「ジャパン・アーカイブズ・ディスカバリー」について

国立公文書館業務課資料収集係
楠本 里帆

はじめに
  国立公文書館(以下「当館」という。)では、「ジャパン・アーカイブズ・ディスカバリー」(以下「JAD」という。)を当館ウェブサイトで公開し、歴史公文書等の所在情報(資料を所蔵する機関の基本的な情報及び資料の概要)の提供を行っています[1]。
  本稿では、多くの方々に、歴史公文書等の利用に際してJADを活用していただくため、JADの概要、公開までの経緯、特色を紹介します。

図1 JADのトップページ

1.概要
  JADでは、歴史公文書等を含むアーカイブズ資料[2]を所蔵する機関の基本的な情報と資料の概要を、所蔵機関ごとに整理し提供しています(令和3年3月末現在、168機関掲載[3])。JADを活用することで、主に次の2点が可能となります。
  ・資料を所蔵する機関を一覧できるほか、利用するために必要な手続等に関する情報を容易に入手できます。
  ・オンライン上で資料情報を掲載していない、又は資料の検索が難しい機関についても、所蔵する資料の概要を確認することができます。
  JADに掲載されている機関については、その基本的な情報や所蔵資料の概要を、各機関のウェブサイトや刊行物を一つずつ確認することなく、JADを通じて知ることができ、歴史公文書等の利用のきっかけとなることが期待されます。

2.公開までの経緯
  当館では、国立公文書館法(平成11年法律第79号)第11条第1項第5号の規定に基づき、「歴史公文書等の保存及び利用に関する調査研究」を行っています。JADの公開も、当館の調査研究の成果の一つです。
  当館は、内閣総理大臣から示された平成27年度における業務運営に関する年度目標において、「国の機関、独立行政法人等、地方公共団体その他民間に所在する歴史資料として重要な公文書等の所在情報の一体的な提供を実現するための技術的な研究を行うこと」[4]とされたことを踏まえて、歴史公文書等の所在把握を目的とした調査研究に係る中期的な計画(平成27年7月16日館長決定。平成29年5月17日一部改正)[5]を定め、
I)アーカイブズ所蔵機関を対象とした調査
(歴史公文書等をはじめとするアーカイブズを保存し、一般公開している機関を有する国の機関、独立行政法人等、地方公共団体を対象として、ⅰ)当該機関に関する情報及びⅱ)その所蔵するアーカイブズに関する情報を収集する。)
II)所在情報の一体的提供に係る技術的な研究
(情報提供の仕組みの構築を目指し、提供するサービスの在り方、要件を整理し、この成果に基づき、パイロットシステムを構築、試験的に当該情報を提供することにより、所在情報の一体的提供に向けた技術的な課題を確認する。)
などの調査研究を、平成27年度から令和元年度まで5か年にわたって実施しました。
  当館は、これらの調査研究を踏まえ、令和元年度末に、I)で収集した情報を所蔵機関ごとに整理し、II)の調査で構築した仕組みを使って、誰でも自由に利用できるよう、当館ウェブサイトにおいてJADを公開しました。

3.特色
(1)国際標準を用いた所在情報の整理

  「アーカイブズ所蔵機関」と言っても、機関により、情報の提供の仕方は様々です。機関の基本的な情報や資料の利用に関する情報を、オンライン上で提供しているところもあれば、刊行物で提供しているところもあります。また、提供される情報の内容や量も、一様ではありません。
  JADでは、このような多様な情報を、ISDIAH[6]というアーカイブズ所蔵機関の記述に関する国際標準を用いて整理し、提供しています。この標準は、各国の公文書館等が集う国際公文書館会議(International Council on Archives)[7]により、アーカイブズ資料を所蔵し一般の利用に供している機関に関する記述を行うために策定されたものです[8]。JADでは、このISDIAHを踏まえた記述項目を採用し、機関の名称や歴史、資料の利用に関する情報等を紹介しています(下表では、掲載例として当館の情報を挙げています)。

