【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
事例報告③(神奈川県立公文書館における電子公文書の選別・保存等について)

神奈川県立公文書館
資料課 内藤 潤

1. はじめに
  神奈川県立公文書館(以下、「当館」という。)における電子公文書の受け入れは、令和4(2022)年度から開始したところである。しかし、作業を進めながら初めて判明する不具合や課題も多数生じていることから、運用実態は依然として試行錯誤の段階にある。
  今回、当館の状況をご紹介させていただく機会を得ることとなったが、こうした背景から、本稿に記載した内容は今後の変更も十分あり得ることを予めお断りさせていただく。
  なお、本稿の詳細は、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会の会誌『記録と史料』第33号(令和5年3月発行)に掲載している。

2. 当館のシステム導入
  当館では開館した平成5(1993)年11月に先代となるシステム(以下、「公文書館システム」という。)を導入していたが、その後20年以上を経過し、機能的な陳腐化が目立っていた。
  そうした中、文書課において県組織全体の電子公文書化を実現する文書管理システムを開発することとなったため、これを契機に当館でも新たな公文書館システムの導入を具体化することとした。
  導入にあたっては、文書管理システムで作成された電子公文書をデータのまま受け入れできるよう文書課とデータ仕様の調整を行い、また、システム開発基準やセキュリティポリシーを所管する情報システム部門とも調整を重ね、更に財政部門との予算調整を行った。
  業者選定では、当館が示した仕様に対してどのような対応が可能か提案してもらい、その内容も評価に含める総合評価方式一般競争入札を採用した。
  これらの結果、平成31(2019)年4月に2代目の公文書館システムが稼働し、現在も運用を続けている。

3. 神奈川県における電子公文書の導入
  前項で述べた、文書課による文書管理システムの概要にも触れておく。
  同システムは平成30(2018)年に導入され、電子起案、電子決裁、文書管理及び保存等の機能を有している。
  導入当初は移行期間として、従来型の紙の公文書へ押印する形も認められていたが、現在は電子公文書を原則としている。
  また、神奈川県では文書管理にファイリングシステムを採用していることから、同システムでもファイル区分ごとに保存期間の年数設定が可能となっている。電子公文書を作成し、電子決裁を得た後は、登録された保存期間を満了するまで同システム内で保存している。

4. 公文書館システムの構成

図1 公文書館システム(網掛けの範囲)及び関連部分の概要

図1 公文書館システム(網掛けの範囲)及び関連部分の概要

  公文書館システムは、図1の網掛けの範囲であり、主に2つのサブシステムで構成されている。
  サブシステム1は電子公文書の選別及び保存に関する機能を有し、サブシステム2は目録や目録に付加するデジタルアーカイブの公開に関する機能を有している。

5. 紙の公文書における処理の流れ
  前提として、当館では県条例に基づき、保存期間を満了した全ての公文書が当館へ引き渡される「全量引渡方式」を採用している。これは紙の公文書でも電子公文書でも同様である。
  まず、紙の公文書の処理の流れを示す。
  紙の公文書は、保存期間を満了するまで文書課の書庫等において保管され、満了後に当館へ搬送される。その量は文書保存箱で毎年1万箱以上に達するが、当館職員がすべての箱を開封し、保存又は廃棄を判断している。
  保存と判断された公文書は、歴史的公文書として区分される。当館職員は、作成年度やタイトル、概要等のメタデータを手入力で作成し、公文書館システムのサブシステム2に目録として登録している。

6. 電子公文書における処理の流れ
  現在の公文書館システムの導入により、文書課の文書管理システムから電子公文書をデータとして受け入れることが可能となった。その処理の流れは次のとおり。

(1) 保存期間が満了した電子公文書をサブシステム1で受け入れる。
(2) サブシステム1から電子公文書(起案情報や添付ファイル等)をダウンロードし、選別作業を行う。保存分は歴史的公文書としてシステム登録し、廃棄分はデータ削除する。
(3) 歴史的公文書となった電子公文書については、目録に必要なメタデータをコピー・ペーストや手入力で付与し、サブシステム2に登録する。
(4) その後、利用者から閲覧申込みがあれば、サブシステム1から歴史的公文書をダウンロードし、サブシステム2に存在する当該目録に付加する。付加内容は公開範囲を設定可能なため、「館内のみ公開」と設定することで、館内の利用者用パソコンによる閲覧に限定することができる。
※(3)及び(4)は現時点では未処理。

7. 現時点での課題等
  現時点において認識している課題等を示す。

(1) 電子公文書特有の選別作業
  電子公文書の選別作業では、サブシステム1からCSV形式の起案情報ファイルをダウンロードする。

図2 電子公文書の起案情報ファイル(イメージ)

図2 電子公文書の起案情報ファイル(イメージ)

  図2のとおり、電子公文書1件が1行として表示されており、出力した件数分、数百行、数千行と続く。単なるテキストの羅列であるため、紙の公文書と異なり、視覚的に内容の軽重を推察しにくい。
  また、電子公文書の添付ファイルを開くことで詳細を確認できるが、電子公文書1件に複数のファイルが添付されていることも多く、その開封作業等により、紙の公文書以上の手間と時間を要することがある。
  一方、段階的ながら、紙の公文書から電子公文書への切り替わりが進むため、職員1人あたり年間1,000箱に達する文書保存箱の搬入、開封、選別による仕分け、搬出等々、身体的負担が大きい作業が軽減されることと期待される。

(2) 添付ファイルの長期保存フォーマットへの変換
  電子公文書への添付ファイルについては、文書管理システム及び公文書館システムの双方とも、PDF/A等の長期保存フォーマットへの変換機能が無い。
  現状では元の形式(エクセルやワード等)のまま保存されるため、長期保存フォーマットにどのタイミングでどのように変換するのか課題となっている。
  また、単純な変換では、例えばエクセルの広大な集計表が数十ページのPDF/Aに細分化されてしまう等、閲覧時の視認性が損なわれる懸念も残る。

  その他、他システムからの電子公文書受け入れや、紙の公文書との併用処理なども課題となっている。また、データ処理時における想定外エラーの頻発等、システム上の課題も生じているが、エラーごとに原因を突き止める作業を繰り返しているところである。

8. おわりに
  当館には「全量引渡方式」という特徴があり、他館とは環境が異なる場合もあろうが、簡単ながら現状をご紹介させていただいた。
  当館では、電子公文書の受け入れから、選別、登録、公開まで、機能上は一連の作業がリモートワークでも可能となった。このような作業の質的な変化は、紙を前提とした公文書館業務から大きく変わる契機になるものと期待される。
  システムの安定運用や職員による作業の習熟にはなお時間を要することと思われるが、今後とも改善に努めてまいりたい。