天草市立天草アーカイブズにおける資料デジタル化業務について

天草市立天草アーカイブズ
松野 恭子

1、はじめに
  天草市立天草アーカイブズ(以下「当館」という。)は平成14年に教育委員会管轄で本渡市立天草アーカイブズとして開館し、平成18年3月に2市8町が合併し天草市(以下「当市」という。)が誕生してからは首長部局に移りました。
  現在、行政資料、映像資料、地域史料の三班体制に分けて人員を配置し業務にあたっています。今回は天草アーカイブズ資料検索システムの導入にあたり、当館での資料デジタル化業務について概要を紹介します。

2、対象資料
(1)行政資料・行政刊行物
  行政資料(行政刊行物を含む。以下同じ。)について、当市では保存年限を満了し原課で業務に使用しないと判断された文書は当館へ原則全量移管となっており、合併後から行政資料班は過年度移管文書の段階的な評価選別を進めている途中です。そのため、計画的なデジタル化業務までは現在行っておらず、一部、映像資料班が企画展等のために観光や都市計画等に関する写真アルバムや地図等を選んでデジタル化を行っているのみです。また、広報写真については映像資料班が担当しているため後述します。
  ほか、合併以前の自治体広報で原本が開架図書室にないものについて、一部をマイクロフィルム化やデジタル化を行っています。

(2)映像資料
  当館では、利用が多いこと、展示等の普及活動で活用しやすいことから、平成23年度から写真を中心とした映像資料に対し、担当者(現在は会計年度任用職員)を配置し、デジタル化を伴う整理を行っています。まとまって移管があった旧自治体の広報写真・ネガ等は、行政資料の簿冊IDを付与せず、行政資料班から映像資料班へ担当を移しているものもあります。なお、当市広報広聴係からの広報写真データの移管も映像資料班が受け入れるようにしています。
  現在、写真・フィルム等からデジタル化したものは約82,500点あり、うち目録があるのは約24,000点分です。当館は合併直後に普及のため精力的に市内全域で出張写真展を行っており、展示に使用するため、メタデータ整理を行わずにデジタル化してきた写真資料に対し、整理がまだ追いついていないという現状があります。また、写真資料の整理は当館では特に手探り状態で進めてきたため、新しく目録を作成するほかに過去に作成した目録や画像ファイル名等の修正、低解像度画像の高解像度での再スキャン等も行っています。

(3)地域史料
  地域史料については、業者委託で郷土新聞や古文書のマイクロ化・デジタル化を行っています。
  平成25年度に所蔵する天草の郷土新聞のマイクロフィルム化が終了し、平成25・26年度にその内『天草民報』『週刊あまくさ』『みくに』の3紙をデジタル化・紙焼き製本化しました。『みくに』については記事の見出し約5万件の目録も作成しています。
  平成27年度からは借用した旧庄屋家古文書約8,500点のマイクロ化・デジタル化を開始しました。当初はマイクロフィルム撮影したものをデジタル化していましたが(平均撮影数657点/年)、平成29年度からは経費削減のためデジタル撮影したものをマイクロフィルム化しています(平均撮影数1155点/年)。古文書は冊子もの、状もので単価契約を行って予算内に収まる数量を撮影しており、筆者が撮影指示書を作成しています。撮影技術等については不案内な部分もありますが、将来的に返却する古文書であることから、内容だけではなく形態の特徴等も記録するように留意しています。

撮影用目録兼指示書

撮影用目録兼指示書

(撮影用目録兼指示書)特殊な折り畳み

(撮影用目録兼指示書)特殊な折り畳み

  現在は目録・画像は館内公開にとどまっていますが、今後は目録と一部の画像のHP公開も検討しています。
  ほか、行政資料と同様、企画展等のために近現代の文書や地図等をデジタル化しているものもありますが、戦中・戦後の紙質の良くない地域史料についての計画的なデジタル化までは時間を要することが課題のひとつです。

