【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
事例報告①(国立公文書館「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の運用と業務について)

国立公文書館(現:(公財)沖縄県文化振興会)
西山 絵里子

1.はじめに
  本稿は、令和5(2023)年2月10日に開催された、令和4(2022)年度アーカイブズ研修Ⅱにおける「国立公文書館「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の運用と業務について」の概要をまとめたものです。
  国立公文書館では、平成23(2011)年度から電子公文書等の受入れを開始し、約10年が経過しました[1]。そうした中、令和4(2022)年度のアーカイブズ研修Ⅱでは、「電子公文書の保存・利用」をテーマに研修が開催されました。研修の中で、国立公文書館は、1日目に「国立公文書館における電子公文書の保存・利用」、2日目に「事例報告①(国立公文書館「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の運用と業務について)」の2つの講義を担当しました。1日目の講義では、国立公文書館における電子公文書等の保存と利用に関する基本的な考え方が示されました[2]。本稿の対象である2日目の講義では、国立公文書館において、1日目の講義で示された電子公文書等の保存と利用の考え方を、どのように移管から利用までの各業務に落とし込んでいるのか、国立公文書館での事例を紹介しました。これまでの実務の蓄積を踏まえつつ、現場の方がよりイメージしやすいよう、実務的な内容とすることを心掛けました。
  なお、本報告で取り上げた「電子公文書等の移管・保存・利用システム」は、令和5(2023)年4月より新システム[3]の稼働が始まっています。本稿では、報告時点で運用されていた旧システムを対象としていますが、システムが変わっても共通すると思われる根幹の部分を中心に整理しました。

2.電子公文書等の移管から利用までの業務と課題、対応
2.1. 電子公文書等の移管から利用までの全体の流れ
  国立公文書館では、「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法にかかる方針」[4](令和4年2月10日内閣府大臣官房公文書管理課長)に基づいて、電子公文書等の移管から利用までの業務を実施しています。ここでは、電子公文書等の移管から利用までの大まかな流れを述べます【図1】。
  移管元行政機関から移管される電子公文書等は、可搬媒体(例:CD、DVD等)又は政府共通で利用しているネットワークを介して国立公文書館に移管されます(移管)。国立公文書館では、移管されてきた電子公文書等を「電子公文書等の移管・保存・利用システム[5](以下「電子公文書等システム」という。)」を使って受入れから利用までの業務を実施しています。
  移管された電子公文書等について、電子公文書等システムで対応できるものについては、移管時の電子公文書等を電子公文書等システムに格納し、検疫等を実施します(受入れ)。
  次に、移管時のファイル・フォーマットから長期保存に適したファイル・フォーマットに変換し、保存します(保存)。
  電子公文書等の利用は、電子公文書等システムと連携した「国立公文書館デジタルアーカイブ」[6]で利用に供するほか、移管元行政機関による利用は、電子公文書等システムの機能を用いて利用に供しています(利用)。

図1 電子公文書等の移管から利用までの流れ

図1 電子公文書等の移管から利用までの流れ

2.2. 移管
2.2.1. 行政機関が保有する行政文書に占める電子媒体の状況
  内閣府大臣官房公文書管理課が公表している「公文書等の管理等の状況についての報告」[7]によると、行政機関が保有する行政文書ファイル[8]中の電子媒体(電子、電子及び紙)の割合は令和3(2021)年度には、16.8%となっています【図2】。また、新たに作成される行政文書に占める電子媒体の割合も年々増加傾向にあり、令和3(2021)年度には、31.3%となっています。このように、行政機関で保有している行政文書は、全体としてみると、紙媒体が大部分を占めているものの、電子媒体の割合が年々増加傾向にあるといえます。

