【アーキビスト認証特集】
「准認証アーキビスト」骨子について

国立公文書館 統括公文書専門官室
アーキビスト認証担当

はじめに
  独立行政法人国立公文書館(以下「当館」という。)では、アーキビストとしての専門性を有すると認められる者を当館長が認証するアーキビスト認証を、令和2年度より開始した。令和4年度までに281名の認証アーキビストが誕生している。そして現在、当館では、アーキビスト認証の取組を推進するため、准認証アーキビストの創設に向け準備を進めている[1]。こうした仕組みの定着を図り、普及・展開していくためには、公文書館のみならず、より多くのアーカイブズ機関や公文書作成機関、さらに個々のアーキビストなど関係者の理解を得ることは不可欠と考える。
  よって、ここでは、令和4年度までの准認証アーキビスト検討経緯を概観した上で、同年度末に定めた「「准認証アーキビスト」骨子」(令和5年3月30日、国立公文書館長決定)[2]について報告したい。

1.検討の経緯
  アーキビスト認証を創設するため、平成31年3月にアーカイブズに関係する組織及び団体からの推薦を受けた委員を含む有識者で構成されるアーキビスト認証準備委員会が設置され、同委員会を中心にして「アーキビストの職務基準書」[3]を踏まえたアーキビスト認証の創設に係る具体的な検討が行われた。令和元年12月に同委員会が取りまとめた「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」[4]の「3.アーキビスト認証制度の内容」において、「認証アーキビストに準じて公文書等の管理に携わる人材の充実を図るとともに、認証アーキビストへの社会的理解を深め、その活躍の場を拡げるため、「准アーキビスト」制度を導入する。」こと、そしてその速やかな導入を目指すことが提言されているように、アーキビスト認証の検討段階から「准アーキビスト」を設けることによるアーキビスト認証の充実が求められていた。
  「准アーキビスト」の検討は、引き続き令和2年6月に立ち上げられたアーキビスト認証委員会の意見を聞きながら行うこととし、同年8月の第2回同委員会では、認証対象を主に行政機関に勤務するAタイプ(文書管理の知見・経験を持つ実務者)、主にアーカイブズ機関に勤務するBタイプ(認証アーキビストの候補者)、主に高等教育機関に在学するCタイプ(アーキビストを目指す者)に整理し、検討を進めることとなった[5]。令和3年3月の第7回同委員会において、当時の内閣府大臣官房公文書管理課長から、AタイプはB・Cタイプとは別のものと整理する方向性が示されたことを受け、当館では、主にアーカイブズ機関に勤務するBタイプについて、①認証アーキビストと同様に業務を行う者、②認証アーキビストの指示のもとで作業を行う者に分け、Cタイプは③実務経験は無いが知識・技能等を修得した者として、整理・検討を進めることとなった[6]。
  令和3年4月に、全国公文書館長会議参加機関の協力を得て「アーキビスト認証の実施と拡充に関するアンケート」を実施し、現場における人材の配置や体制、役割分担等についての現況把握を図るとともに、①~③について資格化のニーズをお聞きし、さらに三つのアーカイブズ機関(広島県立文書館、尼崎市立歴史博物館(あまがさきアーカイブズ)、東京大学文書館)にヒアリングを行った[7]。
  令和3年9月の第9回同委員会では、上記アンケート・ヒアリング調査の結果において「准アーキビスト」(仮称)として上記③の資格化を支持する意見が多数であったことに鑑み、実務現場の声を反映し、認定対象を③に絞って検討することとした。
  第9回に続いて「准アーキビスト」(仮称)を検討した令和4年3月の第13回同委員会では、③実務経験は無いが知識・技能等を修得した者について、大学院生や現職者を対象とする案1と、大学の学部生を対象とする案2に整理し、そのメリット・デメリットについて検討を行った[8]。案1であれば、認証アーキビストに繋がる資格となること、また案2のように大学の学部段階で取得可能なものとすれば、その需要は相当程度期待されるといった意見が提示され、「「准アーキビスト」(仮称)の仕組み(たたき台)」に基づいて構想の具体化をさらに進めることとなった。
  続いて同年5月の第14回同委員会では、「たたき台」[9]に掲げられた二つの案の比較検討を通して、「准アーキビスト」(仮称)構想が議論された。同委員会において、「たたき台」案1の主な認定対象が認証アーキビストの要件の一つである「知識・技能等」を修得することができる大学院科目修得者と関係機関の研修修了者であることから、直接的に認証アーキビストに繋がっていくことが期待される一方、案2の主な対象は大学学部において「アーカイブズに係る基礎的知識」の科目修得者であるため、社会一般への普及・啓発を図る上では大きな効果が期待できるものの、認証アーキビストへの接続性が懸念されるとの意見が提示され、この段階では同委員会としての判断に至らなかった。
  当館では、上記の議論を踏まえ、「知識・技能等」を修得可能な科目を設置している高等教育機関等の意見を把握することが、実現性にも配意した議論を行うためには必須であると考え、関係する高等教育機関等の担当者との意見交換会を同年7月に行った。ここでは、アーキビストは大学院修士レベルの調査研究能力を求められる専門職であること、学部におけるアーカイブズ教育は専門職養成とは区別され実施されるべきといった意見が出された[10]。
  同年9月の第15回同委員会では、上記の高等教育機関等からの意見を踏まえ、専門職としてのアーキビスト養成教育を受けた者を認定対象とする上記の案1を基本線として「准アーキビスト」(仮称)の具体化を進めるとの結論に至った。

