【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
国立公文書館における電子公文書の保存・利用

国立公文書館 業務課
電子公文書係長 篠原 佐和子

はじめに
  国立公文書館(以下「当館」という。)では、平成23(2011)年度から、電子公文書等(歴史公文書等のうち、電子的方式で作られたものに限る。)の受入れを開始しました。
  当館における電子公文書等の保存と利用の考え方は、電子公文書等の受入れ開始に向けて、内閣府と当館が連携して検討し、「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」(平成22年3月26日内閣府大臣官房公文書管理課、令和4年2月10日に「行政文書の管理に関する公文書管理課長通知2-6」として改定)[1]に整理されています。
  ただし、方針の策定から10年以上を経過していることもあり、国の電子的管理の推進のもと、同方針はまさに見直しの転換期を迎えているところです。
  電子公文書等の保存・利用の考え方には、いまだ完成した正解はなく、当館の考え方や取組にも、まだ整理していかなくてはいけない課題があります。
  本稿では、電子公文書等の受入れ、保存、利用の実務を担当する立場から、このような転換期にあっても大きくは変わらないと考えられる、基本的な考え方を紹介します。この考え方に基づく実務の事例の詳細は、本号の西山報告[2]をご参照ください。

1.国立公文書館における基本的な考え方
  当館における電子公文書等の管理に関する基本的な考え方は、平成15(2003)年に内閣府に設置された「公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会」の検討結果に基づいています。この懇談会の成果としては、平成18(2006)年6月の「中間段階における集中管理及び電子媒体による管理・移管・保存に関する報告書」[3]で9つの基本的な視点が示されました。ここでは、その中から、主な3つを紹介します。

(1)「電子公文書等を電子媒体のまま保存する」
  電子公文書等を紙やマイクロフィルムなどの非電子媒体に出力して保存するのではなく、電子媒体のまま保存する、という考え方です。これは、作成・受入れ時の磁気ディスクや光ディスクのまま永久保存するという意味ではなく、それらを定期的に媒体変換するという考え方になります。

(2)「エッセンスの長期保存」
  「エッセンス」とは比喩的な表現ですが[4]、記録としての価値を維持するのに不可欠な電子公文書等の内容及び作成のコンテキスト(背景・状況・環境)を保存すべきであるという考え方です。
  何が「記録としての価値を維持するのに不可欠」かの判断は容易ではありませんが、その基準は社会状況と共に見直しが求められるものであり、まさにアーカイブズ機関の専門性が必要とされるところだと考えられます。

(3)「作成時から保存・利用段階までのライフサイクル全体の管理が必要」
  公文書管理法の施行から10年以上が経った現在では、ライフサイクル全体の管理の重要性は、あらためて強調する必要はないかもしれません。紙の場合でも、文書の内容によって様式が決められている事がありますが、電子公文書等においてはより一層、どのような項目(メタデータ)を管理するか、どのようなファイル形式(フォーマット)で記録するかなど、文書の作成前から、文書の作成と保存の仕組みを整備しておくことが重要になります。

  平成18(2006)年の報告書で示されたこれらの考え方は、現在も大きく変わりませんが、この考え方をもとに、電子公文書等の保存を4つの段階に整理してみます(図1)。

図1 電子公文書等の保存の様々な段階

図1 電子公文書等の保存の様々な段階

  まず「媒体の保存」の段階です。これは、CDやハードディスクなどの物理的な媒体から、データが取り出しできる段階です。媒体は長期保存の対象ではないと言っても、定期的な媒体変換ができるように、次の媒体にバトンをつなぐまでの数年間は、物理的な媒体の保存は必要となります。
  次の「データの保存」は、データが改ざんや破損なく維持されている段階です。
  そして「記録内容の保存」は、人が記録を読める状態にある段階です。データが保存されていたとしても、それを閲覧・視聴するための機器やソフトウェアなどの利用環境がなくては、記録内容を利用することができません。
  最後の「コンテキストの保存」は、文書が作成された背景・状況・環境などが分かり、記録の意味が理解できる段階です。

  これらの段階のうち、「媒体の保存」は、定期的な媒体変換を続ける体制や予算の確保という課題はありますが、技術的には不可能なことではなくなってきています。
  また「データの保存」は、複数拠点へのバックアップや改ざん検知、情報セキュリティなどの対策が、情報管理の一般的なソリューションとして提供されるようになっており、かけられる費用に応じた対応策はあります。
  一方「コンテキストの保存」については、文書が作成された背景・状況・環境などの情報は、本来は電子公文書等に限らず、あらゆる記録において、メタデータとして付与し管理することが望ましいものであります。
  そうすると、電子公文書等の保存においては、「記録内容の保存」すなわち見読性の確保が、差し当たり多くの機関が直面する課題と思われます。

