国立公文書館デジタルアーカイブの2021年リニューアルについて
~ 「記録を守る、未来に活かす。」そのサービス基盤として ~

国立公文書館 業務課デジタルアーカイブ係
吉田 敏也、一牛 ゆかり

1. はじめに
  国立公文書館(以下「館」という。)は、(1) 館所蔵の歴史公文書等の目録情報の検索やデジタル画像の閲覧が可能な「国立公文書館デジタルアーカイブ[1]」(以下「DA」という。)、及び(2) 国の機関が保管するアジア歴史資料を提供する電子資料センターである「アジア歴史資料センター[2]」の資料提供システム(以下「アジ歴システム」という。)の、2つのデジタルアーカイブを運用している。DA及びアジ歴システムは、利便性の向上と更なるサービスの充実を図るため、2021(令和3)年4月にリニューアルし(図 1)、新たなスタートを切った。本稿では、DAの概要とリニューアルまでの経緯、リニューアルの内容を紹介する。

図 1 「国立公文書館デジタルアーカイブ」トップページ

図 1 「国立公文書館デジタルアーカイブ」トップページ

2. 国立公文書館デジタルアーカイブの概要
  DAは、インターネットを通じて「いつでも」「どこでも」「だれでも」「自由に」「無料で」を基本的なコンセプトに、2005(平成17)年度にサービスを開始し[3]、その後もシステムの更新を機に機能面の改善や効率化を着実に進め、新システムは4代目にあたる。
  2010(平成22)年度の2代目システムでは、基本機能であるキーワードによる検索に加えて、本システムの特徴である資料群をたどりながら資料を探す階層検索、館所蔵の大判資料や貴重資料をトップページから簡単にカテゴリや地域別に見る機能など、現システムの原型が出来上がった[4]。また、紙媒体の所蔵資料をデジタル化し、DAでの公開を進める一方で、電子的に作成された電子公文書等のDAを通じた利用も始まった。そして、2016(平成28)年度の3代目システムでは、タブレットやスマートフォン等の端末での利用に対応した[5]。
  こうした改善を重ねてきたサービスは現時点で、所蔵資料の全てにあたる約156万冊の目録情報が検索でき、そのうちの約35万冊(22.5%)の資料画像を利用することができる。