図2 行政機関が保有する行政文書ファイル中の電子媒体

図2 行政機関が保有する行政文書ファイル中の電子媒体

2.2.2. 電子公文書等の移管に向けた業務
  国立公文書館では、歴史公文書等の適切な移管のため、移管の前年度に移管元行政機関に対し、移管手続きに関する説明会を実施しています。この説明会は、電子特有の取組ではなく、媒体を問わず実施しているものです。この説明会では、主に歴史公文書等の移管スケジュール、移管元行政機関が実施すべき作業、留意点等、移管に向けて移管元行政機関が把握しておくべき事項を周知しています。この中で、本稿では国立公文書館が移管元行政機関に案内している、電子公文書等を移管する際の留意事項の例を以下に示します。

  <電子公文書等を移管する際の留意事項(例)>
  1.パスワード設定等のアクセス制限は必ず解除し、電子ファイルが開けるかを確認する
  2.フォルダ名、ファイル名が長すぎないかを確認する
  3.移管漏れがないかを確認する
  4.移管前にどの行政文書ファイルが電子公文書等かわかるように整理する
  5.移管対象外の電子ファイルが紛れ込んでいないかを確認する

  上記の留意事項は、実際に国立公文書館が電子公文書等の受入れの実務を進める中で、頻繁に発生する移管元行政機関への照会事例から整理したものです。
  1については、そもそも電子ファイルが開けないと、適切な保存措置(フォーマット変換等)ができず、利用に供することもできません。現用時には適切なアクセス制限が必要になることが想定されますが、国立公文書館に移管された後には、一般の利用に供されることになるため、移管時に、パスワード設定等のアクセス制限を解除して、電子ファイルを開ける状態にしておく必要があります。
  2については、電子公文書等を利用する環境は、デジタル環境(PC等)となるため、扱うことができる文字数がOS等により制約があることに留意する必要があります。フォルダ名やファイル名が長すぎるとPC等で電子公文書等を扱うことができません。したがって、フォルダ名やファイル名が極端に長くならないようにする必要があります。
  3、5については、移管元行政機関において、例えば、移管対象とされている行政文書ファイルのフォルダがないケース又はその逆のケース(移管元行政機関が作成したリストの中で移管対象とはされていないが、実態として電子ファイルが移管されているケース)です。このような場合、国立公文書館では移管元行政機関に対し、該当する行政文書ファイルのフォルダ又は電子ファイルが移管対象かどうかを照会しています。移管元行政機関は、国立公文書館から照会を受けた場合、行政文書ファイルを管理している担当部署にさらに照会することもあり、対応に時間を要します。したがって、移管元行政機関では、移管時に移管対象としている文書が確実に国立公文書館に移管されているか、また、移管対象外の電子公文書等が含まれていないことを確認する必要があります。
  4については、3と関連して移管対象を明確にするためには、移管対象が電子公文書等だけなのか、紙と電子公文書等の両方なのか等、移管時の媒体を移管元行政機関で明確にしておく必要があります。
  また、国立公文書館では、移管元行政機関に対し、移管予定の電子公文書等の数量、媒体、ファイルサイズ等の情報提供を依頼しています。これは、移管予定の電子公文書等を事前に把握し、必要に応じて事前調整をするためです。例えば、特殊な媒体で移管されてくる場合や、国立公文書館が用意していたストレージ容量を超える極めて大容量の電子公文書等が移管されてきた場合、すぐには対応ができませんし、移管後から調整が始まると時間を要します。したがって、国立公文書館では、移管前に事前に移管対象の情報を収集し、必要に応じて移管元行政機関に媒体変換を依頼する等、移管前に移管元行政機関と調整を行います。また、ファイルサイズの情報等からは、次年度の受入れに向け、電子公文書等システムで必要となるストレージの容量を見積もり、確保するなどの対応を行っています。

