【アーキビスト認証特集】
東北大学大学院認証アーキビスト養成コースの開設

東北大学史料館
准教授 加藤 諭

はじめに
  東北大学では2022年度、大学院文学研究科に認証アーキビスト養成コースを設置した。独立行政法人国立公文書館が定める「認証アーキビスト審査規則」では、知識・技能等、実務経験、調査研究能力が基準に達していることを認証要件とする、第3条第1号に基づく申請が規定されている。この知識・技能等については、アーキビストの職務基準書に基づき、「認証アーキビスト審査規則」別表1の内容を満たす大学院修士課程における科目修得が必要とされている。「東北大学大学院文学研究科認証アーキビスト養成コース」はこの条件に対応する「大学院修士課程の科目」を提供するコースとして設計された。以下、本コースについて説明したい〔注1〕。

1、認証アーキビスト養成コースの体制
  国立公文書館による認証アーキビスト制度は2020年度から開始され、初年度当該制度に対応する知識・技能等を満たす大学院教育を実施していたのは、学習院大学のみであったが、2021年度には大阪大学、島根大学に広がりを見せていた。東北大学は、この認証アーキビスト制度開始以前より、大学院文学研究科において、アーキビスト養成について断続的に取り組んできており、2020年段階から認証アーキビスト制度に対応する大学院教育を模索していた。一方で東北大学大学院文学研究科では、2019年に大学院改組がおこなわれたばかりであり、2022年度まで組織の新設改廃が出来ない状況にあった。このため、2022年度のコース設置を想定しつつ、2020年~2021年にかけては先行する他大学の事例の調査期間となった。
  2019年に組織改組がなされたばかりで、新たな学科や専攻分野を新設する機運にはなかった東北大学大学院文学研究科では、学習院大学や島根大学のようにアーカイブズ学に関する主専攻を設け、その専攻分野のプログラムと認証アーキビスト制度を接合させていく、という方法よりは、大阪大学のように学内措置による副専攻的な位置づけの中で、コースを設置することがコンセンサスを得やすいと考えられた。一方大阪大学では、教育組織でない大阪大学アーカイブズがコースの主体となり、人文学、法学、経済学の3研究科がそれに協力する、という形をとったのに対して、東北大学はあくまで教育組織を主体としてコースの設置をおこなうことを目指した。これは前述の通り、東北大学大学院文学研究科が、2020年代以前にもアーキビスト養成に取り組んで来た経緯があったことも大きい。後述するように、東北大学大学院文学研究科認証アーキビスト養成コースは、6科目12単位を修了要件としてスタートさせているが、このうち3科目(アーカイブズ学特論、史料管理学Ⅰ、記録遺産保全学特論)については、2021年までに何らかのかたちで文学研究科に開講されていた既存科目をベースとしている。そうした基盤があった文学研究科にコースを設置することが、東北大学では意思決定しやすい状況にあったといえる。
  こうして3科目は既存の開講科目を基とし、2科目(アーカイブズ学研究演習、デジタルアーカイブ特論)は新規開講科目とする授業科目を文学研究科で実施することは大筋見通しがたったものの、法令関係に関する授業を文学研究科のみで開講することは難しかった。このためコースの設置主体は大学院文学研究科であるものの、大学院法学研究科で1科目(情報公開法令論)を新規に開講してもらい、部局間の単位互換に基づく、コース設定をおこなうこととなった。教務事務上においては、同一部局でコース管理が一元化されることが望ましいという側面はあるものの、またがる科目は1科目だけであり、相対的な負担は少ないこと、また縦割りになりがちな部局間において、文系部局で協力してコースを運営する体制が組めたことは制度設計として評価しうるものと思われる。
  また、このコース設置においては、2022年度のスタート時点においては、文学研究科専任教員(1科目担当)、法学研究科専任教員(1科目担当)だけでなく、史料館(2科目担当)、災害科学国際研究所(1科目担当)、学際科学フロンティア研究所(1科目担当)と学内計5部局の教員が協力して授業を担うかたちをとった。加えて、この東北大学大学院文学研究科認証アーキビスト養成コースを運営する「認証アーキビスト養成コース運営委員会」は、委員長を文学研究科専任教員から互選することとした一方で、副委員長は「東北大学史料館教員とする」ことが規定された。設置主体はあくまで大学院文学研究科ではあるものの、授業担当科目の数、また運営委員会の構成上において、大学アーカイブズが積極的に当該コースに関わる制度設計がなされたのである。