3. リニューアルまでの経緯
  本リニューアルにあたっては、乗り越えなくてはならない問題が2つあった。
  一つは、2018(平成30)年にPDFの主要な閲覧ソフトウェアであるAdobe社製ビューアのアップデートに起因する、画像PDFの表示の不具合である。DAでは、資料画像フォーマットとして通常の閲覧用途にPDFとJPEG、高精細な利用用途にJPEG2000の計3種を提供している。このうちのPDFにおいて、Adobe社製ビューアで脆弱性対応のアップデートが行われた際にPDFの内部処理が変更されたことで、DAが提供するPDFを閲覧しようとする際にブラウザ上でぼやけて正常に表示されない、ダウンロードしたファイルを同社製品で開くとエラー表示となる、といった事象が発生したのである。そのための暫定的な対応として、旧システムにおいては閲覧画面におけるJPEG形式の表示推奨や、特定のソフトフェアの使用をお知らせするなどを行ったものの[6]、PDFの利用者にとって不便を強いる状況となっていた。
  もう一つは、システムの更新サイクルである。これまでの本システムは、一般的に「オンプレミス」「ハウジング」と呼ばれる、サーバやネットワーク機器類のハードウェアやソフトウェアなどを自前で調達し、それらをデータセンターに設置する方式を採用していた。運用・保守5年としてきた機器や設備等の更新、更に毎年度増える画像を始めとしたデータ容量、日進月歩で対策が求められる情報セキュリティへの対応といった課題も加わり、「クラウドサービス[7]」の導入を視野に検討を行うこととした。
  こうしてサービスの不具合の解消を第一に、システムの土台であるインフラ基盤と運用の効率化を図るため、リニューアルは以下3つの柱で進めることとした。すなわち、(1) 一般利用者を中心とした利便性の向上、(2) 安定運用に資するインフラ構築及び(3) 運用・保守の効率化である。
  (1) については、館では毎年度DAの利用者にアンケートを実施しており[8]、アンケートで得た利用者からの意見・要望をリニューアルに向けた検討材料とした。意見や要望のうち特に利便性に関わるものを抽出し、コストや実現性、有効性、そして緊急性などの観点で優先度を付けて課題と対応を整理した。また、システムの機能面では、特に外部システムとの連携やデータの利活用等に関する機能に関して、館が作成し公開している「公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書[9]」(以下「標準仕様書」という。)のほか、デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会が策定している「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン[10]」などを参考に追加が必要な機能を検討した。(2) 及び (3) については、サービスとしての可用性や性能、拡張性、信頼性、保守性といった機能ではない要件が関わる。これら非機能要件については、DAが公文書管理法[11]に基づき運用されるデジタルアーカイブとして24時間365日の安定稼働ができ、一般利用者と職員が使うシステムであることを考慮した。クラウドサービスの導入にあたっては、政府のクラウド方針[12]に沿った検討から可用性やセキュリティ水準の向上等にメリットが認められた一方、本システムが提供してきた機能や画面から大きな乖離が生じないようにすること、また調達コストを含めた合理的なシステム方式とすることの2点を留意すべき要件とした。
  調達においては、こうしたクラウドサービス採用における条件やリスクを明確化した上で、オンプレミス型、クラウド型のどちらの提案も可とした。そして、提案のあった内容について総合的に評価した結果、次期のシステム方式としてクラウド型を採用した。

4. リニューアルの内容
4-1. 利便性の向上について
      4-1-1. 資料画像の提供方法の変更と閲覧画面の改善

  DAが提供するPDFの資料画像が、特定の状況で正しく表示されない不具合の解決案として、新システムでは高精細用の提供フォーマットであったJPEG2000を用いて、画像閲覧のリクエスト時にシステム内でPDF形式へと変換を行い提供する方針とした。この方式は、従前のストレージに格納しているPDFをそのまま表示する場合と比べ、「変換」という動的な処理が必要となることから、処理のレスポンスやシステムリソース、変換後のファイルサイズ・画像の品質などが課題となった。特に変換処理のパラメータを最適なものとするため、導入前のテスト時からモノクロやカラー画像、資料のページ数など複数パターンを検証したものの、稼働直後は想定したレスポンスが得られず対応に苦慮した。これについては5章で後述する。
  DAの画像提供を動的変換とする方針と共に、閲覧画面は基本とする画像閲覧のフォーマットをPDFからJPEG形式に変更することとした。その際、JPEGとPDFどちらの閲覧においても利用者の操作性が大きく変わらないよう配慮し、閲覧画面の使い勝手の改善を図った。具体的には、JPEG形式の閲覧画面は、これまで拡大・縮小とページの移動などの操作しかできなかったが、画像の全画面表示(図 2-(8))や表示画像の回転操作(図 2-(9)・(10))をボタンでできるようにしている。また、スマートフォンやタブレット端末といったスマートデバイスでの操作は、従来のフリックやタップはもちろん、PC版で利用している時と同様の操作ができるようにした。スマートデバイスを利用することが日常的なものとなってきており、DAのデフォルトの閲覧画面をJPEG形式としたことで、利用者はソフトウェアや端末環境に依存せずに画像を利用することが可能となったと考える。なお、従来のPDF形式も、画像閲覧画面の右上にあるJPEG・PDFボタンで表示の切り替えをすることで、閲覧画面で利用することができる。

