札幌市公文書館所蔵資料の現状と地域における役割

札幌市総務局行政部公文書館
公文書館専門員 梅藤 夕美子

はじめに
  札幌市では平成25年(2013年)に札幌市公文書館条例(以下「館条例」という。)を制定し、同年7月に札幌市公文書館が開館した。今年(令和5年(2023年))は開館10周年を迎える。本稿では、開館から10年を経た札幌市公文書館の所蔵資料の現状を紹介する。
  館条例第1条第1項において、当館は設置目的を「特定重要公文書[1]を適切に保存し、市民等の利用に供するため」としている。ただし、このような設置の目的とは別に、札幌市公文書館が辿ってきた歴史を背景とした特定重要公文書以外の資料(以下「一般資料」という。)も所蔵している。当館を訪れる市民や庁内各課の利用目的は様々であるが、特定重要公文書よりも一般資料の利用が圧倒的に多い。特定重要公文書と一般資料は当館にとって両輪であり、共に大切な所蔵資料である。よって、本稿では、特定重要公文書と一般資料の両方について令和4年度(2022年度)における現状を述べる。本稿の構成は、資料を種類ごとに、来歴も含めて説明する。そして、「おわりに」で所蔵資料からみた地域における役割について若干の考察を試みたい。

【画像1】札幌市公文書館入り口の外観(2023年1月筆者撮影)
明治18年(1885年)に開校し、平成16年(2004年)に閉校した旧豊水小学校校舎を再利用している。

【表1】札幌市公文書館関連年表



【画像2】札幌市制100周年記念
キャッチフレーズ&ロゴマーク

1.札幌市公文書館の所蔵資料
1.1.特定重要公文書
  本市では、当館開館に先立つ1年前、平成24年(2012年)に札幌市公文書管理条例(以下「管理条例」という。)を制定した。管理条例第2条第4項において、「公文書のうち、市政の重要事項に関わり、将来にわたって市の活動又は歴史を検証する上で重要な資料となるもの」を「重要公文書」と定義し、一般的に「特定歴史公文書」という語が用いられることの多い公文書館で永年保存される公文書について、同条第5項で「特定重要公文書」という用語を採用している。文書のライフサイクルを規定した管理条例が翌年(平成25年)に施行されることによって、当館では条例に基づいた公文書の評価・選別と特定重要公文書の移管受入を本格的に稼働させることになった[2]。
  本市において公文書の移管・廃棄の評価・選別権は原課(庁内各課)にあるが、管理条例第5条第7項及び平成25年に制定された札幌市公文書管理規則第10条第3項に基づいて、当館においても評価・選別を行うことができると定められている。当館の評価・選別は、保存期間満了年度に行われる。当年度で保存期間を満了するすべての簿冊を選別対象としており、例年約11~12万件が対象となる。当館での評価・選別を経て、原課との間で移管・廃棄の判断が異なる簿冊については協議(以下「原課協議」という。)を行い、札幌市としての選別結果を決定する。その後、公文書管理審議会の意見を聴取して、最終的な移管簿冊と廃棄簿冊を確定させる。本市の評価・選別の特徴としては、公文書館の評価・選別から原課協議まで、担当者が一人で決定するのではなく、公文書館専門員と事務職員(行政職)を交えて皆で移管・廃棄の意見を決めていくという点と、原課協議において公文書館と原課の意見を突合させて、最終的な移管・廃棄の意見を決定している点が挙げられる[3]。
  以上のように開館から毎年、評価・選別と受入を積み重ね、令和5年1月現在、当館が所蔵する特定重要公文書は9,858冊となっている[4]。
  自治体としての札幌市は、明治32年(1899年)に北海道区制が施行され、「札幌区」として発足した。大正11年(1922年)には市制が施行されて「札幌市」となった。本年度(令和4年度)は市制100周年を迎えた節目の年である。当館では、札幌区が発足した明治32年に作成され完結した特定重要公文書を5冊(「明治32年 区会決議録綴」簿冊コード 2013-1268、「明治32年 区会に関する書類 3冊の内1号」簿冊コード 2013-2560、「明治32年 区会に関する書類(3冊の内第3号)」簿冊コード 2013-1847、「区長事務引継書類 明治32年 札幌区」簿冊コード 2013-2619、「自明治32年区制実施後 道路橋梁堤防並木ニ関スル書類 札幌区役所」簿冊コード 2013-0536)所蔵しており、これらはすべて親組織である札幌市から移管されてきた簿冊である[5]。なお、当館の特定重要公文書には、札幌市と合併した自治体の簿冊も含まれている。