  この標準を用いて情報を整理し提供することで、利用者は機関ごとにある程度一定の水準で情報を得ることができます。

表 機関情報の記述項目

(2)所蔵資料の概要を掲載
  所蔵機関の基本的な情報や所蔵資料の利用に関する情報の提供の仕方と同様に、所蔵資料の概要の提供の仕方についても機関によってばらつきがあります。所蔵資料に関する情報を紙媒体により提供している機関もあれば、オンライン上で提供している機関もあります。オンライン上で提供している場合であっても、所蔵資料目録のPDFファイルを提供している機関もあれば、検索システムを整備している機関もあります。
  JADでは、オンライン上で資料に関する情報を提供していない機関も含めて、各機関の所蔵資料の概要を掲載しています。

  なお、フリーワード検索で、任意のキーワードを入力して検索すると、JADに掲載されている情報を全文検索することができます。例えば、「オリンピック」というワードでフリーワード検索した場合、JADの記載内容に「オリンピック」というワードを含む所蔵機関を検出することができます。
  このうち、例として、北海道立図書館と神奈川県立公文書館について、JADでの掲載情報を確認してみましょう。

  I)北海道立図書館
  北海道立図書館の個別ページ(図2)の記述項目「アーカイブズ及びその他の所蔵資料」を見ると、札幌オリンピック冬季大会に関する資料が所蔵されていることが分かります。そして、「検索手段、手引書及び出版物」の項目に掲載しているURL(北海道立図書館「北方資料室の概要」)にアクセスすると、札幌オリンピック冬季大会関係資料として、図書、雑誌、新聞、ポスター、パンフレット、レコードなど約1,000点が所蔵されていることを確認することができます。

図2 「オリンピック」というキーワードで検索した場合の北海道立図書館の個別ページ画面

  II)神奈川県立公文書館
  神奈川県立公文書館の個別ページ(図3)の記述項目「アーカイブズ及びその他の所蔵資料」を見ると、1964年の東京オリンピック関係の資料が所蔵されていることが分かります。「検索手段、手引書及び出版物」の項目にあるURL(公文書館収蔵資料検索)にアクセスすると、神奈川県立公文書館の「収蔵資料検索システム」に遷移し、神奈川県立公文書館が所蔵する資料の目録情報を確認することができます。
  また、神奈川県立公文書館の「収蔵資料検索システム」は、当館のデジタルアーカイブとも連携しています。当館のデジタルアーカイブの横断検索機能を使うことで、当館の所蔵資料と「収蔵資料検索システム」に掲載されている神奈川県立公文書館の所蔵資料と同時に検索することができます。そのため、そのURL(国立公文書館デジタルアーカイブ横断検索)もJADに掲載しています。

図3 「オリンピック」というキーワードで検索した場合の神奈川県立公文書館の個別ページ画面

(3)所在地から所在情報を把握[9]
  JADでは、資料を所蔵する機関の所在地ごとに検索することもできる、都道府県(所在地)検索も用意しています。
  例えば、トップページにある都道府県(所在地)の検索項目で、茨城県を指定すると、茨城県立歴史館や筑波大学アーカイブズなど、茨城県内に設置された所蔵機関に絞り込むことができます(図4)。そこから、各所蔵機関の個別ページに遷移すると、所蔵機関の基本的な情報や資料の利用に関する情報、所蔵資料の概要を確認することができます。

図4 都道府県(所在地)検索(例:茨城県)

  また、所蔵機関を地図上からも把握することができます。JADのサイト上部の「一覧から探す」→「地図から探す」にページを遷移すると、地図が表示され、地図を拡大縮小等することで、所蔵機関の所在地を視覚的に見ることができます(図5)。

図5 「地図から探す」の拡大表示画面(一部)

【凡例】地図中の○について 黄色 市区町村が設置する公文書館
赤色 国立公文書館等[10] 黄緑色  歴史資料等保有施設[11]
橙色 都道府県が設置する公文書館 濃い緑色 都道府県が設置する図書館

  都道府県(所在地)を指定する方法でも、地図から視覚的に探す方法でも、お住まいの地域にはどういった機関があるのか、また、その機関はどういった資料を所蔵しているのかを確認することができます。JAD内の各機関の個別ページ、また、そのページにあるリンクをたどって所蔵機関のウェブサイトを確認することで、JADには掲載していない、機関までのアクセス情報、展示の情報等を確認することができ、歴史公文書等とその所蔵機関をより身近に感じていただけるのではないかと思います。

