茨城県立歴史館における教育普及事業

茨城県立歴史館 教育普及課
首席研究員 佐川 秀文

1 はじめに
  茨城県立歴史館(以下「当館」という。)は、昭和49年(1974)に開館し、歴史に関する資料の調査、研究、収集、保存及び公開を行っている。また、歴史博物館及び文書館としての機能を充実させ、茨城の歴史情報を発信する施設としての使命を果たしていくとともに、県民と協働し、質の高い県民サービスを実現することにより、県民の郷土愛を醸成する「県民とともにつくる誰にもやさしい歴史館」を目指している。
  当館の組織は、史料学芸部(歴史資料課、行政資料課、学芸課)と管理部(管理課、教育普及課)で構成されており、主に博物館としての業務を学芸課、文書館としての業務を歴史資料課と行政資料課、教育普及に関する業務を教育普及課が担当している。各課には、小・中・高等学校教員経験者が所属しており、教育普及事業をすすめるに当たり理想的な下地が備わっているといえる。そのため、当館は生涯学習時代に対応した学校教育との連携事業や郷土学習支援事業、小・中学生向け行事等に力を入れている。

「昔のくらし」疑似体験

「昔のくらし」疑似体験

2 学校教育との連携事業
2-1 「昔のくらし」の展示を用いた活動

  学校教育支援は、当館の教育普及事業の大きな柱である。小・中・高等学校から大学まで、それぞれの利用目的に合わせ様々な活動を行っている。小学校3年生では、道具の移り変わりを学ぶ場として「昔のくらし」の展示を活用している。
  よりよい学習効果をあげられるように、見学の依頼があった際には、当該学校の活動のねらいや学習過程(つかむ→調べる→まとめる→広げる)における位置付け、児童生徒の学習状況を把握することを心掛けている。  
  活動の内容は、学習指導要領を踏まえて教育普及課職員で話し合い、様々な学校の要望に対応できるようにしている。現在は30分程度の学習活動を行うとともに、来館後にも活用できるワークシートを配付している。また、展示担当学芸員と協力し、昔のくらしと今のくらしを比較しやすいように展示の構成等を工夫している。さらに、疑似体験の時間を必ず設け、昔の道具に触れることをとおして内容を深く理解できるように努めている。

ワークシート「昔のくらし」

ワークシート「昔のくらし」

ワークシート「昔のくらし」

ワークシート「昔のくらし」


2-2 教員等対象の研修会―教員のための歴史資料活用研修会―
  本研修会は、毎年8月に県内小・中学校の教員を対象として開催しており、令和2年度は以下の内容で実施した。

  ・研修Ⅰ 歴史館おすすめ活用法/教育普及課
  ・研修Ⅱ 町村合併関係文書をよむ/行政資料課
  ・研修Ⅲ 江戸時代の古文書から村のようすをさぐる(村方文書紹介と解読チャレンジ)/歴史資料課
  ・研修Ⅳ 体験プログラム「昔のくらし」をヒントにした授業づくり/学芸課

  研修Ⅰ~Ⅳを当館各課で分担するため、博物館と文書館それぞれの特色を活かした幅広い内容を毎年実施している。研修Ⅰでは、教育普及課が実際の出前講座等で行っている教材等を紹介した。研修Ⅱでは、行政資料課が所蔵している行政文書(昭和の大合併関係)と当館の公文書館機能、研修Ⅲでは、歴史資料課が所蔵している古文書等を紹介した。そして、研修Ⅳでは、実際の展示を基に、授業作りのアイディアについて話し合う活動を行った。このような形態での本研修は、教育普及課が調整役となって開催しており、参加者からは好評をいただいている。

体験的出前講座「粋な紋切りあそび」

体験的出前講座「粋な紋切りあそび」

3 学校教育との連携・郷土学習教育支援事業
3-1 講師派遣事業(出前講座)について

  本事業は、「当館の有する史資料及び職員の各専門分野の知識等を、学校及び公民館等に提供することによって、学校教育における歴史教育及び総合的な学習の時間や、公民館等における生涯学習が効果的に進められるように支援し、児童生徒及び地域住民の歴史に対する興味関心の高揚に資する」という目的で行っている。講座の内容は、史料学芸部の各研究員が自らの専門分野に基づいて企画している。令和2年度は、学校用20講座と公民館用16講座を開設している。
  最近の傾向としては、より体験的な講座が望まれており、希望団体からは、「話を聞くだけでなく、気軽に歴史について学べたり体験できたりする講座はないか」という問い合わせが増えてきている。このような県民の要望を踏まえて、勾玉づくり体験やちょっと昔のくらし、粋な紋切りあそびをはじめ、火おこし体験、縄文の人々のくらし、中世くずし字読解講座、古地図の読み方等の内容を設定した。各研究員の専門性を活かした体験講座を増やしていくことで、歴史に対する興味関心が高まり、来館者のすそ野が広がることを期待している。