  当館で所蔵する一番新しい特定重要公文書は、開始・完結年度が平成30年度(2018年度)のものであり、その中には「北海道胆振東部地震関係」簿冊コード 2020-0178が含まれている。本市では、「公文書の管理に関するガイドライン」で示されている重要公文書該当基準(以下「該当基準」という。)に当てはまる簿冊を移管と判断している。当該簿冊は、該当基準の「本市域内の災害に関する公文書(災害対策本部が設置された場合に関するもの及びそれに準じるものに限る。)」[6]に該当するとして、保存期間は1年と短かったものの移管と判断した。
  当館所蔵資料において、現在も年々大幅に数を増やしているのはこの特定重要公文書であり、公文書の評価・選別・受入は当館の年間スケジュールの中核に置かれている。
  当館は地方自治法第244条で規定する「公の施設」である。館条例に明記されているように、特定重要公文書を市民の利用に供するために当館は存在する。特定重要公文書の利用促進には、館内での確実な業務遂行もさることながら、札幌市役所全体が公文書館の存在意義を理解しないと成り立たない。そのために、庁内において、特定重要公文書が業務の役に立つものであるという理解を促進するため、当館では市職員向けの公文書館研修に力を入れている[7]。

【画像6】『さっぽろ文庫』の例:
札幌市教育委員会文化資料室編『さっぽろ文庫6 時計台』札幌市教育委員会、1978年。
時計台創建100年を迎えた昭和53年(1978年)に、式典の日に合わせて刊行された。

1.2.一般資料
(1)資料構成と来歴
  館条例第2条第1項において「公文書館は、前条(梅藤注釈:設置目的)に規定する目的を達成するために次に掲げる事業を行う。」としており、当館の事業として挙げられているもののうち第3号「本市の歴史及び特性に関する調査研究及び情報提供を行うこと。」及び第4号「その他公文書館の設置目的を達成するために必要な事業。」を根拠として、当館では一般資料を所蔵・収集している。
  当館の利用者が閲覧・複写請求する資料は、特定重要公文書に比べて一般資料が圧倒的に多い。一般資料には、行政資料、図書・文書等、写真、絵はがき、地図、新聞スクラップ、私文書等の7種類がある。これらの資料の大半は、札幌市文化資料室と札幌市写真ライブラリーの2か所から引き継いだもので構成されている。以下、各組織の概略を述べる。
  札幌市文化資料室(以下「文化資料室」という。)は、昭和51年(1976年)に札幌の文化資料収集・整理・保存のために教育委員会に設置された。設置の背景として、それ以前に行われた二度の自治体史編纂事業[8]で収集した資料が、昭和51年当時には分散管理されていたことがあった[9]。文化資料室では、昭和52年(1977年)から文化叢書『さっぽろ文庫』の刊行を開始した。『さっぽろ文庫』は1テーマ1巻で編纂され、平成14年(2002年)に100巻で完結した。