2、認証アーキビスト養成コースの考え方
  「認証アーキビスト審査規則」別表1では「単位数は計12単位を標準とする」と定めている。前述の通り、東北大学に認証アーキビスト養成コースを設置する時点では、学習院大学、大阪大学、島根大学が先行し、国立公文書館の認証アーキビスト制度に対応する動きをみせていた。学習院大学には大学院アーカイブズ学専攻が置かれており、島根大学では大学院人間社会科学研究科社会創成専攻アーカイブズ学分野が2021年度新設されていた。また大阪大学は、「大阪大学「アーキビスト養成・アーカイブズ学研究コース」要項」第4項において、「必修科目6科目12単位、選択科目のうちから2科目4単位以上を含む16単位以上を修得しなければならない」としているなど、各大学で12単位を超える履修内容が設けられていた。
  これに対し、東北大学は6科目12単位を必修のコース修了要件とし、選択履修などは設けないこととした。これは独立した専攻分野の新設ではなく、学内措置で副専攻に相当するコースを新設するかたちを採ったことによる要因が大きい。東北大学大学院文学研究科の主専攻の必修科目は専攻毎に曜日や時間が様々で、それらの必修とコースの必修が重なってしまうと、事実上その専攻分野の学生はコースの登録をしても修了することが難しくなってしまう。より多くの学生にコース登録の門戸を開くため、主専攻の単位履修を妨げず、コースを履修可能にするために、必要以上にコースの履修単位を増やさないようにしたのである。
  この事例からもうかがえるように、東北大学大学院文学研究科認証アーキビスト養成コースは、学内におけるコース登録のしやすさを強く意識して計画していった。2022年2月に定められた「認証アーキビスト養成コースに関する申合せ」では、コースへの登録資格は「コースに登録できるのは、本研究科博士課程前期2年の課程あるいは後期3年の課程に在籍する正規の学生、または本学の科目等履修生とする」としていたが、学内他研究科からの登録可否照会を受け、同年4月には「コースに登録できるのは、本学大学院に在籍する正規の学生、または本学の科目等履修生とする」とし、設置部局は大学院文学研究科ではあるものの、その登録は文学研究科に拠らないものとして拡大したのも、そうした登録門戸を開く措置の一環であった。また学部レベルでも本コースに触れる道を開くため、文学部4年生で希望する者は、コースが開講する科目を5科目10単位まで先行履修することができることとした。

認証アーキビスト養成コース開設記念シンポジウムの様子

認証アーキビスト養成コース開設記念シンポジウムの様子

  このほか、大学でのアーキビスト養成の役割を広く社会に浸透させるべく、2022年12月には「認証アーキビスト養成コース開設記念シンポジウム「アーカイブズ専門職拡充と大学の役割」」を開催、国立公文書館長、内閣府公文書管理課長をはじめとして、2022年時点で認証アーキビスト制度に対応する全国五大学が一堂に会する、初のシンポジウムも開催した。
  一方で、本コースは対面を基本とし平日のみの開講として設計されていることから、社会人学生が履修するための工夫は十分とはいえない。今後もより開かれたコースの運営を目指しながら、日本におけるアーキビスト養成の重要な役割を担っていきたいと考えている。


〔注〕
[1]東北大学大学院文学研究科認証アーキビスト養成コースついては以下も参照のこと。 加藤諭「東北大学大学院文学研究科認証アーキビスト養成コースの紹介」『記録と史料』第33号、2023年、86-88頁。