国際公文書館会議による通常総会(オンライン)開催について

国立公文書館
統括公文書専門官室 国際担当

はじめに
  国際公文書館会議(International Council on Archives、ICA)は、年に一度、ICA憲章により開催が定められている通常総会により、年間に実施する活動の方針や予算の決定を行っている。例年は4年に一度の大会または大会のない年に開催される年次会合にあわせて開かれているが、2020年はアラブ首長国連邦アブダビにて11月に開催が予定されていた大会が新型コロナウイルス感染症の世界的流行により来年10月に延期となった。そのため、通常総会は、当初の予定日であった11月16日にオンラインにより実施された。
  2020年総会では、今後のICAの運営に関わる大きな事項が説明、決定された。そこで、本総会と翌週に開催されたICAウェビナー「アーカイブズと専門職に力を与える:ICA戦略計画とICA憲章改訂」 (11月27日)で紹介された内容につき紹介する。

1.通常総会
  まず、ICA会長David Fricker氏(オーストラリア国立公文書館長)より、同会長が出席した5件の世界各国におけるオンライン開催のアーカイブズ関連のイベント等について報告があった。また、ICA副会長(プログラム担当)のNormand Charbonneau氏からは、新型コロナウイルス感染拡大への対応により実施が困難となったプログラムが多かった一方で、プログラム委員会をはじめ各セクション、専門家グループ、各種プログラム(アフリカ、新規専門職、研修の3種類)ではオンラインによる会議や活動が開催されていること、またプログラム委員会の改革(後述)の進捗状況等が報告された。
  Anthea Seles事務総長からは、ICA事務局の所在するパリにおいて2020年3月以降長期にわたり都市のロックダウンが実施されたため、事務局はオンラインによる活動が中心となったが、「アーカイブズはすぐそばに」「国際アーカイブズ週間」「#AnArchiveIs」の3つを中心としたオンライン・イベントが大きな成功を収めたことが報告されるとともに、今後もICAでは様々なオンラインによる活動に取り組むため、加盟機関がバーチャルによるイベントを開催する際はICAもサポートを行うので連絡してほしいとの表明があった。
  さらに、現在ICAには、各国の国立公文書館等の館長で構成される国立公文書館長フォーラム(Forum of National Archivists、FAN)が設置されているが、現行の専門職団体セクション(Section of Professional Association、SPA)が、FANと同様に専門職団体フォーラム(Forum of Professional Associations、FPA)に再編されることが予定されている(決定はアブダビ大会で予定されている臨時総会(Extraordinary General Assembly)にて行われる)。よって、SPAは本総会をもって解散し、当面は「暫定FPA」として活動を立ち上げることが、本総会において承認された。
  この他、2020年の会計報告及び2021年度の分担金案及び予算案が承認された。閉会時の質疑応答セッションでは、新型コロナウイルス感染拡大に伴い収入が減少する等の状況にある機関から、会費の支払いが困難になった場合にかかる質問があり、そのような機関には会費の減額措置が検討されることが説明された。
  ICAの次期戦略計画及びICA憲章については、以下、節を変えて紹介する。

2.ICA戦略計画2021-2024「アーカイブズと専門職に力を与える(Empowering Archives and the Profession )」について
  ICA事務局では、2014-2018戦略計画の完了とともに、2019年6月より約1年をかけて、次期戦略計画の策定にあたり加盟機関に大規模な調査「会員による会員のためのICA」を実施した。1,746の機関及び個人にアンケート調査(回答:538件、回答率:30%)を行った上で、グループ形式でのインタビュー調査等を行った結果、ICAはネットワーキング、刊行物の出版、標準の策定等において成果を出しているが、組織の運営にあたっての透明性や説明責任がやや不十分であり、また研修事業等において改善が必要との結果がでた。
  こうした調査結果に基づき、ICA戦略計画2021-2024「アーカイブズと専門職に力を与える」では、以下の3本柱を取組の中心とすることとなった。
① 会員間の連携・協力を通じたネットワークを強化する
② 透明性があり説明責任を果たす運営、かつ効率的で、多様な会員の意見を包括する運営を行う
③ 会員のニーズに応じたより関連の深い活動を行い、アーカイブズと専門職に力を与え、アーカイブズ・記録管理機関を主唱する存在となる
  ICAの新戦略は、ICAのwebサイトにて公開されている(→コチラ)。

3.ICA憲章の改訂について
  上述の2021-24戦略を検討するなかで見出された課題等に対処し、ICAの組織としての目的達成に向かって活動を進めるため(Seles事務総長)、またICAをよりオープンかつ透明性のある形で、効果的かつ効率的な組織として迅速に決定を行っていくため(Fricker会長)に、2021年のアブダビ大会における臨時総会にて、ICA憲章(最後の改正は2012年)の改正が行われることが報告された。
  検討されている主な改正点は以下のとおりである。
(1) 個人会員に対し、ICA総会における投票権を付与する。
(2) 臨時総会の定足数を現在の5%から10%へ変更する。
(3) 内部規定(Internal regulations)の改正の権限を通常総会から執行委員会へ移すほか、ICA憲章の手続き条項を内部規定に移動させる。
(4) 年次会合(Annual Conference)は今後、毎年の開催をやめ、大会(Congress)と会合(Conference)のいずれかが2年に1度開催される形式とする。
(5) 執行委員会の構成(現行は約30名)をよりコンパクトにする。
(6) プログラム委員会の運営と構成につき改革を行う(ICA会員の多様性を反映した委員会とするため、委員会構成の再編と、委員会メンバー選定プロセスの透明化 につとめる)。
  特に(6)のプログラム委員会の再編については、Fricker会長が、プログラム委員会はICAの活動やプログラムが生まれる場所という意味で、ICAのエンジンルームと言えるものである、ICAの地域支部やセクション、専門家グループ、そしてあらゆるICA会員が同委員会とどうかかわっていくかを考えていくことが重要である、と強調された。
  これら憲章改正は、2019年10月のICAアデレード会合における執行委員会から議論が続いているもので、2021年4月に開催される執行委員会にて再度草案が取りまとめられた後、アブダビ大会の臨時総会で決定が行われる予定となっている。臨時総会は新型コロナウイルス感染症の流行状況を注視しつつ、現地出席者とオンライン参加のハイブリッド形式を検討中とのことである。

おわりに
  2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、ICAもその活動が多く制限されるなか、新しい形でのつながりを模索し、事務局だけでなく、加盟機関が様々に工夫してアーカイブズの社会への普及と専門職間のネットワークをつなぐ取組が継続されていることが、報告からうかがい知ることができた。
  ICAという組織が、加盟機関の多様性を反映する機関となることを目指し、また運営における透明性とアカウンタビリティを果たすべく、改善を図ろうとする動きが続けられている。新型コロナウイルス感染症は2021年も引き続き社会に大きな影響を与えると思われるが、変化し続ける世界のなかで、アーカイブズ・コミュニティとICAの動きにあわせて、当館の役割を果たしてゆきたい。

〔注記〕
[1] 同ウェビナーは以下のICAのwebサイトより視聴可能である:https://www.ica.org/en/empowering-archives-and-the-profession-webinar-ica-strategic-plan-and-constitutional-reforms 
[2] 新しいプログラム委員会の構成は、ICA副会長(プログラム担当)を議長に、プログラム委員会によって選出された5人の連絡調整担当及び新規専門職員プログラム代表1人、及びICA会員から公募/選出された7名となる形で検討を進めているとのことである。