3-2 出前講座の事例―小学校における宿泊学習の代替案として―
  令和2年度は、新型コロナウィルス感染症の影響により、様々な学校行事が中止又は計画変更となった。本事例は、茨城県水戸市内の小学校第5学年が秋に予定していた宿泊学習の代替案として行った実践である。当該小学校担当教員からの要望を踏まえ、社会科の内容と関連する講座と体験活動を取り入れた。
  行政資料課職員が担当した講座は、第4学年社会科の「県の様子」を復習しつつ、第5学年の「産業」の学習につながるように内容を工夫した。通常の公民館用(高齢者向け)講座の内容を精選し、クイズ等も交えて興味深く学習できるようなスライドとワークシートを活用した。スライドの写真には、「県広報公聴課写真」(当館蔵)を使用した。児童は、教科書等には掲載されていない身近な地域の写真に興味を示し、45分間集中して取り組んだ。また、教育普及課職員が担当した「勾玉づくり体験」は当館の人気講座の一つであり、楽しみながら学習活動を行った。

体験的出前講座「勾玉づくり体験」

体験的出前講座「勾玉づくり体験」

子ども体験プログラム「キャプション作り・ミニ展示体験」

子ども体験プログラム「キャプション作り・ミニ展示体験」


4 小中学生向け行事―子ども体験プログラム―
  本プログラムは、平成29年度から小・中学生を対象として行っている。実物の資料を見たり触れたりすることをとおして、子どもたちの歴史についての興味や郷土への関心を高めることを目的としている。令和2年度は、小学3年生以上の親子20組を対象に、以下の講座(計6回)を実施した。

  ・ 昔の本を作ろう(和綴じ本づくり)/歴史資料課
  ・ もののけワークショップ―オリジナル妖怪をつくろう―/教育普及課
  ・ 歴史館の仕事を体験してみよう(キャプション作り・ミニ展示体験)/行政資料課
  ・ 偕楽園さんぽ―斉昭のゆかりの地を訪ねよう―/歴史資料課
  ・ 世界にひとつだけの土偶を作成しよう/学芸課
  ・ オリジナルしめ縄を作ってお正月を迎えよう/教育普及課

  本事業も「2-2 教員等対象の研修会」と同様、教育普及課が調整役となって史料学芸部各課で分担して行った。行政資料課が担当した回では、当館所蔵の小学校教科用図書を活用した。様々な年代、教科のものを多数用意し、参加者は自分で選んだ資料についてキャプションを作成する。その際の見本として、当館敷地内の旧水海道小学校本館展示室にある実際のキャプションをスライドで提示した。親子で60分程度の活動を行って完成させたキャプションを、一定期間(約1か月間)展示ケースに収納して「ミニ展示」を開催した。自分が作ったものが展示ケースに収納されるときには歓声があがるなど、参加者からは大変好評であった。

5 おわりに
  このように、教育普及事業を実施してきた成果として考えられるのは、当館や当館の事業が広く県内に認知されてきているということである。他にも、館を挙げて実施している「歴史館まつり」(6月開催)と「歴史館いちょうまつり」(11月開催)は、地域の恒例行事となりつつあり、多くの来館者を集めている。令和元年度のいちょうまつり期間(11月1日~23日)では、約23,000人もの利用があった。
  今後の課題としては、高校生や大学生の来館者が少ないことが挙げられる。近隣に高等学校や大学があるにも関わらず、入館者を世代別にみると、その世代の入館者数が圧倒的に少ない。より多くの人たちに当館の魅力を感じて、足を運んでもらえるよう、今後も教育普及事業を重視し、各課職員との連携を強化しながら、誘客の工夫を図っていきたいと考える。