3、資料デジタル化に伴う保存処置
(1)行政資料及び映像資料
  映像資料班でデジタル化を行った写真・フィルム等は市民・団体提供の資料もありますが、8割以上が広報写真等の行政資料であったものです。
  市民・団体提供の資料と比べると、行政資料の写真・フィルム等は人的要因による状態劣化が多いことが大きな特徴です。例えば、ネガフィルムをはさみで切断し、広報の掲載順に並び替えてセロハンテープで繋げて貼っていたり(下画像左)、広範囲の風景写真を残すためにL版写真をセロハンテープや糊で繋ぎ合わせて台帳に貼り、台帳ページからはみ出す部分を折り曲げて収納(下画像右)していたりする等の事例がありました。


  このようなデジタル化が非常に困難になる問題を受け、当館では、調査協力員と共に大規模古文書群等の調査を行う天草アーカイブズ夏期史料調査事業(詳細については参考リンク参照)に併せ、平成24年から専門家を招聘し、映像資料班が写真・フォルム等の保存処置に関する技術研修を受けられるようにしています。

技術研修の様子

技術研修の様子

アイロンコテで写真の折り目をのばす

アイロンコテで写真の折り目をのばす


  写真の膜面圧着防止のために写真台帳のページ間に薄葉を挟むといった基本的な事柄から指導を受け、日常業務として写真・フィルムのテープ類の粘着剤の除去等は行えるようになりました。ただ、上に挙げたような甚大な劣化のある事例は、繊細な処置技術の習得や伝達が非常に難しく、担当が有任期職員であるため、技術保有者の継続的な確保が半永久的な課題です。

処置記録1

処置記録1

処置記録2

処置記録2


保存処置は地域史料班(会計年度任用職員)の協力が大きい

保存処置は地域史料班(会計年度任用職員)の協力が大きい

(2)地域史料
  現在撮影している古文書は、調査前の時点で鼠損被害が大きいものがあり、シワやシミ等の状態が良くないものも出てきます。古文書所蔵者の許可のもと、撮影がしやすいように可能な範囲で簡易的な処置を行っています。
  これについては映像資料班と同じく、夏期史料調査事業にて劣化紙資料の簡易的な処置を習いました。元々、夏期史料調査事業では地域史料班が襖等の下張り文書剥ぎを行っていましたが、剥いだ文書の中で糊が固く繊維が薄くなってしまったり、紙質自体が粘土状に変質してしまっていたりするものがあり、そこから紙資料の保存処置技術の講習へとつながりました。
  現在は主に典具帖紙3.5g/㎡と糊としてメチルセルロースエタノール溶液、アイロンコテ等を用いて補強やシワ伸ばし等をしていますが、本格的な修復ではないため漂白された典具帖紙を選んで、見た目で処置した箇所がわかりやすいようにしています。



古文書処置前

古文書処置前

古文書処置後

古文書処置後


検索システム画面

検索システム画面

4、今後に向けて
  現在、当館では、目録は基本的に館内で公開していますが、一部は公式HPにて資料検索システムの試用版で公開しています。このシステムは当市の庁内イントラネットと連動させているため公文書館向けのパッケージシステムが利用できず、行政、映像、地域等の様式の異なるExcel目録を横断的に検索できるようにするのが非常に困難で、現在も微調整・修正を続けています。令和4年1月時点で検索システムでは行政刊行物9,714点、写真資料35群(約5,750点)、地域史料1群(1,909点、件名を含めると5,968点)の目録を公開しており、行政資料は2次評価選別が終了したものから公開していく予定です。
  写真資料では検索システムで出てくる目録にサムネイル画像を付け、広報写真等の中で年代の古いものを中心にオープンデータにて公開し、高画質画像をダウンロードできるようにしています。当館は令和4年度に現在の天草市五和町から同志柿町への移転計画があり、令和4年4月から令和5年1月頃まで休館する予定ですが、休館中でも当館の資料を一部ですがHP上での公開ができるようになりました。また、移転後の新館では展示スペースや研修室を設け、さらに市内小中学校へ教材用資料の提供等普及活動の充実を図っており、これらデジタル化資料をさらに活用していきたいと考えています。

〈参考〉
天草市立天草アーカイブズHP
http://hp.amakusa-web.jp/a0695/Diary/Pub/Default.aspx?AUNo=6001&Pg=8&dspMode=PC