沖縄復帰50周年記念特別展「公文書でたどる沖縄の日本復帰」について

国立公文書館 統括公文書専門官室
展示担当 鈴木 隆春
高木 重治

1.はじめに
  令和4年(2022)は、昭和47年(1972)に沖縄が日本に復帰して50周年となる。この機会に、これまで国立公文書館でメインテーマとして扱われたことはなかった沖縄復帰をテーマとした展示ができないかというのが企画の発端で、令和3年の春ごろから検討を開始した。沖縄復帰をテーマとすることでまず考えられるのは、外務省外交史料館や沖縄県公文書館等の外部機関から関係する資料を借用して、当館の資料と合わせて展示することで、日本政府、アメリカ政府、沖縄といった多角的な視点から展示を構成することである。検討の過程で、当館が各府省から移管された公文書を所蔵しているという所蔵資料の特徴を活かすことが考えられ、さらに新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が続く中で、資料調査や借用が滞りなく行えるのかという課題が指摘された。これらを踏まえ、今回の特別展は日本政府からの視点で描くこととし、外部機関からの借用資料はオンラインの手続きで利用できる画像データに限定し、ケース内に展示する実物の資料はすべて当館が所蔵するものから選定することとした。

2. テーマの決定
  沖縄復帰をテーマとする展示といっても、展示で扱う時代がどこから始まり、どこで終わるのかという時代設定によっても構成の仕方が大きく異なってくる。展示で見せたいものは何かというサブテーマを定めて、それに見合う構成や展示資料を考える必要がある。「公文書でたどる沖縄の日本復帰」の場合は、最終的に2つのサブテーマを設けた。
  1つは当初から展示で一番の目玉となる資料と考えられた『佐藤榮作日記』を用いた展示とすることである。当館の所蔵資料は、各府省等、司法機関、独立行政法人等から移管を受けた公文書等と近世以前の古典籍・古文書である「内閣文庫」が主要なものになるが、団体又は個人から寄贈又は寄託された「寄贈・寄託文書」も存在している。当館の所蔵資料に寄贈や寄託による資料があることを広く知ってもらうとともに、資料保存のため通常は原本公開をしていない『佐藤榮作日記』を直に見ていただくことのできる貴重な機会と考えた。
  2つ目は、沖縄が日本に復帰してから50年が経過したことを踏まえ、復帰後の沖縄の歩みを当館の所蔵資料から描くことである。当館が所蔵している各府省等から移管された公文書の特徴を考慮した結果、沖縄の振興開発政策を取り上げることとした。沖縄は現在も多くの課題を抱えており、日本復帰によってすべての問題が解決したとは言えないが、復帰後30年の振興開発事業、その後の振興事業によって厳しい状況が改善してきたことも事実である。現在、そして将来の沖縄を考える上で、こうした歴史を知ってもらうことも大切なことだと考えた。

『佐藤榮作日記』昭和40年8月19日

『佐藤榮作日記』昭和40年8月19日

3. 資料調査
  『佐藤榮作日記』は昭和27年から昭和50年までの佐藤の直筆の日記で全40冊もあるため、どの頁を見てもらうかを絞り込む必要があった。日本とアメリカの間で行われた沖縄の施政権返還交渉は、佐藤内閣の主要な課題の1つであり、最終的に交渉をまとめ沖縄の日本復帰を実現したことは佐藤内閣の大きな成果である。しかし施政権返還交渉に関する外交文書は外務省が所蔵しており、当館には関連資料が乏しいという資料状況であったため、『佐藤榮作日記』を利用して返還交渉を描くことにした。具体的には、昭和40年8月に佐藤が戦後の総理大臣として初めて沖縄を訪問した際の日記と、昭和44年11月に最終的な合意を目指してニクソン大統領と会談を行うために渡米した際の日記を展示した。
  振興開発政策については、多岐にわたる事業の中でどの事業を紹介するのが効果的なのかを考える必要があった。資料の選定にあたり、①沖縄の振興開発にとって重要な意味をもつ事業、②沖縄になじみのない来場者にもわかりやすい内容の事業、③資料の年代や作成省庁が偏り過ぎないことの3点を考慮した。特に苦労したのは、展示の最後を2000年代初頭までもっていくために利用できる資料が限られていた点である。当館に移管される文書は、移管元機関における所定の保存期間満了後に移管される。そのため、2000年代以降の資料は、それ以前の時期に比べて所蔵資料が少なく、展示では、平成12年(2000)に発行された二千円札と平成15年に開業した沖縄都市モノレール(ゆいレール)の資料を並べたが、展示に利用できる資料が現段階でこの2点しかなかったというのが実情である。

