上田市公文書館の開館について

上田市公文書館
小林 盛寛

上田市公文書館正面

上田市公文書館正面

1.はじめに
 長野県の東部に位置する上田市は、人口15万人余りの自然と文化の豊かな地方都市です。最近では、地域ゆかりの戦国武将である真田幸村を描いた大河ドラマ『真田丸』の舞台としても注目されました。
 また、昨年は台風19号による被害がありましたが、全国の皆様方から多大なる御支援と励ましを頂戴しましたこと、厚く御礼申し上げます。
 上田市公文書館は、市政の説明責任の遂行と住民自治の推進、地域の学術文化の発展等を目的に、令和元年9月1日に開館しました。
 以下では、開館までの経過や当館の取組について紹介します。

2.公文書館設置の背景
 平成15年に、地域の各郷土研究会から、文書館設置を求める陳情が出されました。その背景には、市誌編纂事業終了後、時間の経過とともに歴史的文書が廃棄・散逸される事態を防ぐため、文書館の設置は喫緊の事項だとする地域史研究者の強い意識がありました。これを皮切りに、以後数回の陳情や請願が出され、平成22年に上田・東御・小県地域史連絡協議会から提出された文書館設置の請願が上田市議会にて採択されました。
 このように、上田市公文書館の設置については、市民の声や行動が大きな推進力になりました。

整備検討懇話会の様子

整備検討懇話会の様子

3.公文書館開館までの経過
(1) 上田市公文書館整備検討懇話会について
 市議会で文書館設置の請願が採択された後、市では、庁内検討委員会を設置し、総務課文書法規係が主体となって、保存文書の量や保管状況の把握、先進事例・転用候補施設の調査等を進めました。
 そして、平成27年には、地元の有識者6名で構成される上田市公文書館整備検討懇話会を設置しました。
 この懇話会では、公文書館の機能や役割、運営体制や整備内容、文書管理制度の見直しについて意見交換を行い、これをまとめたものを『上田市公文書館整備基本計画【案】』という形で提言してもらい、上田市の公文書館のあり方について、基本的な考え方・方向性を示していただきました。
 また、平成29年には、「上田市公文書館管理運営基準」を策定する際に、歴史的公文書の選別方法やその基準、歴史的公文書を閲覧する際の公開・非公開の判断基準、公文書館の利用促進策など、より具体的な案について一緒に検討してもらいました。

併設する丸子郷土博物館の展示室

併設する丸子郷土博物館の展示室

(2) 場所の選定
 保存文書の調査や整備検討懇話会の開催に伴い、公文書館に転用する既存施設の選定を並行して行いました。そして、建物の構造、運営費の効率化、事業の相乗効果への期待等の理由で、旧丸子町にある丸子郷土博物館の一部を転用し、公文書館を併設することとなり、平成29年1月、地元の了承もいただきました。

(3) 建物の整備
 丸子郷土博物館の一部を公文書館に転用する工事は、平成30年9月に着工しました。主な内容は、1階の収蔵庫に書架を設置し、2階の特別展示室を書庫及び閲覧室にするものでしたが、これを機に、郷土博物館側の展示室やロビーの照明、塗装、玄関など、館全体についても改修しました。
 また、絵画をロビーに飾り、ブロンズ像5体を館の内外に設置するなど、今まで収蔵庫に眠っていた博物館収蔵物の利活用を行いました。
 これらの工事は平成31年3月に完了し、費用の大部分は合併特例債を財源としました。

(4) 収蔵文書の整理
 収蔵文書の整理及び目録の整備は、平成30年4月より本格的に開始し、旧公民館施設を公文書館開設準備事務所として使用しました。
 そして、調査によってあらかじめ把握していた昭和30年以前までの旧役場文書1万3千点余を、各地域自治センター(旧役場)等から順次事務所に運び込み、補修・整理・概要の把握を行ったうえで、その内容を入力し、目録化しました。
 開設事務所では、職員5名で作業を進め、途中で1名増員し、平成31年3月まで計6名で作業を行いました。

目録作成作業の様子

目録作成作業の様子

整理した文書

整理した文書



(5) 開館
 平成31年4月以降は、工事が完了した丸子郷土博物館内に開設準備事務所を移し、文書の配架や閲覧室の整備を行いました。令和元年7月には、公文書館の設置・運営・利用について定めた上田市公文書館条例及び同管理規則が公布され、広報活動や記念展示の準備など、開館に向けた準備を行いました。
 そして、同年8月29日に開館式及び内覧会を開催し、9月1日(日)に上田市公文書館として開館しました。