図 2 JPEG形式の画像閲覧画面

図 2 JPEG形式の画像閲覧画面

      4-1-2. 目録・画像等へのURIの付与
  新システムでは、利用者がよりアクセスしやすく、使いやすいようにそれぞれの資料に対して固有のURI(Uniform Resource Identifier)の付与を行っている。URIより馴染みのあるものに、ネットワーク上の情報資源の「住所」にあたるURLがあるが、旧システムにおけるURLはシステムの都合・仕様に依拠した書式[13]であり、資料のリンク情報として参照したい場合の分かりやすさが課題となっていた。
  そのため、今回のシステム更新では資料や画像に対する「識別子」として新たにURIを付与することで、本URIを今後のアクセスするための情報として位置付けた。資料と画像を一意に特定するURIは、各資料の目録詳細画面や画像閲覧画面に表示することで明示化している(図 3-(1))。資料にURIを付与する際の基本的な考え方として、館の所蔵資料の目録には簿冊、簿冊を構成する件名(内閣文庫においては細目)があるため、簿冊に対しては「file」、件名・細目に対しては「item」と表記し、記録資料記述の国際標準であるISAD(G)[14]の記述レベルの表記と揃えている。

図 3  DA目録情報(簿冊詳細画面)

図 3  DA目録情報(簿冊詳細画面)

  また、DAの個々の画像に対しても同様にURIを付与している。特に、JPEG画像閲覧画面ではURIを使うことでページ単位のリンクが可能となった。例えば、擐甲図歌(かんこうずか)(請求番号154-0055、URI ID: 1221983)という資料の11ページ目にリンクする場合は、URIの末尾に「/11」を追加し、「https://www.digital.archives.go.jp/img/1221983/11」のようになる。これは、利用者アンケートの意見を踏まえたもので、これまでは資料単位のURLであったが、資料のページ単位にアクセスするためのリンク情報を簡単に共有できるようになった。

      4-1-3. 二次利用条件の整理とオープン化の推進
  「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」や政府の「二次利用の促進のための府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン)(各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)[15]」において、メタデータの二次利用やオープンデータ化、二次利用が可能なルールで公開することの重要性が示されている。
  DAではこれまで目録情報(メタデータ)について、オープンデータとして利活用できることを、外部に対して分かりやすく、明示的にお知らせしていなかった。新システムでは、目録情報はクリエイティブコモンズ(CC)ライセンスにおける、「CC0(CC0 1.0 全世界 パブリック・ドメイン提供)」として、目録画面の詳細表示等において自由に二次利用ができることを明示化した(図 3-(2))。なお、画像等の二次利用についてはCCライセンスではなく、利用する者において責任をもって利用いただく整理としている。これら目録情報や画像等の二次利用条件について説明するページをDA利用案内に追加している[16]。
  また、新システムでは、検索した目録情報をさらに利活用できるようにするため、検索結果の一覧画面から目録情報の一覧データをCSV形式でダウンロードできる機能を設けた。これまで利用請求書の作成や検索結果を手元に控えるために、利用者は一つずつコピー&ペーストする手間があったが、「目録情報CSV出力」ボタンから簡単にCSV形式のデータをPCに保存しておくことができる。なお、リニューアル時点において、本機能はシステム負荷を考慮して、一度に取得できるレコード件数の上限を1,000件までとしている。

      4-1-4. IIIF(トリプル・アイ・エフ)への対応
  新システムではオープンデータへの対応と共に、主に芸術作品や書籍、地図、巻物などのデジタル化した画像資料へのアクセス方法を標準化し、相互運用を図る国際的な枠組みであるIIIF(International Image Interoperability Framework)[17]に対応した。現在DAにおけるIIIFは試行的な運用と位置付け、対応資料は「主な資料を見る」に掲載している一部の資料としている。DAで公開している地図や巻物等のうち、IIIFに対応した資料の目録や画像にIIIFアイコン(図 3-(3))、画像閲覧画面等にIIIFマニフェストファイルのリンクを表示している。
  IIIFの利用方法としては、例えば館の資料と他機関のIIIF形式に対応した公開資料を、利用者が任意の画像ビューアで自由に閲覧することができる。図 4は、館所蔵の「和州郡山城絵図」(請求番号:169-0335)の画像(左)と、国立国会図書館デジタルコレクションにある「大和国郡山城図[18]」の画像(右)を、IIIFビューアの「Universal Viewer」(UV)でそれぞれ読み込み、並べた事例である[19]。
  IIIFの運用については外部の意見等も参考に、対応する資料の範囲や今後の活用方法を模索していきたい。