2.2.3. 移管業務の課題及び対応
  移管業務の課題としては、2点が挙げられます。
  第一に、移管元行政機関とのコミュニケーションです。業務遂行の過程で文書を作成、管理する移管元行政機関と、それらの文書を受け入れ、長期間保存し、利用に供する国立公文書館とでは業務の目的が異なります。移管元行政機関が文書を作成する際には、目の前の業務遂行が第一なので、その文書がのちのち永久保存され、利用に供されるという観点は希薄になってしまうかもしれません。対して、国立公文書館では、どのようにしたら移管された文書を長期的に保存、利用に供することができるかを考えます。したがって、前提が異なる担当者間で会話をするにあたって国立公文書館からは、移管元行政機関において、文書の保存、利用の観点でどのような点に留意してもらいたいかをわかりやすく伝える必要があります。また、双方の人事異動等に備え、担当が変わっても標準的な対応ができるよう、国立公文書館側でも定型的に抑えるべきポイントを整理しておく等の対応が考えられます。併せて、移管元行政機関の担当者と意思疎通が円滑に進むよう、日々の業務を通じて移管元行政機関と国立公文書館の信頼関係の醸成が必要だと考えられます。
  第二に、移管予定の電子公文書等の情報把握にかかる業務の効率化、負担軽減です。2.2.2で述べたとおり、国立公文書館では、移管予定の電子公文書等の数量、媒体、ファイルサイズ等の情報を移管元行政機関から得ています。この情報をもとに、国立公文書館では、移管予定の電子公文書等を事前把握し、電子公文書等システムのストレージの容量を確保する等、次年度に向けた受入れ準備を行っています。これらの作業は、紙文書でいうと必要な書庫スペースの確保等に該当する作業であり、適切な受入れに際し必要な作業となります。移管元行政機関側で情報を収集する作業は手作業でおこなわれていると想定されます。初めからシステムで自動化しておけばよいではないかと思われるかもしれません。しかし、現実的にはそううまくはいかず、この点に限らず、システムを設計開発したときには想定がされていなかったことや実際に運用を開始してからの気づきがあり、運用上において発生する課題を検知し、トライアンドエラーで対応しているという状況です。2.2.1で述べたとおり、移管元行政機関が保有する電子公文書等及び国立公文書館が受け入れている電子公文書等の行政文書ファイル数は年々増加傾向にあるため、情報提供側である移管元行政機関での作業工数は今後ますます増加することが考えられます。さらに手作業はミスが発生しやすいものです。ミスが発生した場合は、国立公文書館から移管元行政機関側に照会をかけ、正しい内容を確認していますが、この確認にもお互い工数を要します。したがって、情報の取得にあたって自動化が可能な部分については、今後自動化されることが望ましいと考えます。

2.3. 受入れ
2.3.1. 電子公文書等の受入れ実績
  国立公文書館における電子公文書等の受入れ実績を【表1】に示します。2.2.1で移管元行政機関において作成、保有される電子公文書等は増加傾向にあることを述べましたが、国立公文書館における受入れ冊数も年々増加傾向にあります。令和3(2021)年度には、令和2(2020)年度の約3.5倍に増加しています。なお、ここでは、「1冊」=「1行政文書ファイル」として集計しています。行政文書ファイルは行政文書の集合体で構成され、行政文書は多様な電子ファイルでそれぞれ構成されています【図3】。このように、電子公文書等はフォルダや電子ファイルで階層構造化されており、それらを受け入れるためには、行政文書ファイル、行政文書、その中に含まれる多様な電子ファイルといった様々な要素に対応していく必要があります。

表1 国立公文書館における電子公文書等の受入れ冊数の実績

表1 国立公文書館における電子公文書等の受入れ冊数の実績


図3 行政文書ファイルのイメージと多様な電子ファイル

図3 行政文書ファイルのイメージと多様な電子ファイル

2.3.2. 電子公文書等の受入れ業務の実務
  電子公文書等の受入れ実務は、4つの手順でおこなっています。
  第一に、移管元行政機関から受領依頼があった電子公文書等について移管を受けます。移管方法としては、オンラインと可搬媒体の2種類があります。
  第二に、電子公文書等を受領し、データの確認をします。具体的には、どのような媒体か、ファイルが開けるかどうか、受領依頼があった電子公文書等との突合を実施します。
  第三に、データの確認の結果、疑義が生じた場合は移管元行政機関に照会します。例えば、ファイルが開けない場合や、受領依頼があった電子公文書等と実際に移管された電子公文書等との間で齟齬があったときなどが挙げられます。
  第四に、データの確認後問題がない電子公文書等を電子公文書等システムに格納し、検疫を実施します。
  このように、現状では、移管元行政機関から移管されてきた電子公文書等は、すぐにそのまま電子公文書等システムに登録できるわけではなく、国立公文書館側で、電子公文書等システムに格納する前に確認作業を実施しています。確認作業の結果、疑義及び照会が発生すると、移管元行政機関及び国立公文書館双方での対応が必要となります。

