〔認証アーキビストだより〕
防衛省防衛研究所戦史研究センター史料室と認証アーキビスト

史料室長 菅野 直樹
史料室所員 齋藤 達志

はじめに
  防衛省防衛研究所戦史研究センター史料室(以下、史料室)は、旧陸海軍関連公文書などをはじめ貴重な歴史的資料等約10万冊(以下、史料)を所蔵、これらを一般公開するとともに適切な管理に努めています。所蔵している史料は、日本近代史研究者にとっては欠かせない貴重な研究対象といえます。
  令和3年1月、史料室の私達2名は、国立公文書館の認証アーキビストとなりました。本稿では、この2名の認証アーキビストが史料室でどのように業務を行っているのか、その一端を紹介したいと思います。

史料閲覧室

史料閲覧室

1 レファレンス対応業務について
  私ども認証アーキビストは、アーカイブズ業務、つまり史料に関するさまざまな問い合わせに対するレファレンス回答、デジタルアーカイブの編成、閲覧対応、展示、寄贈受け、保存及び目録作成、代替物の作成と修復等の大半において、中心的な役割を担っています。このことは認証アーキビストに求められている、公文書等の適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとするとともに、その信頼性及び専門性を確保する、ということを試されているともいえます。ここでは、ごく一部に限られますが、従来業務の主軸であるレファレンス対応の一端について述べたいと思います。
  史料室のレファレンス業務は、一般的には希望する閲覧者が史料を検索するに際してお手伝いすることを主な業務としていますが、依然として、先の大戦における戦死者等のご遺族に対応する場合も多数あります。これは当室独特といえるもので、ご遺族は、軍歴証明などを手に身内の方が軍で何をしていたのか、戦死の際の具体的な状況等を知るために来室されます。中には一片の情報しかないご遺族もおられます。ご遺族の多くは初めての来室であり、ほとんど史料などに対する知識も、調査経験もありません。こうした方々へのレファレンス対応には、戦史及び旧陸海軍の制度などに関する相応の知識とともに、どのように説明すれば分かりやすく、かつ満足感を与えられるのかといった親身な姿勢が必要とされ、アーキビストとしての能力が試されます。
  ところで、史料室では、国会議員や防衛省内局などの要請に応じ史料を提示する機会もあります。時にはこれらに関し、防衛研究所として要請部署まで赴いてブリーフィングを行います。例えば、政府高官が過去の戦争に関連する場所、施設等を訪問する場合など事前にレクチャーを求められた際には、史料室の史料が欠かせません。
  コロナ禍にあって、来館利用者が制限される状況下にあっても、史料室は月ごとに平均約70件程度の、上述のような問い合わせを受け、対応に当たっています。

2 デジタルアーカイブズ業務について
  史料室が現在、力を入れているデジタルアーカイブのカラー化についてもお話ししたいと思います。
  コロナ禍の状況で史料室に直接閲覧に来られる方が制限される中、デジタルアーカイブの整備及び促進は、時宜を得た業務でもあると考えています。
  例えば、令和3年12月は太平洋戦争開戦80年に当たり、旧陸海軍の作戦計画などに関心のある方がおられるのではないでしょうか。こうした貴重な史料について、現行の白黒のデジタル画像では史料に書き込まれた赤鉛筆文字、作戦図などの敵味方の色、各種設計図、地図等が史料原本と同様に表現できないため、原本に触れていない利用者には不充分な情報を提供している状況となっています。カラー化を促進することで、上述の状況を大きく改善するとともに、はじめての方が閲覧する際にも、色彩豊かな史料を楽しんでいただけるのではないでしょうか。カラー化の成った史料のデジタル画像をみていると、よくぞこれだけの史料を遺してくれた、と旧陸海軍の担当者、史料室に関係した諸先輩に感謝しているところです。

赤鉛筆文字など白黒デジタル画像では表示しにくい史料の一例
(「昭和15年度 帝国海軍作戦計画及指示関係綴 昭和14.8.5~16.10.1」(⑨文庫-霞ヶ関-65))

  なお、カラー化の対象史料として、大判サイズである旧陸海軍の武器火器関連図面や地図等も含めて進めていきたいと考えています。
  こうしたデジタルアーカイブの整備及び促進に関して、今回のアーキビスト認証制度が役に立っています。他施設の認証アーキビストから、デジタルアーカイブ構想の考え方など多くのヒントを頂きました。

3 過去から未来へ、そして人と史料、人と人を繋ぐ認証アーキビスト
  ここでは、アーカイブズ関係者との意見交換に資するよう、業務を通じて感じた認証アーキビストの在り方について述べたいと思います。
  『アーカイブズ』第77号(令和2年8月)で松岡資明先生が、アーキビストについて「間を取り持つ」、「繋ぐ」意識が必要と記しておられるように、われわれの仕事は、まさしく過去の史料と、現在もしくは未来の人との間の、中央に位置することに立脚しているのではないかと考えています。つまり、私たち2名の認証アーキビストは、将来も見据えるならば、先人が作成した史料から恩恵を被りつつ、後進にもこれを繋げてゆく推進力とならなければなりません。寄贈を受けた史料を既存の史料に加えることも必要です。史料を必要としている方には閲覧に供し、史料を活用できる可能性があるのに史料室の存在を知らない方には、存在をアピールしなければなりません。加えて、アーカイブズ関係者、特に認証アーキビストの方々と交流を持ち、意見交換を通じて新たな問題点を見つけ、これを解決していく等、大袈裟かもしれませんがイノベーションも図らなければなりません。私達2名の認証アーキビストはそうした試みの中心に位置し、常に変化していくプロセスの中で役割を果たしていくことが必要ではないかと考えます。

おわりに
  このようなアーキビストの仕事は、一見地味であり、決して楽ではありません。しかし、これらの積み重ねが、認証アーキビストにつき、公文書管理の場にはなくてはならない存在であると組織に認識されるものと確信しております。認証アーキビストの先駆けとして私どもに与えられた責任は大きいことを再認識し、御一方でも多くの方が史料を利用していただけることを目指して、これからも日々の取組を続けていく所存です。