図 4  IIIFビューア(UV)表示例:「和州郡山城絵図」(左)と「大和国郡山城図」(右)

図 4  IIIFビューア(UV)表示例:「和州郡山城絵図」(左)と「大和国郡山城図」(右)

      4-1-5. 多様な媒体利用への対応(音声・動画、電子公文書等)
  国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議で取りまとめられた「新たな国立公文書館の施設等に関する調査検討報告書(平成29年3月23日)[20]」、また、「新たな国立公文書館建設に関する基本計画(平成30年3月30日 内閣府特命担当大臣決定)[21]」において、館に今後求められる基本的な機能として、紙媒体のみならずフィルム、音声等の多様な媒体のデジタル化への対応が示されている。
  館の所蔵資料における音声等の例に、映画フィルムやオープンリールなどがある。これらは、利用者の利用請求に応じるための閲覧用複製物として、デジタル化した音声・動画データを作成している。こうした既存のデジタル化資産の活用に向けて、音声・動画データのうち可能なものから順次、公開する方向である。DAでは、音声・動画がある資料は画像と同じように閲覧ボタンから、音声・動画データの再生表示を行うことができる。
  また、電子公文書については資料の閲覧画面の見直しを行った。電子公文書の特徴として、利用者が資料の階層性や文書内の構造を把握しやすいことが重要であることから、画面で一度に視認できる情報の考慮や、閲覧に表示している件名のツリー表示を拡大できるようにした。さらに、電子公文書のみを容易に探せるよう検索画面で絞り込んで検索ができる。

      4-1-6. ジャパンサーチとのシステム連携
  DAは、2019(平成31)年の試験公開時より内閣府知的財産戦略推進事務局が進める「ジャパンサーチ[22]」と連携してきた(2020(令和2)年8月に正式版公開)。ジャパンサーチは書籍等分野、文化財分野、メディア芸術分野など、さまざまな分野のデジタルアーカイブと連携して、国内の多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できる「国の分野横断型統合ポータル」である[23]。館も公文書分野のデータ連携のため、これまで目録情報(メタデータ)をジャパンサーチ側に登録してきた。本作業において、旧システムではデータの登録・更新に手動で対応していたため、運用の負荷を考慮する必要があった。また、DAの行政文書の目録情報(メタデータ)には毎年度新規の資料を追加する大きな更新があるが、DA更新後に連携先のジャパンサーチへ反映されるまでタイムラグがあることが課題となっていた。
  新システムでは、メタデータ交換のための国際標準プロトコルであるOAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)[24]に対応し、DAの目録情報(メタデータ)を一括提供できるようにしている。これまではDAの更新の都度、手動でジャパンサーチにデータ連携してきた運用が自動化され、その連携頻度を週次にまで実施できるようになったことの効果は大きいと考える。
  また、ジャパンサーチをはじめとした外部のシステムや一般利用者に対して提供するメタデータについて見直しを行っている。その一つに「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」で提供が望ましいとされるサムネイル画像のURLがある。このURLをもとにサムネイル画像を表示することで、その資料がどのような資料か視覚的に伝える手がかりとなる。具体的には、館(データプロバイダ)の所蔵資料画像のサムネイルが、連携先のジャパンサーチ(サービスプロバイダ)において一覧表示され、そこからDAの当該資料にリンクがされることになる(図 5参照)。こうした外部のシステムでサムネイル画像を表示する仕組みは、DAにあまり接してこなかった利用者からの新たなアクセスにつながることが期待される。