2.3.3. 電子公文書等の受入れ業務の課題及び対応
  電子公文書等の受入れ業務の課題としては、主に次の3点が挙げられます。
  第一に、電子公文書等の移管数の増加への対応です。この課題については、令和5(2023)年4月に更改された電子公文書等システムにおいて、クラウド化や、作業工程の並列化、これまで手作業で実施していた作業の自動化等を行っており、今後の業務の効率化が期待されます。
  第二に、移管・受入れ事務の効率化です。国立公文書館では、原則受入れ後1年以内に目録を公開するため、移管量が増加する中で業務の効率化を進める必要があります[9]。移管時に移管元行政機関で様々な様式を作成する必要があるため、それらの様式が自動的に作成されることや、移管もオンラインで完結するように一本化すること等が考えられます。これらの移管元行政機関に影響する対応については、新たな文書管理システムの検討に国立公文書館が関与していくことが考えられます。
  第三に、移管元行政機関への照会対応です。照会が増えれば増えるほど、全体の進捗に影響を及ぼすだけでなく、移管元行政機関及び国立公文書館の双方の負担が増加するため、照会を最小限にして、スムーズに電子公文書等システムに移管されてきた電子公文書等を取り込める状態が望ましいです。そのためには、移管元行政機関における移管時の適切な対応が求められます。移管元行政機関で適切な対応を促すための取組として、現在は、2.2.2.で述べた移管前年度に実施している移管元行政機関向けの説明会や、国立公文書館主催の研修を活用し、移管元行政機関に情報の周知を図っているところですが、今後も引き続き、国立公文書館からの積極的な情報提供が求められます。

2.4. 保存
2.4.1. 電子公文書等の保存業務の実務
  電子公文書等の保存業務の実務は、5つの手順でおこなっています。
  第一に、受け入れた電子公文書等のファイル・フォーマットを確認します。
  第二に、見読性を確保するために、長期保存に適したファイル・フォーマットに変換[10]します。
  第三に、各種メタデータを付与します。電子公文書等システムでは、「記録管理メタデータ」、「アーカイバルメタデータ」、「技術的メタデータ」、「コンテナメタデータ」の4種類のメタデータを管理しています【表2】。
  これら4つのメタデータが利用に供されるまでの流れを【図4】に示します。移管元行政機関が文書管理システム等により登録したメタデータは、電子公文書等とともに国立公文書館に移管されます。国立公文書館では、現用時に付与されたメタデータを電子公文書等システムの機能で「記録管理メタデータ」として管理します(A)。そして、記録管理メタデータをもとに、国立公文書館で管理、保存に必要な情報(例:請求番号、保存場所等)を職員が編集、付与し、「アーカイバルメタデータ」として電子公文書等システム上で管理します(B)。電子公文書等のファイル形式等の技術的な情報は、電子公文書等システムの機能により自動的に抽出され、「技術的メタデータ」として管理されます(C)。上記の記録管理メタデータ(A)、アーカイバルメタデータ(B)、技術的メタデータ(C)のすべてを包含したメタデータがコンテナメタデータ(D)です。国立公文書館では、電子公文書等システムでこれらのメタデータを管理するとともに、「国立公文書館デジタルアーカイブ」で所蔵資料の目録を公開していますが、電子公文書等の目録情報は、アーカイバルメタデータが基になっています。アーカイバルメタデータは、源流をたどると移管元行政機関が行政文書ファイル管理簿に登録したメタデータがベースになっています【図4】。したがって、移管元行政機関による移管時の適切なメタデータの付与が重要となります。このように、移管前の移管元行政機関における適切なメタデータの付与が、移管後の文書の適切な保存や、利用者の利用のしやすさにつながっています。
  第四に、電子公文書等システム内の長期保存ストレージにフォーマット変換をした電子公文書等やメタデータ等を保存します。
  第五に、長期保存ストレージに格納したデータをアーカイバル仕様のブルーレイディスクにも格納し、つくば分館に移送し遠隔地バックアップとしています。
  これら5つの手順は、基本的には電子公文書等システムの機能を使って実施していますが、全てが自動的に実施できるわけではありません。例えば、手順2の長期保存フォーマットへの変換について、変換が失敗した場合や自動的に変換ができないファイルのつくりになっている場合は手動で変換しています。また、手順3についても、メタデータの管理はシステムで実施していますが、メタデータの内容(例えば国立公文書館で管理、保存に必要な情報を付加するアーカイバルメタデータ)は、国立公文書館の職員により編集がなされています。このように、電子公文書等の適切な保存にあたっては、システムだけではなく、職員による細やかなオペレーションが必要となります。