【画像7】閲覧室に排架している『新札幌市史』全巻

  文化資料室のもう1つの主要な業務としては『新札幌市史』の編纂がある。昭和56年(1981年)に文化資料室内に新札幌市史編集室がおかれ[10]、昭和61年(1986年)から平成20年(2008年)まで、『新札幌市史』全8巻10冊[11]を編集・刊行した。『新札幌市史』は札幌の歴史、特に札幌市政の歴史を把握するための基本的文献であり、現在も当館において、評価・選別や展示作成などの業務で活用されている。もし『新札幌市史』がなければ、当館の業務は今以上に困難を伴うだろう。文化資料室は、平成19年(2007年)に教育委員会から総務局に所管替えされ、平成25年7月札幌市公文書館の開館に伴う機構改革により、事務分掌としても公文書館に置き換わった。



【画像8】行政資料「札幌市写真ライブラリー」パンフレット 登録番号93288

  札幌市写真ライブラリー(以下「写真ライブラリー」という。)は、平成5年(1993年)に開設した「写真を公共的な資料として専門に収蔵する北海道では初めて」[12]の施設である。写真ライブラリーでは開拓期から平成までの札幌に関する「歴史的写真資料」を、市内施設や個人から収集し、整理・保存していた。所蔵写真は常設展示室で公開され、閲覧・複写も可能であったほか、写真専用の貸ギャラリーも併設されていた[13]。写真ライブラリーは行政による写真専門施設という北海道初の試みではあったが、平成22年(2010年)に廃止され、歴史的写真資料は文化資料室へと移管された[14]。  
  当館所蔵の一般資料の大半が、以上のような組織から引き継がれたという来歴を持つ。以下に一般資料の種類ごとの概要を紹介していく。



【画像9】行政資料の例:
『札幌市統計書 令和3年度版』 
登録番号93916

(2)行政資料
  札幌市が刊行した行政資料は、文化資料室時代に収集したもののほかに、公文書館が開館してから移管されてきたものも多く、特定重要公文書とともに年々増加している資料である。令和4年12月末現在の所蔵点数は14,230点である。
  行政資料は、公文書の評価・選別において、原課の業務を把握するための重要な情報源となっており、行政資料がなくては当館の評価・選別は成り立たないだろう。
  現在、行政資料は主に市政刊行物コーナー[15]や原課から直接移管を受けている。近年、紙として刊行されず、本市ホームページ上で公開されるのみの行政資料が増えている。このような行政資料も確実に収集するための仕組みを検討中である。

(3)図書・文書等
  行政資料以外の一般図書・文書等を令和4年12月末現在、40,358点所蔵している。大半が、文化資料室時代に『新札幌市史』等の執筆のために収集された資料である。よって札幌に関する書籍や歴史学の書籍が多い。当館が開館してからは、アーカイブズ関連書籍を中心に数を増やしてはいるが、所蔵数の大幅な変化はない。しかし、市民からの郷土史に関するレファレンスにおいては、最も活用される資料である。

(4)写真
  写真は、「写真カード」と「旧写真ライブラリー」の2種類がある。
  「写真カード」は、令和4年12月末現在、43,801点所蔵している。その多くが『さっぽろ文庫』と『新札幌市史』発行のために収集された資料である。収集した時には、市民の閲覧・複写が想定されていなかったため、現在も個々の写真についての著作権や肖像権等の調査が進められており、権利関係の整理を終えたもののみ利用可としている。また、毎年数点ずつ市民から写真寄贈の申し出があり、これらの写真も「写真カード」として分類し登録している。
  「旧写真ライブラリー」は、前述した写真ライブラリーから移管された資料で、令和4年12月末現在29,468点所蔵している。一部が権利関係を理由に非公開とされているが、それ以外の写真は問題なく二次利用できるものが多い。よって、刊行物や映像などで利用したいという希望が多く寄せられる資料である。
  当館では令和4年12月末現在「写真カード」と「旧写真ライブラリー」合わせて73,269点の写真を所蔵している。令和3年度(2021年度)の実績では、1年間の一般資料の閲覧請求3,648点のうち、2,020点が写真であり、閲覧請求全体の約55%を占めている。1年間のうち11か月において写真資料は閲覧点数が最も多い資料であった。このように、当館は、大量の写真資料を所蔵し、その利用が最も多いという特色がある。

