〔コラム〕
私にとっての一島一物語~沖縄復帰50周年の年に~

国立公文書館
幕田 兼治

1.はじめに
  ここに、平成26年11月5日衆議院経済産業委員会会議録第6号がある。この日の同委員会では、内閣(経済産業省所管)提出の官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律等の一部を改正する法律案が審議された。その中で、地域産業資源の活用方策に関連して、内閣府が先行的に行っていた2つの沖縄離島振興策事業である「一島一物語」事業と称された離島地域資源活用・産業育成モデル事業[1]及び沖縄離島振興特別対策事業[2]が取り上げられた。
  このような離島振興策の効果には、「遠隔性」、「散在性」、「狭小性」といった離島であるがゆえの逃れられないコスト高等条件不利性から来る産業振興等に制約がかかる。その一方で、離島の地域活力の低下が進めば、日本の領空・領海の保全など国家的利益の確保にも影響がでることもある。沖縄では「島ちゃび=離島苦」という方言もある。このため、沖縄県では、離島振興を一つの柱として位置付け、県を挙げて、離島住民が住み慣れた島で安心して暮らし続けることができるよう、定住条件の整備、島の特色を生かした産業の振興などに取り組んでいる。ちなみに、沖縄復帰50周年記念式典(令和4年5月15日東京・沖縄にて同時開催)での玉城デニー沖縄県知事の式辞では、「点在する多数の島々からなる広大な海域は、日本の国土総面積に匹敵し、広大な海洋から得られる多様な資源と多大な恩恵は、新たな発展に貢献できる、未来への可能性を有しております。」と述べている。国も沖縄振興特別措置法(特別立法・時限法)による集中的な沖縄振興策を行うとともに、沖縄を担当する特命担当大臣を置き(法律上必置[3])、内閣府に3つの部局[4]を設けて必要な支援[5]を行っており、上述の2つの沖縄離島振興策事業もその一環で行われたものである。
  私は、平成26年度から、本事業完了後のフォローアップを、沖縄県の企画部地域・離島課や関係市町村と協同して対応し、それをきっかけに、沖縄、とりわけ、離島市町村と深く関わりを持つことになった。
  そうした中、同委員会で質疑を行った議員は、「地域資源の活用ということを考えると、こういう補助金制度がなかったら多分何も出てこなかったと思うんですね。だめだったものもたくさんあるけれども、この補助金を使って動き出した、試作品157のうち51が今でも動いている。今言われたラム酒のように、新しい産業も出てきている。こういったことが本当に地域産業資源の活用促進ということなんじゃないか。補助金が無駄に使われてるという指摘がすぐなされますけれども、やはり大変な地域にはある程度のバックアップがない限り何も生まれてこない。」と発言され、沖縄離島をはじめ条件不利地域振興を担当する者へのエールとしても受け止め、今でも忘れられず、私の心に残っている。

2.離島とは
  沖縄には、東西約1,000㎞、南北約400㎞の広大な海域に、有人島47、無人島113[6]を合わせて、160の島[7]がある。それぞれの島々は、海に囲まれたという意味ですべて離島であるが、沖縄振興特別措置法上の離島、つまり、離島振興策の対象となる島とならない島がある。それも有人でもならない島もあれば、無人でもなる島がある。
  同法上の離島は、「沖縄にある島のうち、沖縄島以外の島で政令で定めるもの」とされ、同法施行令において、「宮古島、石垣島その他内閣総理大臣が関係行政機関の長に協議して指定した島」(以下「指定離島」という。)とされ、宮古島、石垣島を含む54(うち有人島37、無人島17)が指定されている[8](資料)。つまり、那覇空港、首里城、美ら海水族館などがある沖縄島は除かれ、さらに、その沖縄島と埋立・海中道路・架橋等で連結された島11(うち有人島9[9]、無人島2[10])は指定離島扱いとはなっていない。一方で、指定離島どうしが架橋で連結[11]されていても、それぞれが指定離島扱いになっている。

3.伊江島の物語―ラム酒「イエラムサンタマリア」―
  私は、離島の中でも、特に、上述の2つの事業をフォローアップした離島市町村との関わりが深く、久高島(南城市)の「イラブー(ウミヘビ)」、多良間島(多良間村)の「多良間ピンダ(山羊)」、座間味島(座間味村)の「ホエールウォッチング」、西表島(竹富町)の「サトウキビ収穫・製糖体験」など地域資源を活用した特産品開発・ブランド化など、それぞれの離島に、私にとっての「一島一物語」がある。
  ここでは、先の委員会でも話題となった「ラム酒」、その名は「Ie Rum Santa Maria(イエラムサンタマリア)」。私にとっての一島一物語として、「イエラムサンタマリアと出会った伊江島」を紹介したい。
  このラム酒の蒸留所は、元々はサトウキビから砂糖(ザラメ)を精製した後の残りのカス(バガス)からバイオマスエタノールを精製する実験施設。実験終了を受けて、その跡地利用として、先の沖縄離島振興特別対策事業を活用し、施設を再整備して始めたのがラム酒製造であった。
  伊江島は、沖縄島北部に浮かぶ、美ら海水族館から北西をみると、とんがり頭のタッチュー(沖縄の方言で「先端が尖っているもの」)ともよばれる城山(ぐすくやま)がすぐ目に留まる約20㎢ほどの小さな島。島のゆるキャラは「タッちゅん」で、装いは、テッポウユリとフェリーを飾ったタッチュー形の帽子、ピーナッツのパンツをはき、背中に島ラッキョウを背負い、伊江島の魅力を表している。
  古くから水不足に苦慮し、水をたくさん使用する酒造りは適さず、泡盛製造はされていなかった。この島で獲れたものから地酒をつくることは島民の念願の夢。その夢を叶え、将来につながるプロジェクトとして動き、誕生したのが、伊江島のサトウキビの絞り汁を直接原料にして仕込んだ国産のラム酒「イエラムサンタマリア」であった。今も新たな商品を開発し、島内の直売所のほか、オンラインで国内外に販売するとともに、沖縄県内のほか1都2府7県で飲める店が約60もあり、さらなる発展も期待できる。
  同委員会でも、内閣府の政府参考人が「伊江島で・・・ラム酒の製造、ここは初めてお酒をつくったわけでございまして、イエラムサンタマリアという、ブランド化させて現地でも通信販売で売られているものができるなど、成果があったものもございますし」と答弁している。