図 5 ジャパンサーチのDAデータ表示例:所蔵資料(ランダム表示)

図 5 ジャパンサーチのDAデータ表示例:所蔵資料(ランダム表示)

      4-1-7. ユーザインターフェースの見直し
  その他ユーザインターフェースに関わる見直しについて、主なものを紹介する。
  DAの検索結果一覧画面(図 6)については、館のもう一つのデジタルアーカイブである、アジ歴システムとの統一性に配慮した。具体例として、資料群や簿冊と件名のアイコンなど両システムでバラバラだった部品を共通のものとし、これまでアジ歴システムのみにあった検索結果一覧のサムネイル画像表示をDAでも実装する等の共通化を図っている。また、同画面での資料の利用性を高めるため、個別の目録画面や画像閲覧画面をブラウザで複数表示・比較できるようタブ表示に対応した。さらに、同画面から行う利用請求書の様式出力において、従来の印刷に加えてPDF形式の帳票出力に対応し、利用者が手元に保存できるようになった。

図 6 DA検索結果一覧画面

図 6 DA検索結果一覧画面

  DAの画像印刷画面については、資料画像と一緒に資料名と請求番号を印刷したい、という利用者アンケートの意見を反映した。閲覧画面から「画像印刷」ボタンを押すことで、1ページずつ内容を印刷プレビューで確認しながら、ページ数や請求番号や簿冊等のタイトルなどの必要な情報とともに印刷出力することができる。

4-2. クラウド対応について
  課題となっていたストレージについては、クラウド化により、システムや大容量の画像等データを保存することが可能となった。特に画像等の管理においては、調達コストが抑えられ、可用性と耐久性を備えるオブジェクトストレージを採用している。将来的には、館が行う紙その他媒体からのデジタル化だけでなく、移管元である行政機関等でのデジタル化が進むにつれて、今後受け入れる電子公文書等の増加も想定される。必要に合わせて、ストレージだけでなくリソースを柔軟に追加・変更できるメリットは大きい。
  また、情報セキュリティについては、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が定める政府統一基準や標準仕様書を参考に対策を実施している。情報セキュリティでは多層的な対策が求められるため、必要なセキュリティのサービスを組み合わせて導入すると共に、運用フェーズにおいても継続が必要な保守や脆弱性等への対応で迅速に対処できるようになったと考える。
  クラウド対応とともに、DAではこれまで目録及び画像等データを公開・非公開領域で管理してきたシステム構成に加えて、サーバとストレージの構成も「公開用」と「内部用」に分け、より厳格なデータ管理を行っている。以上を踏まえた、クラウドを利用したDAのシステム構成イメージを示す(図 7)。

図 7 DAシステム構成イメージ

図 7 DAシステム構成イメージ

4-3. 運用・保守の見直しについて
  日々職員が行うデータの登録や修正などの業務サポートのため、旧システムでは本館及びアジ歴の施設内に委託先スタッフが常駐し対応を行ってきた。今回のリニューアルを機に、その運用・保守要件を見直し、館外からリモート作業ができること、メンテナンスやトラブルなどで必要な場合のみの駆け付け対応とし、効率化を図っている。そのために、作業依頼の方法も基本はメールや電話ではなく様式ベースとし、文書共有ツールを活用することとした。
  働き方の改革、COVID-19(新型コロナウィルス感染症)の予防と対策が求められる昨今において、本システムの設計・開発や関係者との打合せ、教育訓練などの更新作業で課題もあったが、リモート中心で進めることができた。外部のリモート環境から各種業務ができるようになったことは、館と事業者の双方にとって意義は大きいと考える。