【画像10】写真カードの例:
「創建80周年自治50周年記念事業 札幌市役所庁舎」 登録番号22663
昭和24年(1949年)当時の市役所庁舎。この庁舎は現存しない。

【画像11】旧写真ライブラリーの例:
「冬の豊平館」 登録番号A-02889
豊平館は、明治13年(1880年)にホテルとして開拓使が建築した。現在は中島公園内に移築されている。国指定重要文化財。


(5)絵はがき
  令和4年12月末現在、7,309点所蔵している。絵はがきの内容は、市庁舎や豊平館などの札幌のランドマークとなるような建造物や、大正7年(1918年)に開催された「開道五十年記念北海道博覧会」[16]などのイベント、市電が走る風景など札幌の街並の写真で、多くが未使用のものである。多くの利用者が、著作権の保護年数が超過している古い絵はがきを、刊行物や映像に掲載するために閲覧・複写している。以上のことから、当館の絵はがきは、手紙の文面を資料とするよりも、昔の札幌の情景がわかる写真に類するものとして利用されることが多いと言える。

【画像12】絵はがきの例:
「開道五十年記念北海道博覧会[大通]」 
登録番号2985~2993
エンボス加工がなされた色彩鮮やかな絵はがき。中央の写真は大通公園で、左下には雪の結晶と「札」の字を組み合わせて図案化した札幌区の徽章(市制施行後も使用)が赤で印刷されている。右上の肖像写真は当時の札幌区長 阿部宇之八である。

【画像13】地図の例:「札幌区市街全図」 登録番号55


(6)地図
  文化資料室時代に収集した地図と、近年市政刊行物コーナーから移管されてきた地図から成る。主に明治以降の札幌に関する地図を、文化資料室時代に収集した。古い地図が多く、適時修復とデジタル化を進めている。令和4年12月末現在、地図の登録件数は1,981件である[17]。

(7)新聞スクラップ
  新聞スクラップは、文化資料室時代に『新札幌市史』の執筆のために収集された北海道主要紙の札幌関連の記事を1か月ごとに1冊のスクラップ帳にしたもので、965点所蔵している。そのうち著作権の保護年数が超過した新聞記事を公開している。特筆すべき点は、後述する検索システムにおいて、タイトルや年月日から記事を検索し、記事画像を閲覧することができるというサービスを提供していることである。

(8)私文書等 
  親組織から移管されてきた文書のほかに、個人・団体からの寄贈文書やモノ資料を所蔵している。本市には札幌の歴史に関する博物館施設が存在しない[18]ことから、市民から問合せがあれば館内で検討の上、札幌に関する資料の寄贈を受け入れることがある。令和4年12月末現在の所蔵点数は、20,962点である。当館には主に文化資料室時代に寄贈を受けた文書以外のモノ資料もあり、例えば勲章や帽子などが含まれる。私文書等は未整理の資料が多く、随時資料整理を進めている。
  なお、管理条例第2条第1項第5号において、公文書以外にも「法人その他の団体(実施機関を除く。)又は個人から市長に対し寄贈又は寄託の申出があった文書で、市政の重要事項に関わり、将来にわたって市の活動又は歴史を検証する上で重要な資料となると市長が認め、寄贈又は寄託を受けた文書」を特定重要公文書としている。この条項に基づき、当館では私文書として受け入れたものの中から、本市の歴史を検証する上で重要な資料となるものを、特定重要公文書へ適時登録替えしている。

【画像14】札幌市公文書目録公開システム 検索画面

2.検索システム
  ここでは、利用者が使用することができる検索システムを紹介する。当館では、特定重要公文書と一般資料の2種類の閲覧・複写申請書があり、検索システムも同じくこの2種類が別個の検索システムに分かれている。

