アジア歴史資料センター
次長補佐 栁橋 雪男
アジア歴史資料センター(以下「アジ歴」という。)においては、令和2年4月3日付で「新型コロナウイルス感染症の拡大防止の一環として、館内において、テレワーク推進についての方針」が決定されたことを受け、「アジ歴内でのテレワーク実施体制についての具体的方針」を策定し、4月8日からテレワークを用いた交代制及び時差出勤の導入により業務を実施しております。
本稿においては、アジ歴の主要業務であるアジア歴史資料のデータベースの構築・整備に関し、テレワークでこれらの作業を行った研究員及び調査員3名より紹介致します。
また、アジ歴では、テレワーク期間中の調査・検討事項の一つとして、2名の調査員が中心となり、「アジ歴ホームページの改善に向けたアンケート調査」をアジ歴職員を対象にグループウェアを用いて実施し、その結果を報告書のかたちでとりまとめました。今後、この報告書を参考にして、ホームページのリニューアルについての検討を行うこととしております。
1.テレワーク移行に当たっての実施業務の選別と作業工程の調整
アジ歴研究員 水沢 光
本稿では、4月上旬から6月下旬までのテレワーク期間中、アジ歴の研究員業務として行った内容を紹介します。研究員業務には、①コンテンツ公開を始めとする情報発信、②データベース構築に関わる内部作業の調整や工程管理、③②に伴う外部(資料提供機関・調達業者など)との連絡・調整、などがあります。テレワークへの移行に当たっては、業務の優先度とテレワーク環境への適合性などをもとに、実施業務の選別と作業工程の立案・調整を行いました。
①については、テレワーク環境が整い始めた4月中旬頃から積極的な情報発信を進め、4月下旬には、昨年度より配布していた検索ガイドを、配布開始後1年が経過したことを機にウェブ公開しました。ウェブ公開自体は以前から検討していたものでしたが、資料所蔵機関や図書館の臨時休館により、資料調査が困難となった方々に、アジ歴の利用を促すという点で、時宜にかなった公開となりました。また、緊急事態宣言下でも、新しい教育用コンテンツ「アジア歴史ラーニング」の作成・公開作業を継続し、5月末に公開することができました。
ネイティブスピーカーによる翻訳業務やデータアナリストによる業務なども、個人単位で作業が完結するものが多く、比較的スムーズにテレワークへ移行することが可能でした。
一方、②及び③については、調査員の行うデータベース構築業務は、作業をそれぞれ分担し、相互に作業内容を調整しながら進めていくため、テレワークへの移行にはいくつかのハードルがありました。そのため当初は、データベース作業の中でも、自宅へ持ち出しても問題のない、既公開データの整備業務を選び、テレワークを実施しました。データの持ち出しや作業進捗確認の具体的な手順を整え、詳細な作業内容については、調査員同士で調整を行いました(後述)。その後、テレワーク期間の長期化に伴い、新規資料公開に関わる業務についても、資料提供機関と打ち合わせを行いながら、テレワークで実施するための手順の調整を進めてきました。
今後の課題としては、セキュリティ保護と利便性の両立、メールや電話など外部への連絡手段の確保、ウェブ会議ツールの導入、業務とプライベートの適切な切り分けなどを考えていく必要があると感じています。
2.テレワークによるデータベース作業を経験して
アジ歴調査員 石本 理彩
アジ歴では、国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所等から資料画像の提供を受けており、調査員の主たる業務は、これらを閲覧に供するためのデータベース整備です。資料公開にあたっては、調査員が画像をどこで区切るかの分割点確認を行った後、業者が目録情報を付与します。さらに、公開された資料に対して調査員が目録修正を行い、業者が英語翻訳を行うというのが一連の流れです。
2020年4月7日に東京を含む7都府県に緊急事態宣言が発令されたことを受け、翌8日からテレワークが開始されました。調査員が初めに行った作業は、件名翻訳に関わる目録修正作業でした。自宅のパソコンからアジ歴ウェブサイトのデータベースにアクセスし、公開画像を確認しながら、Excelシートに資料作成者等の採取を行いました。修正作業そのものは各自順調でした。しかし、締め括りの際に行うマクロチェックにおいて、マクロがWindows対応で作成されていたため、Macintoshユーザーには上手く機能しないという障害が生じました。