表2 電子公文書等システムで管理しているメタデータ

表2 電子公文書等システムで管理しているメタデータ


図4 電子公文書等システムにおいてメタデータが利用に供されるまでの流れ

図4 電子公文書等システムにおいてメタデータが利用に供されるまでの流れ

2.4.2. 電子公文書等の保存業務の課題及び対応
  電子公文書等の保存業務の課題としては、主に次の3点が挙げられます。
  第一に、多様なファイル・フォーマットへの対応です。現用段階で作成されるファイル・フォーマットについては、現状、ルールがないため、移管元行政機関で作成された様々なファイル・フォーマットに対応する必要があります。国立公文書館では、長期保存に適したファイル・フォーマットに変換をしていますが、全ての電子ファイルを変換できるわけではありません。変換できないものは、受入れ時のファイル・フォーマットを保存しています。しかしながら、これらのファイル・フォーマットについては、長期的な見読性が保証されているわけではありません。したがって、現用段階から移管対象の電子公文書等の作成においては、どのようなファイル・フォーマットであれば長期保存に適した形で保存できるか、現用時にある程度のファイル・フォーマット等の標準化やルール化が必要となります。標準化、ルール化にあたっては、電子公文書等の受入れや長期的な保存、利用の観点から、国立公文書館から移管元行政機関への情報提供が今後必要となると考えられます。この課題については、次に述べるとおり、現在、国立公文書館で調査検討を実施しているところです。
  第二に、技術動向に合わせた「長期保存フォーマット」の更新です。国立公文書館では、2.4.1.で述べたとおり、移管時のファイル・フォーマットを長期保存に適したファイル・フォーマットに変換していますが、変換対象のファイル・フォーマットについては、「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」をベースに館の運用上で対応しています。同方針は一定の年月が経過しているため、昨今の技術的な変化に対応するため、国立公文書館では令和4(2022)年度~同5(2023)年度にかけて、「長期保存フォーマット」の見直しに向け調査検討を実施しています[11]。
  第三に、システムに格納できない電子公文書等の保存です。具体的には、コピープロテクトがかかったパッケージメディアや、システムに格納できない大容量の電子公文書等が移管されたときは、電子公文書等システムに格納することができないため、対応について検討が必要となります。

2-5. 利用
2.5.1. 電子公文書等の利用業務の実務
  電子公文書等の利用業務は、3つの手順でおこなっています。
  第一に、利用審査担当が、電子公文書等に含まれる利用制限情報の有無及びその内容を審査します。
  第二に、利用制限情報が含まれる場合、マスキング処理をおこない、複製物を作成します。マスキング処理は、電子公文書等システムで対応できるものについては、電子公文書等システムの機能を用いて実施し、一般提供可能な複製物を作成します。
  第三に、電子公文書等システムで対応可能な場合は、「国立公文書館デジタルアーカイブ」に目録情報と一般提供可能な複製物を連携します。この場合、利用者は、「国立公文書館デジタルアーカイブ」を介してオンラインでマスキングされた電子公文書等を閲覧することができます。電子公文書等システムで対応ができない場合は、一般提供可能な複製物をスタンドアロンの閲覧用端末に格納します。利用者は閲覧室に来館し、閲覧用端末を介してマスキングされた電子公文書等を閲覧することができます。