5. リニューアルその後
  リニューアル後の運用開始当初、PDFへの動的変換の処理や一括ダウンロードする機能に不具合が見つかり、その対応に追われた。それぞれの課題に対して動的変換を行う際のパラメータや処理の見直し、表示画面の改善など、運用事業者と個別の調整や修正を繰り返し行うことで現在問題は解消している。
  システムで不具合が発生した理由にはプログラムに起因するもの、開発工期の短さ、導入テストの品質など複数の要因を挙げることはできるが、担当者として反省すべき点として、利用者行動への想定の甘さもあったように思う。PDF形式による画像提供サービスはDAにおいては付加的な位置付けであるが、利用者にとってのPDFとは冊子体をイメージ化したもので依然としてよく使うもの、手元に保持しておくことのニーズが高いものであり、システムの先にいる「利用者を想像すること」がいかに大切か改めて実感させられた。
  館が遭遇したPDFの事例は1つの警鐘でもあった。普及したファイル・フォーマットや技術もそれを取り巻く環境等の変化により、突然利用できなくなる可能性がある。今回のリニューアルでの取組が果たして最適解であったか、評価は様々あると思われるが、一つ一つの通過点で最良の選択を行う努力を続けることはできたと考える。

6. おわりに
  リニューアルはゴールではなく、次に向けてのスタートである。DAの当面の課題としては、運用・保守の安定化がある。クラウド化の対応により、システムの柔軟性や拡張性は向上した一方で、コストの考え方は利用実績ベースの変動的なものとなり、運用・保守における管理や監視がより重要となる。そのため、システム全体のリソース監視や適正なサイジングなど、担当する職員はこれまで以上に適切な状況把握に努める必要がある。
  より中長期の視点では、デジタルアーカイブの基本的な機能である保存と利用において、長期のアクセス保証を考える必要がある。今回DAで付与した目録情報や画像等のURIはあくまでアクセスのための識別子である。システム更新や仕様の都合でこれらに変更がないよう継続性の考慮が必要である。長期アクセスの解決策の一つとして、インターネットの情報資源に恒久的な識別子として付与されるDOI(Digital Object Identifier)の利用も考えられる。同時に、それを支えるシステム自体の持続可能性、「サステナビリティ」の視点も重要であろう。企画構想から設計・開発、運用・保守といったシステムのサイクルにおいて、限りのある体制や資源で持続的な仕組みづくりが求められる。
  デジタル化の推進や多様性が求められる社会において、デジタルアーカイブとしてのサービスのあり方、ニーズもまた変化していくと思われる。DAも次なる時代に向けて、「記録を守る、未来に活かす。[25]」サービスの基盤を目指し、期待に応えていけるよう努めたい。