閲覧室

閲覧室

収蔵された文書

収蔵された文書



4.上田市公文書館の取組み
(1) 目録検索システム
 当館では、閲覧したい文書を利用者が容易に探し出せるように、目録検索システムを導入しました。これは、利用者が地域・年代等を入力することにより、閲覧したい文書を特定できるようにしたものです。文書の表題のみでなく、概要も掲載することで、利用者がより簡単に文書を探し出せるよう工夫しました。また、このシステムはインターネットでのアクセスが可能なので、自宅のパソコンやスマートフォンでも利用できます。

(2) 展示・イベントの開催
ア 開館記念講演会
 期日:令和元年9月24日
 講演1:「時を貫く記録を守る~公文書管理の充実に向けた取組み~」
 独立行政法人 国立公文書館 館長 加藤 丈夫 氏
 講演2:「公文書館の使命と役割~上田市公文書館への期待~」
     同館 首席公文書専門官 梅原 康嗣 氏

開館記念展示

開館記念展示

イ 展示
・「開館記念展示」
 期間:令和元年8月29日~令和元年12月28日
 内容:明治32年上田町への課税の許可通知
    関東大震災当直日誌 ほか10点
・「開館記念展示-第2弾」
 期間:令和2年1月11日~令和2年3月31日(予定)
 内容:信州上田城絵図(原本国立公文書館蔵)
    明治32年千曲川大洪水による復築堤防設置願
    ほか10点
 展示説明会:令和2年1月18日及び2月29日

ウ 講座
・第1回公文書館講座 
 期日:令和2年2月13日
 内容:年貢割付状と自然災害
 講師:堀内 泰 氏(上小郷土研究会会長)
・第2回公文書館講座
 期日:令和2年3月18日
 内容:大正8年の上田市制が施行された頃を振り返る
 講師:小平 千文 氏(上田・東御・小県地域史連絡協議会会長)

長野大学生による見学会の様子

長野大学生による見学会の様子

5 今後の課題
 来年度から、本格的に非現用文書の受入れが始まります。これに伴い、全庁の職員に公文書館の役割と機能、公文書館への非現用文書移管の流れ及び選別の基準について周知する必要があります。他部局の職員にとって、文書の移管はまったく新しい事務であり、困惑が大きいはずです。マニュアルを分かりやすくしたり、研修を重ねるなど、工夫していきたいと考えます。
 また、今後の長期間の記録の保持、遠隔地の利用者の利便性の向上のため、デジタルアーカイブ事業についても検討の必要があると考えます。

6 おわりに
 当館は市民と協働しながら設置準備を進めてきた経過があり、開館後も、運営協議会にて館の運営について意見を伺うなど市民の声が反映するようにしています。
 上田市公文書館は、これからも市民と共に、市政の検証及び地域の歴史文化を再確認する拠点として、一層充実するよう努めてまいります。

データシート
機関名: 上田市公文書館
所在地: 〒386-0413 長野県上田市東内2564-1
電話/FAX:0268-75-6682/0268-75-6683
Eメール:kobunshokan■city.ueda.nagano.jp(■を@にかえてください)
ホームページ:http://www.city.ueda.nagano.jp/somu/kobunshokan.html
目録検索システム:https://kobunshokan.city.ueda.nagano.jp
交通:千曲バス鹿教湯線 丸子郷土博物館前下車
   上田駅から車で30分
開館年月日:令和元年9月1日
設置根拠:上田市公文書館条例
組織:総務部-総務課-上田市公文書館
人員:館長(再任用)1名、正規職員1名、嘱託1名、臨時職員1名
建物:【1階】収蔵庫、事務室、ロビー 【2階】閲覧室、収蔵庫
所蔵資料:旧役場文書、近隣の地域誌等
開館時間:9:00から17:00
休館日: 月曜日、国民の祝日の翌日、年末年始(12月29日から1月3日)
主要業務:歴史的価値を有する公文書等の移管の受入れ及び収集
     収蔵公文書等の保存及び利用
     公文書等の知識の普及・啓発
     収蔵公文書等の調査及び研究