【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
事例報告②(北海道立文書館における電子公文書の保存・利用)

北海道立文書館
山田 正

  北海道は2003(平成15)年度に総合文書管理システム(以下「文書管理システム」という。)を導入、同時に文書館情報管理サブシステム(以下「文書館サブシステム」という。)も開発し、運用を開始した。
  導入の経過については、既に青山英幸「北海道立文書館における北海道総合文書管理システムの導入について」(『北海道立文書館研究紀要』第18号、2003年3月)、山田博司「北海道総合文書管理システム文書館情報管理サブシステムについて」(国立公文書館『アーカイブズ』第13号、平成15(2003)年12月)があるので、それらも参照されたい。
  文書管理システム及び文書館サブシステムは2021(令和3)年度末に更新されたが、筆者が十分把握できていない部分もあるため、本稿では旧システム下での電子公文書の保存・利用について報告させていただく。
  まず、文書管理システム導入前の文書管理について、知事部局の例により紹介する。
  北海道では、完結した文書を業務別などにまとめ、冊子体に製本して保存する簿冊方式をとっている。保存、移管(北海道では「引渡し」という。)、廃棄などは簿冊単位で行われる。
  簿冊は、4階層からなる分類とその分類において作成される「台帳・簿冊」の名称及びその保存期間を規定した文書分類表に則って作成する。
  文書は、完結の翌年度に保存開始となる。保存に際し、簿冊に含まれる文書の目録を作成して文書と一緒に綴じ、所定の表紙・背表紙をつけて製本する。また、保存文書台帳を作成して保存管理に用いる。保存文書台帳は課、完結年度、保存期間ごとに作成、文書分類、簿冊番号、台帳・簿冊名称を登記し、後述する引継ぎ、引渡し、廃棄などの情報を追記するようになっている。
  保存期間は、1・3・5・10・永年を基本とする。永年は「10年を超える」定義で、10年を超えたら保存の要否を見直すことができた。ただし、実際に見直されることは少なかったと思われる。なお、永年は2015(平成27)年度から30年に変更されている。
  保存は、保存期間が10年未満のものは主務課で、10年以上のものは文書主管課に引き継ぎ文書主管課で、行うこととなっている。ただし、主務課保存が適当なものは主務課保存してもよいとされており、引継ぎを行わず主務課で保存しているものは多い。
  評価・選別は、文書館が、主務課から送付される保存文書台帳写しにより、保存期間満了までの間に行う。文書館資料とすべきものがあればそれに指定し、主務課に通知しておくと、保存期間が満了したときに文書館に引き渡される、という仕組みである。
  文書管理システムの導入により、上記の文書事務はシステム上で行うこととなった。
  収受文書や報告書・決定書の添付資料のいずれかが紙の場合は紙文書となるため、文書単位では電子のものと紙のものがあり、簿冊単位では全て電子のものと、一部ないし全部が紙のものとがある。どの場合でも、標題、起案趣旨、起案者・決裁権者、承認履歴などの文書単位の情報や、簿冊名、作成課、文書分類、保存期間などの簿冊単位の情報が電子データとして蓄積されるので、文書の検索が容易になった。
  評価・選別は、文書管理システムで課・完結年度を選択し、対象文書の一覧を画面に表示させて行うこととなり、簿冊単位の情報だけでなく文書標題まで確認できるようになった。また、選別結果はシステムに登録すればよく、各課への指定通知は不要となった。
  指定文書については、保存期間満了後に、主務課において文書管理システムで引渡し決定をする。引渡し決定がなされたら、文書管理システムの文書館側の画面に表示されるので受領決定をする。すると文書管理システム上で「文書館引渡済」となり、引渡しが完了する。なお、紙の簿冊があれば、文書館への移送、現物の確認という手順が入る。
  引渡しされた電子文書について、山田博司(2003)では「電子文書の場合には、保存期間満了後に電子文書そのものも文書館に流れてくるようになります。」としている。しかし、電子文書を文書管理システムの外に出したときに原本であることをどう保証するかという問題がクリアできなかったため、引渡し後も電子文書そのものは文書管理システム内に残し、簿冊の状態が「文書館引渡済」に変更されるタイミングでアクセス権限を主務課から文書館に移すという方式がとられた。その結果、簿冊単位、文書単位の目録相当データのみが文書館サブシステムに渡されることになった。

図 移管(引渡し)に伴うデータ及び紙簿冊の流れ

図 移管(引渡し)に伴うデータ及び紙簿冊の流れ

  電子文書の利用については、セキュリティ上、文書管理システムの画面を一般利用者に操作させたり見せたりすることができないため、複製物で利用に供することとした。
  複製物は、文書館に付与された“引渡済文書を管理する特殊なアカウント”で文書管理システムを操作し、複製物を作りたい文書(簿冊)の表紙・文書目録、当該簿冊に含まれる個々の文書の鑑(起案用紙に相当する部分)及び添付ファイルを印刷機能と仮想プリンタを使用してPDF化し、それらのPDFファイルをCD-R、DVD-R等に書き込んで作成した。
  ディスク1枚に電子分冊1冊分のデータを記録し1点として管理することとしたため、電子分冊と紙分冊の両方がある簿冊の場合、〈ディスク+紙分冊の数量〉点で構成される。
  文書の“原本”は文書管理システム内にあり、いつでも複製物を作成できると考え、ディスクの保存性の不安は考慮せず、1枚のみ作成することとしていた。
  なお、電子文書が1件もない簿冊については、複製物を作成しなかった。
  検索、閲覧については、一般利用者の場合と、引渡し原課の職員の場合で異なる。
  一般利用者の場合は、他の資料と同様に文書館の目録で検索、閲覧請求してもらい、閲覧室備え付けのPCで閲覧してもらうこととしていた。
  引渡し原課職員の場合、文書管理システムで検索するとヒットするが、「文書館引渡済」となっていて内容は見られないので、文書館で閲覧することになる。閲覧方法は決めていなかったが、引渡し原課職員が業務で利用する場合は貸出しが可能であるため、閲覧室備え付けPCでの閲覧ではなく、閲覧用複製物を貸し出したであろうと考えられる。
  非公開情報については、PDF上で当該箇所を黒塗りしたものを作成し、閲覧に供することを想定していた。紙資料の場合、非公開情報を含む「丁」に袋がけをして閲覧に供している。電子文書では黒塗りを紙資料と同様「丁」単位でするか、文字単位でするか、二通り考えられるが、閲覧請求事例がなかったため、取扱いを決めないまま今日に至っている。
  冒頭に述べたように北海道のシステムは更新されたばかりだが、更新検討の際に課題だと認識できていなかったものが、今回のアーカイブズ研修IIで課題として示されていた。今後も電子公文書をテーマとした研修を開催していただければと希望するところである。