テレワーク開始に伴い、アジ歴では情報共有の円滑化を図るためにグループウェアが導入されました。。調査員はグループウェアの掲示板、チャット、メール機能を介して連絡を取り合っていたため、マクロが機能しない作業者分はWindowsユーザーが代行することで、OS(Operating System)の違いによる問題を乗り切ることができました。
5月25日に緊急事態宣言が解除されると、6月1日からテレワークと出勤の併用体制に移行し、調査員は週1回出勤の固定シフト制となりました。研究員のスケジュール管理により、調査員は新たに遡及作業に入りました。公開資料の目録修正作業で、組織歴等の未採取分採録に加え、写真資料のキャプション等、細かな情報をこの工程で目録に追加します。通常は職場でシステムに入力しますが、今回は件名翻訳作業と同様にExcelシートに採取しました。
遡及作業開始と同時に行われたのが、分割点確認の準備作業です。担当者は新規公開に向けた資料画像の枚数確認や進捗表作成等を行いますが、この準備作業はテレワークではできません。分割点確認作業には、6月3週目から調査員全員で入ることになっていました。準備担当者となった筆者は、僅か2回の出勤で約10万2千画像のカウントや作業用シートの作成を無事終えられるか、不安でした。しかし、システム関係部署の係長や研究員の助力により、工程通りに進めることができました。
テレワークを通じて、何より重要であったのは、調査員全員が常に課題を共有できたことです。テレワークは、1人1人が積極的に業務に参加することで、より良い結果が生まれることを再認識させるものでした。
3.テレワークにおける新規公開史料のデータ整備作業について
アジ歴調査員 斉藤 涼子
本稿では、テレワークと出勤業務の併行で進めた新規公開史料のデータ整備作業について、その成果と問題点をあげてみたいと思います。
現在、アジ歴が手掛けている新規公開史料は、外務省外交史料館所蔵の戦後外交記録です。2017年度から開始され、近年では10万枚を超える史料のデジタル画像を公開に向けて整備しています。
調査員作業では、整備に2種類のデータを扱います。ひとつは資料を1枚ずつ写真に収めた画像データであり、もうひとつは数値データソフトを使ったリンクデータです。リンクデータに書き込まれている簿冊名、史料タイトル、画像枚数などの情報を適宜修正加工し、画像データとリンクさせることで、公開準備を整えます。今回の工程では、まず出勤してそれぞれのデータを持ち帰る手続きを踏み、在宅作業に備えます。在宅では画像データを確認しながらリンクデータを整備し、出勤でも同作業の続きを行います。在宅と出勤でひとつのデータを扱う関係上、作業をシームレスにする必要があります。そのため、毎回の作業終了時には終了地点を確認し、作業の重複がないようにしました。また作業では、リンクデータに入力した画像数と、画像データの実際の枚数に齟齬が生じないように関数計算を行いますが、この操作ソフトは容量が大きいため持ち帰りに適さず、出勤での作業となりました。よって、出勤時には、在宅作業の続きと同時に、画像数チェックの計算を行っています。今後、作業の最終工程として、調査員同士でデータのクロスチェックを行いますが、これも出勤作業となります。
総じて、成果としては、もともとデータ整備はマニュアル化されている部分が大きく、在宅での作業にもなじんだという点があげられます。特にシームレスな作業を可能にしたのは詳細なマニュアルあってのことであり、これまでに作業工程を明文化していたことが奏効したといえます。一方、問題点としては、意思の疎通に時間がかかることがあげられます。データを扱う業務とはいえ、史料はそれぞれに違う顔をもつものであり、マニュアルの例外も多くあります。出勤している時は、こうした例外も顔を合わせて相談できますが、テレワークという状況では解決スピードに難が生じました。アジ歴で使用しているグループウェアではチャット・掲示板・メール機能など多様な手段が確保されており、疑問点は随時、共有することができますが、やりとりの往復が長くなってしまうのが難点です。はからずも、テレワークによって、互いに顔を見ながら議論百出で史料データに当たることができた幸いを噛みしめているところです。