【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
「電子公文書の保存・利用」に関する研修を企画して

国立公文書館 統括公文書専門官室
研修連携担当

1.はじめに
  国立公文書館(以下「当館」という。)は、令和5年2月9日(木)、10日(金)に、「令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ」を開催しました。本研修は、公文書館等の職員を対象に、「アーキビストの職務基準書」が示す個別の知識・技能の向上を目的とし、特定のテーマに関する講義等からなる発展的研修と位置付け開催するものです[1]。令和4年度は、「電子公文書の保存・利用」をテーマに完全オンラインで開催し、国の機関をはじめ、府県、政令指定都市、市区町の公文書館等57機関から121名の参加がありました。

2.テーマ選定の経緯
  当館は、毎年度、全国の公文書館等に対して、アーカイブズ研修Ⅱで取り上げてほしいテーマを事前にアンケートでうかがっています。令和4年度は、「電子公文書の保存・利用」が最も多く希望にあがったテーマでした。過去、当研修で同テーマを取り上げたのは、公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)施行前の平成21年度です。当時は、「電子媒体による公文書等の管理・移管・保存・利用システムについて」というテーマで実施しました[2]。実に10年以上経ったわけですが、現在、組織の業務や個人の活動をみてもデジタル化が進み、あらゆるところでデジタル情報が生成されています。国の動向を見ても、例えば、「公文書管理の適正の確保のための取組について」(閣僚会議決定)(平成30年7月20日「行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議」)では、「作成から保存、廃棄・移管まで一貫して電子的に行う仕組みの検討」[3]を行うこととされました。また、平成31年3月「行政文書の電子的管理に関する基本的な方針」(内閣総理大臣決定)[4]において、今後作成・取得する文書は電子媒体を正本・原本として管理することが掲げられました。その後、内閣府の公文書管理委員会でもデジタルワーキング・グループを設置し、令和3年7月に「デジタル化時代の公文書管理について」[5]という報告書が取りまとめられ、デジタルでの管理を前提とした公文書管理の制度を進めていくこととなりました。こうした中、令和3年9月にはデジタル庁が設置され、社会全体の急速なデジタル化を見据え、行政手続きのオンライン化等の業務転換が図られています。さらに、令和4年2月には行政文書の管理に関するガイドライン(内閣総理大臣決定)の全部改正などが行われ、電子媒体での管理を基本とすることがルール化されました。このような社会の変容や技術の革新は、アーカイブズのあり方や考え方にも変容をもたらすものであり、またそこで働く職員がどのように対応していくべきかという点が問われているともいえます。

3.研修の内容
  以上の経緯を踏まえ、今回は、電子公文書の保存・利用に関する基本的な考え方のほかに、国の動向や当館、地方公文書館の取組に関する事例報告を中心に研修を企画しました。各講義及び事例報告の具体的な内容については、本号掲載の記事をぜひご覧ください。

 2月9日
 電子公文書の保存・利用-基本的考え方-  京都大学大学文書館
 橋本陽
 国における電子公文書の管理等について  内閣府大臣官房公文書管理課
 吉田真晃
 国立公文書館における電子公文書の保存・利用  国立公文書館
 篠原佐和子
 2月10日
 事例報告①(国立公文書館「電子公文書等の移管・保存・利用システム」の運用と業務について)  国立公文書館
 西山絵里子
 事例報告②(北海道立文書館における電子公文書の保存・利用)  北海道立文書館
 山田正
 事例報告③(神奈川県立公文書館における電子公文書の保存・利用)  神奈川県立公文書館
 内藤潤

  なお、事前に全国の公文書館等に対して行ったアンケートでも、電子公文書の移管や保存をどのように進めていけばよいのか、またどのように利用に供していけばよいのかという点で試行錯誤をしているといった回答が数多く見られました。そこで今回の研修では、実務に関する課題や解決策を討論する場を別途設けるのではなく、まずは電子公文書をめぐる最新の動向や取組事例等の情報収集を行っていただくことを一番の目的とし、各講義の中で疑問に思ったことを質問したり、コメントを述べたりする時間を設けることにしました。質疑応答では、電子公文書における評価選別や利用審査の在り方、メタデータ付与の責任の所在、オリジナルフォーマットの保存という原本性の確保の問題など多岐にわたる質問が出ました。

  4.おわりに~より良い研修を目指して~
  今回の研修テーマは、全国の公文書館等の中でも最も関心の高いテーマだけあり、研修後に受講生に対して行ったアンケートでも、電子公文書の保存・利用についての理論や国の動向、各館の事例報告を通して、網羅的に理解できたという声が多かったです。また事例報告を通して、各館が抱えている課題を共有でき、今後の業務を進めていく上でも参考になったという声もありました。今後とも、公文書館の運営上の課題やアーキビストの関心事項等を的確に把握し、より良い研修の企画・運営に努めていく所存です。引き続き、当館の研修連携業務へのより一層のご協力・ご指導の程何卒よろしくお願いいたします。

〔注〕
[1] 国立公文書館「研修計画(アーカイブズ研修)〈令和4年度〉」、
https://www.archives.go.jp/about/activity/pdf/ken_keikaku_archives_2022.pdf
[2] 国立公文書館『平成21年度 独立行政法人国立公文書館業務実績報告書』、71-72頁、
https://www.archives.go.jp/information/pdf/h21/report21.pdf
[3] 「公文書管理の適正の確保のための取組について」(平成30年7月20日行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議)、
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/tekisei/honbun.pdf
[4] 「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」(平成31年3月25日内閣総理大臣決定)、
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/densi/kihonntekihousin.pdf
[5] 「デジタル化時代の公文書管理について」(令和3年7月公文書管理委員会デジタルワーキング・グループ)、
https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/digitalwg/houkokusho.pdf