2.1.公文書目録公開システム(公文書検索)
  本市では、令和3年7月から、現用公文書の「公文書目録検索システム」と特定重要公文書の「目録検索システム」を統合した新しい「札幌市公文書目録公開システム」(以下「公文書目録公開システム」という。)を、インターネットの札幌市Webで公開している[19]。「公文書目録公開システム」では、現用公文書と特定重要公文書を一括で検索することも、特定重要公文書のみ検索することも可能である。当館閲覧室の検索端末でも、利用者は「公文書目録検索システム」で特定重要公文書を検索することができる。

【画像15】札幌市公文書館所蔵資料検索画面

2.2.所蔵資料検索
  一般資料の検索は、Webで公開している「札幌市公文書館所蔵資料検索」[20](以下「所蔵資料検索」という。)で行うことができる。「所蔵資料検索」は文化資料室時代から使用しているシステムである。
  「所蔵資料検索」と銘打っているが、本システムは一般資料のみの検索システムであり、特定重要公文書の検索を行うことはできない。閲覧室においても、同じ仕様の検索システムが利用可能である。
  「所蔵資料検索」は、「文書・図書」・「写真」・「絵はがき」・「地図」・「新聞スクラップ」・「年表」[21]の6カテゴリーがあり、カテゴリーごとに検索する。カテゴリーの横断検索はできない。なお、行政資料は「図書・文書」カテゴリーにおいて検索可能である。
  なお、未整理の資料は除外されているため、すべての一般資料が検索システムに登録されているわけではない。随時、検索システム搭載可能資料を増やすために、資料整理を進めている。

【画像16】新聞スクラップ検索結果一覧画面の例

【画像17】新聞スクラップ記事画像画面の例



おわりに
  かつて札幌市公文書管理審議会副会長を務めた鈴江英一は、『近現代史料の管理と史料認識』の中で、資料保存体制としての文書館の機能を論じ、「自治体の文書館には、公文書館法の規定の有無にかかわらず地域の史料(アーカイブズ)の体系的保存に関与する役割があると考えている。(中略)自治体が管内の地域史料の保存を行うとする場合に、地域の中で文書・記録の保存を専掌する機関としての文書館にその役割を付託するのは十分に合理性があろう。(中略)地域の過去と現在を総合的に捉えるために、公私の文書・記録の保存を文書館が行うことは、自治体の方策としてむしろ適切な措置でないかと考える。」[22]と述べている。
  他方、早川和宏は「公文書管理法と自治体―法律への副反応?―」[23]で、不適切な公文書管理を新型コロナウイルス感染症に例え、公文書管理法の趣旨に則った制度の自治体への導入をコロナワクチンとし、公文書管理法をそのまま真似て自治体へ導入すると、思わぬ「副反応=不適切な対応」が起こり得ることを指摘している。早川の論稿は、国と自治体の法的性格の違いから、自治体の公文書管理における公文書管理法を模した制度の導入による「副反応」を論じたものだが、自治体アーカイブズ間でもこの「副反応」は起こり得る。
  自治体への公文書管理法を模した制度の導入は、あくまで文書管理という面での改善策の1つである。自治体史ブーム[24]を経ている日本の自治体アーカイブズは、収集アーカイブズの側面を持っているため、公文書管理法に模した制度の導入だけでは「副反応」が起こる可能性が高いだろう。
  本来、自治体によってアーカイブズの特性は異なるのが当然である。ある自治体アーカイブズで成功した方法(ワクチン)が、別の自治体アーカイブズで成功するとは限らない。また、一度所蔵した資料を手放すことはなかなかできない。それぞれの自治体アーカイブズは、館の背負っている歴史を踏まえて、地域の資料をめぐる状況を鑑みつつ、所蔵資料に最も適した制度を構築していく必要がある。この構築は、法的性格の違いと共に、自治体が辿ってきた歴史を背景に持つ所蔵資料の性格の違いによって決定付けられると考えられる。
  札幌市公文書館は、公文書管理法の影響を受けた管理条例の制定によって、現行の公文書の評価・選別を生み出し特定重要公文書を所蔵できるようになったため、文化資料室時代よりも飛躍できたと言える。その一方、当館は、札幌市の自治体史編纂事業の成果やかつて存在した文化施設の歴史を受け継いでいる。また、市内各地に郷土資料館があるが、人口約197万人の政令指定都市にもかかわらず、市立の総合博物館や歴史博物館はない。当館は博物館ではないが、各地の郷土資料館では所蔵することが適さない札幌市全域に関わる歴史的資料を所蔵していかざるを得ない現状にある[25]。その結果として、本稿で所蔵資料の概要についてみてきたように、当館の所蔵資料は特定重要公文書以外にも多彩な一般資料を含めて構成されることとなった。当館は、親組織である札幌市の特定重要公文書を所蔵すると共に、資料をめぐる札幌市の状況から親組織以外の歴史的資料を所蔵することで、地域の中で札幌の歴史に関する情報を総合的に提供する場という役割を果たしているのである。

