北海道大学のアーカイヴズ活動について

北海道大学大学文書館
井上 高聡

(1) 北海道大学のアーカイヴズ始まりの記録
  1926年、北海道帝国大学は札幌農学校開校(1876年)から50年を迎え、『創基五十年記念 北海道帝国大学沿革史』を編纂しました。その例言に「過去を記述するに当り専ら第一次的文献に溯ることを努む。幸ひ明治五年開拓使仮学校当時の記録たる壬申日誌、壬申雑記を始め貴重なる無数の古文書を本学附属図書館に発見し多大の利便を得たり。」と記しています。
  そして、1926年4月26日付け『小樽新聞』は、「観者をして感慨深からしめる北大沿革史の史料展覧」とリードを打ち、人の背よりも高く何列にも積み上げた文書資料の山の写真と共に、以下の記事を掲載しています(引用にあたり、適宜、句読点等を付しました)。
写真は今回北大沿革史編纂に当って最も重要なる材料を提供した史料の山である。元田肇氏などの仮学校入学願書をはじめ、壬申日記に壬申雑記(明治五年)、女学校生徒の名簿もあれば、クラーク博士の招聘契約書やケプロンの報告(原文と訳文)、北海道志、開拓使事業報告、札幌農学校年報等枚挙に暇がない。それに写真も東京芝山内開拓使仮学校開校、当時の札幌農学校講堂及び寄宿舎、演武場、クラーク氏の設計にかゝる家畜房、それに例のクラーク氏帰国の際、札幌本陣に於ける勢揃と云った珍しいものばかりであるが、図書館では今度のお祝には之等全部を整理して展覧に供する由にて、大学の今日あるを知らんとする人には必ず見落してはならぬ貴重な見物である。
  前身校以来の公文書等の古い歴史的資料群を附属図書館に見出して、大学史編纂に活用し、さらに附属図書館で整理をして展示を行なうとする、北海道大学のアーカイヴズ始まりの記録です。

(2) 附属図書館が担ったアーカイヴズ機能
  以降、附属図書館は北海道大学の歴史に関する資料の保管を担い、創基80年、90年といった周年事業などに資料展示を実施しました。1971年には、北海道以北の北方地域に関する文献を収集・公開する附属図書館北方資料室内に、北海道大学沿革資料室を設置し、過去のものを含む学内刊行物等を中心に収集・保存・利用公開を図っています。大学概要、広報誌、校友会誌、同窓会誌、課外活動団体の部誌、学生新聞といった資料です。
  また、大学の創基100年(1976年)の『北大百年史』編纂事業では、附属図書館北方資料室は全面的な協力をしています。創基50年のときに見出した公文書資料を「札幌農学校簿書」として改めて整理し、この公文書資料を柱として『北大百年史』資料編「札幌農学校史料」を編集しました。また、当時、大学事務局で廃棄することが決まった戦前の公文書から重要なものをピックアップして保管したほか、100年史編纂事業のために収集した資料の保存も行ないました。
  附属図書館の資料収集は主に学内刊行物を対象としていましたが、学内外からの各種資料受け入れの窓口の役割も果たしました。

(3) 大学文書館の設置
  北海道大学大学文書館が開館したのは2005年5月です。
  1998年から5年半にわたる『北大百二十五年史』編纂事業を終え、大学の歴史に関する資料を恒常的に収集、整理、保存、公開する組織の必要が学内で認められました。当時、情報公開法関係法令施行(2001年)により、国立大学の歴史的公文書の保存・公開のあり方が課題となり、いくつかの国立大学アーカイヴズの改組や新設が続いていたという背景もありました。
  大学文書館は、附属図書館北方資料室から順次、大学関係資料の移管を受けることから出発しました。札幌農学校簿書約1000点、帝国大学期簿書約500点といった公文書資料や、大学及び関係団体の刊行物、講義・受講ノート、原稿、書簡、写真、美術品などです。これらの資料は、大学文書館所蔵資料の主柱となり、新たに資料を収集・整理・保存する際の指標となりました。
  2017年4月、公文書管理法関係法令に基づいた公文書と歴史資料等の保存・公開を行なう体制として、大学文書館内に公文書を担当する「公文書室」と、公文書以外の歴史資料等を担当する「沿革資料室」を設置しました。同時に、公文書室を大学の法人文書管理規程に位置付け、作成・取得から30年を経た法人文書を部局等から引き継ぎ5年間の集中管理を行なうこと、そして、この集中管理期間に保存・廃棄の選別を実施する体制としました。
  一方、沿革資料室では多様な資料を受け入れています。卒業生や元教職員やそのご家族からの寄贈資料、部・サークル・寮などの関係組織や研究室・事務室等の旧蔵資料などです。形態としては、文書資料に加え、写真・映像などの視聴覚資料、絵画・筆墨・扁額などの美術・創作品、看板や備品、建物の装飾の一部や基礎の一部などです。近年の収集資料の傾向として、1970年代、80年代くらいまでの戦後の資料が増えてきたことを挙げられます。当時の学生・教職員などの大学関係者が社会の第一線を退かれ、子・孫の世代になるなどして、思い入れのある旧蔵資料を寄贈いただくようになったためです。

(4) ローカルな専門性
  北海道大学大学文書館は、附属図書館をはじめとする北海道大学のアーカイヴズ活動を引き継いでいます。そうした活動の一環として、歴史的公文書を整理・保存・公開する体制の整備も行なっています。私個人は、大学文書館を、そこに行けば北海道大学の歴史について大概のことは知ることができる、といった施設でありたいと考えています。そのためには、歴史的事実を確定していく公文書資料と共に、幅広い歴史的事象を掬い上げる沿革資料の充実も重要です。
  また、利用者の目的に合った資料を紹介し提供するリファレンス対応も重視しています。そのために、公文書資料のどの表題の綴りにどういった文書が綴られているか、沿革資料のどの資料群にどういった内容の資料が含まれているかについて、館員がある程度、把握している必要があります。こうした知識は、日々のリファレンス業務、資料目録の作成、展示の作成、個々の関心に基づく研究などの経験で培われます。極めてローカルな経験知ですが、北海道大学大学文書館では不可欠な専門性と考えています。
  北海道大学は2026年に創基150年を迎えます。大学文書館は、現在、北海道大学150年史編集室を設置し、受け継いだアーカイヴズ活動とこれまで培ったローカルな専門性を基に、150年史編纂を進めています。