令和4年度 国立公文書館実習を終えて

学習院大学大学院人文科学研究科
アーカイブズ学専攻博士前期課程
1年 赤澤 花凜、福井 恵佳

1 概要
  2022年8月22日(月)から9月2日(金)まで、2週間の実習(1週目はアーカイブズ研修Ⅰ[1]受講 、2週目は館内実務研修))に参加した。本報告では、実習内容について「公文書の評価選別」、「目録作成」、「利用(出納業務)・利用審査」、「資料の保存・修復」、「電子公文書・デジタルアーカイブ」、「広報・展示」及び「その他の実習」の7つの視点を設定し、学習した点及び深く印象に残った点について述べさせていただくこととする。

2 公文書の評価選別
  アーカイブズ研修Ⅰの講義「公文書の評価選別」では、「公文書管理法に基づく公文書の評価選別」といった概要部分を学んだ。実習時には国立公文書館で行われている「保存期間満了時の措置と設定の確認」を実際に評価選別された公文書の事例を用いて考えた。そして、「行政文書の管理に関するガイドライン」の「別表第1」と「別表第2」の内容が含まれた参考資料を用いて、公文書等について、「移管」「廃棄」といった措置を検討した。評価選別時には別表を用いて機械的に判断を行うのではなく、職員間や移管元行政機関等とのコミュニケーション、文書作成当時の社会状況などを踏まえて、将来において残すべきものを判断することが重要であると学んだ。

3 目録作成
  アーカイブズ研修Ⅰでは、法的根拠に基づき、国立公文書館での事例と共に資料の受入れから目録作成・公開までの流れを理解した。それを踏まえて2週目の実習では、実際の所蔵資料を用いて目録作成を体験させていただいた。まず、特定歴史公文書等に記載されている情報を転記する目録の採り方の原則や検索の利便性を考慮した採録の注意点について学んだ。目録採録時、資料のどの部分を項目として記述すればよいのか悩んでいたが、その際、件名の有無は利用者が閲覧したい資料にアクセスしやすくするためにはどうするか、といった視点で作成している、とご教示をいただいた。利用者を第一に考えている点は特に印象的であり、「資料」という物理的な物を扱う業務であっても、本質的には「利用者」という人間を対象としていることを忘れてはならない業務であると学んだ。

4 利用(出納業務)・利用審査
  利用(出納業務)・利用審査に係る実習では、1週目のアーカイブズ研修Ⅰにおいて国立公文書館の利用審査と閲覧業務の概要を学び、2週目の館内実習において書庫からの出納業務と利用審査の判断業務を実際の所蔵資料を用いて体験させていただいた。
  特に利用業務については、国立公文書館の書庫では誤返却防止のための付箋を棚に挟むルールや、要審査情報を誤って提供しないよう複製ファイルに注意書きをするルールによって、正確な資料の出納が行われていることを学んだ。また、利用審査業務については、『民事判決原本』などの資料を事例にして、「独立行政法人国立公文書館における公文書管理法に基づく利用請求に対する処分に係る審査基準」(別添参考の表)の「個人に関する情報」にあたるマスキング箇所が、時の経過により変化する様子を職員の方に解説していただき、審査基準についての理解を深めることができた。

国立公文書館での修復実習の様子

国立公文書館での修復実習の様子

5 保存・修復
  保存・修復の実習では、1週目のアーカイブズ研修Ⅰにおいて基本的な知識・技能と国立公文書館・広島県立文書館の事例について学び、2 週目の館内実習において保存・修復業務を体験させていただいた。
  保存業務のスキャニングや袋がけの作業、修復業務の裏打ちや和本の「綴じ」作業を通し、実物の資料を丁寧に扱う難しさを実感した。また、資料を丁寧かつ適切に扱えない理由には、保存・修復のための器具や資料自体の構造、修復の過程を事前に十分把握・理解していなかったことが関係しており、資料を適切に扱うためにはこれら知識が大前提になることを学んだ。