〔注〕
[1] 特定重要公文書の詳細は1.1.で後述する。
[2] 文化資料室では、将来公文書館が開館することを見越して、管理条例の施行と公文書館の開館前である平成13年度(2001年度)から、重要な公文書の施行選別を行っていた。武田雅史「札幌市文化資料室における公文書の移管状況」札幌市文化資料室『文化資料室ニュース』第9号、2009年。
[3] 詳細は拙論「札幌市公文書管理条例と公文書館での評価・選別」全国歴史資料保存利用機関連絡協議会『記録と史料』第32号、2022年、49~53頁。同論文に修正加筆した拙論「札幌市公文書館における評価・選別の流れについて」『札幌市公文書館年報』第9号、2022年、76~85頁を参照。
[4] 令和3年度までに受入した特定重要公文書は9,345冊であり、保存期間別では、30年保存簿冊が6,118冊と全体の約65.5%を占める。
[5] 明治32年の区設置より前の札幌に関しては、北海道立文書館が札幌を管轄していた開拓使や札幌県、北海道庁の文書を所蔵している。「北海道立文書館 文書館資料のあらまし」
<https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/mnj/d/shiryonoaramasi.html>、2023年1月6日閲覧。
[6] 札幌市「公文書の管理に関するガイドライン」、17頁。
<https://www.city.sapporo.jp/somu/kobunsyo/documents/gaidorain.pdf>、2023年1月6日閲覧。
[7] 本年度は、令和4年11月8・9・11日に公文書館基礎研修を実施した。
[8] 本市初の自治体史は、昭和24年(1949年)の「創建80周年自治50周年記念編纂事業」として企画された『札幌市史』4部作(昭和28年(1953年)~昭和33年(1958年)刊行)である。次の自治体史は、昭和43年(1968年)の「創建100年記念事業」として企画された伝記『札幌百年の人びと』(昭和43年(1968年)刊行)・概説『札幌百年のあゆみ』(昭和45年(1970年)刊行)・年表『札幌百年の年譜』(同年刊行)の3部作である。「創建」とは、明治2年(1869年)の開拓使設置・札幌本府建設の着手を起点としている。『札幌市史』4部作と「創建100年史」3部作の書誌情報は以下の通り。札幌市史編集委員会編集『札幌市史 政治行政篇』札幌市役所、1953年。札幌市史編集委員会・田中潜編集『札幌市史 産業経済篇』1958年。同『札幌市史 文化社会篇』1958年。札幌市史編集委員会編集『札幌市史概説年表』1955年。札幌市編さん委員会編『札幌百年の人びと』札幌市、1968年。同『札幌百年のあゆみ』1970年。札幌市史編纂委員会編『札幌百年の年譜』札幌市、1970年。
[9] 特定重要公文書「文化資料室の新設方針伺」簿冊コード 2017-0303、札幌市公文書館所蔵。
[10] 札幌市教育委員会編集『新札幌市史』第8巻2、札幌市、2008年、850頁。
[11] 同上、第1巻通史1、1989年。同、第2巻通史2、1991年。同、第3巻通史3、1994年。同、第4巻通史4、1997年。同、第5巻通史5(上)、2002年。同、第5巻通史5(下)、2005年。同、第6巻史料編1、1987年。同、第7巻史料編2、1986年。同、第8巻1統計編、2000年。同、第8巻2年表・索引編、2008年。『新札幌市史』は昭和63年(1988年)の「創建120年記念事業」の一環として企画された。
[12] 行政資料「札幌市写真ライブラリー」登録番号93288、札幌市公文書館所蔵。
