あまがさきアーカイブズの始動

尼崎市立歴史博物館地域研究史料室”あまがさきアーカイブズ”
辻川 敦

尼崎市立歴史博物館全景

尼崎市立歴史博物館全景

  令和2年(2020)10月10日、兵庫県尼崎市は、市の公文書館である地域研究史料館と、文化財行政を所管する文化財収蔵庫を統合し、尼崎市立歴史博物館を新たに開設した。近代建築遺産である旧尼崎高等女学校校舎(昭和13年-1938-竣工)を改修して設置したもので、同館が所在する尼崎市南城内は旧尼崎城本丸跡にあたり、市はこれを含む旧城下一帯を歴史文化ゾーンとし、博物館を拠点施設と位置付けている。
  この統合により、公の施設としての地域研究史料館は、歴史博物館の地域研究史料室”あまがさきアーカイブズ”へと移行し、新たなスタートを切ることとなった。

前身としての地域研究史料館
  昭和50年(1975)1月、尼崎市は神奈川県藤沢市に次いで国内2番目の市立公文書館「地域研究史料館」を設置した。昭和37年以来実施してきた市史編集事業を継承発展させたもので、施設設置を求める市史編集専門委員の助言と、歴史文化分野を重視する市の姿勢が背景にあった。新規開設した尼崎市総合文化センターの7階に設置し、総務局が所管する条例設置の公の施設と位置付けた。
  設置後の地域研究史料館の事業は、常に順風満帆だったわけではない。設置当初は地方公文書館設置について定める公文書館法(昭和62年公布)が未だ存在せず、公文書館に関する知見そのものが国内にあまりない時代であり、館の運営は手探りであった。1970~80年代は市民利用・庁内利用ともに少なく、施設の存在意義が問われた時期もあった。それでも、市史編集室時代以来実施してきた歴史的公文書の選別・収集を背景に、平成元年(1989)には市文書規程に歴史的公文書保存を盛り込むなど、公文書館事業に関する実績を徐々に積み上げてきた。加えて1990年代以降は利用公開を重視する業務改革に取り組み、母体組織(行政機構としての尼崎市)の文書・記録と多様な地域史料をともに重視する地域文書館[1]としての特徴を活かして、市民や行政に利用され、地域社会と市政に貢献する館として評価されるに至った[2]。
  専門職配置を組織として位置付けていることも、地域研究史料館の大きな特徴であった。正規職員3人、会計年度任用職員7人のうち、庶務・経理の1人を除いて全員が専門職員であり、継続的に地域研究史料館に配置し、育成していくこととしている。母体組織や地域のさまざまな史料を収集・整理・保存し、市民や行政の多様なニーズにこたえてレファレンスサービスを行いつつ公開していくうえで、こういった専門職の組織的配置は不可欠であると考えている。

地域研究史料室

地域研究史料室

博物館設置、施設統合に至る経緯
  地域研究史料館とは別に、市は文化財行政を所管する教育委員会の施設として、昭和48年に市立文化財収蔵庫を設置した。1980年代から90年代にかけては、市立歴史博物館建設構想があり、史料収集も進められたが、この計画は実現しなかった。
  その後、2010年代後半に、国の社会資本整備総合交付金を活用して進める尼崎市城内地区のまちづくり整備事業の一環として、地域研究史料館と文化財収蔵庫を統合して市立歴史博物館を新設することが計画され、冒頭にふれた令和2年10月の博物館開館が実現した。
  博物館への統合により公文書館事業は教育委員会に移管され、地域研究史料館は博物館内に移転し地域研究史料室”あまがさきアーカイブズ”となった。地域研究史料館事業の継承に留意し、博物館事業計画や設置管理条例に公文書館機能を明記したほか、博物館内に閲覧室や書庫など移転前の施設機能を独立区画として確保し、組織人員も継承した。
  開館後は、展示部門や文化財行政を所管する文化財担当と連携して博物館事業を担いつつ、公文書館としての独自機能を損なうことなく発揮することに努めている。国内において、専門スタッフが常駐して史料閲覧やレファレンスサービスに応じる閲覧室を持つ博物館は稀であり、来館者がみずから史料をひもとき、主体的に調べ学ぶことができるあまがさきアーカイブズの存在は、他施設にない大きな特徴であると考えている。
  旧地域研究史料館と旧文化財収蔵庫の所蔵史資料情報を統合して博物館全体のデータベースを構築し、デジタルアーカイブとして公開していくことも、今後優先して取り組むべき重要課題のひとつである。