  見読性を確保する方法としては、よく知られる例として3通りの方法を挙げました(図2)。

図2 見読性の確保の例

図2 見読性の確保の例

  1つ目は、昔のままのデータで保存し、その当時の機器やアプリケーションで閲覧・視聴する方法です。文書の作成時や受入れ時からさほど時間が経過していない場合には、これがもっとも容易であり、かつ作成時の見た目や機能を維持できる方法ですが、時の経過とともに、利用環境の維持が困難になるという課題があります。
  2つ目は、昔のままのデータで保存し、現在の一般的な機器を用いて、昔のデータを解析できる専用アプリケーションなどで閲覧・視聴する方法です。この方法では、技術力さえあれば様々なバリエーションが可能ですが、実際に何ができるかは、利用できる製品や技術に大きく依存します。
  3つ目は、受入れ時のデータを、長期保存に適したフォーマットに変換して保存し、現在の一般的な機器やアプリケーションで閲覧・視聴する方法です。この方法は、利用環境を準備するうえでの困難は少ないのですが、適切に変換できるかがポイントとなります。また、一度変換すれば終わりではなく、長期保存に適したフォーマットも長い時間の中でやがて陳腐化する時がくれば、また変換をする必要があります。従って、変換をする場合でも、いつ変換するかが運用上のポイントとなります。作成時から時間が経つほど変換は困難になっていきますが、何度も変換を繰り返すのを避けるためには、必要になった時に変換をするという考え方もできます。
  当館では、これまで3つ目の「変換をして保存する方法」を原則としてきました。また、できるだけ速やかに、受入れ時に変換をしてきました。これについて、電子公文書等の受入れ業務の状況や、技術動向などを踏まえて、改めて長期保存フォーマットに変換するタイミングなどの点検をするべく、令和4(2022)年度から同5(2023)年度にかけて、調査検討を行っているところです[5]。すなわち、すぐに見読性が失われるリスクが低いフォーマットであれば、当面は1つ目や2つ目の方法で保存と利用を行い、必要となったタイミングで、長期保存フォーマットに変換することも選択肢として考えられるのではないか、ということです。

2.国立公文書館の電子公文書等に係る法令・規則等
  電子記録の長期保存には、図書館や博物館などをはじめとした類縁機関でも、参考になる取組みをしています。それらを取り入れるかどうかの検討においては、当館が従うべき法令や規則等と整合がとれることを判断のポイントとしています。以下に当館における電子公文書等の実務で関係する法令や規則を示します(図3)。

図3 国立公文書館の電子公文書等に係る法令・規則等

図3 国立公文書館の電子公文書等に係る法令・規則等

  例えば、当館では、受入れ時にすぐに媒体変換をしていますが、これは「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン」でも示されている処置となります。なお、「媒体変換」は、「複製物の作成」と区別される保存の処置として、電磁的記録に限ることが、同ガイドラインで示されています。
  このうち「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」は、内閣府大臣官房公文書管理課長から、移管する側の各府省等と、移管を受ける側の国立公文書館に対して、電子公文書等の移管・保存・利用の具体的な方法が示された方針です。各府省等や国立公文書館の状況を踏まえた、まさに「具体的方法」が簡潔にまとめられており、その概要は以下のとおりです(図4)。

図4 電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針(概要)

図4 電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針(概要)

  まず、移管において、政府全体で統一的な文書管理システムを運用する状況を踏まえて、各府省等は、文書管理システムを活用して移管を行うこととされています。
  受入れにおいては、媒体変換後の元の媒体(移管時の可搬媒体)の扱いを明確にして、可搬媒体は「原則として保存しない」とされています。
  保存においては、「見読性を長期に確保することを図るため、原則として、長期保存フォーマットに変換した上で保存すること」とされ、長期保存フォーマットとして、PDF/A-1(ISO19005-1)やJPEG2000(ISO-IEC15444)が示されています。
  また、利用において、当館では平成17(2005)年度から「国立公文書館デジタルアーカイブ」を運用しているため、一般利用者には「複製物を作成し、デジタルアーカイブ等により一般利用」に提供するとされています。また移管元行政機関等による利用については、当館と各機関は政府共通ネットワークでつながっているため、政府共通ネットワークを通じて利用ができるシステムを運用することとされています。

  このように、具体的方法に係る方針は、当館や行政機関のシステム整備状況等を踏まえて、具体的にどうするべきかを定めたものです。もちろん、短い方針の中で、電子公文書等の受入れ、保存、利用に係るあらゆることを、具体的に示すことはできません。また、現時点では技術動向等が見通せず、対処を決められないこともあります。しかし、完成した正解はないからこそ、担当者の判断に任せて対処するのではなく、組織として対処する根拠を明らかにしておくことが重要と考えられます。

