福井県文書館の非来館型サービスについて

福井県文書館
宇佐美 雅樹

はじめに
  令和2年(2020)1月以降の新型コロナウイルス感染症の拡大により、福井県文書館(以下「当館」という。)においては、4月4日~5月9日に臨時休館の措置をとることになりました。これに伴い当館は在宅勤務(テレワーク)を導入し、さらに出勤者も2班体制にするなど勤務体制の変更を行うとともに、いわゆる「三密」など感染拡大につながる状況を生じないよう、特に普及啓発に係る事業と閲覧利用サービスにおいて、再開後は非来館型サービスの比重を高めるべく業務内容を見直しました。本稿ではコロナ禍をひとつの契機として拡充を図った非来館型サービスの一部を紹介します[注]。

福井県文書館HPコラム(「#ふくいの記憶に出会う」)

福井県文書館HPコラム
(「#ふくいの記憶に出会う」)

1.展示の見直しとコラム「#ふくいの記憶に出会う」の公開
  従来の業務でまず見直しを図ったのは、普及啓発に係る来館型サービスのうち展示業務です。当館においては、資料の展示公開は資料の閲覧利用につながるという見通しのもと、年6回程度の月替展示と、松平文庫という一大資料群の資料を任意のテーマに沿い紹介していく「松平文庫テーマ展」を実施してきました。昨年度(令和元年度)の入館者数は、前年比6.6%増の18,550人であり、開館以来最多となりましたが、これにはこの二本立ての展示が大きく寄与したものと考えられます。
  しかし、コロナ禍のもとでは、展示観覧のための来館を促しにくい面があります。加えて、来館者数を指標とした評価の意義が相対的に低下したこともあり、月替展示を館の業務や機能を紹介する常設展示に変更するとともに、比較的小規模な松平文庫テーマ展のみ継続することとしました。展示を大きく見直し、継続することとしました。
  そこで来館型のサービスを見直すと同時に、非来館型のサービスを導入することとし、新たに企画したのが、福井県文書館ホームページに開設したコラム「#ふくいの記憶に出会う」です。所蔵資料や業務を紹介するコラムを職員が執筆し、令和2年5月以降、おおよそ月に1編ずつ当館ホームページで公開しています(「1918年の福井県下インフルエンザ・パンデミック(スペインかぜ)」等7編。令和3年1月現在)。専門色が強い研究紀要とは異なり、幅広く一般県民を読者に想定したものですが、コラム中の資料名に「デジタルアーカイブ福井」へのリンクが適宜貼られています。それをクリックすることで資料を「閲覧」することになりますが、これを入り口として「デジタルアーカイブ福井」による資料の閲覧利用が増加することを期待しています。
※コラム https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/bunsho/category/digitalrekishi/24070.html
※デジタルアーカイブ福井 https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/archive/

