巻頭エッセイ~IT技術の今昔~

国立公文書館理事
中田 昌和

記憶メディアも技術の進歩に応じて

記憶メディアも技術の進歩に応じて

 今をさかのぼること約40年前に、パンチカードの時代の大きなコンピューターにほんの少しだけ触れる機会を得て以来、情報通信技術の発展を遠巻きに見てきました。就職してからは業務上も使用することになりましたが、まずはほぼ清書用のワープロ専用機を使うことから始まったように思います。最初は、部局単位に何台か配備され、順番に使っていたように記憶しています(平成の初め頃には、担当業務の大量のフロッピーの媒体変換を、ワープロ内蔵の検証機能に頼りつつ、深夜まで一人で行ったのも、遠い昔の話。)。近年では、多くの職場で一人ひとりにネットワークにつながったPCが支給され、様々な仕事が進められているでしょうし、もちろんモバイル機器の利用も進んでいるところもあるでしょう。
 社会や世界のニュースに関する映像や音声、文字の情報がネットを通じて一瞬にして世界に広がり、消費されていく現代。ましてやビッグ・データ、IoTといった言葉が街にあふれる時代、我々を取り巻くデジタルの情報はどんどん生成され、厚く積み重ねられています。総務省の情報通信白書等でも言及されていましたが、デジタル情報の増加ペースは本当に急激で、もはや自分の情報処理能力と時間ではとても追いつけないような気がします。かつて単に紙の資料に埋もれていたのが、今はメール、ファイルの洪水に埋もれているのに変わっただけなのかもしれませんが、結局は、情報をどう整理するかという考え方と実践の問題でしょうか。
 デジタルを含めたテクノロジーの進展に積極的に対応していかなければならないのはもちろんですが、同時に個人的な気持ちとしては、紙の手触りや手書きの文字の筆やペンの運び、さらには書庫のにおいといったものを感じることへの愛着もありますし、そういうことも若い人たちに伝えていきたいとも思います。現実と仮想との境がますます見えにくくなる時代、今後は、触覚や嗅覚などさまざまな知覚なども情報として伝達されるデジタルの情報通信技術が生まれてきて、時間的、物理的距離を越えた、より深いコミュニケーションが可能となるのかもしれません。