3.「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の基本的な考え方や特徴
  平成22(2010)年3月に内閣府公文書管理課から示された「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」に基づいて、当館は、平成22(2010)年度に電子公文書等の移管・保存・利用システム(電子公文書等システム:Electronic Records Archives of Japan、略称「ERAJ」)を構築し、平成23(2011)年度より同システムを運用して、電子公文書等を受入れ、保存し、利用に供する業務を実施してきました。令和5(2023)年度からは、新たな3世代目のシステムが運用を開始していますが、システムの基本的な考え方の部分は、最初のシステムからほとんど変わっていません(図5)。

図5 「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の基本的考え方

図5 「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の基本的考え方

  まず媒体変換として、移管された文書はシステムに取込みをします。
  次に、原本性の維持のため、ファイルの破損や改ざんを防止しています。その対策としては、システム全体のセキュリティ確保するため、例えばウィルスなどが混入しないように受入れ時に検疫をしています。また、適切なバックアップを取得して、システム障害などがあった場合でも、復旧できるようにしています。それに加え、ハッシュ値という暗号化技術を用いて生成した文字列を定期的に確認することで、電子ファイルが変更されていないことを確認しています。
  そして、見読性の確保のための機能としては、長期保存フォーマットに変換して保存をしています。また、電子ファイルのプロパティ情報などから、電子ファイルを作成したアプリケーション情報などを取得し、メタデータとして保存しています。
  コンテキストの保存としては、移管元の文書管理システムから、文書ファイル管理簿情報に該当するメタデータを連携してもらっています。
  利用については、一般利用はインターネットを通じて国立公文書館デジタルアーカイブで提供し、移管元行政機関に対しては、政府共通ネットワーク内で提供するなど、情報通信技術を用いて、来館せずに利用できるようにすることを基本としています。

おわりに
  以上、当館における電子公文書等の保存と利用の基本的な考え方を紹介しました。
  電子公文書等の保存と利用は難しい、という声を耳にしますし、私自身も日々そのように感じながら業務を続けています。しかし、電子公文書等の保存と利用だけが難しく、電子公文書等以外の保存と利用は、簡単なのでしょうか。酸性紙や感熱紙、青焼き、ビデオテープや映画フィルムのように、保存と利用が難しいのは、電子公文書等だけではありません。そして結局は、どのような媒体の記録でも、残そうとして管理し続けなくては、次の世代にまで残すことはできません。
  確かに、デジタル技術は発展途上なので、見通せないところがたくさんあります。電子的管理の推進は、文書管理の長年の課題の解決策にもなり得るかもしれませんし、これまでにない問題を引き起こすかもしれません。従って、新たな時代に対応していく発想の柔軟さと、慎重さと、両方が必要となります。また、取組みの結果がすぐに分からないことも多く、定めた方針に沿って地道に取組を続けながら、適宜、方針を見直していくことも必要です。
  当館における電子公文書等の保存・利用の基本的な考え方は、システム化を前提としているように見えるかもしれませんが、電子公文書等の保存と利用という仕事は、必ずしもシステムがないとできないわけではありません。まずは各機関において、紙文書等の保存や利用において培ってきた知識や経験をもとに、電子公文書等の保存・利用の基本的な考え方を整理し、できることから取組んでいくことが必要と考えられます。

〔注〕
[1] 「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」(令和4年2月10日内閣府大臣官房公文書管理課)
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/tsuchi2-6.pdf
[2] 西山絵里子「事例報告①(国立公文書館「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の運用と業務について)」、アーカイブズ88号、令和5年5月31日
[3] 公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会「中間段階における集中管理及び電子媒体による管理・移管・保存に関する報告書」、平成18年6月
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/kako_kaigi/kondankai/houkokusho2/houkokusho2.pdf
[4] 「エッセンス」概念の発生と国際的な展開については、拙稿を参照。
篠原佐和子「特定歴史公文書等のエッセンス -電子的管理の推進で求められる国立公文書館の保存対策方針-」『北の丸』54号、2022年3月
https://www.archives.go.jp/publication/kita/pdf/kita54_p147.pdf
[5] 国立公文書館「「電子公文書等の長期保存フォーマットを含む長期保存に関する調査検討」の状況について」令和4年11月9日 第99回公文書管理委員会、資料4-3
https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2022/1109/shiryou4-3.pdf
国立公文書館総務課デジタル推進室「電子公文書等の長期保存フォーマットを含む長期保存に関する調査検討」について 中間報告(令和4年度検討取りまとめ資料)」令和5年3月29日
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/chousa_2023_03.pdf