〔認証アーキビストだより〕
国立公文書館評価選別業務における認証アーキビストの役割について

国立公文書館 統括公文書専門官室
認証アーキビスト 村上 淳子

1 新しい言葉「アーキビスト」
  国立公文書館のアーキビスト認証は、令和2年度にスタートし、これまでに247名が認証を受けました。アーキビスト認証は、アーキビストとしての専門性を有すると認められる者を国立公文書館長が認証することとしたもので、「アーキビスト(archivist)とは、公文書館をはじめとするアーカイブズ(archives)において働く専門職員を言います」[1]と説明されています。しかし、アーキビスト、アーカイブズという言葉は、広く社会に浸透し定着しているとは言い難く、知らないという人も、聞いたことはあっても意味を知らないという人もまだまだ多いというのが実態ではないでしょうか。それだけに、アーキビスト認証の創設は、その存在が当たり前のものとして社会の中に定着するよう、アーカイブズやアーキビストという存在を周知する契機となることが期待されているといえます。医師や学芸員などとは異なり、免許や資格がなければ名乗れないというわけではないという点は、アーキビストという存在の説明し難さの理由の一つと思われます。そうであるがゆえに、今後、アーキビスト、アーカイブズという言葉が認知され、使い古された言葉となる日が来るまで、どのような実態を備えたものとして定着させていくか、まずはアーキビスト認証のスタートにより、その実態を作り上げていくことが求められている時なのだと思います。筆者は、国立公文書館における評価選別担当の専門職員(アーキビスト)として、令和元年度から3年間の業務経験を有するにすぎませんが、この経験から、これからの認証アーキビストの担うべき役割について考えてみたいと思います。

2 国立公文書館における評価選別の業務
  国立公文書館は、その目的として「特定歴史公文書等を保存し、および一般の利用に供すること等の事業を行うことにより、歴史公文書等の適切な保存及び利用を図ること」(国立公文書館法第4条)を掲げ、この目的を完遂するためさまざまな業務を行っています。評価選別は、その一つです。評価選別担当の主要な業務として、次の二点が挙げられます。一つは、行政機関が作成した行政文書について、保存期間が満了した時の措置が正しく設定されているか、その適否について専門的技術的助言を申し述べるというものです。もう一つが、公文書の保存期間が満了する時の廃棄に関し、行政機関が内閣総理大臣へ事前協議を行うに当たり、専門的技術的助言を申し述べるというものです。前者の保存期間満了時の措置の設定は、アメリカの制度を参考にしたもので、レコードスケジュールの設定と言われるものです。後者の廃棄に関する内閣総理大臣への事前協議は、平成23年施行の「公文書等の管理に関する法律」(平成21年法律第66号。以下「公文書管理法」という。)において、公文書の廃棄にあたっては内閣総理大臣の同意を必要とする仕組みが設けられていることによるもので、内閣府からの求めに応じて、国立公文書館は廃棄の適否ついての助言を申し述べています。公文書管理法においては、この二点の仕組み―レコードスケジュールの設定及び廃棄に係る内閣総理大臣の事前同意―を設け、歴史資料として重要な行政文書ファイル等が確実に移管されることを確保している、とされています。
  評価選別担当は、公文書管理法に言う、歴史資料として重要な行政文書ファイル等の確実な移管を確保するため、各行政機関が設定したレコードスケジュールについて、主として、廃棄と設定されたものが移管に該当する可能性がないかという観点から、行政機関に対して照会しながら確認します。その際、判断の基準となるのは、「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)の別表第2「保存期間満了時の措置の設定基準」です。この別表第2については今後見直しが行われる予定であり、要修正点の洗い出しを行うなど、評価選別担当としても準備を進めるところです。

歴史公文書等の移管(行政機関部分抜粋)

歴史公文書等の移管(行政機関部分抜粋)
国立公文書館パンフレットより(https://www.archives.go.jp/publication/pamphlet/pamphlet.pdf