4.終わりに―沖縄復帰50周年の年に―
  令和4(2022)年3月31日に改正沖縄振興特別措置法が成立し、翌4月1日から第6次の沖縄振興がスタートした。
  同法は、昭和47(1972)年の沖縄の本土復帰時に制定された沖縄振興開発特別措置法を起源とし、10年の時限立法を改正・延長を続け、今回で第6次となる。当初(第1~3次)では、主として「本土との格差是正」(社会資本整備等による基礎条件の改善)を法の目的とし、第4次(平成14(2002)年改正)からは、主として「民間主導の自律型経済の構築」となった。また、第5次(平成24(2012)年改正)からは、沖縄県の主体性・自主性が活かせるよう沖縄振興計画の策定主体を国から県に変更し、使途の自由度の高い一括交付金制度を導入した。さらに、今回の第6次(令和4(2022)年改正)では、すべての特区・地域制度において措置実施計画の認定制度等の導入のほか、北部・離島地域振興に関する努力義務規定が盛り込まれた。
  改正同法の成立を受けて、沖縄担当の西銘恒三郎内閣府特命担当大臣は、「沖縄は、全国最下位の一人当たり県民所得や厳しい状況にある子どもの貧困など、なお解決すべき問題を抱えています。こうした課題を解決し、法が目的とする沖縄の自律的発展と豊かな住民生活が実現されるよう、沖縄県や市町村と連携しながら、引き続き沖縄振興に全力で取り組んでまいります。」とコメントを公表[12]している。
  私は、沖縄復帰50周年の年に、当館で開催している特別展「公文書でたどる沖縄の日本復帰」などイベントに参加したり、「沖縄振興の半世紀を振り返る」として特集を組んだ月刊誌『統計』[13]など図書・雑誌・新聞を読んだりして、沖縄の歴史的・社会的・地理的事情を踏まえながら振り返りと沖縄の未来に思いを巡らせている。その中で、沖縄復帰時(昭和47(1972)年5月15日午前0時)に設置されていた復帰スローガンの看板(沖縄県庁北口交差点の分離帯設置)には、「県民自治を基調とした平和で明るい豊かな県づくりに邁進しよう 沖縄県」とある。
  こういった復帰当時の思いも感じながら、これまでそしてこれからの人とのつながりや出会いを大切にして、私にとっての「一島一物語」に加えていきたい。

〔注〕
[1] 沖縄県の離島地域の資源を活用した特産品の開発等を支援することにより、離島活性化を図るなどの15事業(平成17~19年度)。
[2] 沖縄県の離島地域を対象に、地域の活性化に資する特産品の加工施設整備等への支援を行うことにより、産業の振興や雇用の確保等を図る8事業(平成19~22年度)。
[3] 内閣府設置法第10条。
[4] 政策統括官(沖縄政策担当)、沖縄振興局、沖縄総合事務局。
[5] 内閣総理大臣が沖縄振興基本方針を策定し、これに基づき沖縄振興計画が策定(沖縄県知事)され、同計画に基づいて、内閣府に一括計上された予算により事業を推進するなど特別の措置を講じている。
[6] 有人島・無人島数は、原則、平成27年国勢調査により人口が確認されたかによる。(「離島関係資料」令和3年3月沖縄県企画部)。
[7] 面積が0.01㎢以上の島の数。(「離島関係資料」令和3年3月沖縄県企画部)。
[8] 内閣府告示「沖縄振興特別措置法施行令の規定に基づき離島を指定した件」。
[9] 宮城島(大宜味村)、古宇利島(今帰仁村)、瀬底島(本部町)、屋我地島(名護市)、伊計島(うるま市)、宮城島(うるま市)、平安座島(うるま市)、浜比嘉島(うるま市)、奥武島(南城市)。
[10] 奥武島(名護市)、藪地島(うるま市)。
[11] 宮古島市(宮古島、池間島、来間島、伊良部島、下地島)、座間味村(慶留間島、外地島、阿嘉島)、伊平屋村(伊平屋島、野甫島)、久米島町(久米島、奥武島)。
[12] 令和4年3月31日付で、「西銘内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策)コメント」として、内閣府ホームページ上に公表。https://www8.cao.go.jp/okinawa/etc/houritsu/0331_comment.pdf
[13] 槌谷裕司「沖縄振興50年」、月刊誌『統計』2022年4月号、2022年
https://www.jstat.or.jp/mwbhpwp/wp-content/uploads/2022_04_p004_011.pdf