[13] 同上。
[14] 竹内啓「札幌市写真ライブラリーの廃止とその所蔵資料の移管について」札幌市文化資料室『文化資料室ニュース』第10号、2010年。同「札幌市公文書館への提言―新時代のアーカイブズ論―」札幌市文化資料室『札幌市文化資料室研究紀要―公文書館への道―』第2号、2010年、59~61頁。
[15] 札幌市役所本庁舎内にある市政刊行物コーナー(総務局行政部行政情報課所管)には行政資料が配架され、行政資料の閲覧・複写をすることができる。「市政刊行物コーナー」
<https://www.city.sapporo.jp/somu/kokai/kankobutsu.html>、2023年1月17日閲覧。
[16] 佐藤真名「さっぽろ閑話「大正7年の博覧会と札幌の都市発展」」『札幌市公文書館年報』第4号、2016年、56~68頁に、本博覧会に関する当館所蔵絵はがきが紹介されている。
[17] 同一地図が複数枚ある場合も多いので、ここでは登録番号を付与した件数を挙げる。
[18] 本市内には、将来の本格的な自然史系博物館整備に向けて開設された札幌市博物館活動センターと、道立の総合博物館である北海道博物館がある。博物館活動センターは札幌の自然の成り立ちと生きものについて学ぶ施設であり、北海道博物館は北海道の自然・歴史・文化を紹介する施設であって、札幌の歴史を目的とした博物館ではない。また、札幌市資料館(旧札幌控訴院庁舎)があるが、資料の収集・保存・整理などの博物館業務は行っていない。
博物館活動センター「計画推進方針(平成13年(2001年)1月)のあらまし 」
<https://www.city.sapporo.jp/museum/outline/policyrepub.html>、
同「施設概要」<https://www.city.sapporo.jp/museum/guide/index.html>、
北海道博物館について<ttps://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/about/>、
札幌市資料館<https://www.s-shiryokan.jp/>、2023年1月7日閲覧。
[19] 札幌市「公文書検索トップページ」<https://www.city.sapporo.jp/somu/kobunsyomokuroku/top.html>、2023年1月12日閲覧。
[20] 「札幌市公文書館所蔵資料検索」<http://archives.city.sapporo.jp/>、2023年1月12日閲覧。
[21] 札幌市に関連する出来事の年表が検索できるようになっている。
[22] 鈴江英一『近現代史料の管理と史料認識』北海道大学図書刊行会、2002年、48~49頁。
[23] 早川和宏「公文書管理法と自治体―法律への副反応?―」宮間純一編『公文書管理法時代の自治体と文書管理』勉誠出版、2022年、23~48頁。
[24] 金原左門「日本の「自治体」史編纂と歴史家の役割」歴史学研究会編『歴史学研究』642号、青木書店、1993年2月、1頁。
[25] 当館は公文書館でありながら、所蔵資料面では博物館の役割を一部担っていると言えるだろう。各地域の状況によっては、1つの施設の中にMLA機能のうち複数の機能(MA機能やML機能、LA機能)が含まれる場合の方が、日本に多く見られる状況ではないだろうか。MLA連携と言えば、真っ先に思い浮かぶことが異なる3館の連携という視点だと思われるが、同一館にある複数の機能の融合という観点から考えてみてもいいように思う。