国際公文書館会議(ICA)2021年総会及びバーチャル会合について

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門員 長岡 智子

はじめに
  各国のアーカイブズ機関の相互連携と発展を目的とする国際非政府機関の国際公文書館会議(International Council on Archives、以下「ICA」という。)は、例年秋に大会ないしは年次会合の形で国際会議を開催している。大会は4年に一度、それ以外の年は年次会合が開かれてきたが、いずれも会期中には専門的内容に関する講演やセミナー等で構成される専門プログラムと並行して、会員が参集し重要事項を決定する総会等、組織運営のための諸会議が開かれる。令和3年(2021)は、前年から延期になっていた大会がアラブ首長国連邦のアブダビにおいて開かれる予定だったが、新型コロナウィルス感染症の影響で再延期が決まり、代替措置として総会と専門プログラム(バーチャル会合)が、それぞれ日を分けてオンラインで開催された。このうち総会は、通常総会に加え、ICA憲章の改定について議論するための臨時総会が開かれた。
  本稿では、当館から担当職員が出席した通常・臨時総会と、一部を視聴したバーチャル会合の概要について報告する。

1.総会について
(1)通常総会
  2021年の通常総会は、日本時間の10月20日夜に、Zoom会議及び投票用サイト(electionrunner)を用いて、完全オンライン形式で開催された。英語とフランス語の同時通訳付きで、途中入退室があったが最大時180名程度の会員が参加していた。
  会長、プログラム担当副会長、事務総長等からの1年間の活動に関する報告では、6月に開催された国際アーカイブズ週間の成果や、類縁機関との協力事業等の紹介があった。その中で日本の国立公文書館が7月に開館50周年を迎え、記念式典でデイビッド・フリッカーICA会長(オーストラリア国立公文書館)から祝辞が寄せられた件にも触れられた。
  組織運営に関する報告では、プログラム担当のノルマン・シャルボノ副会長(カナダ国立図書館公文書館)がこの会議を最後に退任し、後任候補としてメグ・フィリップス氏(アメリカ国立公文書記録管理院)が挙がっていることと、財務担当副会長については後任の立候補がなく当面現職のアンリ・ズベール氏(フランス陸軍国防史編纂部)が留任することが述べられた。また、休眠状態にある公証記録セクションを廃止する旨の提案がなされた。
  財務関係については、ズベール副会長から、2020年会計に関する監査報告及び2021年10月までの収支状況に関する説明があり、2022年の分担金と予算に関する提案がなされた。
  以上を受けて採決が行われ、各提案について、全て承認された。

(2)臨時総会
  臨時総会は、憲章改定などの重要案件を審議するため会長が特別に招集するもので、今回は通常総会に続いて同日開催された。現行の憲章は2012年に改定されたものだが、組織運営の効率化や透明化の実現などを目的として、本格的な見直しの議論が2019年のアデレードにおける年次会合から始まった。
  以来、執行委員会を中心に検討が重ねられ、今回の臨時総会に先立ち憲章とその下に定められる内部規則の最終改定案が会員に示された。
  主な変更点は次のとおりである。
    ・テゴリーDの会員(個人会員)[1]への議決権付与
    ・会員の義務の明確化
    ・会員の選挙によって選任される役員(会長、副会長2名)の任期をずらす措置[2]
    ・プログラム委員会の改組
    ・専門職団体セクションのフォーラムへの改組
    ・年次会合の隔年化
  全体を通して意識されたのは、民主化、透明性、電子化、多様性、運営の柔軟性及び合理化の諸点で、たとえば電子化については、2012年版の第2条の目的に「記録及びアーカイブズの効率的かつ効果的な管理及び利用並びに…保存を促進すること」とあるが、この「記録及びアーカイブズ」に当たる部分の”records and archives”が、”records, archives and data in all formats”と変更されている[3]。
  また、民主化については、ICAの専門家プログラム等の策定及び実施を担うプログラム委員会の改組に、色濃く表れている。具体的には、今回の改定で定員の大幅な削減と選任方法の見直しが行われ、中核を担う7人の委員が会員の直接選挙で選ばれることになった[4]。
  その他の主な変更点のうち、D会員への投票権付与は、より幅広く会員の声を意思決定に反映させるための措置であるが、同時に、ICA主催のプログラムへの参加に際しては分担金の納付が必須条件となるなど、会員の権利と義務の関係の明確化を図ろうとしたことがうかがえる。また、専門職団体セクションのフォーラムへの改組には、国立公文書館長フォーラム(FAN)と同格にすることで、B会員、すなわち各国のアーキビストの集合体である専門職団体の存在感を高め、A会員、すなわち国家や連邦レベルの公的機関代表者の集合体であるFANと対置させる目的がある。時として両者が緊張関係に置かれる可能性がある中で、二つのフォーラムを設けることで両者のバランスをとると同時に、異なる立場からともに公益に資するという大きな目標のもと相互に補完しあい、引いては世界的課題に対応していくためのICAの活動範囲や発信力を倍加させることが目指されている。
  以上について会長及び事務総長から説明があった後、採決が行われ、ほぼ満票で承認された。新憲章は、この後、細部の調整や英語からフランス語とスペイン語への翻訳などに時間を要すとのことで、遅くとも2022年9月の次回総会前に公表するとの日程が示された。
  承認された新憲章は、細部の調整や英語からフランス語とスペイン語への翻訳などに時間を要すとのことで、遅くとも2022年9月の次回総会前に公表するとの日程が示された。
  なお、今回の憲章改定に際しては、ICAの実質的な意思決定機関であり改定作業を主導した執行委員会自体の改組がもう一つの大きな論点であったが、今回、構成人数の削減を憲章に明記する等の形の変更は避け、現行規定の運用によって議論の効率化や透明性確保が進むよう改善が図られることになった。具体的には、たとえば会員制度と財務問題[5]、情報発信などの重点課題について、決定権をもたない小委員会を設けて予備的に議論を深めることが検討されているとのことである。