2.5.2. 電子公文書等の利用業務の課題及び対応
  電子公文書等の保存業務の課題としては、主に次の2点が挙げられます。
  第一に、特殊なファイル・フォーマットへの対応です。2.4.2.では、現用段階でのファイル・フォーマットについては特段のルールがないため、標準化と長期的な見読性の維持が課題になっていることを述べました。多様なファイル・フォーマットへの対応は、保存だけでなく利用の面でも課題があります。例えば、再生環境がないときに、電子公文書等をどのように確認し(例:電子ファイルの構成、内容、電子ファイル内部に埋め込まれている情報等の取り扱い)、利用審査が必要なときは具体的にどのようにおこない、利用者にどのように提供するか等が挙げられます。
  第二に、電子公文書等の利用については、紙文書に比してまだ事例が十分ではないため、潜在的な課題が存在している可能性もあり、今後利用実績を蓄積していく必要があります。また、電子公文書等の受入れから保存、利用の対応は、現状では、日々の運用の改善などもあり、電子公文書等システムを中心に限られた職員で対応をしていますが、今後は、紙文書と同様、より多くの職員で標準的な対応ができるよう、研修を充実させるなどし、電子公文書等の受入れから利用までの業務を浸透させる必要があります。

3.おわりに
  本稿では、令和4(2022)年度アーカイブズ研修Ⅱ「事例報告①(国立公文書館「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の運用と業務について)」の概要をまとめました。国立公文書館では、電子公文書等の受入れを平成23(2011)年度から開始して10年が経過しますが、現場では、全てが整然と美しく運用できているわけではなく、それぞれの作業工程で担当者が日々課題と向き合いながら対応しています。また、令和5(2023)年度から開始された新しい電子公文書等システムの運用もこれからというところです。
  国立公文書館では、電子公文書等の保存、利用にあたり電子公文書等システムを導入していますが、システムさえ導入すれば全てがうまくいくわけではなく、コミュニケーションや手作業などシステム外の対応も必要です。私は、電子公文書等の保存、利用は、これさえやれば全てが解決するという絶対的な回答はなく、それぞれの現場で日々の運用を図る中で、気づきや小さな改善等を積み重ねていく必要があると考えています。システムはひとつの手段にすぎません。そのため、日々発生する課題を記録化しチームで知恵を持ち寄り、今できることからやってみる。そしてそのノウハウを蓄積するなど課題解決に向けた取組を一歩ずつ実現していくこと。また、やりっぱなしではなく、継続した改善活動が重要であると考えます。2.4.1.で述べたとおり、アーカイブズ機関だけではなく、移管元行政機関側での対応も重要です。例えば適切なメタデータの付与や、古いバージョンのファイルについては移管時に最新のバージョンに変換し、現在の環境で開ける状態にして移管するなどの対応が挙げられます。こうした、移管前の対応が、受入れ、保存、ひいては利用者の利便性に大きく影響することも念頭においたうえで、アーカイブズ機関から移管元行政機関側への働きかけもますます重要になってくると考えられます。このように、現用側、非現用側が一体となって考え、行動を起こしていくことで電子公文書等の保存、利用は前進していくのではないでしょうか。まさに、その機運が国での議論や国立公文書館での調査検討などに現れ始めているように思います。
  以上、国立公文書館における、電子公文書等の保存・利用の実務的な側面を紹介してきましたが、10年が経過してもまだまだ様々な課題があります。国立公文書館では、日々の運用に始まり、調査検討の実施等、ノウハウを蓄積している状況です。移管元行政機関における行政文書の電子化は今後ますます進み、電子公文書等の保存・利用の考え方や技術も絶えず進歩していきます。今回の研修では、「電子公文書の保存・利用」がテーマであったため、電子にフォーカスしたお話になっていますが、それは、デジタルの技術が流動的でかつ変化が早いことから個々の課題が顕在化し、特別なもののようにみえるだけかもしれません。たしかに、紙とは別の検討要素が出てきているのは事実です。しかしながら、視野を広げますと、それぞれの現場に与えられたリソースの中で、電子も含め様々な媒体で作成されている歴史公文書等を長期的に保存し、利用に供するためにどうすべきか考え、アクションを起こすのは、アーカイブズに携わる者として共通のミッションなのではないでしょうか。
  本講義及び本稿が、電子公文書の今後の適切な保存及び利用を考える一助となれば幸いです。