2.「准認証アーキビスト」骨子
  同年11月の第17回同委員会では、「准アーキビスト」骨子案が議論された。同委員会では、仮称としてきた「准アーキビスト」の名称は「准認証アーキビスト」が適当である旨が示された。同委員会での議論を踏まえ、「「准認証アーキビスト」骨子」を令和5年3月に当館において決定し、令和5年度に関係規則の整備や関係者及び関係機関への実施に向けた説明などを進めることとなった。
  第17回同委員会開催後、当館では令和5年3月の骨子決定に向け、アーキビスト養成に取り組む高等教育機関及び研修機関向け説明会(令和4年12月16日)、全国公文書館長会議参加機関向け説明会(令和5年1月20日)、第20回アーカイブズ関係機関協議会(同年2月6日)、日本歴史学協会国立公文書館特別委員会との懇談会(同月28日)において、同骨子案についての説明を行った[11]。
  こうした検討を経て、当館において、下記の「「准認証アーキビスト」骨子」を同年3月30日に定めた。

(参考)「准認証アーキビスト」骨子(令和5年3月30日、国立公文書館長決定)

(参考)「准認証アーキビスト」骨子(令和5年3月30日、国立公文書館長決定)

  上記の骨子は、認証アーキビストの仕組みと基本的に同型である。ここでは、准認証アーキビストの特徴であり、位置づけを巡る議論において重点となった「1 目的」「6 対象者及び要件」を特に取り上げ、その内容について説明を加えておきたい。

「1 目的」
  准認証アーキビストの目的は、「専門人材育成の道筋を示」すとしているように、将来的に認証アーキビスト等の専門人材となることを志向する又は期待される者が、その過程において認証アーキビストの一要件である「知識・技能等」を体系的に修得し、更に「実務経験」、「調査研究能力」を獲得することで、段階的に認証アーキビストへと進んでいくプロセスを確立することにある。
  准認証アーキビストは、認証アーキビストと同じく、当館が実施しているアーキビスト認証事業の一環として実施するものであり、准認証アーキビストは認証アーキビスト等の専門職員を補助する者ではなく、認証アーキビストにつながっていく候補者として位置付けている。