6 電子公文書・デジタルアーカイブ
  電子公文書とデジタルアーカイブの講義と実務実習では、「電子公文書等の移管・保存・利用システム」や「デジタルアーカイブのシステム運用」等を伺った。この実習では、「デジタル」という共通点がある2つのシステムの相違点について改めて確認することができた。電子公文書の移管・保存・利用システムの主な目的は「保存」であり、それに対して、デジタルアーカイブシステムの主な目的は目録の公開による「利用促進」である。この違いにより、それぞれのシステムは別であり、サーバーも異なる。このように電子公文書の保存管理とデジタルアーカイブの構築には国立公文書館の性質の違いがあるため、混同しないように注意しなければならないことを知った。

7 広報・展示
  広報・展示に係る実習では、1週目のアーカイブズ研修Ⅰにおいて国立公文書館の広報活動・展示活動の概要について学び、2週目の館内実習においては展示企画の考え方や展示の方法を実際の所蔵資料を用いてご指導いただいた。
  公文書管理法第 23 条には「利用の促進」をする活動として「展示」が挙げられており、「努力義務」という位置づけになる。しかし、職員の方のお話を伺うことで、公文書等を国民(市民)に「利用」してもらうためには、まずアーカイブズという機関と資料を知ってもらう必要があり、その効果的な方法として現在SNSや「国立公文書館デジタルアーカイブ」を活用した広報活動・展示活動が行われている、と改めてそれら活動の重要性を理解できた。また、展示体験を通し、国立公文書館は展示資料の多くが実際に利用請求できる資料であるため、資料への国民の興味関心を促すような魅力的な展示を行う必要がある、という博物館や美術館の展示とは異なる心がけを学んだ。

8 その他の実習
  その他の実習内容として、1週目のアーカイブズ研修Ⅰでは、グループ討論において様々な機関に所属している実務者と交流の機会をつくっていただいた。グループ討論では、その日に行われた講義テーマについて、各機関の取り組みや現状の課題等を共有した。討論を通じて、講義で説明された公文書等の管理や保存環境などの方法論は、人材・予算のコスト面からどの程度適用可能であるのか、現実的な側面から考える必要性を痛感した。実務者から直接お話しを伺えた機会に感謝し、今後もこの繋がりを大切にしていきたいと考える。

  また、2週目にはつくば分館を見学させていただいた。同じ国立公文書館であっても東京本館とは異なる業務内容や建物の構造について、館内見学を通じて視覚的、感覚的にも理解を深めることができた。特に、東京本館にはないくん蒸処理スペースを実際に拝見しながら、くん蒸する機械の性能やくん蒸スケジュールに関する問題について現場で作業する職員の方から詳細に伺ったため、受け入れ作業について見学以前よりも具体的、身近に考えられるようになった。また、つくば分館内の書庫は広いと感じたが、一方で保存スペースが不足している問題についても伺い、アーカイブズ資料を遺していくために必要な物理的スペース確保の難しさを実感した。

9 まとめ 
  以上の通り、1週目のアーカイブズ研修Ⅰ及び2週目の国立公文書館での実務研修を通し、現職の方からお話を直接伺ったり、実際に手を動かして作業を行ったりするなど、大学院での座学だけでは経験できない数多くの貴重な体験をさせていただいた。また、実習の最終日には、職員の方々と意見交換させていただき、職員の方がこれまでのキャリアを通して培ってきた様々な知識・経験を、現在の業務の中で活かされていることが分かった。そのため、我々も今回の実習で学ばせていただいた知識や内容を、今後の自身の研究やキャリア形成に役立てていきたい。

  最後に、実習の受け入れをご快諾いただきありがとうございました。また、国立公文書館の皆様にはお忙しい中、温かいご指導をいただきました。心よりお礼を申し上げます。

〔注〕
[1] アーカイブズ研修Ⅰは、主に公文書館等における初任者を対象とする公文書館制度や実務に関する基本的な研修である。国立公文書館「研修計画(アーカイブズ研修)〈令和4年度〉」、
https://www.archives.go.jp/about/activity/pdf/ken_keikaku_archives_2022.pdf