[注記]
[1] 国立公文書館デジタルアーカイブ. https://www.digital.archives.go.jp/, (参照2021-11-30).
[2] アジア歴史資料センター(https://www.jacar.go.jp/)は、国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所から、デジタル化されたアジア歴史資料(近現代における日本とアジア近隣諸国等との関係に関わる日本の歴史的な文書)の提供を受け、データベースを構築してインターネットを通じて公開している。本データベースは、アジ歴ホームページ又はアジ歴システム(https://www.jacar.archives.go.jp/)から検索や画像の閲覧等ができる。
なお、アジ歴システムの2021年リニューアルの概要は以下参照。
中野良.“アジ歴データベースのリニューアルについて”. アジ歴ニューズレター no.35,
https://www.jacar.go.jp/newsletter/newsletter_035j/newsletter_etc_035j.html,(参照2021-11-30).
[3] 国立公文書館. I デジタルアーカイブ: 国立公文書館デジタルアーカイブの紹介. アーカイブズ. 2005, no. 21, p.1-11.
https://www.archives.go.jp/publication/archives/category/no021, (参照2021-11-30).
[4] 八日市谷哲生. 国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組み. アーカイブズ学研究. 2011, vol. 15, p.4-15.
https://doi.org/10.32239/archivalscience.15.0_4, (参照2021-11-30).
[5] 風間吉之. リニューアルした国立公文書館デジタルアーカイブ. アーカイブズ. 2016, no. 62,
https://www.archives.go.jp/publication/archives/no62/5544,(参照2021-11-30).
なお、2016年度の3代目システムにおいて、DAとアジ歴システム、2つのデジタルアーカイブのインフラ基盤を統合した。
[6] 詳細は、2018年10月19日付けのDAお知らせ(https://www.digital.archives.go.jp/news/#01)を参照。
[7] 「クラウドサービス」について、「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準(平成30年度版)」では、「事業者によって定義されたインタフェースを用いた、拡張性、柔軟性を持つ共用可能な物理的又は仮想的なリソースにネットワーク経由でアクセスするモデルを通じて提供され、利用者によって自由にリソースの設定・管理が可能なサービスであって、情報セキュリティに関する十分な条件設定の余地があるものをいう。」としている。
[8] 本アンケートの結果の概要は、館ホームページ「業務実績等報告書等」参照。
“情報公開”.国立公文書館ホームページ. https://www.archives.go.jp/information/,(参照2021-11-30).
[9] 国立公文書館. “公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書”. 国立公文書館ホームページ.
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/da_180330.pdf,(参照2021-11-30).
[10] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. “デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン”. 首相官邸ホームページ. https://cio.go.jp/guides, (参照2021-11-30).
[11] 公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)。
[12] “政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針(各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)”. 政府CIOポータル. 2018-06-07初版, 2021-09-10改定. https://cio.go.jp/guides, (参照2021-11-30).
[13] 例えば、擐甲図歌(請求番号154-0055)の旧URL表記は、「https://www.digital.archives.go.jp/das/image-j/F1000000000000033664」となっていた。なお、旧URL表記にアクセスした場合も該当目録や閲覧画面に転送する仕組みとしている。
[14] International Council on Archives. “ISAD(G): General International Standard Archival Description -Second edition”. 2011, https://www.ica.org/en/isadg-general-international-standard-archival-description-second-edition, (参照2021-11-30).
[15] “二次利用の促進のための府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン)(各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)” . 政府CIOポータル. 2013-06-25初版, 2015-12-24改定. https://cio.go.jp/node/2297, (参照2021-11-30).
[16] “利用案内:画像等データの二次利用”. 国立公文書館デジタルアーカイブ.
https://www.digital.archives.go.jp/support/use.html, (参照2021-11-30).
[17] International Image Interoperability Framework. https://iiif.io/, (参照2021-11-30).
[18] “〔日本古城絵図〕畿内之部. 5 大和国郡山城図”. 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286156/1, (参照2021-11-30).
[19] IIIFビューアには、オープンソースのUniversal Viewer(https://universalviewer.io/)のほか、MiradorやIIIF Curaton Viewerなどがある。DAでのIIIFの利用方法は以下参照。
“利用案内:ご利用方法「3-1. デジタル画像等のご利用について」”. 国立公文書館デジタルアーカイブ.
https://www.digital.archives.go.jp/howto/helpKbun_03_01.html, (参照2021-11-30).
[20] 国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議. “新たな国立公文書館の施設等に関する調査検討報告書”. 内閣府ホームページ. 2017, https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/kentou/houkokusyo.pdf,(参照2021-11-30).
[21] “新たな国立公文書館建設に関する基本計画(内閣府特命担当大臣決定)” . 内閣府ホームページ. 2018, https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/shinkan/pdf/keikaku_honbun.pdf, (参照2021-11-30).
[22] ジャパンサーチ. https://jpsearch.go.jp/, (参照2021-11-30).
[23] “ジャパンサーチとは?”. ジャパンサーチ. https://jpsearch.go.jp/about, (参照2021-11-30).
[24] “The Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting”. Open Archives Initiative. 2015,
http://www.openarchives.org/OAI/openarchivesprotocol.html, (参照2021-11-30).
[25] 2021年7月1日開館50周年の国立公文書館キャッチコピー「記録を守る、未来に活かす。」より引用。