福井県文書館HPにおける「給帳データセット」公開

福井県文書館HPにおける「給帳データセット」公開

2.デジタル資料の公開促進
  当館および福井県立図書館、福井県ふるさと文学館、福井県県政情報センターが運営する「デジタルアーカイブ福井」は、「国立公文書館デジタルアーカイブ」からの横断検索が可能ですが、令和2年3月から「国立国会図書館サーチ」との連携を新たに開始するなど、幅広い利用者を想定して資料のデジタル化と公開を進めています。このような動きのなか、さらに今年度初めに次の3つの柱からなるデジタル資料の公開を行いました。
  第一に、他自治体と協議を重ね合意に至った結果、当館に寄託されている松平文庫とあわせ、4月からは他自治体機関の所蔵資料(越葵文庫、越国文庫)が「越前松平家資料群」として「デジタルアーカイブ福井」での検索および画像のダウンロード等が可能になり、利便性が向上しました。他自治体機関の資料が「デジタルアーカイブ福井」に参加するのは初めてであり、大名家の関連資料を集約してインターネットで公開するのは全国初でした。
  第二に、利用頻度が高い明治期の新聞(「福井新聞(第一次・第二次)」)は、著作権保護期間未了の署名記事が含まれるため、インターネットでの公開にあたっては著作権法上の課題がありましたが、文化庁長官裁定制度によりそれをクリアし、4月にその一部を「デジタルアーカイブ福井」で公開しました。明治時代の地方紙をインターネットで公開するこの試みも、全国初です(長野栄俊・田川雄一「文化庁長官裁定制度による地方紙のインターネット公開」カレントアウェアネス-E No.394 2020.07.09)。
  第三に、これまで未調査・未公開であった軍師山本勘助を祖とすると伝える福井藩上級武士の一資料群「菅沼家文書」も、「デジタルアーカイブ福井」で公開しました。
  このように「デジタルアーカイブ福井」の拡充が図られることとなりましたが、これらのデジタル資料は臨時閉館中の4月10日に公開され、マスコミからも注目されました。さらに、テレワーク勤務中に複数の職員が福井藩士の名簿である「給帳」のテキスト化に取り組み、6月にはこれをまとめた「給帳データセット」のインターネット公開を行いました。
  折しも新型コロナウイルス感染症の感染拡大期にこれらデジタル資料の充実が図られることとなり、その公開は、当館の資料閲覧利用に係る非来館型サービスの柱といえます。
※デジタル歴史情報 https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/bunsho/category/digitalrekishi/147.html

YouTube福井県文書館チャンネル「デジタルアーカイブを使おう(アマビコに会う)」

YouTube福井県文書館チャンネル
「デジタルアーカイブを使おう(アマビコに会う)」

3.SNSおよび「福井県文書館チャンネル」の開設による情報の発信
  当館は、従来から運用していたFacebookに加え、令和2年4月にTwitterの公式アカウントを取得し、SNSによる広報を強化しました。さらに、館の事業や活動をより分かりやすく紹介するため、5月、動画共有サービスYouTubeの公式アカウントを取得し、「福井県文書館チャンネル」を開設しています(令和3年1月現在、「文書館探検」等15本の動画を公開)。新型コロナウイルス感染拡大の状況では、講演会や各種講座等の普及啓発事業を例年通り運営することは難しいところがあります。この課題に対しては、ソーシャルディスタンスを確保し感染拡大を防ぐために参加定員を絞る一方、YouTubeの「福井県文書館チャンネル」で「福井県文書館講演会」のライブ動画配信を行い、どこからでも視聴できるようにしました(40人以上が視聴)。
  これらの情報発信の取組は、もともとは当館の利用者層の拡大をねらい企画したものでもありますが、今後もさらに情報資源とノウハウを蓄積し、非来館型サービスの柱の一つとしていくことができればと考えています。

4.おわりに
  新型コロナウイルス感染拡大の影響で、来館者数が昨年度の約4割にとどまる一方、当館のホームページアクセス件数は昨年度の2倍以上に伸びており、これは今年度進めてきた取組を反映した数字と考えられます。ただ、デジタル技術に関する知識を多少なりとも必要とする非来館型サービスは、現状では年齢層がやや高い来館サービス利用者(主催講座・講演会等の参加者を含む)にはすんなりとは受け入れられないおそれがあります。
  この点について、新規の非来館サービスが始まったとはいえ、現状では来館型サービスは月替展示以外は縮小または廃止しておらず、来館型サービスのラインナップはほぼ維持しています。今後も来館型と非来館型のサービスのバランスをとりつつ、その充実を図る取組を進めていきたいと考えています。

[注] 柳沢芙美子「コロナ禍の中で変わったこと、変わらないこと―福井県文書館の閲覧・利用とオープンデータ化の取組みから―」(全史料協会誌『記録と史料』第31号、2021年3月刊行予定)は、本稿で紹介した非来館型サービスのほか、オンラインによる研修会・会議等の実施、資料のオープンデータ化や二次利用促進のための方策など、今年度中に当館がコロナ禍の中で行った取組全般について詳述しています。