地域研究史料室史料閲覧風景

地域研究史料室史料閲覧風景

あまがさきアーカイブズの課題
  先述したように、尼崎市では地域研究史料館の前身である市史編集室時代以来、歴史的公文書の選別・保存を実施してきた。しかしながら、市が作成・保管する公文書の全体像からすれば、その一部を対象としてできる範囲で収集というレベルにとどまっている。市の組織全体として必要な行政情報を確実に文書や資料に記録し、歴史的に保存・公開するシステムにはなっておらず、行政情報のデジタル化をこの流れに組み込んでいくことについても不十分なのが現状である。公文書館行政に関する規定や、選別・公開の基準も整備途上にある。
  これに加えて、国・地方ともに公文書管理が問われるなか、市として公文書管理及び公文書館行政を抜本的に整備すべく、尼崎市は令和2年度に公文書管理見直しプロジェクトを立ち上げた。令和3年度中に条例を制定して令和4年度に施行予定であり、あまがさきアーカイブズもこれに参画して必要な制度整備を進め、より本格的な公文書館機能実現に向けて取り組んでいるところである。

おわりに
  国内基礎自治体の公文書館設置が未だ少ないなか、国内2番目の市立公文書館である尼崎市立地域研究史料館の事業は、地域文書館として幅広く史料を公開し、専門職を育成・配置することで利用者から求められるレファレンスサービスを実現し、さらには地域社会・地方行政からの多様なニーズにこたえることを通じて、利用実績と存在意義を示してきた。地方公文書館のひとつのモデルを示したものと考えている。
  その一方で、公文書館行政の本格実施に向けた法令整備や、歴史的公文書選別・保存と公開に関するシステム・ルール作りなど、課題も多い。尼崎市が取り組む公文書管理見直し及び公文書館機能整備は、国内の多くの自治体に共通する課題であり、他自治体の経験に学びつつ、重要課題として取り組んでいきたいと考えている。

〔注記〕
[1] 1980年代後半以降提唱された、母体組織記録と地域史料を同等に重視する理論。埼玉県市町村史編さん連絡協議会編『地域文書館の設立に向けて』(同協議会、1987年)、高野修『地域文書館論』(岩田書院、1995年)等参照。
[2] 尼崎市立地域研究史料館の事業の総括的評価については、辻川敦「地域文書館の機能と役割」(奥村弘他編『地域歴史遺産と現代社会』神戸大学出版会、2018年)参照。

データシート
機関名: 尼崎市立歴史博物館
所在地: 尼崎市南城内10-2
電話/FAX: 06-6482-5246/06-6489-9800
Eメール: ama-chiiki-shiryokan■city.amagasaki.hyogo.jp  (■を@に替えてください。)
ホームページ: http://www.archives.city.amagasaki.hyogo.jp/museum
交通: 阪神尼崎駅から南東へ徒歩10分
開館年月日: 令和2年(2020)10月10日
設置根拠: 尼崎市立歴史博物館の設置及び管理に関する条令
組織: 尼崎市教育委員会事務局社会教育部歴史博物館
人員: 館長1、正規・再任用12、会計年度任用13
建物: 鉄筋コンクリート3階建て、昭和13年(1928)竣工
所蔵資料: 尼崎地域の歴史・考古・民俗・美術等に関する史資料
開館時間: 午前9時~午後5時
休館日: 月曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)、年末年始
主要業務:文化財保護活用
              資料収集・整理・保存
              展示・公開
              公文書館業務
              教育普及
              市民活動支援
              調査研究(研究紀要の発行等)
              歴史文化情報発信
              レファレンス