おわりに
  歴史公文書等の所在把握を目的とした調査には、歴史公文書等を含むアーカイブズを所蔵する多くの機関、団体の皆様にご協力いただきました。この場を借りて、感謝申し上げます。
  当館は、我が国における歴史公文書等の保存・利用等に係る取組推進の拠点であることが期待されています[12]。そのため、どこに、どのような歴史公文書等があるのか、それを利用するにはどのようにしたらよいのか、今後も継続して調査を行い、この期待に応えることができるよう努めてまいります。
  この歴史公文書等の所在把握を目的とした調査及びJADでの情報提供を行うにあたっては、歴史公文書等を含むアーカイブズを所蔵する機関、団体の皆様のご理解・ご協力は必要不可欠でございます。今後も皆様と協力・連携してこの取り組みを進めていきたいと考えておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

  JADが皆様の新しい発見につながりますと幸いです。是非ご活用ください。

〔注〕
[1] ジャパン・アーカイブズ・ディスカバリー、https://www.archives.go.jp/jad/。なお、「JAD」の読みは「ジャッド」としています。
[2] 本稿では詳しく紹介していませんが、JADには、公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)で定められる「歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料」などの所在情報も掲載しています。
[3] JADへの掲載許可が得られた機関のみ掲載しています。
[4] 独立行政法人国立公文書館の平成27年度年度目標、https://www.archives.go.jp/information/pdf/nendomokuhyou_27.pdf
[5] 「歴史公文書等の所在把握を目的とした調査研究に係る中期的な計画」(平成27年7月16日館長決定)については、https://www.archives.go.jp/information/pdf/h27/shiryou4-2.pdf、同中期的な計画の一部改正(平成 29 年5月 17 日)である「歴史公文書等の所在把握及び所在情報の一体的提供を目的とした調査研究に係る中期的な計画」については、https://www.archives.go.jp/information/pdf/h29/shiryou22.pdf を参照。
[6] ISDIAH: International Standard for Describing Institutions with Archival Holdings(https://www.ica.org/en/isdiah-international-standard-describing-institutions-archival-holdings)。なお、当館は2010年に日本語版を作成・公表しています(https://www.ica.org/sites/default/files/CBPS_2013_guidelines_ISDIAH_JPN.pdf)。
[7] ICAウェブサイト、https://www.ica.org/en
[8] 当館で行ったISDIAHに関する基礎的な調査研究としては、中島康比古・水野京子「国際標準に基づくアーカイブズ所蔵機関情報記述の試み−国立公文書館を事例として−」(『北の丸』第46号、国立公文書館、2014年)、統括公文書専門官室「国際標準に基づくアーカイブズ所蔵機関情報記述の試み(2)−宮内庁宮内公文書館・外務省外交史料館の事例を中心に−」(『北の丸』第47号、2015年)、渡辺悦子「アーカイブズ所蔵機関情報の記述に関する国際標準(ISDIAH)とその周辺—諸外国における受容と実例等について—」(『北の丸』第48号、2016年)があります。
[9] 複数の施設を持つ組織である場合や、機関の種別が異なっていても同一の窓口でそれぞれの歴史公文書等の利活用が可能な場合の所在情報は1件にまとめています。
[10] 公文書等の管理に関する法律では、現在のみならず、将来の国民に対する説明責任を果たす観点から、国や独立行政法人等から歴史公文書等の移管等を受ける施設を「国立公文書館等」として指定しています。詳細は、内閣府ウェブサイトを参照(https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/about/kikan/kantou/kantou.html)。
[11] 公文書等の管理に関する法律で規定された、行政機関の研究所・博物館・美術館・図書館その他これらに類する施設及び独立行政法人等が設置する博物館・美術館・図書館その他これらに類する施設のうち、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料を保有する施設のこと。詳細は、内閣府ウェブサイトを参照
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/about/kikan/kikan.html)。
[12] 新たな国立公文書館建設に関する基本計画(平成30年3月30日内閣府特命担当大臣決定)、
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/shinkan/pdf/keikaku_honbun.pdf

※掲載のURLへのアクセスは全て令和3年11月30日です。