庫では除湿機を用いた湿度調整と工業用扇風機での空気循環を行っています。また、災害時の浸水等に備え、1階に位置する書庫では書架の最下段には資料を配架しないようにしました。なお、防虫のための施設管理等については今後も整備していく必要があると考えています。
  行政資料について、当市は旧1市8町にそれぞれ市役所支所が設けられているため、平成18年度~移転前は各館外書庫で近隣の支所からの移管文書を受入れて目録整理や評価選別等を行っていました。館外書庫では支所別に資料を配架していましたが、本庁及び9支所分の資料を集めた現在は受入れ年度別に資料を配架するようにしています。行政資料は、移転直後は約9,000箱でしたが、選別後の廃棄を進め、令和5年4月現在は約7,700箱を保管しています。
  地域史料は、今回の移転を機に、天草に関係のない内容の図書等225箱を廃棄することとし、令和5年4月現在は約3,700箱を保管しています。

5、新館での取組みー普及活動を中心にー
  新館では、普及活動への取組みに最も力を入れる必要があると考えています。移転前に行ったことのある普及活動は、展示、市民講座、児童向けワークショップ、教育連携、バックヤード見学会等ですが、基本的には館外の会場で行っていました。館外の会場は連続しては一週間ほどしか使用できませんでしたが、新館では企画展の長期開催が可能となり、今回の開館に併せた企画展「天草・せどばしの100年」も令和5年1月23日~同年4月7日までの開催としました。ほか、当市や旧市町が作成した動画の上映会や市民も対象としたワークショップ等も計画しています。
  また、近年は教育連携の取組みも始めています。
〇平成29~31年度
夏休み前に市内小学校3年生~中学生を対象に「自由研究の利用案内」チラシ配布
〇平成31年度
小学校3~6年生を対象に夏休み自由研究ワークショップ開催・事前チラシ配布
郷土学習について小学校教諭にヒアリング実施
市内小学校教諭223名を対象に「資料の教材活用ニーズに関するアンケート」実施
(回答数156)
〇令和2年度~
教材用資料の分類化・デジタル化ならびに資料デジタル画像の提供(約1,200点)
〇令和3年度~
出前授業の実施
  当館には県職員である教諭が配属されることはないため、市内の小学校でどういう郷土学習が行われているかのヒアリングや、教材ニーズ等についてのアンケート調査を平成31年度に実施し、令和2年度から写真や地図を中心とした資料のデジタル画像の提供を開始しました。デジタル画像を学校用ファイルサーバにおき、授業での利用には申請不要としています。利用頻度については定期的にアンケートを行う計画です。
  また、平成31年度には児童向けに夏休み自由研究ワークショップも開催しましたが、当館で研究テーマを設定したことや、ワークショップ時間内で提出物が完成することから、平成29・30年度よりも夏休み期間の児童・生徒の利用者は増加しました。新型コロナウイルス感染症対策や当館の改修・移転事業のためワークショップ開催は中断していましたが、令和5年度からは再開する予定です。
  これらの活動により小学校教諭への当館の普及が進み、令和3年度には小学校から出前授業の依頼がくるようになりました。平成31年度に実施したアンケート調査では、当館の提供する写真や地図等の画像について、リストや画像データだけではなく授業案も欲しいという教諭の回答が多かったのですが、今後は教諭利用の前提だけでなく当館職員による出前授業用としての授業案を積極的に構築し、アウトリーチに活用したいと考えています。また、当館の研修室を、授業研究等で活用してもらうよう市内の学校教諭や地域学校協働活動推進員へ無料での貸出の案内をしています。
  当市の多くの市民は公共交通機関よりも自動車を利用して移動する方が多く、児童・生徒らが来館する際も保護者同伴である場合がほとんどです。保護者が来館しやすい休日のイベント開催等なども織り交ぜながら普及活動を展開する必要があると考えています。

6、おわりに
  当館は熊本県内では唯一の文書館ですが、文書館がどういう施設なのかという市民・県民の方の認知度はあまり高くないように感じています。教育連携やイベント等という普及活動と共に、WEB上での各資料の目録公開にも積極的に取り組んでいきたいと思います。

機関名: 天草市立天草アーカイブズ
所在地: 〒863-0041 熊本県天草市志柿町6335番地
電話/FAX: 0969-27-5500/0969-27-5511
Eメール: a-archives120■city.amakusa.lg.jp(■を@に替えてください。)
ホームページ: http://hp.amakusa-web.jp/a0695/MyHp/Pub/
交通: 1.産交バス「瀬戸大橋」から徒歩15分
  2.天草空港から車で25分、または阿蘇くまもと空港から車で2時間30分
開館年月日: 平成14年4月1日
設置根拠: 天草市立天草アーカイブズ条例
組織: 総務部―総務課―天草アーカイブズ管理係
人員: 館長1名(係長兼務)、正規職員2名(うち1名学芸員)、会計年度任用職員7名(うち2名学芸員)
建物: 閲覧室、多目的フロア、研修室、事務室、作業室、書庫 延べ床面積2,604.63㎡
所蔵資料: 行政資料、行政刊行物、地域史料、映像資料
開館時間: 午前9時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日: 土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12/29~1/3)
主要業務: (1) 文書等の管理、収集、整理及び保存に関すること。
  (2) 文書等の閲覧及び複写に関すること。
  (3) 文書等に関する調査及び研究に関すること。
  (4) 文書等に関する専門的な知識の普及及び啓発に関すること。