3 評価選別業務における新たな動き
  デジタル庁の発足や行政のデジタル化への対応として、令和4年2月に前述のガイドラインが全部改正され、併せて「行政文書の管理に関するガイドラインの項目に沿った公文書管理課長通知」(令和4年2月10日内閣府大臣官房公文書管理課長)が各省へ通知されました。改正前は、行政機関が設定する保存期間が満了したときの措置について、「必要に応じ、独立行政法人国立公文書館の専門的技術的助言を求める」とされていましたが、必ず国立公文書館の助言を求めることと改正され、さらに、助言の内容に沿って、措置の変更等の必要な対応を行うこととなりました。また、令和3年度から4年度にかけて順次行われる文書管理システムの新システムへの更改に伴い、レコードスケジュールの設定における専門的技術的助言について、業務フローに即して各行政機関から国立公文書館へ直接依頼することが明記されるなど、文書管理における国立公文書館の位置付けがより強化されることとなりました。こうした動きは、デジタル化への対応などとともに、評価選別業務のより一層の効率化と質の向上を求めるものでもあり、これからますます加速していくことが予想されます。評価選別担当は、各行政機関との応答を通して、実務の現場において表面化しているさまざまな問題を直接把握しうる立場にあります。適切な移管のために必要な情報を集積し、継続して総覧することにより、新たに出来する諸問題に的確に対応し国の文書管理の一翼を担う役割が果たせるよう努めたいと思います。

4 認証アーキビストとしての評価選別業務
  文書管理法施行後、平成23年度から令和2年度にかけて国立公文書館へ移管された行政文書ファイル等の冊数は、約32万冊に上ります(「令和2年度独立行政法人国立公文書館業務実績等報告書」資料編 資料7https://www.archives.go.jp/information/pdf/r2/results2020_siryou.pdf)。電子媒体での作成・取得が推進されているとはいえ、当面移管受入れの対象となる紙媒体のファイルについて、これまで以上に厳選されたものとなるよう考慮することも課題と思われます。これまで実現できていない問題点について改めて考えてみることも、国立公文書館の新館建設という転換点に当たって、求められることではないでしょうか。
  今後の大きな課題であるデジタル化への対応については、電子決裁システムにより作成・保存される文書の中身について、公文書館へ移管される将来を見据え、これまで以上に公文書のライフサイクル全般を意識した文書管理を念頭に業務にあたることが必要と思われます。また、国立公文書館は、要望に応じて各省庁が主催する(公文書管理に関する)研修に講師を派遣しており、レコードスケジュールの設定に関する内容について選別担当職員が講師を務めていますが、階層別、担当別などきめ細かい対応を展開することも必要となるかもしれません。文書管理において各行政機関のニーズや利便性に資する体制の強化を図ることは、アーキビスト認証に対応する付加価値の一つではないかと思います。法務省の刑事参考記録アドバイザーに認証アーキビストの活用が考慮されたことはその一例であり、必要とされる人材の提供が可能となるよう、大きく制度が育っていくことが大切です(参考:法務省HP「令和4年2月4日(金)法務大臣閣議後記者会見の概要」https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00277.html)。
  一方で、アーキビスト認証によって、国の文書管理は遺漏なく実施されるかのような期待が大きいことも感じます。認証アーキビストとしての認証がなければ、アーキビストとしての職務を遂行する能力に不足があるわけでは全くなく、申請していない人の中にも十分にその能力を備えている人は大勢います。アーキビスト全体の水準の向上につながるよう、認証アーキビストとして、絶えず新たな知見を習得し、わかりやすく情報発信できる能力を備えるよう努めたいと思います。

[1] 「令和3年度認証アーキビスト申請の手引き(国立公文書館)1―1」
https://www.archives.go.jp/ninsho/download/005_shinsei_tebiki.pdf(参照2022-5-15)

令和元年5月30日に実施した公文書管理研修Ⅰ(行政機関向け第1回)の講義風景

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