アジア歴史資料センターにおける学習支援の取り組みについて
~アジア歴史ラーニングの制作現場から~

アジア歴史資料センター
研究員 淺井 良亮

はじめに
  本稿は、アジア歴史資料センター(以下「アジ歴」という。)における学習支援の取り組みの一環として2020年5月に公開した、教育・学習用コンテンツ「アジア歴史ラーニング ―デジタル資料で学ぶ日本とアジア―」について、制作の観点から紹介するものである。

アジア歴史ラーニング トップページ

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作成の経緯
  これまでアジ歴は、教育用コンテンツとして、2010年から「社会科授業用資料リスト」を公開してきた。当該コンテンツは、中学・高校の社会科教員をターゲットとして、アジ歴の認知度向上と利用促進を目的として作成された。その概要は、日本近代史の学習において頻出するトピックについて、関連するアジ歴公開資料をリストで掲載し、ボタン一つで資料画像や目録情報を表示する、というものである。データベース検索を行わずとも、手軽に目当ての資料画像まで辿り着くことができる、という点でユーザーの利便性を確保したコンテンツである。
  ところで、近年、学習指導要領の改訂および学び直しやアクティブラーニングへの関心の高まりを受け、博物館や文書館において、教育・学習支援の取り組みが行われている。こうした情勢を踏まえ、アジ歴としても、新しい教育・学習用コンテンツを作成することとした。作成にあたっては、①学校教員だけでなく、より幅広い層のニーズに応えること、②アクティブラーニングなどに対応できるよう、より能動的な操作性を実現すること、の2点をコンセプトの柱とした。
  こうして作成されたのが、アジア歴史ラーニングである。

コンテンツの構成
  アジア歴史ラーニングは、大別すると、年表ページと解説ページから構成されている。
年表ページでは、近現代の歴史を6つの時期に区分し、それぞれの時期に起こった出来事について、4つのカテゴリ(国内の動向・対外関係の動向・近隣地域の動向・世界の動向)に分類して表示している。このことにより、近現代史の流れを、より体系的に把握することができる。
  年表のうち、ⓘマークが表示されている記事については、クリックすることで、その記事に関する解説ページが表示される。解説ページでは、画像や用語解説を通じて、該当するトピックについて理解を深めることができる。また、「画像を見る」ボタンからは関連する資料画像を、「テキストを見る」ボタンからは資料画像の翻刻文を、それぞれ閲覧することができる。なお、資料画像などの利用にあたっては、各解説ページにおいて二次利用の手引きを掲載しているため、その情報を参照頂きたい。

年表ページ

年表ページ

解説ページ

解説ページ



資料画像

資料画像

翻刻文

翻刻文


利用面での工夫
  上記に述べた「より能動的な操作性」を実現する方法として、アジア歴史ラーニングでは、コンテンツ内を“回遊”する仕組みを取り入れた。
  コンテンツを構成する各ページは、すべてHTML形式で作成されている。HTMLでは、ページ間を移動する仕組みとしてハイパーリンク方式が採用されているため、リンクが設定されていないページにたどり着いてしまうと、コンテンツの“行き止まり”が生じてしまう。そうなると、ユーザーはブラウザの機能を使ってページを戻ったり閉じたりしなければならず、使い勝手の悪さを感じてしまう。
  アジア歴史ラーニングでは、この点に鑑み、どのページにおいてもクリックひとつで別のページへ遷移できるよう設定されている。解説ページには「関連語」の項目を設定し、表示されている用語と関連性の高い別の解説ページへと遷移することができる。また、資料画像や翻刻文のページからは、アジ歴データベースの目録情報に遷移することができる。
  この仕組みにより、ユーザーはクリックを繰り返すことで、網の目状に張りめぐらされたハイパーリンクをたどってコンテンツ内を回遊し、時として自らが思いもよらなかったトピックや資料を“発見”することができるのである。

管理面での工夫
  昨今のデジタル技術の発展はめざましく、コンテンツ作成においても、日々開発される新しい技術を導入することは、より革新的なコンテンツが実現できる一方で、管理負担が大きくなるという側面もある。管理負担が大きくなると、修正や更新の頻度が低下し、コンテンツの運営が滞りがちとなる。
  アジア歴史ラーニングでは、この点に鑑み、コンテンツの運営・管理をより簡便にする仕様とした。当該コンテンツは、実のところ、数枚のHTMLページのみで構成されている。年表ページや解説ページなどにおいて表示される情報は、すべてCSV形式のデータを動的に読み込むことで、HTML上に表現している。CSV形式のデータは、多くの実務者が使用経験のある表計算ソフトMicrosoft Excelで編集することができるため、情報の修正・更新を簡単に行うことができる。
  この仕様により、HTMLタグなどに精通していなくとも、コンテンツのエラー対応や追加更新が容易となり、フレキシブルな運営・管理を実現することができた。

おわりに
  日本では2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、各地の教育機関では対面式による教育学習機会の削減を余儀なくされ、情報機器を通じたオンライン化などが進められている。そうした情勢下におけるアジア歴史ラーニングの公開は、インターネットを通じて「いつでも、どこでも、誰でも、無料で」利用できる教育・学習用コンテンツを提供することができたという点で、時宜にかなうものとなった。今後は、さらに高まるであろうデジタルコンテンツへの需要と期待に応えられるよう、アジア歴史ラーニングの利活用に関する発信に取り組んでいきたい。