2.バーチャル会合[6]
  アーキビスト等の専門家による発表や議論の場をオンラインで配信する「バーチャル会合」が、同大会の総合テーマ「知識社会に力を与える(“Empowering Knowledge Societies”)」を掲げて、10月25日~28日に開催された。録画とライブ配信(英・仏・西の3カ国同時通訳付)を織り交ぜ、各日とも概ね半日から1日のスケジュールで実施された。
  プログラムは二つの基調講演と17のセッション(一部並行開催)で構成され、アブダビ大会の発表募集の際に推奨テーマとして挙がっていた、人工知能の導入を含む電子化に関する発表が大きな比重を占めた。その他にはICAの専門家グループが策定作業を進めているアーカイブズ記述の新国際標準「レコードインコンテクスト(RiC)」に関する報告や、先住民、忘れられる権利、環境、盗難・密売などのテーマに関するセッションが設けられた。基調講演はエリザベス・デンハム氏(イギリス情報コミッショナー(当時))とジョン・シェリダン氏(イギリス国立公文書館デジタルディレクター)が行った。また、会合の最後のセッションでは、ジェフリー・ヨー氏(ユニバーシティカレッジロンドン名誉研究員)とローラ・ミラー氏(フリーランスコンサルタント)の両氏が各新著の紹介を行った後、フリッカーICA会長が加わり、これからの時代にアーカイブズが果たすべき役割について展望を述べ合った。
  記に加え、新規専門職員プログラム参加者による成果発表のセッションや、一般参加者の交流を目的としたテーマ別フリーディスカッションの時間帯「ネットワーキングセッション」が設けられた。さらに、別日程で実務的なテーマ別ワークショップが開催され、盛況を博したとのことである[7]。

おわりに
  昨年から続く制約の中での開催となったが、対面集合形式の代替としてオンラインによる開催の実績を重ねる中で、総会は前年に比べ、通訳や投票に係る運営上のトラブルもなかった。また、バーチャル会合は内容の充実ぶりに比して参加登録料は低価格に設定され(会員75ユーロ、非会員130ユーロ(それぞれ約1万円と1万7千円))、参加することへの経済的・心理的負担が低減したかもしれない。
  最後に、2022年以降の国際会議の予定は次のとおりである。

開催時期 場所 テーマ
 2022年9月  ローマ隔年会合[8]  “Archives: Bridging the Gap”
 2023年10月  アブダビ大会  未定
 2025年10月  バルセロナ大会  “Knowing Your Past and Knowing Your Future”

  次回ローマの会合では対面形式を予定しているようだが、今後とも多様な形での参加が可能となり、日本からも積極的な参画が期待されるところである。

2021 ICAバーチャル会合 プログラム(日本語仮訳)

[注記]
[1] ICAの会員には4つのカテゴリーがあり、Aは連邦/国立公文書館等、Bは専門職団体・教育機関協会等、Cは地方公文書館・国際機関・教育機関等、Dは個人となっている。カテゴリー間で分担金額に大きな差があることから表決には加重投票制が用いられており、新憲章のもとではA:B:C:Dが4票:2票:2票:1票となる。
[2] 事業の継続性を保つための措置とのこと。なお、フリッカー会長は2022年秋まで現職に留まること、それに先立ち同年春から夏にかけて後任の選挙が行われることも確認された。
[3] 2012年版の解説および日本語訳については、中山貴子「国際公文書館会議(ICA)の新憲章について」『アーカイブズ』50号(2017年6月)を参照されたい。https://www.archives.go.jp/publication/archives/no050/1704(2022年1月19日アクセス)
[4] 憲章改定を一部先取りする形で、7名のうち2名分の枠については総会直前の9月に選挙が実施された。選出された2名(Annantonia Martorano(フィレンツェ大学)とSharon Smith(カナダ国立図書館公文書館))を含む委員氏名一覧がICAウェブサイトで公表されている。https://www.ica.org/en/ica-governance-meetings-2021-2(英語)(2022年1月19日アクセス)
[5] A会員の分担金がICAの年間全収入の8割を占めており、仮に2カ国が分担金の拠出を中止するとICAの活動全般の継続が困難になると言われている。この問題は2012年版改定時にも深刻な問題として認識されながら根本的な解決には至っておらず、今後、集中的に検討すべき課題であることが今回の総会であらためて共有された。
[6] https://www.ica.org/en/ica-2021-virtual-conference-empowering-knowledge-societies(2022年1月19日アクセス)
[7] 一部は録画が公開されている。https://www.youtube.com/playlist?list=PLru9FNsjTJG5W4McbxJCxjawsIM9bxPvl(2022年1月19日アクセス)
[8] 英語では「Conference」。4年に1度の大会(Congress)開催年以外の年に開催される会合を指し、従来は「Annual Conference(年次会合)」だったところ、今般のICA憲章改定にともない隔年(biennale)化が決まったためここでは「隔年会合」という日本語訳を当てる。