「6 対象者及び要件」
  認定要件は、認証アーキビストの3要件「知識・技能等」、「実務経験」、「調査研究能力」のうちの一つである「知識・技能等」としている。認証アーキビストが要件として一定の「実務経験」を必要としており、実務者(就業者、就業経験者)を対象としているのに対して、准認証アーキビストは「実務経験」を認定要件としておらず、学生など未就業者も認定対象の範囲内にある点を特徴として挙げることができる。
  具体的な認定対象は、①大学院修士課程において所定の科目を修得した者、②関係機関の所定の研修を修了した者であり、いずれもアーキビストとしての専門的な「知識・技能等」を体系的に学んだ者である。また、すでに公文書館をはじめとするアーカイブズ機関や公文書作成機関等に就業しているが「知識・技能等」を体系的に学んでいない者も、大学院修士課程の指定科目を修得すること、あるいは当館又は国文学研究資料館が主催する研修を修了することで認定の対象となる。
  准認証アーキビストの普及を図ることによって、体系的に「知識・技能等」を学ぶこと、また学び直すことの促進、ひいては、公文書館等の業務の質の向上にも繋がると考えられる。

  以上のように、准認証アーキビストは、将来的に認証アーキビストとなることが期待される者の「証」であると同時に、体系的に「知識・技能等」を学ぶ場である大学院・研修機関と、実務経験を積む場である公文書館をはじめとするアーカイブズ機関や公文書作成機関等とを繋ぎ、結果的に関係機関が一体となって専門人材の育成に取り組むことを促す仕組みとなることも期待される。

3.むすびにかえて
  当館では、令和6年度に准認証アーキビストの第1回認定に向けて準備を進めている。開始に向けた規則類や認定手続きの整備等を進め、関係機関に対して准認証アーキビストの趣旨等について説明を行ってまいりたい。准認証アーキビスト創設が、今後のアーカイブズに係る専門人材育成に十分な効果をもたらすためには、認証アーキビスト同様、関係機関と連携・協力していくことが不可欠であると考えている。前述のとおり、准認証アーキビストの認定対象となる人材の育成は、まずは大学院・研修機関で行われるが、全国の公文書館をはじめとするアーカイブズ機関や公文書作成機関等もまた、職員の認証アーキビスト・准認証アーキビスト取得につながる研修等への派遣や、現場での調査研究やその成果の発信について積極的に取り組んでいただくことを期待したい。

〔注〕
[1] なお、アーキビストの認証業務については、認証開始から約2年が経過し、当館の重要な業務として定着してきたことから、「業務方法書」(令和5年3月27日適用)に明記された。
[2] 「「准認証アーキビスト」骨子」令和5年3月30日、国立公文書館長決定
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/jyunninsho_kosshi.pdf )。
[3] 「アーキビストの職務基準書」(平成30年12月)
( https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/syokumukijunsyo.pdf )。
[4] 「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」(令和元年12月)
( https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/kihonntekikanngaekata.pdf )。
[5] アーキビスト認証委員会(第2回)配布資料
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_002.pdf )のうち、資料3、15ページ。
[6] アーキビスト認証委員会(第7回)委員会議事の記録
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/ninsho_giji_07.pdf )、12ページ。
アーキビスト認証委員会(第13回)委員会議事の記録
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/ninsho_giji_13.pdf )、10ページ。
[7] 調査結果は、アーキビスト認証委員会(第9回)配布資料
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_009.pdf )のうち、資料3、6~34ページに掲載。
[8] アーキビスト認証委員会(第13回)配布資料
https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_013.pdf)のうち、資料6、26~31ページ。
[9] アーキビスト認証委員会(第14回)配布資料
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_014.pdf )のうち、126~127ページ。
[10] 調査結果は、アーキビスト認証委員会(第15回)配布資料
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_015.pdf )のうち、資料3、99~104ページに掲載。
[11] 説明会の議事概要及び調査結果は、アーキビスト認証委員会(第18回)配布資料
( https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_018.pdf )のうち、資料4、18~32ページに掲載。