4. 展示構成
  展示の構成として、復帰の前後で分けるというのが大きな枠組みで、第一部・第二部が沖縄戦から復帰まで、第三部・第四部が復帰後を扱っている。第一部は、沖縄戦から始まり、サンフランシスコ平和条約第3条で講和後も引き続きアメリカの統治下におかれることとなった沖縄と本土との関係を描いた。第二部は、沖縄に対する日本政府の関与が強まり、佐藤内閣が施政権返還交渉を進めていく過程と、復帰の決定によって必要となった行政上の措置の検討、さらに昭和47年5月15日の復帰の日までを扱っている。第三部は、通貨交換や交通方法の変更を取り上げ、復帰によってアメリカ統治下の制度から大きく変わることになった様相を描いた。第四部は、沖縄の振興開発政策の具体的な事業として、沖縄国際海洋博覧会、西表国立公園、琉球大学医学部附属病院、水資源開発、沖縄都市モノレール等を取り上げた。

展示解説会の様子(令和4年6月6日開催)

展示解説会の様子(令和4年6月6日開催)

5. 特別展の開催
  4月に入り、展示会の準備が進む中、4月22日には岸田文雄内閣総理大臣をはじめ、24名の来賓を迎えて内覧会・開会式が行われ、23日から開催した。会期中には監修の高良倉吉琉球大学名誉教授を講師にお迎えして「沖縄から見た公文書の意義」と題した記念講演会を開催したほか、展示解説会の開催や解説動画の公開などを行った。
  6月14日には天皇皇后両陛下、17日には上皇上皇后両陛下のご来臨があり、全体で5,150名の方にご来場いただき、6月19日に会期を終了した。
  ※記念講演会、展示紹介動画は下記URLで公開中。
    ・記念講演会
      https://www.youtube.com/watch?v=IOrh2VXwIrM
    ・展示紹介動画
      https://www.youtube.com/watch?v=M2g9mWuAJt4

6.特別展を振り返って
  改めて特別展を振り返ると、いくつか印象に残ったことがある。会場では展示会に関するアンケートを行っていたが、「こうした歴史があったことを知らなかった」という感想を少なからずいただいた。これは、担当が特別展開催前に経験した出来事と符合するものがあった。4月上旬、担当者は沖縄県を訪れ、高良名誉教授や沖縄県公文書館の職員の方々とお会いした。その際に異口同音に言われていたのが「今の若い世代、復帰後の世代は復帰前のことを知らない、もしくは関心を持たなくなってきている。だからこそ、この展示会をきっかけに、沖縄の歴史を知ってもらいたい」ということであった。4月22日の開会式でも岸田総理の式辞で「とりわけ、次代を担う若い世代の皆さんに足を運んでいただき、沖縄復帰の歴史的意義や沖縄の歴史を振り返るとともに、こうした歴史的に重要な公文書を残していくことの意義について、考えていただく機会としていただければと思います。」とのメッセージがあった。過去の出来事や記憶は時間が経つにつれて風化していく。記録を保存し後世に引き継いでいくこと、記録があることを広く伝えていくことの大切さを改めて感じた。
  別のアンケートの回答では「沖縄のいろいろな歩みを知ることができた」という感想をいただいた。これは企画者にとっても同じで、展示会を企画するたびに、改めてテーマについて、また、テーマに関係する資料について深く学ぶ機会になる。今回は戦後の沖縄の歩みを中心とした歴史を学び、当館所蔵資料を調査した。会期中に寄せられたアンケートや来場された当時を知る方々の貴重な話を含め、改めて、沖縄とその歴史について考える貴重な機会になった。
  末筆となったが、今回の特別展で監修をご担当いただいた高良名誉教授にはテーマの決定から展示構成、解説の執筆に至るまで、貴重な助言を数多く頂戴した。沖縄県公文書館の皆様には資料の提供に際して懇切な助言をいただき、大変お世話になった。また、開催の準備に際して多くの方々にご助言、ご協力を賜ったことに加え、会期中には5,000名を超える方にご来場いただいた。改めて感謝の意を表したい。