〔注〕
(Webサイトの最終アクセス:2023年5月28日)
[1] 平成23(2011)年度から運用が開始された第一世代のシステムについては以下を参照。
風間吉之「電子公文書等の移管・保存・利用システムについて」『アーカイブズ』第47号、pp33-36
https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_47_p33.pdf
[2] 詳細については、本号の篠原佐和子「国立公文書館における電子公文書の保存・利用」を参照のこと。
[3] システム更改にあたって、国立公文書館では調査検討を実施し、その結果を踏まえ要件定義、設計開発を実施している。
「電子公文書等の適切な保存に係る調査検討報告書」(令和2年7月国立公文書館)
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/chousa_houkoku.pdf
[4] 「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」(令和4年2月10日内閣府大臣官房公文書管理課長)
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/tsuchi2-6.pdf
[5] 電子公文書等システムの概要については、前掲註1を参照。
[6] 「国立公文書館デジタルアーカイブ」https://www.digital.archives.go.jp/
なお、国立公文書館デジタルアーカイブで電子公文書等を検索する際には、「資料を探す」→「キーワード検索」→「詳細検索条件の設定」→「電子公文書等」にチェックを入れることで電子公文書等のみを絞り込み検索することができる。
[7] 「令和3年度における公文書等の管理等の状況についての報告」(令和4年11月 内閣府大臣官房公文書管理課)
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/houkoku/2021/pdf/2021_houkoku.pdf
[8] 「行政文書ファイル」とは、「能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存に資するよう、単独で管理することが適当であると認める行政文書を除き、適時に、相互に密接な関連を有する行政文書(保存期間を同じくすることが適当であるものに限る。)を一の集合物にまとめたもの」を指す。「公文書等の管理に関する法律」(平成21年法律第66号)
[9] 電子公文書等の保存に係る国立公文書館の課題は、以下を参照。
「国立公文書館における取組等」令和4年6月6日 第5回魅力ある新国立公文書館の展示・運営の在り方に関する検討会配布資料 資料1-1https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/miryoku/20220606/shiryou1-1.pdf
  また、移管元行政機関側での手続きの自動(効率)化も課題となっており、国において検討が進められている。
「新たに整備する行政文書の管理のための情報システム―残された論点に関する今後の方針案―」令和5年3月8日 第100回公文書管理委員会配布資料 資料3https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2023/0308/shiryou3.pdf
[10] 「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」(令和4年2月10日内閣府大臣官房公文書管理課長)」に基づき、国際標準に対応したPDF/AやJPEG2000などのファイル・フォーマットに変換している。
[11] 国立公文書館で進めている調査検討状況については以下を参照。
・「「電子公文書等の長期保存フォーマットを含む長期保存に関する調査検討」の状況について」令和4年11月9日 第99回公文書管理委員会配布資料 資料4-3https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2022/1109/shiryou4-3.pdf
・「電子公文書等の長期保存フォーマットを含む長期保存に関する調査検討」について 中間報告(令和4年度検討取りまとめ資料)」令和5年3月29日 国立公文書館総務課デジタル推進室https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/chousa_2023_03.pdf